捜索、精霊使い 2
シラヌイ君VSリュガ
騎馬戦に意気込むユーマに空気なエイヴン
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報道部をあとにした3人が今いるのは学園の南区にあるスタジアムの跡地。現場検証はもう終わった後なので人が少なくがらんとしている。
《精霊使い》を探す2人に対し正体をバラしたくないユーマが人がいないところへと案内していったところ、自然とここへきてしまった。
「《精霊使い》。なんて恐ろしい奴だ」
「そうですね王子。この惨状を一晩でやったとなると僕も彼が恐いです」
「……」
跡地といってもそこには何もない、だだの更地。学園最大の施設のあった場所は今や学園最大の空き地となっていた。
噂では《精霊使い》が一晩で消し飛ばしたと言うが。
《精霊使い》の所業を目の当たりにしたエイヴンとシラヌイ君。主従2人の会話にユーマは苦い顔。
ユーマの苦い顔を見て心配するのは従者の少年。刀使いのシラヌイ君。
「王子、ユーマ君はどうしたのでしょう?」
「……ふふん。今頃になって怖じ気づいたかい? ユーマ」
「黙れエイヴん。いや、そんなに酷い奴じゃないと思うよ。その《精霊使い》は」
ニヤリとしたエイヴンを黙らせる。あと怖じ気づいているのはエイヴンだったり。
ユーマが自分に対してさりげなくフォローを入れると、エイヴンはすかさず反論。
「何を言っている。報道部で得た資料によると、奴は多くの生徒を埋めたり木に吊るしたりしているんだぞ」
「いや、それは」
「エースと言ってもその資格は前任者を蹴落として得たものだ。騎士団を1つ潰して多くの退学者もだしている」
これがまた言ってることが事実なのでユーマはエイヴンを黙らせることができない。
「《精霊使い》は酷い奴で間違いない。アイリーン姫だって彼にやられているそうじゃないか」
「そうですよユーマ君。《精霊使い》は1人で巨大な竜さえも倒したらしいです。分身して空から降ってきたり巨大化したりする人外なんですよ」
「シラヌイ君。それはちょっと違うから」
報道部の部長が用意した《精霊使い》の偽情報は偽と言いながら7割は事実だ。おもしろおかしく捻じ曲げた所がある。
エイヴン達は部長に個人情報を瞬時に暴かれることでその恐ろしさと扱う情報の信憑性を理解し、そのため渡された偽の情報をまるまる信じてしまい余計にタチが悪い。
「ユーマ君、一体何を?」
「部長さんにちょっと呪いの念を……」
先程の事を思い出して腹がたったらしい。
「ここはもういい。別の所に捜しに行くぞ」
「そうですね。ユーマ君、次はどこに行きましょう?」
「……」
「ユーマ君?」
「……えっ? そうだな」
次はどこで時間を潰そうかと思ったところ、彼女が現れた。
「ミツルギさん?」
ユーマに声をかけたのはポピラ・エルド。ティムスの双子の妹だ。
ナンパ師の王子、エイヴンはすぐさま彼女に喰いついた。
「みつあみが素敵なお嬢さん!」
「!?」
「ここで出会ったのも何かの縁、今夜は私と……」
「ストーム・ブラスト!!」
ポピラは護身用に持っていたガンプレート、《レプリカ2》をエイヴンに向け容赦なくぶっ放す。
周囲になにもないのでエイヴンは竜巻の放射に弾かれて、はるか遠くまで吹き飛んでいく。
「王子!?」
放物線を描き飛んでいくエイヴン。シラヌイ君は慌てて追いかけていった。
「……なんですかあの馬鹿は」
「ポピラ?」
口調は淡々としているが、ポピラは珍しく顔が真っ赤だ。
「あの猿から私に向けた、桃色の最低なイメージを感じ取りました」
「……あー」
《同調》持ちの彼女はエイヴンの思念から身の危険をすぐさま感じ取ったらしい。怯まず撃退したのは流石だ。
エイヴン達が離れたので心おきなく話すことができるユーマ。
スタジアムの跡地であるここにはポピラだけでなくルックス、イースといったカンパニーのメンバーや《組合》の生徒たちが集まってきた。
「ポピラ達はどうしてここに? ティムスは?」
「運動会の準備です。兄は昨日、ミツルギさんとエイリークさんのお姉さんに色々と見せてもらったので自分の研究に没頭しています」
ポピラは心なしかユーマを睨んでいる。ユーマは少しだけたじろいだ。
「あのーポピラさん? いったいどうしたのでしょうか」
「今日の私は仕事をしない兄の代理なんです。しかもその仕事が兄が引き継いだミツルギさんが担当するはずの種目の準備で」
ポピラがここにいるのは全部ユーマのせいのようだ。
「ミツルギさん。私、本当は今日休みだったんです。エイリークさん達と遊びに行くはずだったんです」
「……ごめん。今度風葉を1日貸してあげるから許して」
ユーマは自分の不始末のために自分の精霊を売り飛ばした。
この一言でともだちの精霊がいないことに気付くポピラ。
「風葉ちゃん、今いないのですか?」
「俺は謹慎中だから今エイリークの所に……」
「私だけおいてけぼり……」
「ごめん! 3日、いや俺の謹慎中は風葉をずっとポピラに預けるから機嫌直して!」
「……わかりました」
それでポピラはユーマにガンプレートを向けるのをやめた。
最近ポピラが攻撃的なのは彼女のともだちであるエイリークの影響じゃないのかとユーマは思っている。
「まあ、いいや。それで準備って何するの? 俺の考えた種目だからこれ騎馬戦の準備なんでしょ?」
「はい。理由はともかくこんなに広い空き地があるのでせっかくだからここを主戦場にしようと兄が。先程生徒会からもここの使用許可を貰って来ました」
「成程。さすがティムス、この辺がよくわかってるや」
「馬鹿ですね」
よくわからない男の子の思考だったので、ポピラはいつもの台詞を口にした。
「それでどうしましょうか? ただの平地だと面白みがないので障害物を作ろうと思ったんですけど。要望はありますか?」
「そうだな。これだけ広いとなると……うーん。砂更がいれば障害物なんてすぐ作れるけど」
「工事用の幻創獣を十分に用意していますので色々とできますよ」
そう言って穴掘り用幻創獣の《モグラット》や《ドーザー・ブル》、《土木ゴーレム》を喚び出すポピラ。
「そっか。こいつらがあるか。それなら陣地が構築できる所に塹壕を掘って落とし穴を適当に。周囲を見渡せる高台もいくつか作って。それと……」
ユーマはポピラに色々と注文する。
「中央は何もしなくていいや。集団戦の邪魔になるものばかりあっても面白くないし」
「わかりました。ではイースさん達に伝えてお手伝いの人の指揮をとってもらいましょう」
今日のポピラは現場の総監督だ。
元々彼女はカンパニーの秘書兼取締役。エースでいうところ騎士団の副団長でその権限を持っている。
穴を掘りはじめた幻創獣を見てユーマは満足そうに頷いた。
「よし。また一段と面白そうになってきた」
「そうですか。でもミツルギさんの言う騎馬戦とはこんな大掛かりなものなんですか?」
今更だが彼女は訊ねてみた。実はユーマの考案した競技はポピラが初めて聞くものだ。
「いいや。本当はもっと単純な取っ組み合いなんだけどね。俺が中学の時は危険だからって禁止されてた」
「はぁ」
「それで運動会って聞いてせっかく『こっち』に来たのだからここで大規模なものがやりたいなーと」
エイリークやアイリーン、アギ、ジンといった仲間たちにクルスたち《Aナンバー》。それに実力が未知数である《会長派》の編入生たち。
学園全域を戦場とし、この全員が参加する大規模な集団戦闘の騎馬戦は下手すれば大惨事だ。
だから楽しそうで、自分でももっと面白くしたいとユーマは思う。
「ここまでやるともう合戦だね。……うん。やっぱり俺も参加したいな」
「馬鹿ですね」
ユーマはしみじみとそう言って、ポピラに呆れられた。
あとポピラに遠くに吹き飛ばされて気絶したエイヴンは、シラヌイ君が引きずって運んでいた。
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運動会の準備をするポピラと別れたユーマ達3人。
気絶したエイヴンをユーマはシラヌイ君と一緒に介抱すると、改めて《精霊使い》の捜索を続行することに。
ところがなかなか進展しない。本人であるユーマが妨害しているので当然ともいえるが。
何よりエイヴンの手癖が悪かった。ちょっとかわいい女の子を見ると彼はすぐナンパに走るのだ。そして撃沈を繰り返す。彼は本当にアイリーンと付き合いたいのだろうか?
そんな主を咎めることもせず真面目に聞き込みをするのは従者のシラヌイ君。
彼の外見と雰囲気は小動物なので庇護欲とか母性をくすぐられた女生徒達はエイヴンなんかそっちのけで話を聞いてくれる。
しかし「《精霊使い》を知りませんか?」と訊ねられた彼女達は、側にいるユーマを見て複雑そうで曖昧な笑みを浮かべるだけ。
「ごめんね」と断られる度に気落ちするシラヌイ君。
それでもめげずに聞き込みをする彼を見ると、自分のせいとはいえユーマは可哀相になってきた。
あと「こんな健気な子に何をさせてるの、いじめ?」といった感じでユーマが睨まれることもある。
とりあえずユーマは女の子にがっつくだけのエイヴンは殴っておく。
聞き込みとみせかけたエイヴンのナンパが連続10回失敗して11回目のアタックに踏み込もうとしたその時、遂に彼を邪魔する者が現れた。
長身でがっしりした体躯の、赤いバンダナの少年だ。
「リュガ?」
「お、お前はっ!」
「……ちっ、またてめぇか」
リュガは舌打ち。エイヴンを見て不機嫌になる。
アイリーンに下心丸出しでしつこく付きまとうエイヴンは、大分前から《アイリーン公式応援団》の中で排除対象になっていたのだ。
怯えだしたエイヴンの前に護衛も兼ねている従者のシラヌイ君が立つ。
「シ、シラヌイ……」
「王子、さがってください」
「んでまたこいつか。……いいぜ。昨日の決着をつけてやる」
刀の柄に手を添えるシラヌイ君に対して大剣を持たないリュガは腰から警棒を抜いた。
鋼鉄製の警棒は自警部から支給されるものだ。
「リュガ、ちょっと」
「邪魔するなよユーマ。つーか何でこいつらと一緒にいる?」
「まあいろいろと」
アイリーン絡みなので説明できなかった。リュガという火に油を注ぐ必要はない。
「でもいきなり喧嘩は」
「これは仕事だ。軽薄なナンパ野郎を取り締まるという立派な仕事なんだよ」
言い訳するリュガの左腕には自警部の黒い腕章があった。
彼は今学生ギルドの依頼を受けて臨時の警備員をしているのだ。
「いいから見てろ。あの馬鹿はともかくこいつの剣はなかなかだ。……強いぞ」
ユーマの制止を無視したリュガは、構えたままのシラヌイ君と対峙する。
「おい。一応聞いておくが退く気はないんだな? お前があの馬鹿を庇うことが納得できねぇが」
「はい。不知火流の剣は主を守る剣なんです」
シラヌイ君は答えた。
「王子がどんなに馬鹿で女性にだらしない駄目人間だとしても、王子を支え守ることが僕の修行です」
彼はぶっちゃげた。
今の主従関係を修行と言いきったシラヌイ君。
「シラヌイ……」
「シラヌイ君……」
1番可哀相なのは今ショックを受けているエイヴンなのかもしれないと思った。
「だから王子の敵は僕が相手をします」
「……まあいい。先手はくれてやる。こいよ、1年」
リュガ対シラヌイ君。これが2度目の対決。
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「参ります」
鋭い踏み込み。シラヌイ君は抜刀と同時にリュガに斬りかかった。
「太刀筋は昨日で見切ったぜ」
シラヌイ君の刀をリュガは警棒を使わずに紙一重で躱す。
攻撃に特化した《大剣士》であるリュガは剣の打ち合いを好まない。1撃で押し切るタイプだ。
正面からの面打ち。リュガはそこに狙いを絞っていた。シラヌイ君の渾身の上段に合わせて警棒を叩きつける。
「ぐっ」
リュガ愛用の大剣ならばその重量でシラヌイ君を弾き飛ばせるのだが、大剣に比べればはるかに軽くちゃちな警棒は刀を受け止めただけ。
リュガはそのまま鍔迫り合いに持っていく。
「うらっ!」
体格と腕力でシラヌイ君に勝るリュガは、そのパワーで警棒を振り抜く。シラヌイ君はそれに合わせ自分からうしろに飛んで仕切り直す。
「……いい判断だ。1年にしては上出来だな」
「まだです」
そのあとも何度か打ち合う2人。だがシラヌイ君の方は内心焦っていた。
大剣を持たないリュガは小回りが効いて刀を警棒で容易く防ぐ。加えて彼の牽制の一撃は警棒の割には重くて油断できない。
シラヌイ君は攻撃一本に集中できず、前回のように剣の速さと手数だけでは押し切れずにいた。
(まさか2度目で僕の剣が見切られるなんて)
従者の少年はそれをショックとは受け取らず、むしろ喜んだ。
学園にいる生徒は皆強い。ここで修業を積むことは自分にとってプラスだと肌で感じたのだ。
彼は戦士だった。自分より強い相手を前にして、無意識に口に笑みを浮かべる。
それからシラヌイ君は突然刀を鞘に納めた。
「もう終わりか? ゲンソウ術を使ってもいいぞ」
「いいえ。あなたは確かに強い。ですが僕が《不知火》を使うのは……僕がすべてを出し切ってからです」
「……居合いか?」
刀を納めたままのシラヌイ君は擦り足でじわじわとリュガに近づく。
間合いを測るシラヌイ君に対し、油断なく警棒を構えるリュガ。
「――っ、セイッ!」
高速斬撃の一閃。
「おせぇ!」
しかしリュガの反応はシラヌイ君の速度を上回った。切り上げる刀を警棒で叩き落とす。
「痛っ!? そんな」
「それ(居合い)は初見の一撃だから意味があるんだ。散々やりあってあとで使うには今更なんだよっ」
前に《賢姫》の放つ大太刀の一閃を間近で見て、自分の首が飛ぶところを幻視したことがあるリュガ。
エースであるミヅルに比べればシラヌイ君の剣速は数段劣る。彼の間合いはもう見切っているので単なる居合い斬りではリュガには通じない。
刀を落としてしまったシラヌイ君はリュガから距離をとろうとバックステップ。
とどめとばかりにリュガは追撃をかけて警棒を振りあげる。
「シラヌイ君!」
危ない! とここでユーマは2人の間に飛び込んだ。
「ばっ、お前!?」
「ユーマ君!?」
驚く2人。振り下ろされたリュガの警棒はもう止まらない。
構わずユーマはシラヌイ君を庇い、右の拳をぐっ、と握り締めて――
「何してんだよお前ら」
シラヌイ君を庇うユーマの前にさらに割り込んだのは、青バンダナの少年だ。
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