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幻創の楽園  作者: 士宇一
幕間章 旋風姫編
82/195

旋風姫 学園横断編3

1話でまとまらなかった……


登場キャラをほぼ動員。姉姫様のターンはあと1回

 

 +++

 

 

 昼食は出店のものを適当に食べ歩いた。

 

 ユーマとしてはたこ焼や焼きそばが食べたかったが、生憎そんなものはない。生徒が作ったお菓子やハンバーガーのようなパンを食べる。

 

 あくまでようなもの。それは試作品だったらしくパンと挟む具材、ソースの組み合わせが微妙だ。

 

「……ハズレだ。購買部のパンが無難だったかも」

「美味しいですよ。こんな風に外で食べるのは」

 

 味に関しては何もコメントしてくれないエイルシア。

 

「アギにおススメを聞いとけばよかった。誰か詳しい人いないかな?」

 

 そう思って辺りを見回す。すると見つけた。

 

 緑モヒカンの頭を。

 

「ヒュウさーん」

「ん? ……!? お前!!」

 

 エースの1人、《鳥人》ヒュウナーはユーマの隣を見て絶句。

 

「ワイは1人で見廻りちゅうのに……お前まで女連れかい!」

「護衛兼案内役。俺も仕事してるんだよ。ヒュウさんの方がそんな風に見えないよ」

 

 ヒュウナーは食べ物をたくさん抱えている。1人でも十分満喫しているようだ。

 

「うるさい。ワイにも彼女紹介せい」

「シアさんだよ。ところでヒュウさんは髪が伸びたね」

「そんだけかい!?」

 

 護衛役として怪しいモヒカン男は遠ざけようと思うユーマ。何よりエイルシアの精霊が送る警戒するような視線が痛い。

 

 加えてヒュウナーと風葉は相性が悪い。また彼の身に惨劇が起きることをユーマは恐れた。

 

「あの髪型も悪うなかったが、イマイチ《天翔術》の調子がようなくてな。髪戻したらこれがバッチリ決まるんや」

 

 前のトサカまではいかないがヒュウナーの髪は異様なほど伸びている。

 

 曰く、練金科の育毛剤はすごいとのこと。都合のいい被検体にされたことには気付いていない。

 

 

 どや? モヒカンにした髪をかきあげるキメ顔のヒュウナー。

 

 短剣からひょっこり出てきた風葉がそれを見て――

 

 すぱーん

 

 《風刃》で刈り取った。

 

「……は?」

「ええっ!?」

「風葉! おまっ、また!?」

 

 満足顔のユーマの精霊。

 

「品のないー、雑そ…むぎゅ」

 

 前の時のように精霊を短剣に押し込んだ。それからユーマは驚いているエイルシアの手を掴む。

 

「ごめんヒュウさん! お詫びはまたあとで。シアさん、行くよ!」

「えっ? きゃっ」

 

 逃げた。

 

「待たんかい! あのちび今度こそ……なんや?」

 

 怒れる《鳥人》の目の前には紅葉色の精霊。

 

 カレハは冷めた視線をヒュウナーに送る。

 

 

「あなたのような輩、エイルシア様に近づくことは私が許しません」

 

 

 カレハは至近距離で《爆風波》を叩きこむ。

 

 爆発。続けて爆発、爆発!

 

 

 

 

「……ワイが……なにしたっちゅうねん……」

 

 

 出会ったことが災難でした。

 

 +++

 

 

 ユーマ、逃げながら風葉に説教中。

 

「お前、ヒュウさんにはいっつもこうだよな? 勝手に攻撃魔法使うなよ」

「だってー、あの緑はー」

「いいわけは聞かない。もうしないって約束しないと今度からクッキーあげないぞ」

「あーん」

 

 風葉は涙目。あとユーマの目の前で飛びながら正座のポーズと器用なことをしている。

 

 お説教中は正座というのが御剣家の(むしろユーマの姉と兄達の)しきたりだ。精霊だって容赦はしない。

 

「ふーん、いいですよー。今度からはミサちーに貰いに行きますー」

「このっ。また1号呼ばわりするぞ」

「いやですー。あの子(ピンクの風葉2号)は早く変えて下さいー」

 

 《精霊使い》が自分の精霊と喧嘩。エイルシアはそんなユーマ達に苦笑い。

 

「ユーマさん……」

「お姉様は悪くありません」

 

 風葉を弁護するのは同じ精霊のカレハ。

 

「私達はウインディを守護する精霊。エイルシア様に危険を及ぼす不埒な輩を殲滅しないで何が《風森》でしょうか」

「殲滅って。お前はお前で過激だな」

「あの品のない雑草頭には甘いくらいです。むしろお姉様は寛大ですユーマ様」

「カレっちー」

 

 風葉は涙ながら妹に抱きつく。

 

 美しき? 姉妹愛。

 

「お叱りするのならばお姉様よりあの男にとどめを刺した私が先です」

「お前! ヒュウさんに何した!?」

 

 

 確認。カレハはエイルシア至上主義。

 

 それとヒュウナーはあのあと追い打ちを喰らいましたがちゃんと生きてます。

 

 

「……まあ、いいや。風葉は今度ヒュウさんに謝るんだぞ。……何だ?」

「クッキーくださいー」

「……」

 

 反省してないのか、にこーっとしておねだり。流石に呆れるし毒気を抜かれる。

 

「はぁ。今日は2枚あげるからカレハとおとなしくしろよ」

「はーい」

 

 嬉しさで踊る風葉は2枚のクッキーを抱え、カレハをユーマの頭の上へ引っ張る。

 

「一緒に食べましょー」

「はい。……これが風の噂に聞くミサ様のクッキー」

 

 

 どこで噂になっているなんてユーマが知る由もない。

 

 

 クッキーを細かく割り上品に口にするカレハ。直にかぶりつく風葉とえらい違いだ。

 

 どちらにしてもクッキーを割った時に出る粉や食べかすはユーマの頭に降りかかるのだが。

 

「美味しい! やはり信じられません。私たち精霊がものを食べられるなんて」

「そうですねー。ミサちーはすごいんですよー」

 

 仲良くクッキーを食べる精霊たち。

 

 ただし誰が見てもカレハの方が姉に見える。

 

「ミサちゃんがすごいのは俺もわかるんだけどね」

 

 ユーマは頭にかかる食べかすを気にしながら、ふとした疑問をエイルシアに訊ねた。

 

「同じ《風森》なのにどうしてこうも風葉達は違うの?」

「カレハ達は随分昔から風森から別れ《守護の短剣》に宿っています。その時その時、短剣の持ち主の影響を受けているのかもしれません。風葉だってそうですよ?」

「えー」

 

 となると風葉が『ああ』なのはユーマのせいになる。認めたくない。

 

「いや。風葉は初めて会った時から『ああ』だったぞ。前の持ち主はエイリークだから……うん。風葉の事は全部エイリークのせいだ」

 

 その後にユーマが風葉に与えた影響のことは気にしないことにする。

 

 ヒュウナーへの凶行はユーマでもエイリークでも同じような気がするけど。

 

「カレハが意外と過激なのはシアさんの影響?」

「……前の持ち主だったお母様のせいです」

 

 本当は2刀で1組の《守護の短剣》。エイルシア達の前の持ち主は王妃エイリアだ。

 

 しかしエイルシア言うとおりだと風葉とカレハはまだ似たような性格をしているはずなのだが。

 

 

 エイルシアは誤魔化している。

 

 

「それよりもですねユーマさん。あの……」

「ん?」

「……いえ。何でもありません」

「そう? じゃあ次、行こうか」

「ええ」

 

 それで2人は再び学園を歩きだした。ヒュウナーから逃げた時のまま、

 

 

 手をつないだまま。

 

 +++

 

 

 エイルシアは考える。

 

 

(外から見たらどう見られてるのだろう?)

 

 

 今日も騎士服の男装スタイルのエイルシアに学園の制服を着たユーマ。

 

 風森の国にいた頃は誰がどう見ても王女様と少年召使いだったので新鮮といえばそうだ。

 

 

(姉弟は……無理よね。髪の色も顔立ちも違うし)

 

 

 隣を歩く少年は妹のひとつ下。エイルシアとは6つか7つ年が離れている。

 

 それに少年は顔立ちが幼い。

 

 年相応といえばそうなのだが、なにより子供なのだ。だから余計に年の差を感じる。

 

 

 だからちょっとだけ想像してみる。

 

 

 5年、いや3年後の、成長した少年の姿を。

 

 その隣を歩く自分を。

 

 

(でも……)

 

 

 そこまで考えて悲しくなった。

 

 少年はきっと……

 

 

(この手の温もりは本物? それとも……幻想?)

 

 

 

 

 少年の未来。それを考えることが辛かった。

 

 +++

 

 

 そのあとも2人で学園のいろんなところを歩いた。

 

 

 まずは《組合》にあるフェアリーのお店。

 

 冷やかしだけど、風葉そっくりなリンにカレハがすごく驚いていた。

 

「おおきなお姉様!?」

「こちら3号さん」

「違うの!」

 

 

 

 

 手芸品のお店に行けば、そこにあるぬいぐるみにエイルシアが夢中。 

 

「かわいい! ここは楽園ですか?」

「シアさん……」 

「メリィ達の手づくりなんだぞ」

 

 そこは《獣姫》、メリィベルのお店だ。着ぐるみを扱う彼女の騎士団は手芸部でもある。

 

「買います! 全部でおいくら…あう」

「落ち着こうね。いくらなんでも圧縮ボックスに入らないから」

 

 頭をぬいぐるみで叩き、彼女にはじめて突っ込む事になるユーマ。

 

 

「……」

 

 あと客寄せの着ぐるみ(青い馬)がどうも《青騎士》の彼のような気がしたが、あえて触れないでおくことにした。

 

 

 

 

「ミツルギさん。ジン様を見ませんでしたか?」

「ジン? また?」

 

 偶然出会い、訊ねてきたのはセリカ・フォンデュ。その前はユンカだ。

 

「折角の機会なんです。お父様に『私の運命の人』を紹介しようと思ったのですが」

「……」

 

 渋い顔をするセリカの父らしき人。

 

 友達に迫る修羅場にユーマは合掌。

 

 

 

 

「ユーマ。君も案内?」

 

 その友達とセリカと別れた直後に出会う。エイルシアを見てそう言う彼は相変わらず……

 

「何だジン。お前にも友達(男)はいたのか?」

 

 美女を連れている。また知らない人だ。

 

「ジン……」

「? 紹介するよ。僕の師匠なんだ」

「アロウだ。今はそう名乗っている」

「……」

 

 それを聞いて彼はそういう星の巡りなんだな、と納得することにする。

 

 さりげなく腕を組まれ、師弟関係に見えないのは気のせいか?

 

 とりあえず友達思いのユーマはセリカのいる逆方向にジンを誘導してあげた。

 

 

「アロウ。だとすると彼女が今の《弓》……」

 

 

 エイルシアの呟きは聞こえなかった。

 

 

 

 

 職員の所にも立ち寄る。

 

 独身男性のグルールは避けて救護室、セレスの所へ。

 

「アラム先生?」

「久しぶりね」

 

 練金科の教師、アラム・アラドに会うのは《皇帝竜事件》の時、ティムスが襲われた時以来だ。

 

「どうしたんです? ここは第3じゃなくて第2救護室ですよ」

「ちょっとね。大人の女性としてスニア先生にアドバイスを」

「アラド先生!」

 

 慌てるセレス。

 

「いいじゃない。でも坊やにする話でもないわ」

「では私が」

「シアさん?」

 

 というわけで救護室から1人追い出されるユーマ。

 

「……いいけどね」

 

 大人の姦しい話とやらの為に小1時間ほど放置された。

 

 

 

 

 結局報道部にも行くことにした。

 

 報道部に置いてあるパンフレットは情報が秀逸。予め手に入れておけばお昼はハズレなかったのにと後悔するユーマ。

 

 もちろん懺悔室は行かなかった。部長にも会えずじまい。

 

 

 丸焼けで磔にされたマフラー男も当然無視する。

 

 

 

 

 《塔》の展示コーナーを見て廻り、休憩は《ハイドランジア》で。

 

 どういう経緯があったのか、そこにはまたウエイトレスをしている《烈火烈風》がいた。

 

 それともう1人。

 

「リィちゃん……どうして?」

「ううっ」

 

 またもやリアトリスのヘルプに駆り出されていたエイリーク。

 

 前回同様ウェイター姿の彼女。それを見たエイルシアが視線で非難している。

 

 どうして男物なの? と。

 

 悲しそうな瞳で見つめられたエイリークは、

 

「リィちゃん……」

「ああもう!! わかったわよ姉さま。制服……着るから」

「本当!」

 

 その発言に店内がどよめく。

 

 エイリークは姉にほんと弱かった。それで彼女はエイルシアのいる間だけハイドラのエプロンドレスを着ることに。

 

 

 着替えて登場したエイリークは羞恥で顔が真っ赤。

 

 フリル付きのスカートにオーバーニー、髪も下ろしてる。

 

 レアな《旋風の剣士》は口コミで広がり客が瞬間的に急増。

 

「かわいい! 写真撮ってお父様達にも見せなきゃ」

 

 それはもうはしゃぎっぱなしの姉姫様。エイリークもきっと妹冥利に尽きるだろう。

 

 そう思わなければ彼女もやっていけない。

 

「ユーマさん、カメラあります?」

「……うん。写真はあとでいいのが手に入るよ」

「?」

 

 どこかで「これが真実!」と叫ぶ彼の声がする。いつの間に復活したことやら。

 

「ユーマ……わかってるわね」

「わかってる。長居はしないよ」

 

 よくも姉さまを連れてきたわね、と恨み声のエイリーク。

 

 ユーマだって知らなかったからそこは勘弁してほしい。

 

「馴れないのはわかるけど似合ってるんだからいいじゃないか。いつも通り堂々とすればいいさ」

「……ふん」

 

 

 そっぽ向かれた。

 

 +++

 

 

 最後は有志で出し物をしている南区のステージへ。

 

 

「本日のトリを飾るのはこの人。当学園のトップエース、学園最強のクルス・リンドさんです」

 

 

 歓声の中、ステージに現れるのは赤茶の髪をした青年と黒衣の魔術師。

 

「いつでもいい」 

「そう? それじゃ、いくよ」

 

 《黒鉄》のマークは《黒鋼術》を発動。ステージのど真ん中に巨大な鋼の円柱を出現させる。

 

「……」

 

 円柱を前にしたクルスは4刀提げた剣のうち、2刀を抜いて宙へ投げる。

 

 ほぼ同時にもう2刀を抜刀。投げた剣はクルスの前で浮遊している。これはクルスの得意とする《操剣術》を使った四刀流だ。

 

 

「――っ、はああああっ!!」

 

 

 集中、それから一気に乱舞。

  

 クルスは円柱の周囲を回りながら剣を次々と叩き込む。

  

 4刀の剣は黒光りする鋼の円柱を容易く斬り裂き、削り取る。

 

 息を飲む観客。クルスが高速で剣を振るう度、次第にある形が浮き彫りになった。

 

 

 鱗に覆われた逞しい体躯に鋭い角、牙や爪。

 

 雄々しく広げる翼。咆哮するその姿は忘れもしない。ユーマも見たことがある。

 

 

「皇帝竜……」

 

 

 完成したのは彫刻としては荒々しい鋼の竜。

 

 でもその迫力は《剣闘士》の見せた剣技も相まって観客に大いに受けた。大きな拍手がステージの2人に送られる。

 

 

「ありがとうございます。流石は学園の誇るツートップ。隠し芸も一流です」

 

 

 ちなみに司会の彼女は派遣された報道部の中堅。

 

「実はこの像、マークさんの計らいで運動会まで正門に展示されることになりました」

「何だと!?」

 

 驚いたのはクルス。知らされていなかった。

 

 マークは笑顔。

 

「あはは。クルスの粗雑で荒っぽい作品を近くでみてぜひ笑ってやってください」

「マーク! おい、ちょっと待て」

「明日のこのステージは自警部部長、ブソウ・ナギバによる《紙兵》を使った紙芝居が行われます」

 

 強引に締めにかかる司会。

 

 その辺りはさすが報道部員。鍛えられている。

 

「運動会は明後日です。保護者の皆さまは明日も是非お立ち寄りください。ではまたこのステージで」

「さよならー」

 

 マークが笑顔で手を振り、観客の拍手で終わる今日のステージ。

 

「待て! 話はまだ……どわっ」

 

 喚く学園最強の前に現れたのは、屈強な身体をした黒子達。

 

 多勢に無勢。剣を取り上げられたクルスは強制退場。司会の彼女の指揮で連れ去られる。

 

 それさえ笑顔で見送るマーク。彼が1番楽しそうだった。

 

「マーク! 覚えてろよ」

「忘れてるよ。脳みそ筋肉の君の方がね」

 

 

 黒子も実は報道部員だ。報道部の実態は謎が深まるばかりだったり。

 

 

 

 

 冗談のような楽しい一幕。

 

 でもユーマはそれを、クルスの演目だけは素直に楽しめなかった。

 

 +++

 

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