学園最強 後
ユーマVS《剣闘士》
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それは失望した声。
「ブースターを使った小手先のゲンソウ術。《幻想》に込められた意志に強さが感じられない。精霊に子守りされたままのガキかお前は」
ユーマがこの世界で初めて受けた酷評。クルスは冷めた瞳でユーマを見る。
「《竜使い》、ユウイ・グナントにもあった強さがお前にない。お前は何者だ? 何故ここにいる」
ユーマに問う。
「何故お前は学園にいる? 何を学びに来た? 何を探している?」
ユーマは答えられない。
「ここで何を望み何を願う?」
答えられない。実は異世界人で元の世界に還る方法を探しているなんて。
「精霊の力は何のために得た?」
「……守るためだ」
それだけは言えた。事実風森と契約して《精霊使い》となったのは、傭兵に捕まり心の折れたエイリークを助けるため。
なら今は? 成り行きで手にした精霊の力は何のために?
ユーマが密かに抱えていた疑問と悩み。だから精霊の力よりもガンプレートを多用している。
そのガンプレートですら《レプリカ》だというのに。
剣を交えた《剣闘士》は見抜く。ユーマの弱さを露見させる。
「それでも弱い。そんな薄弱な意志で振るう力が何かを守れるはずがない」
――弱いくせに。誰かをなんて守れるはずがない
誰かが言った言葉と重なる。ユーマは違う! と叫びそうになり、とどまった。
ユーマはこの世界に来たばかりの時、風森の国でエイリークとエイルシア、それに魔人のラヴニカや王妃エイリアを助けている。
実績がある。ユーマに誰かを守れる力があるはずだ。
でも本当に? ユーマは自問しても否としか答えられない。
だってあの人は俺を元の世界に還せないと苦しんで――
俺のせいで泣いていたのを俺は知っているのに?
助けることはできた。でもきっと……守れない。
「……黙れよ」
ユーマの心が荒れる。
「黙れ! 砂更!!」
怒りのまま、感情のままにユーマは巨大な砂の拳を振るう。
「……感情が昂れば意志がこもる。その方が少しマシだ」
クルスは冷静に剣を納めて『第5の剣』を取り出した。
柄だけの剣。クルスはそれに『水色のカートリッジを差し込んで』……
「!? その剣、ブースターはもしかして」
クルスは水の刃を持つ剣を創りだすと一閃。砂の拳を手首のところから切り飛ばす。
「《天才》、ティムス・エルドの最新作だ。砂は水で固めれば斬れる」
クルスは、ユーマよりずっと前からティムスの目に適う彼の作品の使い手だった。
《ガンプレート・レプリカ》のノウハウを注ぎ込んだブースター。刃の属性を換装できる魔法剣。
これにはユーマも驚いたが、構わず《砂人の腕》を出現させ、殴りかかる。
複数同時に襲いかかるそれさえ容易く切り捨てるクルス。
「砂の攻撃は見切った。この程度多対一でも《青騎士》なら、蒼雷がいない今のあいつでも容易い」
「なめるなよ。砂塵!!」
《全力》戦闘、開始。
「目眩し……む?」
「コメット、キィィィィク!!」
砂嵐に注意を引きつけたユーマは空から銀の流星群を撃ち落とす。
「《銀の悪魔》? いや虚仮脅しか」
幻創獣のコメットマンは封印している。これはユーマがPCリングで出した幻(記録映像)だ。
雨のように降りかかるコメットマンをクルスは無視。『本命』だけを迎え撃つ。
左右に旋回して飛んできたのは《アイス・エッジ》と《フレイム・カッター》。
それと同時にユーマが短剣を抜き、ガンプレートから紫電の刃を放出して《高速移動》で突撃してくる。
《旋風剣・二段疾風突き》
ユーマはエイリークのような剣技、二段突きができない。でも二刀流で同時に突き出せば似たような技になるはず。
氷、火、風、雷の四点同時攻撃。2刀で防げるものかとユーマは思っていたが、それさえもクルスに予想を裏切られる。
ユーマの攻撃をクルスは『4本の剣』で受け止めたのだ。
そのうち2本の剣は宙を浮いている。
「思考操作!?」
「俺はブソウみたいに百も千も同時操作なんてできない。剣2本で十分だ」
それは《操剣術》を駆使した四刀流。
ユーマの背筋が凍る。迂闊に近づきすぎた。
近接戦。彼の剣が届く距離。
(マズイ、離れないと)
4本の剣を必死に防ごうとするユーマ。
それでも《爆風壁》は発動前に《裂風剣》で無力化され《風盾》も通じない。砂の壁は水の刃に破られる。クルスは宙を舞う2刀でも魔法剣を使えた。
そのクルスがユーマの防御を崩し、2刀を持って踏み込んでくる。
「このっ!」
ユーマは初撃をガンプレートで受け止めようとした。それはギリギリで仕掛ける罠。
スタンガンモード
剣を通じて感電を狙うユーマだがそれも失敗した。
《斬鉄》の一太刀。《雷撃》の発動前にガンプレートの銃身が斬り飛ばされる。
「あっ……」
「遅い」
いつ斬られたのかがわからない。驚愕してユーマは硬直した。
クルスの二の太刀でユーマは斬り飛ぶ。
悲鳴を上げる風葉の声をユーマは遠くに感じた。
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「あの距離での打ち合いだとミヅルは俺の剣を斬り飛ばしてしまうのだが……」
クルスは剣に手ごたえを感じたがユーマを倒したとは思えなかった。ユーマが飛ばされすぎているのだ。
あれは自分からうしろに飛んで再び距離をとろうとしている。そのくらいはすぐにわかった。
ただわかっていてもクルスは追撃できなかった。タイミングを外されたのだ。
「……」
「むー」
ちいさな風の精霊によって。
風葉は風を無力化されると知るとあの瞬間になんと決死のダイビングキックをクルスにかました。
そのままクルスの顔にしがみついている。
「……邪魔だ」
「あうー」
ぺちん
はたきおとされた。
「しかしまだやるか。しぶとい」
そこで初めてクルスは笑った。楽しくなってきたと。
彼は《剣闘士》。がむしゃらに強さを求める者。
学園の誰よりも戦闘経験がある。今のエース達とも剣を交えたことがある。
そしてマークからは魔術師戦の戦い方を
リアトリスからは対属性の魔法剣を
ティムスに自分の武器を求め
ブソウの術から《操剣術》を編み出した
彼は戦う毎、剣を交える毎に何かを学び、己を磨いてきた。
ミヅルの大太刀、クオーツの騎馬戦術、メリィベルの《幻装術》もヒュウナーの《天翔術》だってクルスは自分の糧としている。
学園にいる誰もが彼と戦った。だから誰もが彼を認めている。
クルス・リンド、《剣闘士》こそ学園最強、頂点にいると。
「もっと力をみせろ《精霊使い》。《獣姫》も《鳥人》も、俺には一発叩きこんだぞ」
クルスは紛れもなくバトルマニアだった。
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「集え。集え集え」
ユーマは吹き飛びながら、イメージの《補強》の為に呪文を唱える。
クルスの1撃は風葉のおかげで狙いが甘くなった。なんとか左腕の篭手で受け止めることができたのだ。
本当にただ受け止めただけ、篭手に当てることができただけなのだが。
ユーマの左腕は折れた。激痛で手にした《守護の短剣》を落としそうになったがそうはいかない。
ガンプレートを失って風葉と離れてしまったユーマ。今はこれがないと唯一の武器を失くしてしまい風の魔法も使えなくなってしまう。
「風よ集いて螺旋を描け」
ユーマは空の右手で銃の形を作ると指先をクルスに向けた。
ガンプレートがなくても馴染みの風と砂ならゲンソウ術でユーマは魔法弾を撃てる。
右手に集める風。創る竜巻は砂をかき集め、さらなるイメージで魔獣を想造する。
「喰らい尽くせ、サンドワーム・ブラストォ!!」
ユーマの怒りを喰らい、砂漠の竜蛇は突進。飲み込まんとクルスに襲いかかる。
「それが切り札か? ならば」
クルスもイメージする。『第6の剣』を。
ゲンソウ術、それも武装術式の剣。
魔力とは違う力、《気》を媒体に創りだす巨大な剣。
対魔獣戦用の《闘気剣》。
一刀、両断
「そこだぁああああ!!」
竜蛇の化身を一刀のもと、砂に還したクルスに向けてユーマが叫ぶ。
《サンドワーム・ブラスト》はユーマの切り札ではない。強力な技ではあるがこれはもう《黙殺》やアギに破られてもいる。クルスを倒せるとはユーマも思っていない。
竜蛇は囮。クルスに大技を使わせて隙を作る為の見せ技。
ユーマの真の切り札。それは吹き飛んだと同時に待機させていた、
「砂更ぁ!!」
「っ、これは?」
クルスの足元に潜む砂の精霊
クルスは気付くのに遅れた。砂更が魔力を解放し、最終トラップは発動する。
「あんたはあの大砂漠に、砂の奈落に落とされたことがあるのか?」
ユーマはある。それがこの世界で受けた最大最悪の体験。
そのイメージがこの術式を創り上げる。
《砂縛陣》。流砂に飲み込み圧殺する巨大な蟻地獄。
抵抗されても足を封じた。クルスはもう動けない。
『次は』逃げられないはず。
《砂縛陣》は二段構成の巨大術式。とどめは精霊の合わせ技。
「埋まれ、そして爆ぜろ!! 風葉、砂更、爆砂……」
「うおおおおおお!!!」
「――っ!?」
戦慄して発動が遅れる。半ば埋まった状態でクルスが吼えた。
狂戦士さながらの雄叫びをあげ、全力で《砂縛陣》に飲み込まれまいと抵抗している。
そして爆ぜる。ユーマが《爆砂陣》を発動する前にクルスが自力で《砂縛陣》を振り解く。
《闘気剣》を解除して剣を抜いたクルスが4刀の《旋風剣》で流砂を吹き飛ばしたのだ。ありえない。
砂更はここで魔力が尽きてしまった。
この時点でユーマは悟る。勝てないと。
必殺技の応酬、奥義戦闘で《全力》を超え、半ば《本気》のユーマは手の内を晒しつくした。その全てが打ち破られた。
これ以上の技がユーマにはない。
「あ……ああああああ」
それでもユーマは短剣を右手に持ち替え、最後の突撃を仕掛ける。
《旋風剣・螺旋疾風突き》
諦めなかったのではない。単なる自棄だった。
何故怒り、何を恐れて何故戦うのか。もうわかっていない。ユーマは我を忘れている。
闘争本能をむき出しにした、《剣闘士》の彼もまた。
「砕け砕け砕け! つらぬけぇぇぇぇぇ!!!」
「お……おああああ!!!」
吹き荒れる暴風。竜巻のドリル。
4刀を投げ捨て《現創》するのは闘気の宝剣。
衝突するその時――
「まったく。熱くなりすぎだよ」
静観する《黒鉄》の魔術師が初めて動いた。
《黒鋼壁》。地属性防御術式。
鋼の魔術
このままぶつかればただでは済まないと判断したマークは、2人の間に鋼鉄の壁を割り込ませたのだ。
「終わりにしよう。もう十分彼の力は……――っ!?」
あの馬鹿!! マークは驚きの声を上げ、愚かな相棒を罵倒した。
でももう間に合わない。
マークの防御術式は地属性かつ鋼属性でもあって《氷晶牢》よりもはるかに硬い。
まさに鉄壁。ユーマの放つ《旋風剣・螺旋疾風突き》も完全にシャットアウト。傷一つつかない。
「!?」
渾身の突撃を弾かれて驚くユーマは目を見開いてそれを見た。
クルスの《闘気剣》が、その《黒鋼壁》を切り裂くのを。
もう誰も止められない。
狂気にも近い、昂る闘気に身を任せる《剣闘士》は目の前の敵を斬ることしか考えられない。
とっくにクルスは本気だった。もう彼の前を遮るものが何もない。
クルスが放つのは《闘剣技》のひとつ。必殺技。
これがユーマへの、最期の、
一撃――
「させねぇ!!」
エースであるマークさえも諦めた瞬間、彼は飛び込んだ。
前に出ることを恐れず、勇気を持って振るう力。
背にしたものを守る力。その幻想。
青いバンダナを巻いた少年はユーマを突き飛ばし右手を翳す。
それは《盾》。守るモノ
「!? お前は……」
驚愕したのはクルス。
土壇場でアギの守る力は学内最強のエースを凌駕した。
《闘気剣》を片手で防いだ。クルスが驚いたのはそれではない。
どうやって割り込んできた?
アギが近くまで来て様子を見ていたのを《気》が読めるクルスは知っていた。しかしそれでも遠い。駆け付けるよりもマークの魔術の方が遥かに早いはずなのに。
アギは間に合った。《盾》はユーマを守りきった。アギは自分の在り方をクルスに見せつけたのだ。
ダチは守ると
アギの瞬間移動とも呼べる技にクルスとマークは思い当たる術式がない。学園都市にそんな使い手がいることを2人は知らない。
「……もう退いてくれよ、先輩」
クルスの剣を防いだアギは苦しそうに訴えた。使った技の負荷が大きすぎた。
「それはヤバい。《気》を使ったゲンソウ術は、じいさんが禁じていたはずだ」
「老師を知っているのか?」
誰だ? その疑問がクルスに隙を作らせた。
その隙を、忘我していてもユーマは見逃さない。
突然の、アギが与えてくれたチャンス。《盾》を見てユーマは新たな切り札を見出した。
最後の攻撃。残る力を振り絞り、ユーマは短剣で《旋風砲》を放つ。
背面に向けて、ブースト。合体奥義
《シールド突撃》
「うおおおお!!」
「ちょ、お前、馬鹿野郎がぁああああ」
「何を? ぐはっ」
ユーマはアギを巻き込んでクルスに体当たり。
そして3人で仲良く吹き飛んだ。
静寂。
「「「……」」」
目まぐるしい展開と最後のオチにマークは笑うしかない。
「……あはは」
乾いた笑い声だった。
+++
「お前、普通死ぬぞ。わかってんのか? ああ?」
「……やっぱり生きてるじゃないか」
しばらくしてユーマは正気に戻った。何を必死になって戦っていたかを忘れ、今はアギに締めあげられている。
「でもアギはどうしてここに?」
「お前が果たし状なんて物騒なこと言ったんじゃねーか。つけてみたら学園最強とガチで戦ってるし。無謀なんだよ。死んでもおかしくない真似すんな」
「……ごめん」
大体エース同士の決闘は禁止だろ、と怒りが収まらないアギが説教をはじめると残り2人のエースもばつが悪そうな顔をする。
「最初から僕が仲裁に入るつもりだったんだけどね。腕試しといったくせに、この大馬鹿狂戦士が我を忘れるものだから」
「……すまん」
マークは笑顔、クルスは仏頂面で謝る。
「クルスが本気で斬りかかったらエース全員で止めないと無傷じゃすまないんだよ。いやぁ、君がいてくれて助かった。死人出してたら僕もクルスもエース資格の剥奪どころじゃないよ」
「青いバンダナ。お前は誰だ」
バトルマニアはあまり反省していないようだ。
「アギ。戦士科の無印だよ」
「……成程、ブソウの後輩か」
無所属無名だとアギは言うが一度聞いたことがある名にクルスは納得。
「その呼び方はやめてくれ。俺は自警部の部員じゃない」
「そうか。ところでお前はウロン老師の教えを受けたのか?」
アギは頷く。
「ああ。初歩だけだが先輩と同じだ。だからヤバいとわかった」
「……老師には黙ってくれ。後が怖い」
アギが同じ師を持つとわかるとクルスは苦い顔をする。《闘気剣》及び《闘剣技》は禁じ手だったのについ使ってしまった。
学園最強のエースは学園最古の教師が一番恐ろしかったのだ。
「アギ。俺の剣を止めたその名は覚えておく。しかしお前ほどの戦士がどうしてエースにならない?」
クルスの疑問に簡単に答えるアギ。
「そりゃ《盾》しか出せない俺よりもユーマの方がいいに決まってる……ってユーマ?」
「寝ちゃってるよ」
マークは倒れていたユーマに気付くとすぐに様子を見てくれていた。
「左腕の応急処置はしておいた。消耗してるけどどちらかというと睡眠不足かな?」
「ああ。確か《賢姫》の先輩がどうとかって言ってたな。徹夜してるんだよ、こいつ」
ミヅルに強要された古文書の読書感想文のことだ。
「……そう言えばあいつが何か言っていたな」
「ミヅルちゃんの大太刀は……ちょっとね」
「というわけで先輩、今日はお開きにしてくれ。もう十分だろ?」
アギの提案に2人は頷く。
「そうだね。この勝負はユーマ君の勝ちだし」
「なんだと? おいマーク」
「何だろうが彼は君に一撃入れた。文句はないよね?」
「……くっ」
俺が決めたルールじゃないと言いたい学園最強だが、先輩としての面子があるので押し黙ることにした。
「アギ。《精霊使い》に伝えておいてくれ。また闘る時までに強くなれと」
「まだやる気なの? この戦闘狂」
呆れるマークに当然と言う学園最強。
「マーク。それは剣闘士にとって褒め言葉だ」
「……はぁ。それじゃあね。ユーマ君にもよろしく」
アギを置いて去っていく学園のツートップ。
こうして《精霊使い》対《剣闘士》の初対戦はユーマの完全敗北に終わった。
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「で。剣を交えた感想は?」
学園に戻る途中でマークは相棒に訊ねた。
「弱い。なまじ技がある分ゲンソウ術の《幻想》が弱く感じてしまう」
「いきなり仕掛けてきたんだ。君みたいにいつでも本気出せるわけないじゃないか」
「……それでもだ」
無理強いした自覚はあるらしい。
「信念みたいなものが感じられなかった?」
「そうだ。あれなら《盾》の方が遥かに強い。アギの見せた正体不明の移動術式はきっとオリジナルのゲンソウ術だ。強力な意志を感じた」
《幻想》を《現創》する力。想いを現す力、ゲンソウ術。
技や術式のイメージも大事だが込める想い、描く幻想が何よりも力となる。
ユーマの技や術式のイメージは豊富だがクルスの闘志はそれを打ち破るほど強い。闘うことに対する意識、姿勢が違う。
《幻想》の質が違う。クルスが戦闘に特化してるのもある。
だからクルスはアギを高く評価している。クルスの闘争心を受け止めるほどの《盾》の幻想に。
「あれは僕も驚いた。ブソウ君はいい後輩を見つけたよ」
「ああ。あいつは人を使うのと指導するのは下手くそな癖に見る目だけはある」
「あはは」
自警部部長が雑務に追われる一番の理由だった。
「お前はどう思う? 《精霊使い》を」
今度はマークが訊ねられる。
「お前が探してる《精霊使い》と似ていたか?」
「うん。君から守ろうと彼の精霊が飛び蹴りしてきたところなんか。あの人も自分の精霊に慕われてたよ」
「……」
笑顔で答えるマークにクルスは仏頂面。
実際にやられた本人はわかるが、風葉は的確に鼻を狙って蹴ってくる。地味に痛い。
「今度機会があったらユーマ君にあの人の事を聞いてみるか。手掛かりがあるといいな」
「今度……か」
クルスは先程の戦いを思い返す。アギが割り込んだ直前、ユーマを斬ろうとしたその時。
もしもあの時、邪魔が入らなければ……
(あいつは何を繰り出そうとした?)
ただでは済まないと思った。ユーマが最期の一太刀に反応したのを感じたから。
あの一瞬の目の光だけにユーマの闘志を見たから。自分と同じものを。
(次だ)
ゾクゾクした悪寒に気が昂る。思い出すだけで笑みが浮かぶ。
あの意志の弱さであれだけの戦闘ができる《精霊使い》。
自分とは違う。きっと力の引き出し方を知らないはず。ならばこの先《精霊使い》のゲンソウ術は何倍にもなる可能性がある。
「次が……勝負だ」
楽しみができたとクルスは獰猛に笑う。
それに気付いて呆れた相棒の魔術師は、剣闘士の褒め言葉で彼を罵るのだった。
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「……ん」
「気付いたか?」
「アギ?」
アギに背負われた状態で目を覚ますユーマ。
「俺……」
「寝不足で戦闘して最後ぶっ倒れた。腕は痛むか?」
学園最強が使う痛み止めだぜ、とアギ。
「大丈夫。……俺、負けたんだ」
「ああ。あの人に勝てる学生は学園都市にいねぇ」
「全部出し切って負けた」
「……」
アギは黙った。
「弱いって……守れないって言われて負けたんだ」
折られた腕。銃身を失ったガンプレート。砂更は完全に沈黙している。
風葉も回復する必要があるが、ユーマを心情を思って半透明のまま傍にいてしがみついている。
「何故ここにいる? 何を願う? って聞かれて……何も答えられなかったんだ」
「探せばいい。そのための学園、学園都市だ」
慰めにもならない言葉。ユーマは打ちのめされていた。
「アギ。あの時割り込んできたあれは何? おじいちゃん先生が教えてくれるやつ?」
「……違う。俺の国の王様が使っているやつだ」
教えを受けたわけではない。《盾》と同じくアギが望んで手に入れた力だという。
「我流で覚えた。大した距離はとべないが、遠くにいても《盾》は何も守れないからな」
「……そっか」
あてがはずれた。そう簡単に強くはなれないようだ。
「何ならじいさんに話してやる。氷の姫さんも俺が紹介して体術を学んでるからな」
「……うん」
おんぶなんて久しぶりだなとユーマは思った。兄は肩に担いで運ぶものだから。
「やっぱりアギは兄ちゃんに似てるね」
「またかよ。それ」
一体誰何だよ、とアギ。
「カッコイイんだ。本当だよ」
「なら俺をもっと敬え」
「ははっ」
ユーマの冗談に付き合うことにしたアギ。2人で笑う。
自分の危機に躊躇いもなく飛び込んだアギ。学園最強の剣を防ぎ、守り抜いた《盾》。
ユーマは本当に思ったのだ。《盾》の持つ強さは《狼》と同じもの。だからアギは強いと。
迷った時、悩んだ時はいつも2人の兄をユーマは思い浮かべる。2人ならどうするのか。今もそう。
(……それ以前にきっと負けなかったよな。アギみたいに)
そう思うと悔しかった。
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