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幻創の楽園  作者: 士宇一
幕間章 Aナンバー登場編
75/195

エースの初仕事 事件編

《青騎士》……これで8人。そしてユーマの初任務

 

 +++

 

 

 《青騎士》は南区にいる

 

 

 生徒会長からそう教えてもらったユーマは学園の南区へ。

 

「短距離移動用の《門》があるといっても……広いなぁ」

 

 広大な敷地面積を持つC・リーズ学園。そこは中央校舎、一般教棟を中心に東西南北の4つの区画に分けられている。

 

 

 北区は魔術と工業

 

 西区は技術と商業

 

 東区は武術と学業

 

 南区は芸術と農業

 

 

 とそれぞれの区画に備えられた施設、設備が世界の各地方の特色を持つ。その中で南区は他の区画に比べると耕作スペースに広い敷地が与えられている。

 

「移動用の術式があるから乗り物が発展しなかったのはわかるんだけど」

 

 歩いて廻るには少し距離がある。目ぼしい建物は平屋で大きなものがぽつぽつとあり《組合》の拠点のある西区が市街地であればここはのどかな田舎のような雰囲気があった。

 

 南区で有名なのは植物園と美術館に水族館。音楽ホールや《皇帝竜事件》の舞台となったスタジアム(解体工事中)もここにあり、南区は学園内にある大きな娯楽施設が集約している場所でもある。

 

 

 《Aナンバー》の1人である《青騎士》は、そんな南区にある厩舎にいるという。

 

 

「こんにちはー」

 

 ユーマはいかにもといった『青い人』を見つけた。

 

「……《精霊使い》」

「ユーマです。《青騎士》、クオーツさんですね?」

「何故ここに?」

「生徒会長さんが教えてくれました」

「セイ? ……そうか」

 

 生徒会長と聞いてクオーツはユーマに対する警戒を解いた。

 

 

 《青騎士》、クオーツ・ロア。《会長派》、生徒会長の側近で右腕と呼ばれる男。水使い。

 

 学園では学外警備隊の隊長を務め、同じ騎士として《烈火烈風》のライバルとも言われている。

 

 

「馬ですか?」

「ああ。俺の新しい相棒だ」

 

 今の彼は『半身』を失った騎士。《騎兵》である《青騎士》は以前に愛馬を失っていて本領を発揮できずにいた。

 

 クオーツは青い毛並みをした馬の鬣を撫でる。鬣の色は主人と同じ銀色だ。

 

「前の相棒の兄弟だ。今は訓練中でこうやって世話をしている」

「名前、あるんですか?」

「……まだだな。いいものが思い浮かばない」

 

 優しさと悲しさの混じった瞳は前の相棒を想ってのこと。騎士はやさしい男だ。

 

「以前の名前は?」

「蒼雷。気性が荒く、走る姿はその名の通りだった」

「ソウライ」

 

 ユーマは目の前の青い馬を見て考えてみる。名前をつけたりするのは好きだったりする。

 

 蒼雷の弟という馬は温和でどこかのんびりした印象がある。

 

「……青嵐なんてどうです?」

「セイラン?」

「そう。あおあらし」

 

 青嵐は南風。青葉を吹き送る初夏の風。

 

「薫風と同じ意味です。こいつ元気で優しそうだから。あと兄貴が『雷』なら対になるものはやっぱり『風』かなと」

「悪くはないが……よりによってあいつの名前か」

 

 「セイ」、名前の一部に彼が仕える少年と同じものがあってクオーツは苦笑した。

 

「候補に挙げておく。こいつのデビューはまだ先だからな」

「そうですか」

 

 それからしばらくほけー、としながら2人して馬面を見ていた。

 

 なんだかな、とまた苦笑する《青騎士》。

 

「君は思っていたのと大分印象が違うな。竜騎士団を壊滅させたというのに」

「俺もですよ。《会長派》は学園の支配を目論む奴らだって聞いてたから」 

 

 だけどくまですよ、くま、とユーマが続けたのでクオーツは苦笑。

 

「セルクスを甘く見ると痛い目を見るぞ。《会長派》の最高戦力だ」

「生徒会長と敵対する気はないですよ」

「今は、だろ? 先はわからない」

「……」

 

 あなたはどうして《会長派》に? とユーマ。

 

「誓い、かな。俺とセルクスはセイに忠誠を誓った。《騎士の誓い》さ」

 

 ユーマに向き直るクオーツ。胸に手を当てる仕草は何かの儀礼のようだ。

 

「俺達は昔から弟としてあいつを可愛がってたからな。守りたいと思う。……今度こそ」

「……」

 

 それは3年前の誓い。

 

 そのあとに彼らは北の故郷を抜け、学園都市にやってきた。

 

 

 故郷の名は《雪羅の国》という。

 

 

「セイはお坊ちゃんなんだ。理想が高くて夢想家。いつか目的の為に無茶をするかもしれない」

「クオーツさん?」

「できればセイの邪魔をしないでくれ。《竜使い》のように」

「……警告?」

 

 クオーツがいつの間にか手にした槍をユーマは見る。

 

「頼みさ。これは学園の為でもあるから」

 

 そう言うとクオーツは武装術式をあっさり解いた。槍は水でできていた。

 

 《水槍》を出した瞬間、《精霊使い》の砂の腕輪が瞬時に篭手に変化したのをクオーツは見逃さなかった。

 

 それで相棒のいない《青騎士》は《精霊使い》相手にただで済まない、そう彼は判断したようだ。

 

「クオーツさん」

 

 あなた達は何を知っている? そう訊ねようとしたユーマだが、

 

 

『きんきゅー、でんわですよー』

 

 

 その前にユーマのPCリングから突然ピンクの風葉が飛び出す。

 

「召集か」

 

 同じく連絡を受けたクオーツはそう言った。

 

 

 

 

 事件の発生。

 

 ユーマはエースとして初めて召集され、《派遣》されることになる。

 

 +++

 

 

 生徒会棟、緊急会議室。

 

 

 集まったのは《Aナンバー》10人と彼らの副官役が数人。ティムスにはポピラが付いていた。

 

 加えて生徒会長と報道部部長。そして《アナザー》のユーマ。

 

「部長さんはどうしてここに?」

「ボクは情報を扱うからね。参謀役なんだよ」

「席につけ。はじめるぞ」

 

 進行役はブソウ。

 

「ウズミ学園で立てこもり事件が起きた。俺達は……」

「チョイ待ち」

 

 遮ったのはヒュウナー。

 

「他校の事件やないか。ワイ達が動く必要がどこにあんねん」

「そうか、新人もいたな」

 

 思い出したかのようにヒュウナーを見るブソウ。

 

「いいか。俺達エースは『他校に介入できる』権利を持っている」

「なんやて!?」

「えっ?」

 

 驚いたのはヒュウナーとユーマの新米エース2人。

 

「学園都市にある学校すべてが戦士や魔術師を育成しているわけではない。非常事態に対応できる人間がいないところもある」

 

 学園都市で有志を募った警備隊はいるが、彼らは基本活動は学外の治安維持。学生が「学園都市全体で起きる有事の解決に協力できる」という権利を持つのはエースの資格を持つ者だけ。

 

「エースの資格を持つということは学園都市を守れる力があると認められること。ならばその為に力を使うべきだ」

「他校にもエースがいるところはあるけど、10人もいるのはリーズ学園くらいだね。あと《学院》くらいかな」

 

 ブソウに補足するリアトリスと部長。

 

 エースの資格は学園都市の規定に基づいたものであり、エースを名乗る学生は学園以外にも存在する。

 

 《Aナンバー》はリーズ学園のエース達の総称だ。

 

「それでも10人で動くのは少ないんじゃ」

「そのための騎士団だ」

 

 ユーマの疑問は隣に座るティムスが答えた。

 

 リーズ学園は戦闘系だけでなくティムスのような後方支援役でも人材が充実している。

 

 ひとつの学校にエースが複数いて組織だった活動ができるのが他校との大きな違いだ。

 

「それで、事件ってのは?」

「立てこもりだ。校舎の屋上に陣取っている」

 

 厄介なのは爆弾を仕掛けていること。

 

「仕掛けた爆弾はどうやら複数。ひとつは人質と一緒に屋上。残りは校舎の中らしい」

「犯人とその目的は?」

「同じ学校の生徒。彼らの目的なんだけど……どうもついカッとなってやったって感じなんだよね。最初の要求で校舎から人を追いだしたのはいいけどそれきり」

 

 苦い顔をする説明役の部長。

 

「屋上にいるのも何かを訴えるつもりみたいなんだけど何が言いたいのかさっぱり。自己顕示しすぎて引っ込みがつかなくなったのかな? 若気の至り?」

「最低だな」

「飛ばしますか?」

 

 ミヅルの発言。何をとは話さなかった。

 

「事件が発生して1時間が経った。ウズミ学園はここから近いが一刻を争う」

「作戦としてはまずミスト君が校舎に潜入して爆弾の発見。解析と解体はティムス君ね」

「……フフ」

「ちっ」

 

 自分に役割を与えられて不満のティムス。

 

「それから人質の救出と犯人の捕縛。正直言えば残りのメンバー全員を出す必要はないと思うよ」

 

 彼らにすれば難度が低い事件らしい。

 

 問題は誰を派遣するか。

 

「ならどうして全員呼んだ?」

「今期のメンバーでは初仕事だからね。顔合わせでしょ?」

「その通りです。先輩」

 

 頷く生徒会長。他校の要請を受け派遣するかどうかを決めるのは彼の権限である。

 

「まあいい。それでどうする? リーダー」

「その呼び方はやめてくれ」

 

 ブソウが問う相手はユーマが知らない人物。彼こそ《Aナンバー》のトップ、つまり学園の生徒における最強の男だ。

 

 その彼がユーマを見た。

 

 

「新人がいる。『本番』での実力が見たい」

 

 

 この一言でユーマとヒュウナーを中心に人質救出作戦を実行することになった。

 

 生徒会長は「彼らは初任務だから」とお目付け役とバックアップとして《青騎士》、《獣姫》の2人をつけることでこれを承認した。

 

 

「では《Aナンバー》、出撃」

 

 

 生徒会長が最後にそう言って皆は解散した。

 

 この一言を言えるだけでも生徒会長の役職はカッコイイなとユーマは密かに思った。

 

 

「別働隊含めてエースが6人。豪勢なことだ」

「そうなの?」

 

 作戦会議終了後。集まるのは実動部隊のユーマとティムス達。

 

「過剰戦力の投入で瞬殺。非戦闘系の俺はともかく、この程度《霧影》1人で十分なんだよ」

 

 そのマフラー男は一足先に調査と探索のため現場へ向かっている。

 

 《青騎士》がユーマ達に話しかけてきた。

 

「というわけでお手並み拝見だ。俺とセルクスは待機……」

「メリィは出るぞ。暴れたいから。クオも来い」

「……周囲の警戒と警備に俺の騎士団を動かそう」

 

 頭が痛そうに額を抑えたクオーツはそう言って会議室を出た。彼も振りまわされる側のようだ。

 

「で、どうするん? ワイは空を飛ぶしかできん」

「犯人をやればいいんだろ? 楽勝だ」

 

「馬鹿ですね」

 

 ポピラがそう言いたくなる(実際にもう言った)2人が残ってしまった。

 

「……ティムス。助っ人呼んでもいい?」

「……呼んでくれ。いくらなんでも向き不向きがあるだろ」

 

 

 不安になった。

 

 +++

 

 

 救出作戦。その第1段階は《霧影》の侵入行為、校舎に仕掛けられた爆弾を探すことからはじまる。

 

『ひとつめの爆弾を発見。実物の画像を送る……フフ。便利だな、これ』

「エース仕様だ。でもお前には任務以外で使わせる気ないからな」

「残念だ」

 

 ウズミ学園の外、移動式仮設アンテナの隣に立つティムスはPCリングでミストからデータを受け取る。

 

 エース仕様のPCリングとは初期型でリミッタ―を解除したものをいう。

 

 一般のPCリングは『仮想ディスプレイから見る幻創獣の視点を録画』など悪用の可能性がある機能を厳重に封印しているのだ。エースの物はPCリングの性能をフルに使えるようにしている。

 

 それ以外にもエース仕様は独自のチューニングが施されていて高性能となっている。

 

 同時通話機能もそのひとつ。ティムスの目の前にはピンクの風葉とマフラーをした蝙蝠がいる。通話モードの幻創獣だ。

 

「学園の外で使うのは初めてだったが、エース仕様の奴はアンテナ1本でも問題ないな。……爆弾を発見した。確認したがこれは連動タイプ、起爆装置を取り押さえた方が早い。ミストは爆弾に何もするな」

『了解』

『俺は他の爆弾と校舎の中を探る』

 

 蝙蝠は消えた。

 

「ユーマ、どうやら犯人は4人グループだ。起爆装置はその内1人が持ってるはず。……屋上で何か喚いているな。錯乱して起爆なんて真似させるなよ」

『わかった。一気に行く』

 

 ピンクの風葉も消えた。

 

「……考えてみたらあいつが一番無茶苦茶する奴じゃなかったか?」

 

 

 ティムスは空を見上げてからそう思い、それからカンペを取り出す。

 

 作戦第2段階、開始。

 

 +++

 

 

「なんだよ、あの青い奴ら。学園都市の警備団か?」

 

 

 ウズミ学園、その屋上では人質をとった犯人たちが怖じ気づいていた。

 

 校舎に突入してくる者は誰もいなかったが、しばらくして青い装備を身に付けた集団が現れ校舎前で待機しているのだ。

 

 《青騎士》を団長とする学生騎士団、《蒼玉騎士団》の面々だ。

 

『あー。犯人に告ぐ犯人に告ぐ。お前らに逃げ場はない。だから降伏してくれ』

 

 下にいる茶髪の少年が拡声器を使い、やる気のない声で降伏を促してきた。

 

『さっさと人質を解放してお縄に付きやがれ。酷い目にあうぞ』

 

 そして面倒くさくなって言葉が悪くなっていく。

 

「う、うるさい! 誰だよお前ら! こっちには人質が、爆弾が……」 

『そうかよ。だったらもう知らん』

「なっ!?」

 

 ティムスに聞く耳はなかった。所詮時間稼ぎだ。

 

『馬鹿が。覚えておけ』

 

 ティムスは犯人たちの置かれている今の状況を一言で伝える。

 

 もう終わりだと。

 

『俺達はリーズ学園のエース。《Aナンバー》だよ』

 

「――!!]

 

 同時に屋上は何かが高速で墜落する衝撃に襲われた。

 

 衝撃はたて続けに3つ。

 

 

「鷲爪撃!!」

「うさキィィィィク!!」

「ストーム・ブラスト!!」

 

 

 《鳥人》と《獣姫》の飛び蹴りが、ユーマのガンプレートが犯人を3人ぶっ飛ばす。

 

「!? このっ」

「フッ」

 

 最後の1人は《霧影》が背後から仕留めた。

 

 あっさりとした結末。犯人と彼らでは実力が違いすぎた。

 

 

「悪は滅びる。それが真実」

 

 

 風にたなびくマフラーが無駄にカッコイイ。


「ミストさんはいつの間に……?」 

「起爆装置を探せ。人質を解放するぞ」

 

 ユーマ達と同じく上空から突入したクオーツは指示を飛ばす。

 

「怪我はないか? もう大丈夫だ」

「ありがとうございます」

「あの、あなた達は……?」

 

 未だ震えている人質たちを安心させるようにクオーツは笑顔をみせる。

 

「気にしないでくれ。君達を守るのは騎士の務め、エースとして当然の事さ」

「エース……」

「騎士様」

 

 さわやか好青年。人質だった女生徒達が《青騎士》に熱っぽい視線を送る。

 

「クオーツさん。起爆装置見つけましたよ」

「……任務中は二つ名で呼んでくれ。あとは蒼玉を突入させ俺達は撤収するぞ」

「はい」

 

 犯人たちをイモムシにしたユーマとヒュウナーは屋上から難なく飛び降りていった。

 

「さらばだ。セイッ!」

 

 彼女達は颯爽と去りゆく騎士の姿を見送った。

 

 

 

 

 白い兎(の着ぐるみ)に跨って飛び降りる、青い騎士様を

 

 

 

 

「「……」」

 

 残念だがいくらクオーツがエースでもできないことはある。

 

 

「……騎士?」

 

 

 幻滅した。

 

 +++

 

 

 作戦『ウズミの3連星』の解説

 

 

 ユーマの提案したのは降下作戦、上空からの強襲だった。

 

 まずティムス作の『おもちゃ』、《浮遊》の付与効果を持たせた風船で監視偵察器が届かない高度にユーマ達は待機。ティムスが下に注意を引きつける間に突入を仕掛けた。

 

 まず人間ミサイル、ヒュウナーが《鷲爪撃》で突撃。続けて脚力強化の着ぐるみ、『白うささん』を装備したメリィベルがクオーツを背負い、ユーマの《盾》を蹴って急降下した。

 

 最後にユーマが《盾》を前にして《ストーム・ブラスト》の衝撃波で加速して突貫。3人がほぼ同時に屋上に強襲をかけ、一瞬で鎮圧した。

 

 尚、最後にミストがしゃしゃり出たのでクオーツは出番なしのいいところなし。

 

 そしてこの作戦で貢献したユーマの《盾》は……

 

 

「……なにが、短期で高額の仕事、だ……」

 

 

 助っ人のアギは《獣姫》の踏み台とユーマの降下装備の役割を果たし、ウズミ学園の屋上に

 

 

 がくっ

 

 

 埋まった。

 

 +++ 

 

 

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