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幻創の楽園  作者: 士宇一
幕間章 Aナンバー登場編
71/195

エースの初仕事 報道部編

報道部にて。彼女の受難

  

 +++

 

 

 前回までの話

 

 

 エースとなったユーマは早速小遣い稼ぎに学園長の依頼を受け親睦会の招待状を10人の《Aナンバー》に届けることに

 

 はじめに友達でエースの1人である《天才》、ティムスに相談してみたところ……

 

 +++

 

 

「あと9人か。お前が知ってる奴はあと誰だ?」

「ティムスとブソウさん、リアトリスさん」

 

 《天才》、《一騎当千》、《烈火烈風》の3人。

 

「《皇帝竜事件》の面子だけか。となると」

 

 思案するティムス。

 

 ユーマはそんなティムスをみて「キャラがなんかアドバイス役に落ち着いたよな」なんて相談しておきながら失礼なことを考える。

 

「まず報道部だな。あそこにも1人エースがいる」

「報道部……部長さんを頼るの?」

 

 報道部部長は報酬次第で学園のあらゆる情報を提供してくれる。その値段は破格ではあるが。

 

「それはお前次第だ。ただあいつら全員の居場所を探るとなるとあの女の組織ほど役立つものはない」

「とりあえず連絡するか」

 

 

 ユーマはPCリングを起動してピンクの風葉を喚びだした。

 

 +++

 

 

 報道部部長室。

 

 

「……うん。あ、それ本当? だったらいいよ。待ってるね」

 

 部長は客を招いていたが彼女はそれを放置し離れて長い耳を持つ『くま』の幻創獣と会話していた。

 

「……通話しているのはわかっているけど、ぬいぐるみ相手に話してるみたいね」

「……(こくん)」

 

 部長の客は最近報道部の幽霊部員になった2人。

 

「いやー、ごめんごめん。依頼が入ってね。ちょっとおもしろいことになったよ」

「貴女の話は別にいいです。いいから話の続きをしましょう」

 

 1人はリリーナ・コンベスカこと元竜騎士団幹部のベスカ。

 

 報道部が内緒で確保した幻創獣の腕輪。その調整の為に彼女は部長にスカウトされた。今はそのことについて話をしている。

 

「ワタクシは技術士といっても何かを創る才能はまったくありません。できることはブースターの付与術式を盗むか壊すだけ」

「盗む?」

「そう。皇帝竜を複製できたのは皇帝竜のIMを解析したわけでなく直に覗くことができたからですわ」

 

 つまりIMの構築式を丸覚えしたらしい。

 

 ただしベスカは自らをおちこぼれと自負するだけあってIMや術式の構築は並以下の能力である。物を作る技術もない。

 

「ワタクシ1人じゃ皇帝竜の複製は1体につき1年以上かかります」

「他の腕輪は?」

「回収した腕輪をみましたけど殆どは修理が可能。普通の竜は使えるようにできます

  

 報道部が回収した腕輪は《黙殺》が試験期間中に捕まえた竜騎士団のものだ。数にして30近くある。

 

「ただ調整器がないと新規で幻創獣を創るのと強化は無理。もちろん調整器を作ることもね」

「そっかー。それでも十分かな。竜のままだとミツルギ君たちに簡単に無力化されちゃうけど」

「……」

 

 《竜殺し》の術式は現在ユーマの持つ《銀の悪魔》とティムス、そして自警部が所持している。

 

 ブソウを通して自警部に《竜殺し》が渡っているのは、行方の知れない幻創獣の腕輪があるので竜騎士団の残党対策のためである。(報道部のデマでもある)

 

 ベスカは《皇帝竜事件》の際《精霊使い》と敵対していた。竜殺しの剣に貫かれたこともあるので当時の事はあまり思い出したくない。

 

 無意識に左腕を抑える。

 

 

「……(こくん、こくん)」

 

 ところで話に混ざらず船をこぐのはもう1人の幽霊部員。

 

「《黙殺》、寝ようとしないで」

「……朝は……ねむいの」

「今は4時過ぎです!」 

 

 ベスカの同僚である黒いローブを纏った彼女は日中意外とだらしない。

 

「ほら、貴女はもういいからそこのソファで横になってなさい。……ちょっと、ローブは脱いで。皺になるわよ」

「……くー」

「立ったまま寝ないで!」

 

 部長、爆笑中。

 

「何この子? これで年上? 元エースだというの?」

 

 憤りながらも《黙殺》をソファに寝かせるベスカ。

 

「まあしーちゃんの実力は君も嫌というほど知っているでしょ? 伊達に《アサシン》なんて学園にないクラスを名乗ってないよ」

「そうですけど」

 

 以前は敵対する組織にいた2人。ベスカは直接対決することはなかったが誰にも悟られず影で彼女に掴まった竜騎士団は多い。

 

 《黙殺》は熟睡。ローブを脱がされ素顔を晒している。

 

 あらわになる美貌と流れる水色の髪。長身の上にローブ下のだとわからなかったがスタイルも良い。

 

 安らかに眠る彼女はまさに眠り姫。

 

「それにしーちゃんはこんなに美人さん。……これでボクと同い年なんて詐欺だよね」

「……貴女も3年生でしたわね」

 

 ベスカにすれば年相応に見えない《黙殺》よりも生徒会の上層部の一員なのに落ち着きがなく、やりたい放題の部長の方が詐欺だと思う。

 

「本当に……もう」

 

 ベスカは彼女の頭の下にクッションを敷き、どこからとなく毛布を取り出した。

 

「リリーナさん。君、意外と世話焼きさん?」

「なっ!? 違います。それに名前で呼ばないで」

 

 無意識だった。ベスカにはそそっかしくて頼りない友達がいて彼女がいつも世話をしていたのだ。

 

 反射で動いていた自分がベスカは恥ずかしかった。

 

「ワタクシの事はいいですから話の続きを」

「待って。そろそろだから……はい。これあげる」

「はぁ!?」

 

 訳が分からない。部長から渡されたのはかつらとか帽子とか変装セットのようなもの。

 

「何を……?」

 

 

「部長さーん。お客っす」

 

 

 ベスカが訝しんだその時、報道部の部員が来客を告げた。

 

「ミツルギさんっすよー」

「なっ!?」

 

 ベスカは慌てた。来客はかつての敵。竜騎士団を壊滅させた張本人だ。

 

「来た来た。うん、予想通りの時間」

「貴女! 一体」

「さっき依頼を受けたんだよ。今は君もここの部員なんだし堂々としたら?」

「冗談じゃありません!」

 

 ならばどうして変装セットなど渡すのか。

 

 ベスカは一応《皇帝竜事件》の主犯の1人として処罰され転校していることになっているのだ。

 

「抜き打ち! 報道部員適性テストぉぉぉぉ!!」

「貴女って人は!!」

 

 ブチ切れた。

 

 ルールは簡単。《精霊使い》に顔が知られているベスカが正体を見破られずこの場を乗り切ること。

 

「ばれたら今度こそ退学ね。転校の手続きはしてあげない」

「こ、このっ」

 

「部長さん。俺です。入りますよ」

「いいよん」

「!?」

 

 《精霊使い》はもうそこまで来ている。

 

 

 ベスカに逃げ場はない。

 

 +++

 

 

 部長に連絡をとったユーマはエースの情報を求めて報道部へ。

 

「こんにちはー」

「うん。いらっしゃい」

 

 上機嫌でユーマを迎え入れる部長。

 

「楽しそうですね。何かあったんですか?」

「うん。今からなんだよ」

「?」

 

 思い当たることはあるがユーマは首をかしげた。

 

「それよりミツルギ君、エース就任おめでとう。11番目ってやっぱりおばーちゃんのわがまま?」

「いえ。表向きは奉仕活動ですけど学園長が便宜を図ってくれたんです。むやみに精霊たちを使わないようにって」

「へーえ。……本気出せば学園を半分吹き飛ばせるなんて本当?」

「風葉で半分。砂更がもう半分を砂に変えるから学園は崩壊です」

「ははは」

 

 朗らかに物騒な話をするユーマと部長。

 

(……冗談? それとも本気?)

 

 2人の会話を聞いているベスカは敵に回した彼らのことを測りかねていた。

 

「ところで部長さん。その人誰?」

「――!!」

 

 気付かれた。

 

「うちの幽霊部員だよ」

「……おばけ? なんかもぞもぞしてるけど」

「……」

 

 ベスカは部屋の隅で《黙殺》のローブを頭から被り背を向けている。しゃがみ込み変装している最中だ。

 

 端から見れば怪しいまっ黒おばけである。

 

「まあ、いいや。それで部長さん、さっき連絡したことなんだけど……」

 

 

「部長さーん。またお客さんっす。あ、サイン貰っていいっすか?」

「僕なんかの貰ってどうするの?」

 

 

 ユーマに続く来客。実はユーマが『彼』を報道部へ呼んだのだ。

 

「じーん。こっちだよ」

 

(!!!?)

 

 ベスカは動揺。鼓動が跳ね上がる。

 

(じ、ジン・オーバ!? どうして?)

 

「失礼します」

「いらっしゃい。ようこそ報道部へ。ボクがここの部長だよ」

 

 ボクのフルネームが知りたいならお金ね、と相変わらずの部長。

 

 ジンはそうですか、と微笑みながら流した。

 

「呼ばれてきたけど僕は何をすればいいの?」

「まずはボクの取材に付き合ってね」

 

 ジンはユーマに訊ねたのだが、そこにぐいっ、とジンの前に出て割り込んでくる部長。

 

「新入生の話を聞きたいんだけどなかなか取材を受けてくれる人がいなくてね。ミツルギ君に友達を紹介してもらったんだ」

 

 方便である。

 

 部長の思惑は新入生の中で人気のあるジンの個人情報の入手。仕入れた情報は出すところに出せば高値で売れるのだ。

 

 そしてユーマはジンを紹介し、取材の機会を設けることでエースの情報を部長からタダで手に入れる話をつけていた。

 

 

 要するに友達を売りやがった《精霊使い》。

 

 

「わかりました。僕でよければ」

 

 そしてジンは友達を疑うことがないほど人がよかった。

 

(何故断ってくれないのよ!)

 

 部屋の隅にいたベスカことまっ黒おばけは声にならない絶叫。

 

 ジンとはいろいろあったのでますます正体がばれるわけにいかなくなった。

 

「本当? ありがとね」

「ええ。……ところで、あの人は誰ですか?」

「――!!」

 

 気付かれた?

 

「うちの幽霊部員だよ」

「はぁ。……よく眠ってますね」

「うちは自警部に負けないくらい激務なんだよ」

「……zzz」

 

 違った。どうやらソファで眠っている《黙殺》のことらしい。

 

 注目された彼女は今も静かにしている。

 

「綺麗なひとですね」

「あれ? 彼女はジン君の好み?」

 

(なんですって!?)

 

「いえ。どこかで会った気がするんです」

「ジンも? 実はこの人俺も初めて見た気がしないんだ」

 

 ユーマとジンが思い浮かべるのは同じ人物。

 

「《黙殺》さん? ……いや、こんな無防備な人じゃなかったよな」

 

 ユーマの中の彼女は皇帝竜の必殺技をぶった切るクールですごい人。第一印象が先行して目の前の彼女とローブ姿の《黙殺》が結びつかなかった。

 

 この時だけは素顔を見られても正体がばれない彼女が恨めしく思うベスカ。

 

「ユーマ、《黙殺》ってどんな人?」

「前に助けてもらったことがあるんだ。黒装束で大きな鎌を持った人。あと片方の目を紅く光らせてたな」

「……あの人だ」

 

 ジンは《皇帝竜事件》のことを思い出す。

 

「知ってる?」

「うん。僕も助けてもらったから。確かそこにあるような黒いローブを着ていて……」

 

(ああっ!?)

 

 今度こそ気付かれた。

 

「ユーマ?」

「……うん。そう言われると見覚えがある。本物?」

「そうかもねー」

 

 無責任な部長。

 

(さーて、どうするかなー)

(覚えてなさいっ!)

 

 ベスカはもうパニック寸前。

 

「あの」

「ひゃっ!」

 

 ジンに声を掛けられて悲鳴を上げるまっ黒おばけ。

 

「大丈夫ですか? ずっと蹲っていたみたいですけど」

「ち、ちょっと目眩がして。だ、大丈夫ですから」

 

 早く出ていってー、とはベスカの心の声。

 

「ほら、そんなもの脱いでちゃんと挨拶したら? リリーナさん?」

「だから名前を呼ばないで!!」

 

 思わず怒鳴って部長を睨みつける。

 

 もちろんローブはその時に勢いで脱いでしまった。

 

「あ……」

 

 ベスカの目の前には彼がいた。怒りとは別に顔が赤くなる。

 

 彼女を『射抜いた』黒髪の少年。忘れられなかった黒の瞳。

 

「……どこかで会いませんでしたか?」

「そんなことありません!」

 

 咄嗟に手にした毛糸のニット帽を『かつら』の上から目深に被った。

  

 肩までの長さで毛先を内巻きにした金髪。化粧は時間がなかったので逆に落としてすっぴんにした。

 

 ただし彼女の小豆色の瞳は隠しようがなかったのでここは賭けだ。

 

(ばれませんようにばれませんように)

 

 ジンのうしろでニタニタしている部長が憎らしい。それ以上にベスカはジンを見て激しく動揺する自分が恨めしかった。

 

(何よ。彼はワタクシを傷つけた男。敵だったのよ。なんで……)

  

 ベスカはジンに『射抜かれた』自覚がない。

 

「あなたは?」

「ワタク……いえワタシは」

「彼女はリリーナさん。今度報道部が行う新しい企画の責任者なんだよ」

「……ええ」

 

 嘘はついてない。秘密保持した幻創獣の管理者であることは内緒だ。

 

 部長の助け船(?)にジンとユーマは「へぇ」と納得。不本意だがベスカの本名がそのまま偽名で通った。

 

 

「さあ、本題に入ろうか。みんな座って。あ、リリーナさんはジン君の隣ね」

「くっ」

 

 絶対にわざとだ。部長の彼女はなにをどう知っているのだろうか?

 

「ミツルギ君。確か今期の《Aナンバー》の資料が欲しかったんだよね」

「はい。まだ足りませんか?」

 

 首を振る部長。ジンを連れてきたことが報酬以上に楽しむことができた。

 

「これからもごひいきにね。資料はもう用意しているから。……ミスト君」

 

 ぱん、ぱん、と部長は手を叩く。すると

  

 スタッ

 

「これです」

「うん。御苦労さま」

「……え?」

 

 部長以外の全員が驚いた。突然現れた1人の男子生徒。

 

 口元をなぜかマフラーで隠している。

 

「では部長」

「これがお駄賃ね。期間限定の特ダネ」

 

 ミストと呼ばれた男子生徒は渡されたメモを見て目を見開いた。

 

「流石です! 俺、一生あなたに付いて行きます」

「気持ち悪いからそれは卒業するまでにして。もういいよ」

「では。――っ!」

 

 消えた。遠くでヒャッホーッ、と叫び声が聞こえるのは気のせいか?

 

「……部長さん?」

「ああ。あれが報道部に所属するエース、《霧影》のミスト君だよ」 

「《忍者》ですか? 東校以外にもいるんだ」

「ワタシも初めて見ました。……どこから?」

 

 ジンとベスカは驚いたまま茫然。

 

 報道部の部室は普通の校舎の一室で天井裏なんてないはずだが、実は隠し通路がたくさんある。

 

「あ。招待状を渡しそびれた」

「居場所はボクがわかるからあとで行けばいいよ」

 

 《霧影》の行く先はきっと部長が渡したメモに書いてある場所のはず。

 

 部長の渡した特ダネ。それは

 

 

“《烈火烈風》、ただいま喫茶『ハイドランジア』にてご奉仕中”

 

“あの女騎士のドジっ娘ウェイトレス姿が見られるかも”

 

 by部長

 

 

「ミスト君はただの変態なんだよ」

 

 

 ミスト・クロイツ。3年生で《Aナンバー》の1人。報道部隠密班筆頭。

 

 隠し撮りが趣味の《念写》能力者カメラマンだったりもする。

 

 +++

 

 

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