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幻創の楽園  作者: 士宇一
第2章 後編
62/195

2-19a エピローグ-エルドカンパニー

その後のルックスと幻創獣

 

 +++

 

 

 C・リーズ学園報道部。

 

 情報の宝庫と呼ばれるその部長室に珍しい客が訪れていた。

 

「以上が《皇帝竜事件》に関わる《精霊使い》の動向だよ」

「……」

 

 生徒会長は事件の詳細を確認し、報道部部長の話に額を抑えた。

 

 +++

 

 

 《グナント竜騎士団》は学園集会中に事件を起こし、スタジアムを破壊したことで結局解散。

 

 幹部以下の主謀者は生徒会襲撃の計画が明らかになることで退学、または付属校への転校という処分を受けることになった。

 

 

 幻創獣の腕輪はユーマとティムスが回収。竜の幻創獣は封印。幻創獣のシステム自体が学園長の依頼でティムスの管理下におかれた。

 

  

 試験期間に起きた一連の《皇帝竜事件》。生徒会長は《竜使い》のことを邪魔にはしていたが結果的に《会長派》であるエースを1人失う痛手を負い、生徒会の陣営に加える気でいた幻創獣を手にすることなく終わる。

 

 

 それとは別に報道部が堂々と偽の情報をばら撒いていたことを彼は当人から初めて知らされた。

 

「会長さんどうしたのかな?」

「今回あなた達が仕掛けた情報操作はどう説明してくれますか?」

「ボクは《精霊使い》から『仕入れた情報』を欲しがっていた竜騎士団や噂好きな子達に売り渡しただけ。情報の真偽はおいといてね」

 

 《精霊使い》の指示通り動いたことになるのだが、形だけは今まで通りなので今回も報道部は『中立』だったと彼女は言い張る。

 

 もちろんそんな理屈で納得する生徒会長ではない。

 

「……自警部部長はともかく、今回のように学園の勢力バランスが貴女のために崩れる危険性があります。一緒に来てもらいますよ」

「やだね」

 

 にべもなく断る部長。

 

「報道部は生徒会の管轄には入らない。君が生徒会長だからって学園のすべてを率いる必要はないんだ」

「そんなことはない。僕なら学園をもっと」

「今の君をボクは信じられないんだよ」

 

 生徒会長の言葉を遮る。

 

「君は学園のためを思って行動しているわけじゃない。私情なんでしょ? ねぇ、亡国の王子サマ」

「っ!」

 

 どうせ話が長くなるからと彼女は手札を1枚切った。

 

 生徒会長は隠していた正体を暴かれて絶句。これには護衛として来ていた《会長派》が動く。

 

「貴様」

「まて。……勘違いしないでください。僕は生徒会長として貴女の横暴な振る舞いを止めなければいけないのです。だから一緒に来て下さい。さもなければ」

 

 《青騎士》と《獣姫》はそれぞれの武器を取り出すが部長は態度を崩さない。

 

「脅す気? 《Aナンバー》を子分にしてる君のほうが横暴じゃないか」

「彼らはただの協力者です」

 

 平然と嘯く生徒会長。

 

「ふーん。そんなことするならボクも考えがあるよ。《Aナンバー》は報道部にもいるんだ」

 

 とはいってもその彼は部長からすれば隠し撮りのプロでしかないのだが。

 

「《霧影》ですか。残念ですけど彼や隠密が今日出払っていることを僕は知って……」

「黙って」

 

「「「――!!」」」

 

 気付かなかった。エースの2人ですら。

 

 いつの間にか生徒会長の首に突き付けられたデスサイズの刃。現れたのはフード付きの黒いローブを纏ったアサシン。

 

「《黙殺》」

「彼女はボクの協力者だよ。どうする? おとなしく帰ることをおススメするけど」

 

 誰もが動けない中で報道部部長だけが喋り続ける。

 

「会長さん。君は今回ボクと《精霊使い》に感謝すべきなんだよ。試験最終日のあの日、《竜使い》と竜騎士団は全校集会の時に生徒会棟を襲撃するはずだったんだ」

 

 《黙殺》に続く3枚目の手札。貸しを作っていた事実を公開して自身を守る。

 

「いつも使う講堂は大規模な《牢獄》の術式を使って罠を張っていたよ。きっと集会の時に一般生徒ごと自警部や《Aナンバー》を閉じ込める気でいたんだね」

「……」

「ボク達はこれでも余計な混乱と騒乱を抑えたんだ。ミツルギ君に矛先が向いたから生徒会に直接の被害はなかった。せいぜい報告書の束が机の上に山を作ったくらいでしょ」

「くらい? ……あれが?」

 

 未だ残っている雑務を思い出しげっそりする生徒会長。彼は十分被害を被っていた。

 

「あれだけの事をしたんだからミツルギ君やエルド君だって学園長から処罰を受けたんだ。だから《皇帝竜事件》は誰も得るものがなった。それでいいじゃないか」

「……わかりました。今日はこれで失礼します」

 

 敵地と言える報道部の中で元エースである《黙殺》までいては不利だと悟る生徒会長。

 

 護衛を連れて立ち去った。

 

 

 

 

「会長さん。お願いだからはやく気付いて。ここはみんなのためにあるんだ。王様なんていらないし学園を支配しても未来に繋がるものは何も手に入らないよ」

 

 彼女は学園の先輩として生徒会長の事を思う。

 

「昔辛いことがあったとしても、せめて学園都市にいる間は世界のしがらみから解放されるべきなんだ。ここはボクらにとって楽園なんだから」

「……そうね。だから私はここからまたやり直すことができる」

 

 《黙殺》の呟きに部長は気持ちを切り替え、彼女のほうへ振り返る。

 

「それにしても助かったよ。今日はミスト君が忙しくてね」

「構わないわ。貴女のサポートがなければ私も動くのが難しいから」

 

 後ろ盾のなかった元エースの《黙殺》。今は報道部部長に個人的に雇われている。

 

 彼女は報道部の幽霊部員として暗躍していた。今回は誰にも悟られずにユーマのフォローをしていたのだ。

 

「しーちゃんが捕まえた竜騎士団から回収した腕輪、あれをなんとか使えるようにしないとね。エルド兄妹やルックス君の力を借りれれば良かったんだけど」

 

 そう言って彼女は袖の下に隠していた幻創獣の腕輪からブショーくんを喚びだす。

 

「この子達はいざという時の切り札になるからね。まだ誰にも知られたくないな」

「……しーちゃんはやめて○○○○。……?」

「ふっ。ボクの情報規制能力をなめるな」

「……」

 

 何でも伏せ字にする役に立たない反則技に《黙殺》は呆れる。

 

「でも君はこのままでよかったの? 今なら《Aナンバー》にも戻れただろうに」

「……いいの」

 

 部長の問いに《黙殺》は首を横に振る。

 

「あの子たちが表にいれば大丈夫。裏の仕事はきっと向いていない」

「隠れて行動するのはミツルギ君には無理そうだね。無茶苦茶だし」

「でもきっと……面白いわ」

 

 蒼い『両の瞳』を細めて《黙殺》は微笑む。

 

「そうかな? それじゃあ日影者同士これからも学園のためによろしくね」

「……貴女も十分日向の人よ。でもこちらこそお願い」

 

 

 『戦闘用の』幻創獣の腕輪と元エースである《黙殺》の協力を得た報道部部長。

 

 ユーマ達とも良好な関係を築く事ができた彼女のいる報道部こそ《皇帝竜事件》の本当の勝者だった。



 +++

エピローグ

 +++

 

 

「納得がいかねぇ!」

 

 正門を抜けた大通りの掲示板に貼られた試験の結果。それを見たリュガはアギの首を絞める。

 

「……落ちつけよ」

「だってお前、お前だけが2ランクアップだぞ。ここ十何年なかったことじゃねえか!」

「いや、それは俺も信じられないんだが」

 

 ユーマ達のメンバーは全員無事にランクアップを果たした。

 

 その中でもアギは特別でランクCからランクAに昇級したのだ。

 

 リュガのように疑う生徒もいたが実際に彼の戦いぶりを見ていた生徒も多く、納得する生徒もまた多かった。 

 

「当然と言えばそうなのでしょうね。《精霊使い》と互角に戦って《皇帝竜》の攻撃を無傷で凌いだ。その評価がランクBとはいえないでしょうから」

 

 今までアギが評価されなかったのは試験官の攻撃を防ぐことしかしなかったからだ。

 

 受け身になるアギは試験官が大したことなければそれ以上の評価を受けない。だから彼の《盾》がエース級の必殺技すら無傷で防ぐとは誰も知らなかった。

 

「アイリーンさんまで。くっ、俺だけランクBかよ」

「昇級試験はあと2回あるんです。すぐ追いつきますよ」

「いいから離してくれ。苦しいんだよ!」

 

 アイリーンから慰められて気を良くしたリュガにやっと解放されたアギ。 

 

「ったく。そういや姫さん、ユーマはどうした?」

「エルド兄妹のところです。もうすぐイベントがはじまりますから」

 

 《Aナンバー》のままとなったティムスはポピラ以外に新しくメンバーを集めて新騎士団を結成した。《組合》にも属した新設の技術士ギルドでもある。

 

「私、もう予約したんですよ」

「まじかよそれ」

「ユーマなら俺達の分確保してくれるんじゃねぇのか?」

 

 試験の結果が発表されて一段落する休日の今日。この日を狙ってティムス達は新製品を販売することにした。

 

 

「ウインディさんもポピラさんに連れていかれましたし、私達も手伝いに行きましょう」

 

 

 

 

 《皇帝竜事件》から1週間。

 

 幻創獣は《エルドカンパニー》によって新しく生まれ変わることになる。

 

 +++

 

 

「お待たせしました。《エルドカンパニー》は本日より開店。新商品、《PCリング》の説明会を今から始めます」

 

 

 屋外演習場前の広場。

 

 未だ《ユーマの砂場》であるここで《エルドカンパニー》の社員が多くの人が注目する中で新製品のイベントをはじめた。

 

「予約券をお持ちの方は先にリングをお渡しします。実際に操作しながら説明をお聞きください」

「対戦モードを使用したイベントは午後3時からです。今日手に入れることができなかった人にも体験コーナーを用意してます。参加希望者は説明会のあとで申し込み下さい」

 

「ちょっと待て。このあと俺達4人でこの人数を捌くのかよ? ユーマはどうした!」

 

 

「とりあえず盛況だな」

「はい。……よかったです」

 

 ティムスに連れられてイベントの様子を覗きに来たルックス。

 

「遺跡の技術をふんだんに使った《PCリング》。破格の値段だぞあれは」

「でも調整や機能の拡張は僕らにしかできませんから採算はとれますよ」

「まあな」

 

 

 PCリングは《竜殺し》の準備と並行して開発を進めていた、再設計の新しい幻創獣の腕輪だ。幻創獣の性能を大幅に落として遺跡の技術を前面に押し出した、愛玩用にしては多機能なアイテムである。

 

 ユーマはPCリングを《ウインドウ》を使った電子手帳、携帯端末と評した。仮想ディスプレイを利用したスケジュール帳やメモ帳、辞書の機能に加えてアラームのお知らせ機能で幻創獣が飛び出してくる。

 

 手のひらサイズの幻創獣は芸術科の生徒が商業用にデザインしたものだ。《録音》することで歌ったりもでき、もちろん思考操作は可能で専用のフィールドを使うことで大きくなって対戦できるのが売り込みのひとつ。カスタマイズ機能付きだ。

 

 ティムス達はPCリングのアップデートをサービスで、幻創獣のデザインと対戦用オプションなどを今後も追加して販売するつもりだった。

 

 

「個人用の通信装置になったのが一番大きいですね。ユーマさんが幻創獣ではなく遺跡の技術そのものに注目してなかったら思いつきませんでしたよ」

「ケータイ機能というんだとさ。あれを使えるように学園中に《アンテナ》とかいう装置創ったりして《組合》の一大事業になったぞ」

「いずれ学園都市全体に普及させるつもりですからね。貸し出し用の幻創獣も好評みたいです」

「イース達が実際に使って見せるんだ。実用性はわかってもらえる」

 

 竜騎士団から回収した腕輪も初期化して警備用や工事で使えるような作業用幻創獣を創った。

 

 高所作業の足場や重機の代わりになるそれは《組合》などに貸し出すことにしている。操作に慣れない内は術者も派遣するようにもした。

 

 

 《エルドカンパニー》は幻創獣と遺跡の技術を独占せずに一般化して有効活用するために立ちあげた会社なのだ。

 

 

「ルックス、よくやった。これは幻創獣の実用化を進めてきたお前の成果だ」

「ティムスさん?」

 

 ティムスは初めてルックスを褒めた。

 

「PCリングの開発もだが悪用を防ぐ為に自警部と相談して取り締まりの規則を作り、《幻獣使い》の資格制度を提案したこと。そしてこのイベントの成功もお前が技術士として為したことだ」

 

 途中から手伝いはしたが《竜殺し》の準備段階から1人で作業を続けてきたルックス。この少年の実力を知っているからこそティムスは同じ技術士として教えなければいけないことがあった。

 

「技術士はモノを創ったら終わりではいけない。正しく使ってくれる人を選び、もしくは正しい使い方を伝えなければいけないんだ。お前が間違ったのはここだ。わかるな?」

「はい。……幻創獣はもう人を傷つける竜にはならない。今度こそみんなが正しく使ってくれる」

 

 ルックスは兄の事を含めて責任を果たした。これもユーマと隣にいる彼のおかげだ。

 

 自分のできることは全て成し遂げた。だからルックスは頭を下げる。

 

「ティムスさん。今までありがとうございました。幻創獣のことをこれからもお願いします」

「はぁ? 何を言ってやがる。俺は管理の為に名前を貸しているだけだ。これからもお前が『ここ』で幻創獣の面倒をみるんだよ」

 

 馬鹿が、途中で投げ出すなよ、とティムスは言う。

 

「ええっ!? でも僕はまだ中等部で……」

「進学だよ進学。俺の持つエースの権限でお前は飛び級。今度から高等部の1年でカンパニーの幻創獣課課長だ」

 

 初めてエースの肩書きが役に立ったと邪悪に笑う天才少年。

 

「社長の俺は自分の研究に忙しいんだ」

「それは関係ないんじゃ」

「黙れ」

 

 ちなみにカンパニーの人員構成は以下の通り。

 

 

 社長:ティムス・エルド

 

 秘書兼取締役:ポピラ・エルド

 

 幻創獣課課長:ルックス・グナント

 

 幻創獣課社員:イース他3名 

 

 契約社員?:ユーマ・ミツルギ

 

 

 《皇帝竜事件》のあとイース達4人は技術士を目指して転科届をだした。今は《幻獣使い》の資格取得者として幻創獣の指導員と派遣の仕事をしている。

 

 ユーマは気まぐれで時々手伝いに来る。何故か課長より偉い。

 

「4人組を部下にくれてやるからさっさと一人前の技術士にしやがれ」

「そんな」

 

 幻創獣だけでなく見習い技術士の面倒まで押し付けられた。流石にルックスは困る。

 

「お前の兄貴が帰ってくるまでの面倒は俺が見ることになったんだよ。いいからお前もイベントを手伝え。忙しくなるぞ」

「は、はい!」

 

 

 《竜使い》は皇帝竜を失い、今は療養のために学園都市を離れている。

 

 ルックスは兄の復帰を願いながら天才少年の下であたらしい学園生活を送ることになった。

 

 

「売り子が欲しいな……おい、女装しろ」

「絶対に嫌です!!」

 

 +++

 

 

 エルドカンパニーの開店イベントが盛り上がってきたその頃。忙しくなるのはわかっていたユーマはサボってのんびりしていた。

 

 

『めーるー、ですよー』

 

 

 昼寝でもしようかと思ったところで全身ピンク色の風葉? が飛び出てメールの受信を知らせてくれた。

 

「お。ティムスからだ。えーと『いそがしいからはやくきやがれ』か」

 

 ユーマはPCリングの仮想ディスプレイをスムーズに操作してメールの内容を確認。この世界でユーマほどリングの機能を使いこなせる人はいないはずだ。

 

 PCリングの幻創獣は『おともだち機能』が備わっておりアイテム交換を利用したメールが使える。

 

 操作は簡単。思考操作を応用した代筆機能で文章を作成して『おともだちにおくる』を選ぶだけ。

 

「……うん。対戦イベントがはじまるまでサボろう」

「ひどいですねー」

 

 今度は定位置の肩にしがみついた緑色の風葉が喋る。

 

「なんだ? 1号」

「やめてくださいー。なんですかそれー」

 

 ピンクの風葉はユーマがPCリング用に創った非売品の幻創獣だ。力の2号と彼は呼ぶ。

 

「そっくりにできてるだろ?」

「そうですかー? わたしはもっとぷりちーですよー」

 

 不満をぶつける風の精霊。

 

「そうかな?」

「これは肖像権の侵害なんですよー」

「どこで覚えたんだよそれ?」

 

 訴えますよー、と文句を言い続ける風葉を宥めているとPCリングから着信音が鳴る。

 

『……ユーマ! 今どこにいるのよ!』

「うわっ」

 

 通話機能をオンにすると、ピンクの風葉がエイリークの声で怒鳴る。

 

『アイリィやミサが手伝いに来てくれたけどリングの詳しい説明は兄妹とルックスしかできないのよ。早く来なさい!』

 

 それからプンプン怒って幻創獣は姿を消した。

 

「この幻創獣を経由しないと機能が使えない仕様はどうにもならなかったんだよなぁ」

 

 元々待ち受けキャラクターのつもりだった幻創獣。PCリングは幻創獣の腕輪をベースに創ったものなので遺跡の技術だけを利用することがうまくできなかった。

 

 これに関して通話機能への弊害は顕著であり、もしこれがアギやリュガの声でピンクの風葉が喋るのならば違和感どころではなく気持ち悪い。

 

「一般のデザインを動物のマスコットを中心にしてよかったな。2号はポピラにでもあげて俺のは創りなおすか」

 

 ティムスの声で風葉が喋ったらポピラは幻滅するかもしれない。そんな事を考えながらユーマは賑わうイベント会場へ向かう。

 

「おそい!!」

 

 

 案の定《旋風剣》で吹き飛ばされた。

 

 +++

 

 

 遅れてきたユーマは罰でこき使われた。アドバイザー役の技術士3人を手伝いながら右往左往する。

 

「すいません。自警部の応援、増員を頼みたいんですけど……」

「俺は忙しいんだ。勝手に連れて行け」

 

 書類に埋もれたブソウ(正気)に連絡をとってお客の誘導員や警備員を確保。

 

 

「大型の工具と一体化したこのボディ! 解体や運搬、各種工事に応じて創られたゴーレム達です」

「他にも農業や漁業、清掃用の幻創獣も用意しています」

「高所作業にはこの浮遊型。乗り心地は実際にお試しください」

 

 イース達と共に貸し出し用の幻創獣を実際に操作して業者(組合に所属して工事やサービス業を営む生徒)に売り込む。

 

 

「次の販売はいつなんですか? もう売り切れちゃったじゃない!」

「すいません。リングの材料が不足しているんです。補充次第すぐに工場『が』千も二千も《複製》して出荷致します」

「おい」

 

 《複製》を使える社長兼生産工場のティムスをげんなりさせながら苦情を処理。

 

 

 目玉である対戦モードを使ったデモンストレーションの司会も務めた。

 

「いくわよ、アイリィ!」

「私、操作系の術式も得意なんです。負けませんよ」

 

 簡単なレクチャーのあと知名度と人気が高い《旋風の剣士》と《銀の氷姫》をゲストに行った幻創獣対決。

 

 エイリークの猫騎士が自分と同じ鋭い剣技を披露すれば、アイリーンのブロックマンは体を分解してオールレンジ攻撃を仕掛ける。

 

 今日一番の歓声。名勝負となった。

 

 +++ 

 

 

「本日のイベントはこれで終了といたします。PCリングの再販は後日報道部を通して連絡します」

「お集まりになったみなさん。今日は本当にありがとうございました。今後も《エルドカンパニー》をよろしくお願いします」

 

 サボったツケを支払ってもお釣りがくるくらいに働いたユーマ。こうしてPCリングの販売イベントは大成功に終わった。

 

 ティムス達はPCリングを今月までに学園中に普及させ利用データを集めることにしている。不具合の発見と改良を繰り返して世界対応の『完全版』を完成させる為だ。

 

 学園の生徒にはモニター役として破格の値段で販売した。いつか世界中にPCリングを大々的に売り出す一大事業なのだ。まずは学園都市全域で通信機能が使えるようすることが目標だった。

 

 

 

 

 ルックスが創りだした幻創獣。遺跡の技術を独占することを望まなかった少年の発明は今日からゆっくりと世界へ向かって広がっていく。

 

 

 竜という名の兵器としてではなく人々の日常を支える小さなパートナーとして。

 

 +++

 

 

 はるか先の未来の話。

 

 数十年後、世界に広がった幻創獣を軍事利用しようとする国が次々と現れることになる。

 

 その後のルックスは師の教えを守って幻創獣の行く末を見守り、技術士の使命と責任をもって戦い続けることとなる。

 

 彼の弟子と彼に見出された《幻獣使い》達と共に。

 

 

 そしてかの偉大な技術士の隣には彼を守護する黒竜の使い手がいたという説がある。

 

 

 

 

 でもそれは不確定な未来の話。

 

 +++

 

ここまで読んでくださりありがとうございます。


 次回の更新で第2章は完結。ユーマとエイリークの反省会(予定)です。


 そのあとは日常編をお送りして第3章へ。章管理もしてみようと思います。

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