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幻創の楽園  作者: 士宇一
第2章 後編
55/195

2-14a 宣戦布告 前

話が長くなったのでまた前後編……


アギの試験終了、そのあとまでの話

 

 +++

 

 

「見つけたぞミツルギ! ……何をやっている?」

「なべ」

 

 

 試験6日目の夜。

 

 最終日目前までとうとうユーマを掴まえることができなかったブソウ。

 

 押し付けられた捕縛者の対応に忙殺されて鬱憤が溜まり、今日こそはと押しかけてきたルックスの研究室では何故か宴会が行われていた。

 

「イース達は外に出られないから携帯食ばかりだし、そろそろ美味い物でも食いたいだろうなーと思って」

 

 ユーマは鍋の中にあるネギをよけて肉を椀に盛る。

 

「作戦成功の前祝いだよ。ブソウ君も食べる? こっち来なよ」

「何故お前もいる?」

 

 研究室にいたのはユーマと4人組、そして報道部部長の6人。イース達は久しぶりの肉にむしゃぶりつき、ここにはいないティムス達技術士の3人は一足先に作戦の最終調整をおこなっていた。

 

「ほらほら。これボクが作ったんだよ。いいから食べて」

「……うまいな」

「でしょう。さすがボク」

 

 鍋は鳥鍋だった。何の鳥なのかは誰も知らない。

 

(そうです部長さん。まずは料理のできる女の子をアピール。そしてかいがいしくお世話するのは作戦パターン幼馴染B、王道です)

 

 彼女の協力者たるユーマは作戦通りです部長さん、と正体不明の念を送る。ちなみに鍋を用意したのはユーマとティムス。

 

 ユーマが具材の下ごしらえと出汁を準備、さらには姉直伝のごまだれとぽん酢(柑橘類の果汁と醤油、あとうまみを出汁用の乾物でとり再現)を作り、ティムスが大きな鍋を《練金》して創る。加熱調理器の代用は研究室にあるバーナーを改造した。

 

 部長は具材を鍋に放りこんだだけ。

 

「ほらほらもっと食べて。ブソウ君最近忙しかったでしょ。栄養摂ってる? 野菜もしっかり食べてね」

「ああ。すまん」

 

 椀によく煮えた具材をよそう部長。とてもうれしそうにブソウの世話をする。

 

 案外尽くす人だな。そう思いながらユーマはよしよしと内心ほくそ笑んだ。

 

「どうしたミツルギ」

「いいえ。ほら、最後は雑炊しますよ。それとも麺にしますか?」

「……麺だな」

 

 

 今までブソウから逃げ回っていたユーマが今日になって見つかり、鍋なんかしていたのは彼の作戦通りだ。

 

 それは部長2人の仲を進展させる作戦か、それともユーマに対する憤りを紛らすために仕組んだことなのか、それはユーマしか知らない。

 

 

 

 

「ブ、ブソウ君ジュース飲む?」

(部長さん、間接キス作戦は早すぎます。ああっ! しかもブソウさん気にしてねぇ)

 

 +++

 

 

 鍋に残った鶏?がらスープの煮込み拉麺まで堪能して一息ついたそのあと。

 

 

 機嫌を良くしたブソウは今までのことを水に流してユーマと話をした。本当に人の良い苦労人である。

 

「今日までに自警部に捕まった生徒は235人。その内竜騎士団は74人いた。全員普通科の生徒だ」

 

 幻創獣の腕輪を持たない生徒たちだった。手柄欲しさにユーマの周辺を監視していたらしい。

 

「200人以上? おかしいな」

 

 ユーマは首をかしげる。100人以上は捕まえた覚えはあったが200人以上とは思わなかった。

 

 警戒態勢を敷いた上でそれは忙しかっただろうとユーマは少し反省。

 

「どうした?」

「いえ。……それって下っ端の独断だったんでしょ? 竜騎士団の統率ってずいぶん杜撰みたいですね」

「200人の規模だからな。騎士団のなかでも派閥を作っているようだから一枚岩ではないのだろう」

 

 捕まえた竜騎士団の中には『腕輪持ち』がいなかった。それはもしかすると腕輪の生産が間に合っていないということなのかもしれない。

 

「腕輪はひとつも回収できなかったな。竜騎士団は最低でも幻創獣を80体は保有することになる」

「まずは《皇帝竜》です。頭を潰せばなんとでもなりますよ」

 

 《グナント竜騎士団》と正面からぶつかれば被害は必ず大きくなる。それはなるべく避けたいとブソウは思う。

 

 作戦ではまずユーマが《竜使い》と1対1で決着をつけることになっている。それで終わればよいと彼は思うが。

 

「『舞台』のほうはどうなった?」

「それも今日話がつきました。部長さんのおかげです」

「ボクはおばーちゃんにアポとっただけだよ」

 

 謙遜する部長。珍しいことかもしれない。

 

「またまた。極秘で学園長と話ができる機会を設けてくれるのはすごいことですよ」

「学園長だと?」

 

 それを聞いてブソウはまた顔を顰める。大事おおごとになってる気がした。

 

 今回ユーマのとばっちりで割に合わないのは間違いなく自警部部長の彼だ。不安になる。

 

「準備は内緒でしてきたけど流石に学園側に話はつけておかないと。本番で先生達に横やりが入るのはよくないから」

「……教員も巻き込む気だったのか」

 

 呆れた。

 

「だから学園長に直接許可をもらってきたんです。これまでのこと全部話してきました」

 

 

 ユーマが学園長に頼んだことは2つ。

 

 まず《竜使い》との決戦の『舞台』。彼に勝負を受けさせ逃げられない状況を作るのに必要だった。

 

 そしてイース達を含めた捕まえた竜騎士団について。停学以上の重い処分は事情聴取の上で幹部クラスの生徒だけにしてほしいとユーマは学園長に直接頼んできた。

 

「どっちも約束してきました。だから問題がなければ竜騎士団にいた普通科の生徒は釈放して下さい。それとイース」

「なんだ」

 

 なんとはなしに2人の会話を聞いていたイース達4人。

 

「4人の処分だけど明日の作戦がうまくいったら処分なし。再試験の許可ももらってきたよ」

「本当か!?」

 

 驚く4人。本来停学処分でおかしくない上に潜伏中の2週間以上を無断欠席しているのだ。

 

「作戦の事は学園長が学生ギルドに依頼したということにしてくれたんだ。公式依頼なら公欠扱いになるしね。俺達に協力してくれたから前に襲った件もチャラ。よかったね」

「いいのか?」

「もちろん」

 

 イースにアルス、それとサンスー兄弟。彼ら4人には世話になったとユーマは思う。

 

 2週間以上寝食を共にして幻創獣の訓練に付き合ってくれたのだ。彼らのことは仲間だと思い、ユーマは4人に礼をしたかった。

 

「……ありがとな。明日の作戦中、俺達も近くで待機する。何が起こるかわからないからな」

「ああ。俺達の幻創獣も強化された。役にたてるはずだ」

「この恩は返すぞ弟よ」

「そうだな兄者」

 

 イース達も仲間として最後まで協力する決意をユーマに伝えた。

 

「……わかった。明日も頼む。打倒《竜使い》! 勝つぞ!!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

 ユーマが突き出した拳に4人は自分の拳をぶつける。それで宴会の最後を締めたのだった。

 

 

 

 

「ブソウ君。これ領収書。お鍋の材料費、自警部で切っといたから」

「おい」

「……」

 

 

 ――部長さん、それ減点です

 

 

 横目でそれを見たユーマ。

 

 彼女の今日の好感度ポイントはこれで差し引きゼロだな、と密かに溜息をついた。

 

 

 +++

宣戦布告

 +++

 

 

 学園長に作戦の事を頼みはしたが、それを無条件で了解してくれるほど学園長という人は甘くない。

 

 

「条件をつけましょう。いきなり《Aナンバー》に『挑戦』することはできませんので」

 

 

 ――エースと戦うにふさわしい実力を学園にみせてください

 

 

 そう言った学園長は1つ条件を挙げてユーマの頼みを承諾し、彼の為の『舞台』を試験最終日である次の日に緊急で用意してくれた。

 

 元々《Aナンバー》の選定直前に自分の存在をアピールして《竜使い》をおびき出そうとしていたユーマ。予定は早まったが条件に対して学園長の用意してくれた『舞台』は悪くなかった。

 

 問題になったのはユーマの実力をみせるのにふさわしい対戦相手。昇級試験中なので手の空いた実力者がいない。

 

 そもそもユーマ個人の能力ならばエイリークのようなランクBからAの生徒で十分だったが《精霊使い》としての彼ならば相手になれるのがそれこそ《Aナンバー》級の生徒しかいない。

 

 ブソウやリアトリスが相手をしてもよかったが試験中の今にエースといきなり模擬戦をするのはいくらなんでも不自然すぎた。

 

 ユーマは皆に相談した。そして助言してくれたのはブソウ。

 

「アギはどうだ」

「アギ?」

「あいつは防御……いや『守る』ことに特化したタイプだ。お前の力をみせるだけならランクAを束にして相手するよりもずっといいはずだ」

 

 ブソウは以前自分を訪ねてきたアギにユーマの事を話そうとした。

 

 2人を戦わせる。それは彼がその時から思っていたことだ。

 

「ブソウ君が目をかけてる後輩だよね? そう言ってミツルギ君と彼の実力をいっぺんに測りたいだけでしょう?」

 

 報道部部長はそう言ってブソウを茶化すが彼は無言でそれを肯定。

 

「あれ、本気?」

「ああ。あいつは能力に癖があるから評価されにくい。奴の試験官をしてみないか? 丁度あいつの試験日は最終日の明日だ。ミツルギが相手ならばアギも実力が発揮できるだろう。どうだ?」

「……アギ、か」

 

 ユーマは今更アギを巻き込むことに気が乗らなかったが、代案がなかったので試験官を急遽引き受けることにした。

 

 

 こうして試験最終日、作戦決行の直前でユーマはアギと試合をすることになった。

 

 2人の初対戦はユーマが降参、アギの勝利で終わったが《精霊使い》そして《盾》の実力は全校生徒の知るところとなる。

 

 

 もちろん《Aナンバー》の1人である彼にも。

 

 +++

 

 

 アギの試験終了後。

 

 練武館の控室ですべてをアギに話し、1人になったユーマ。

 

「やっぱり気まずかったな。光輝さんは何回こんな気持ちを味わったんだろう?」

 

 疲れた体と頭でぼんやりと考えるのは兄のこと。

 

 彼は独断専行する傾向が強く、事が済むといつも相棒のもう1人の兄や姉にとっちめられていた。

 

(わたし言いましたよー。お兄さんじゃありませんーって)

 

 ユーマの呟きに応えたのは風葉。風の精霊は魔力が回復しきれなくて姿をあらわさず、短剣の『おうち』から《交信》で話しかける。

 

「……なんかあとが怖くなってきた。これからはちゃんとみんなと話をしよう」

(そうですねー)

 

 

 あと3時間。仮眠でも取ろうと思ったその時、控室のドアが開いた。

 

 入ってきたのは金髪の少年。

 

「貴様、何をする気だ」

「……昼寝」

 

 ユウイ・グナント。《竜使い》の彼が取り巻きを連れてユーマのところへ乗り込んできた。

 

「ふざけるな! やっぱり裏でこそこそと仕掛けていたのは貴様だな。ボクに何をする気だ!」

 

 声を荒げて非難するグナントに対し、男のヒステリーてカッコ悪いなぁ、と思うだけのユーマ。

 

「アンタを潰す気でいた。……やっぱり馬鹿だろ?」

 

 ユーマはガンプレートを抜いた。《竜使い》に狙いを定める。

 

「姿を見せた途端に直接乗り込んできやがって。こんな狭い所に人数ばかり集めて何する気だ? 自慢の怪獣がここで喚べるのか?」

 

 精霊たちが姿を見せる。アギとの試合を見たのだろう。取り巻きたちが怯んだのがわかった。

 

「切る焼く蒸す煮る。調理法は要望に応えてやる。文句があるなら退け。フルコースはあとで準備して招待してやる」

「くっ、……覚えておけ。消耗した今のお前なんてボクの竜がいつでも倒せることを」

 

 《竜使い》はあっさりと退いた。後で何かを仕掛けるような言葉を残して。

 

 捨て台詞にユーマは呟く。

 

「今の俺なら……ね。 さて、どっちが仕掛けるのが早いかな?」

「何のことかしら?」

 

 今度こそ寝ようとしたユーマにまた声がかかる。見れば険のある目つきになった金の髪の少女が1人。

 

「……怒ってますか?」

 

 彼女たちの試験対策をコーチする約束を途中で放棄したのはユーマだ。やっぱり気まずい。

 

「言い訳次第ね」

 

 

 アイリーンとリュガを連れたエイリークが目の前で仁王立ちしていた。

 

 +++

 

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