2-06b 盾の少年 後
第2章前半のラスト
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《幻想の盾》
無属性武装術式。それがアギの《盾》の正体。
不可視・無形のこの盾はゲンソウ術における基本的な防御手段である。どの盾よりも軽量で、どの術式よりも最速の発動速度を持つことが最大の特徴。
しかし術者のイメージが防御性能にダイレクトに反映される為、中途半端なイメージでは紙にも等しい盾にもなるので扱いづらい。
ないよりまし、緊急手段といった感じの術式である。
《幻想の盾》は弱い術式というわけではない。どの術式も結局は扱い方次第であり、ゲンソウ術の強さは基本工程の『幻想』、つまりはイメージの強さで決まってしまうのだから。
アギは盾を使いこなす。アギの《盾》は決して絶対防御の盾ではない。彼は複数の盾を以て《盾》を構成している。
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ユーマの持つガンプレート・レプリカはカートリッジを換装することで様々な魔法弾を再現することができる。
複数の属性を扱うユーマ。対してアギはその多様な攻撃の1つ1つに瞬時に応じて《盾》を選ぶ。
「燃えろ!」
薙ぎ払うような火炎放射には泥壁をイメージした横長い耐熱仕様の《盾》を展開して防ぎ、
「アイス・エッジ」
飛来する複数の氷の刃は凍結攻撃ではなく鋭さを活かした斬撃攻撃だと見切り、硬度を重視した大型の《盾》で受け止めて砕く。
「このおっ!」
近接戦を仕掛けるユーマ。ガンプレートは光る刃を放出している。
アギはガンプレートの刃から火花が散るのを見て、《盾》から金属のイメージを除外。小さな《盾》を両手に構えてユーマの《プラズマ・カッター》を受け流し、捌く。
「少しは剣の訓練しろよな。振り回すだけじゃ折角の武器も宝の持ち腐れだぜ」
「うるさい、よっと」
有効打を与えられないユーマは《風弾》で牽制しながら後退。もちろんアギは防ぐ。
「砂更!」
今度は砂の精霊を使役してアギの周囲に8本の《砂の腕》を出現させる。
戦闘ステージは今、砂の精霊の支配下にある。砂更に地形をコントロールさせ、その力を発揮させるためにユーマは序盤に戦闘ステージを《白砂の腕輪》の力で砂地に変えていた。
砂の腕はアギの足元を狙って掴みかかろうとするが、それは巧妙な足捌きと小刻みに動き回ることで躱されている。
「それなら合体パンチだ!」
ユーマの号令で砂の腕が1つになる。
巨大な砂の拳。サイズはアギを潰すのに十分どころではない。指1つだけでも人間1人分の大きさだ。それを容赦なくアギに向けて叩きつけた。
殴ると同時に崩れる巨大な砂の拳。その一撃を見て観戦席から悲鳴が上がる。
一撃を受け止めたとしても砂の質量に押し潰されて埋まってしまったと誰もが思ったが。
「ぐっ、重ぇよ」
アギは耐えた。《盾》の形状を半球状にして全身を覆うように身を守り、砂の圧力を上手く逃がしてみせる。
「てめぇ本当に容赦しねーな……って、げっ!」
ユーマは本当に容赦しない。砂更の次は風の精霊。
「風葉!」
「ぐるぐるぐるぐるー」
風属性局地範囲攻撃術式、《竜巻》。
「どかーん」
身体が半ば埋まった状態のアギはさすがに防ぐことができずに竜巻にのまれて吹き上げられる。
「うおぉぉーーっ! ーーーーっと」
地面に向けて真っ逆さまのアギだったがすんなりと着地。
「ふぅ、あぶねぇ」
「……あれ?」
静寂。ユーマの常識外れの猛攻を目にして沈黙する観戦席と砂がクッションになって助かったと安堵するアギ。
そして首を傾げるユーマ。
「どうして?」
「お前、俺達がこれまで何回吹き飛ばされたと思ってんだよ」
『彼女』に関わるといつも旋風剣に巻き込まれる。最近のアギは、その打たれ強さに気付かれて剣の相手に付き合わされていた。
あの姫さんは俺の事を動くカカシと考えてるに違いない、アギはそう思う。
「……自慢にもならねぇがこのくらいなんともねぇよ!!」
アギは決して涙は流していない……はず。
「……そうだね」
吹き飛ぶのには慣れた自覚があるユーマ。
「慣れってー、こわいですねー」
「「……」」
風葉のセリフは2人を虚しくさせた。
「何よ」
ユーマとアギの会話が聞こえずとも、《直感》持ちのエイリークがこの一瞬の沈黙に不機嫌になったことを2人は知らない。
「それにな、お前の本命はわかってたさ。落とし穴は効かねえ」
「……ちぇ」
ユーマの本当の狙いはアギの着地と同時に砂地に沈めて埋めてしまうこと。
攻撃を完璧に読んだアギは足元にだだっ広い《盾》を展開して《蟻地獄》の仕掛けを塞いだ。
アギは複数の盾のイメージを持つ。
サイズ、形状、質量、耐性とあらゆる盾の特徴とその運用を研究して使いこなしているのだ。
その《盾》は決して万能ではない。選んだ盾の選択を間違えれば一撃で破られてしまうかもしれないのだから。
アギの《盾》は砕けないのではなくて盾を扱う技術で砕かせない。
ユーマの攻撃をことごとく防ぐアギの技量と経験。これまで積んだ彼の修練は計り知れない。
制限時間が半分を切る。
このままでは時間切れの前に精霊たちが消耗し尽くしてしまう。そう判断したユーマは焦りを覚えた。
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ユーマは盾というものを考える。アギの弱点を探していた。
盾とは矢などの飛び道具を防ぎながら近接戦に持ち込む為の防具であり、その近接戦では身体の半身を覆い相手の攻撃範囲を制限させる壁である。
盾に種類があるのもユーマは知っている。
盾は手に持つ防具タイプ以外にも敵の侵攻を防ぐ設置型の盾や攻撃に特化したスパイクのあるもの、鬼の面のような威嚇を目的としたものもある。
手持ち式でも素材やサイズで性能に一長一短があって皮や木のような『やわらかい』盾は刃を食い込ませて受け止めることが目的であるし、曲面を持つ盾は刃を受け流すのに適している。
小型の盾は体当たりや殴るなどの格闘戦に使えるが防御範囲が狭く、遠距離からの射撃や足元への攻撃に弱い。逆に大型の盾ならば至近距離では取り回しが悪くて邪魔になり、鋼鉄など重量のある盾は機動力に影響する。
アギの《盾》にはそれらの特徴がない。正確には用途に応じて盾が変化するのでユーマにはわからないのだ。
不可視の盾はサイズと形状を判別することが難しく、また視界を遮らない。
また、盾の変更と展開は自由自在でアギの動きに制限をかけない。だから面でしか防ぐことができない盾でも体術を駆使することであらゆる方向にも対応できる。さらに属性攻撃も防いでいる。
ユーマは考える。
(見えないから《盾》の特徴がわからなくて弱点が突けない。わかったのはアギは右手と左手の2つ、2面分しか《盾》で防ぐことができないことだけ。そうなると……)
《高速移動》で撹乱しても防御の隙を突けないのだから広範囲攻撃による力押ししか思いつかないが、精霊たちの様子からみて大技はあと1回ずつだけ。
「もう1つ手があった。試してみるか」
ユーマはアギの目の前に砂の壁を出現させると突撃。距離を詰める。
砂の壁で視界を塞いで《高速移動》で撹乱。このパターンは何か仕掛けがあるのかアギには通用しない。
「ネタ切れか? 無駄だぜ」
周囲を警戒するアギ。
ユーマだってわかっている。だからこそ一発限りの『仕掛け』になる。ユーマは突撃する。
アギの真っ正面。砂の壁を突き破った。
「――!?」
至近距離から銃口を突き付けられたアギ。咄嗟に右手を突き出す。
「閃光弾!」
ガンプレートから激しい光が弾ける。不可視の盾は視界を遮らずにアギの目を灼いた。
ユーマは被っている砂除けのゴーグルに付与された《遮光》の効果で閃光弾の影響を受けない。
「もらったぁ!!」
ユーマはガンプレートのカートリッジをスタンガンモードに換装。アギに電撃を叩きこむ。
だが。
「……甘ぇよ」
アギはユーマのガンプレートを掌の《盾》で受けとめた。
「えっ!?」
「甘いってんだよ!!」
右腕を打ち払われ体勢を崩すユーマ。アギはユーマが前に倒れ込む勢いにあわせてユーマの腹に膝を打ち込む。そして次の回し蹴りで吹っ飛ばした。
「あー目がイテェ。……油断したか? 体術がなってねぇぞ。そんなんじゃ氷の姫さんとどっこいだな」
「……どうして?」
涙を流しながら目を擦るアギ。ユーマは倒れたまま茫然とした。
「見えてなかったのはずなのに……」
「《気》の流れを読むってやつさ。ウロンのじーさんの授業、人気ないけどあれは大穴だぜ」
ウロン老師は学園最古の教師。《仙人》ともいわれる武術家だが、普段はミイラの置物と勘違いされるような御老体。
魔力ともゲンソウ術とも違う力の存在、《気》というものを後世に伝える数少ない使い手である。
「……ああ。あのおじいちゃん先生か。アギは選択取ってたんだね」
「まあな。最初は胡散臭かったし、今だってよくわかんねぇけど『見えないもの』がわかるのはいろいろと役に立つぜ」
それだけではなかった。アギの体術は老師が扱う型がベースになっている。
《気》の流れを読む技術と老師から学んだ体術。それはアギの《盾》を有効に活用させ、防御範囲の拡大に一役買っている。
ユーマが不意を突くことができた今回唯一のチャンス。それもアギは見事に防いだ。
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「さて。ぼんやりだが目も見えてきたことだし、そろそろいいか。……おいユーマ。お前何を考えてる?」
アギの質問にユーマは戸惑う。
「なんで?」
「らしくねぇんだよ。お前は精霊の力を見せびらかすような真似はしないはずだ。それを必要としない限りはな」
「アギ」
「ブソウさんから少しだけ話を聞いた。詳しくは聞かなかったが、お前が《Aナンバー》、もしくは生徒会関連のいざこざに巻き込まれたくらいは知ってる。姿を隠していたのはそのためだな?」
「……」
ユーマは沈黙で答えた。構わずにアギは話す。
「そして今になってお前は姿を現してここで存分に力を使ってやがる。何かやる気だな? そしてそのためにお前は……」
1度口を閉ざすアギ。推測が正しければユーマは……
「俺を利用した」
「――っ!! アギ!」
動揺するユーマ。気付かれたくなかったことを知られて顔が歪む。
「ごめん」
「謝らなくていい。必要だったんだろ? わけわかんねーけどな」
アギは笑って許した。自分をダシにしたことは怒りを感じていない。
だけど。
「ただな、俺達を信じられなかったか? いくら試験期間中だったからってお前の力になれなかったわけはないんだぜ」
ユーマは答えない。
「ユーマ?」
「……知らなかったんだ」
擦れた声でユーマは喋る。
「この学園のこと。生徒会のこと。Aナンバーのこと。……それに俺のことを」
「何があった?」
ユーマは詳しい事情を話さなかった。肝心のところだけ簡潔に答える。
「狙われたのは俺だけじゃなかった。アギも覚えがない? 最近襲われたことあるでしょ。……あいつら俺の友達まで狙ってた。そしてティムスは……」
「本当か!?」
そういえば妹の方はよく見かけたが、あの天才少年を最近見ていないことにアギは気付く。
「今は大丈夫。でもあの時、アラム先生が遅かったならティムスは学園にいられなくなったかも知れない」
「……ちくしょうが」
ブソウに詳しい話を聞かなかったことをアギは後悔した。
そしてユーマも。
「俺のせいで皆が巻き込まれるのは嫌なんだ。でも犯人を見つけて殴って埋めるだけじゃ解決できないことに気付いた。それでも早く決着を付けたかったんだ」
アギは怒りを抑える。
ユーマが自分のせいだと苦しんでいたのがわかったから。今までそれを知らずにいてユーマを助けることができなかったから。
でも抑えられなかった。
それはユーマが助けを求めてくれなかったから。
「だから俺……」
「もういい」
「アギ?」
「結局てめぇは俺達を信じてくれなかったわけだ」
――辛そうな顔を見せる癖に誰にも頼らなかったのか?
「違う」
「ちがわねぇ。どうしてティムスのこと黙ってた」
――ブソウさんやポピラは知ってたのにどうして教えてくれなかった?
「それは……」
「ああ、そうだったな。何か事情があったんだよな。でも俺やリュガ、姫さん達が心配していなかったと思ったのか? 1人で勝手に決めて行動しやがって」
――仲間が傷つけられたからって怖じ気づきやがって……
「俺達を巻き込んで良かったんだよ。何も知らされずに蚊帳の外に置かれた俺達の気持ちをわかりやがれ」
――きっと皆がそう思ってるはずだ!!
アギは怒る。
歯痒いのだ。自分を頼らないユーマに。
許せないのだ。仲間を傷つけた犯人に。
悔しいのだ。力になれなかった自分に。
――何の為に俺はあの力を求めた?
「もういい。お前が俺達を信じず、仲間を頼らないなら信じさせるまでだ」
アギは右手をユーマに向けて《盾》を構える。
これっきりにしたかった。力を見せつけるような真似を。誰かを倒すために《盾》を使うことを。
「本気でこい。まずは俺の力を見せてやる。……制限時間はまだあるがルールを変えるぞ。お前は一発殴る、ユーマぁ!!」
それでも見せるしかないとアギは思ったのだ。《盾》は何のためにあるのかということを。
「アギ……」
アギの叫びにユーマは黙り込んだ。そして左右に持つガンプレートと短剣を持ち替えるとイメージを《補強》するために呪文を唱える。
「集え、集え集え」
ユーマの両手の武器に風が集まる。
「集え集え集え! 風よ集いて螺旋を描け」
ユーマの周りを吹き荒れる竜巻は大量の砂を飲み込み砂嵐を生む。そしてガンプレートの銃口をアギに向けた。
「喰らえ喰らえ竜巻よ。砂を喰らいて血肉となせ! 化身するのは砂の魔獣……」
イメージするのはあの《西の大砂漠》で遭遇し、戦った魔獣の一匹。
「あの《盾》を喰らいつくせ! サンドワーム・ブラストォ!!」
砂嵐を取り込み巨大な《ストーム・ブラスト》を撃つ。
《砂塵砲》は魔獣の姿に形を変えてアギを襲う。
その魔獣はかつてユーマを丸飲みにし、ユーマとアギの2人を砂漠の果てまで追いかけた全長十数メートル、頭には巨大な口しかない蛇のできそこない。
砂漠の竜蛇。
「てめぇ、よりにもよってそいつかよ!!」
アギの天敵、トラウマの相手だった。
「この、野郎がぁぁぁぁ」
この試合を見ている誰もが巨大な魔獣に飲み込まれ、喰われようとしている少年の姿を見た。
「……何だよ、あれ」
リュガは震えた。
アギが右手ひとつで魔獣の突撃に耐えている。
「まだよ!」
エイリークは気付いた。
ユーマの攻撃がこの程度で終わらないことを。
「ぐるぐるぐるぐるもっともっとー」
砂嵐は目くらまし。使った武器はガンプレートと砂の精霊の砂更だけ。
ユーマの最後の攻撃は力のすべてを出し切った2段構えの奥義戦闘。
「ああああああ!!!」
《旋風剣・螺旋疾風突き》
ガンプレートを投げ捨て、風の精霊の魔力を残りすべて《守護の短剣》に注ぎ、ユーマは現時点で最強の一撃を放つ。
自分で生み出した魔獣の化身を尻尾から頭まで貫いてアギを狙う。
激突。
「嘘……」
アイリーンは自分が見たものが信じられない。
かつて彼女の持つ最硬の防御術式、《氷晶牢》を砕いたユーマの奥義をアギは、
左手ひとつで防いでいる。
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左手を突き出したのは咄嗟の判断だった。
砂でできた蛇モドキの圧力に必死に耐えていたアギがユーマの突撃に気付けたのは、《気》の流れが読めたというわけではない。その点はまだ未熟だったのだ。
まだ何かくる。アギはそう信じていたから左手を使わず温存することができた。ただ2撃目に気付く事ができたのは単なる勘であったけど。
アギに《盾》を選択する余地はない。だから最強の《盾》を選ぶ。
それはひとつの幻想。
幾千の刃を防ぎ
幾万の矢を弾く
(それは守るためだ)
手にすれば臆病になり
(そうだ。自分の身を守るだけじゃ駄目なんだ)
手にすれば勇気を得る
(違う。勇気を持って体を張るんだ)
アギはユーマの奥義を左の《盾》で耐えた。
唸りを上げる竜巻のドリル。でもユーマは《盾》を砕けない。
(信じろ)
アギは自分の盾を信じている。
(信じてくれ)
ユーマに自分の盾を信じてもらいたかった。
(俺の《盾》は、俺は!)
それは守るモノ
アギの《盾》は結局のところひとつだった。大きさも形状も実は関係ない。
概念での盾はただひとつ。
アギの《盾》は『守ると決めたものを傷つけさせない』という理想である。
その盾は《砂漠の王国》にいる王のかたちをしている。
アギの『幻想』は昔守ってくれた王への憧れ。アギは憧れと理想で戦う道を選び、守る戦いをはじめた馬鹿野郎である。
アギの《盾》は砕けない。
「どうして?」
「負けたくねぇんだよ」
「なんで砕けない?」
「ここで負けたらお前は信じてくれない」
「アギ?」
アギの《盾》は強い。
守るという想いはエイリークと同じようにまっすぐで、《盾》に重ねる理想の高さはアイリーンの目指すそれに劣らない。
そしてユーマが2人の兄を追いかけるようにアギもまた王の背中を追い続け、今も《盾》を鍛え続けている。
盾はアギという少年そのものだった。
アギは強い。そして今、ここでユーマに負けてしまったらこの親友はこれからも1人で戦い続けるとアギは思ってしまった。
だから。
「俺に! ダチを! 守らせやがれ!!!」
アギは守ることをやめた。
アギの《盾》はただの盾ではない。一点に集中した掌の《盾》。
盾は掌だ。その《盾》はユーマの短剣を『掴む』。
「なっ!?」
ありえないとユーマは驚く。アギは短剣を握りしめて竜巻の回転と勢いを止めようとする。
「やめろ! 手が」
「なめんな」
ユーマはアギの手を抉り、吹き飛ばすことを恐れて怯む。
それが均衡を崩した。
「馬鹿野郎が!!」
短剣を掴んだ左手でユーマを引き寄せると、アギは右の拳でユーマの顔面を全力で殴った。
竜巻が弾け、砂嵐が止む。
風葉は半透明の姿で目を回して落っこちて、砂更も同じく半透明で体の半分を砂に沈めていた。
立っているのはアギだけ。ユーマは叩きつけられ砂地に沈んだ。
「起きてんだろ? どうだ? これが俺の力だ。わかったか!」
「……ぷはっ」
砂に埋まったユーマは起き上がる。そしてアギの左手を見た。
アギにダメージはない。
「……はは、まいった」
ユーマはそれだけ言うと仰向けになってもう1度ぶっ倒れた。
アギ、完勝。
ランクCの生徒が1対1の対戦でランクAを相手に勝つことは、学園では数十年ぶりの快挙だった。
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「さあ、とりあえずお前の悪だくみを聞こうか」
アギはユーマを連れて控室に戻ると尋問を開始した。
ユーマは正座中。自ら座り込んだのは身体に染み付いた習慣だった。
御剣家というよりユーマの姉の説教は正座からはじまるのだ。
「……というわけです」
「この馬鹿が」
ユーマはすべて話した。今までのこと、今からやることすべてだ。
話を聞いたアギが安心したことは1つ。
それはユーマには協力者がいたこと。1人ではなかった。
「そういやエルド妹やブソウさんは知ってたもんな」
「ブソウさんにはお世話になったよ。アギの事も聞いた。焼きプリン事件とか」
「聞かんでいいわ!」
ユーマは頭を叩かれる。
そしてアギが不満に思ったことが1つ。
「俺にできることはないんだな?」
「うん。これだけは『俺達』で決着をつけたいから。そのためにいろいろ準備してきたんだ」
それはアギ達がユーマの作戦に入る余地がなかったことだ。
「でも何が起こるかわからないから」
「わかった。その時は守ってやる。頼りにしろ」
アギはそれだけ言って先に控室を出た。
「……ありがとう」
ユーマの呟きはアギに届いた。
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気にするな。そう思いながらもユーマを気の毒に思うアギ。速足で控室から離れていく。
「すまん。『今回』だけはお前を守れそうにないんだ」
アギはユーマに必ず訪れるであろう災難が怖くて逃げていた。
「そうですね」
「おわっ! びっくりしたじゃねぇか」
いつの間にかアギの隣にはポピラがいた。
「馬鹿ですね」
「お前にとってそれは挨拶か? 挨拶なんだな!? ……そのデコどうした?」
ポピラの額は赤くなっている。
「ミツルギさんと兄のことを黙っていたから共犯だと制裁を受けました。……エイリークさんのデコピンは痛いです」
「あー」
その程度でよかったじゃねぇか、とアギは言うのをやめた。睨まれそうだ。
「ユーマの奴、生きてるかな?」
「私は風葉ちゃんが無事ならかまいません」
「……」
今頃ユーマはエイリーク達による制裁を受けているはずだ。地下にある控室は出入り口を塞がれたら逃げ場がない。
アギはもうすっきりしたから参加する気はない。彼女たちを止める気はもっとない。
「リュガ1人じゃ止めるのは無理だな」
「斬殺されて氷漬け、砕かれて氷漬け、ですね」
「自業自得だから仕方ないよな」
「そうですね」
時折遠くから叫び声や壁を伝ってくる振動で建物が揺れていることがわかったが、アギは深く考えないようにした。
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ここまで読んでくださりありがとうございます。
《次回予告》
試験開始の10日前。1人の生徒に勝負を挑まれたユーマ。
彼は《竜使い》。2年生ながら9番目の《エース》だった。
《皇帝竜》の力に苦戦するユーマ。そしてユーマの前に次々と現れる《Aナンバー》たち。
次回「放課後にて 2」




