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幻創の楽園  作者: 士宇一
序章
3/195

0-01 プロローグ-再会

はじめまして。拙い文章をのんびりお送りします


 

 +++

 

 

太陽という小さな光は上にあって

 

月という大きな星が見守る中で 

 

地球と呼ばれる大地の下で

 

 

 

 

再生されたこの世界

 

 

 +++

幻創の楽園

 +++

 

 

 現在より400年ほど昔、人と魔族が争う戦乱の時代。

 

 異世界より召喚された勇者は仲間と共に元凶たる魔神を倒します。

 

 魔神を斬る《剣》の役目を終えた勇者は元の世界へと還り、残された人と魔族は共存の道を歩み始めました。

 

 

 それから400年。

 

 

 魔神が世界に与えていた魔力は長い時間を経て減衰していきます。平和を取り戻すためとはいえ魔神を滅ぼしたのだから魔法の恩恵を失うことは当然です。

 

 しかし人は新しい技術を元に生み出したあたらしい《ちから》によって魔術を再現することに成功。むしろ世界は著しく発展していきくことになります。

 

 

 

 

 再生紀1000年。

 

 ミレニアム・デイ。

 

 各国にて盛大に行われた祝福の祭典。

 

 その日、賢者と謳われる預言者が祝いの席で近い未来を占いました。

 

  

 

 

“魔神の転生”

 

“世界崩壊の危機”

 

“今一度勇者の力を”

 

“勇者を導きし者に栄光を”

 

 

 

 これが預言者の最期の言葉。

 

 預言者は塵となりました。世界を救う助言と争いの火種を残して。

  

 

 

 

 賢者の預言は絶対。事態を重く受け止めた各国の王は勇者を喚ぶ召喚の儀式を成功させるため、召喚陣の研究と同時に召喚陣のある遺跡の調査を行いました。

  

 

 《召喚》の魔術は魔力資源が潤沢だった400年前の遺産。

 

 枯渇した魔力資源と希薄した魔力。そして本物の《魔法使い》が数少ない現在では今の技術力でこの魔術を再現する必要があったのです。

 

  

 それから7年。

 

 確認されている5ヶ所の遺跡のうち東の遺跡が破壊され、北の遺跡が占領される事件が発生。

 

 東の遺跡を破壊した犯人は未だ不明ですが、北の遺跡を占領したのは北の国の1つ、《雪羅せつらの国》でした。

 

 

“勇者を導きし者に栄光を”

 

 

 野心家である当時の雪羅の王はこの預言の為に我先にと勇者を求めて遺跡の情報を独占したのです。

 

 これをきっかけに《世界を救う者》は《世界の覇権を握るモノ》と勇者の存在意義を少しずつすり替えられ、それを信じる愚かな王達が召喚陣の遺跡とその情報を奪い合う、そんな戦争が始まりました。

 

   

 3年後。

 

 再生紀1010年。

 

 世界を救う勇者を求め争う本末転倒の結果。

 

 争いが膠着状態に陥ると遺跡の調査に支障が起きてしまい召喚陣の研究が一時停止してしまいました。

 

 その後なしくずしに停戦条約が結ばれ、遺跡の情報の公開・共有化が図られることで研究が再会されます。

  

 

 再生紀1011年現在。

 

 召喚陣の完成、勇者の召喚成功の報告はありません。

 

 もしかしたら成功してもその情報を隠蔽しているのかもしれません。勇者の存在は今でも争いの核なのですから。

 

 

 

 

 ……そもそも魔神が転生するというのは本当でしょうか。

 

 勇者の力、もしくは異世界人の力は本当に必要なのでしょうか。私は疑問に思います。

 

 確かに一説では異世界から召喚された者は世界を移動する際に特殊な力を授かる場合が多く……

 

  

 

 

《エイリーク・ウインディ 春季課題――勇者召喚に関するレポートより》

   

 +++

 

  

 再生紀1011年

 

 かつての《西の大帝国》。

 

 そこは災厄の大破壊により滅びた国の跡地で《西の大砂漠》と呼ばれている。

 

 そのど真ん中にて黒髪の少年が一人。 

 

 

「ここどこ……? 助けて……沈む…………」

「しっかりしてくださいー」 

 

 

 砂に埋もれていた。

 

 

 +++

 再会

 +++

 

 

 セントラル・リーズ学園は大陸中央にある中立地帯、《学園都市》の中にある有名な伝統校である。

 

 起源は約400年前。終戦後の《聖王国》女王リーゼリット・E・ランスが設立した孤児院にある。

 

 女王自らが子供たちに教えを説いたのがはじまりであり、長い時を経て学園となった今日まで優秀な戦士・魔術士・技術士たちを世界へ送り出してきた。

 

 

 リーズ学園の卒業生といえば一種のエリート。中立地帯にある当学園は王族や一般人、魔族の区別なく入学者希望者が殺到。また、学園側もその多くを受け入れ現在では各地方に分校が設立している。

 

 当学園は《セントラル》、《中央校》とも呼ばれている。

 

 +++

 

 

 季節は桜舞う春。新学期。

 

 《中央校》の正門前で幼馴染に出会ってしまった少女が1人。

 

「……新学期早々アンタに会うなんて、やっぱり今年のアタシ最低だわ」

 

 エイリーク・ウインディ。西の国の1つ《風森かぜもりの国》の第二王女。

  

 金の髪を肩で切り揃えて1つに結び、勝気な翠の瞳で幼馴染を睨む。臙脂えんじ色の制服に身を包む、学園の高等部2年生。

 

「あら、失礼な人ね。礼儀がなってないわよ、ウインディさん」

 

 幼馴染の名はアイリーン・シルバルム。北の魔術国《銀雹ぎんひょうの国》の第一王女。

 

 白金の髪は腰まで届くロングストレートに涼しげな蒼の瞳。エイリークと同じ制服で同じく高等部の2年生。彼女はエイリークのことを正門で待っていた。

 

 2人は戦士系と魔術師系、クラス(職業)こそ違えど同じ年でいつも同じ教室といわば腐れ縁ともいう関係である。

 

 何かと張り合う2人だが、やや体育会系な思考のエイリークに比べるとアイリーンの方が口喧嘩では分がある。

 

「私は貴女が新学期早々にいろいろと失敗しないかと心配して待っていましたのに」

「失礼はアンタよ。16にもなってそんな事しないわよ」

 

 ふうっ、溜息を吐いて呟くアイリーン。

 

「……去年の夏季休暇課題のレポートを国に忘れて私のを写したのはどなた?」

「うっ」

「高等部の進学式に遅刻した揚句、中等部の校舎にいたのはどなたかしら?」

「ううっ」

「秋の学園祭でいつも……「うっ、う、うるさーい!」」

 

 割り込むように叫ぶエイリーク。睨むけどちょっと涙目。

 

 微笑むアイリーン。素敵な笑顔はキラキラと輝いている。

 

 エイリークをからかう事ができて満足顔のアイリーン。そんな2人の関係だが決して険悪な関係ではない。お互いに世話焼きなので主導権を握りたいのだ。

 

「そもそも貴女は……って、あら? 貴女、短剣はどうしたの」

「あ、それは」

 

 エイリークは普段通り左腰のソードホルダーに愛用の細剣を差している。ただ背中のホルダーにあるはずの《守護の短剣》がない。

 

 いや、それは、と言葉を濁すエイリーク。

 

「忘れ物したのね、仕様のない子。……それとも休暇中に《剣》を授けるに値する《騎士様》にでも出会えたのかしら」

 

 からかうように訊ねると、聞き耳を立てていた生徒たちが騒然と騒ぎ出す。

 

「まさか」

「《旋風の剣士》に騎士だって?」

「いやーっ、私のエイリーク様!!」

 

 

 エイリークとアイリーン。この2人は一国の姫であることを除いても学園では割と有名である。

 

 風を纏う細剣で相手を吹き飛ばす《旋風の剣士》。

 

 そして氷属性の魔術を得意とする《銀の氷姫》。

 

 彼女らの実力は学園の評価でランクB。2年生に上がるまでにランクBとは優秀な方である。

 

 彼女達は一部の成績ではランクAにも匹敵し、二つ名を持つだけあって注目度が高い。なので2人の話題は事欠かない。

 

 そして今日の騎士様疑惑はとっておきのスクープだった。いつものことだと聞き流していた生徒も何事かと集まる。

 

 2人の周りにいつのまにか人だかりができていた。そしてエイリークは、

 

「あのっ、だからそれはっ」

 

 

 パニックに陥ってそれが噂に拍車をかけてしまった。

 

 +++

 

 

 エイリークは最近ついていない。

 

 まず春季休暇中に彼女の故郷である《風森の国》が破滅寸前に陥る事件が起きた。

 

 エイリークが国に帰省したのは解決後の話ではあったが国中が何かと慌ただしくて彼女自身いろいろとあったので休暇の意味は全くなかった。

 

 すべて終わってしまった話なのだが、問題も残っていて現在の悩みの種の1つは話題に上がった《守護の短剣》にまつわることである。

 

 

 守護の短剣は風森の国の守護精霊、その一部を宿した二振りの短剣である。

 

 国宝である短剣は御守りとして国にいる2人の姫君が一振りずつ所持しているのだが、精霊と《交信》できないエイリークにとってはただの短剣にすぎない。

 

 彼女にとって短剣は大好きな姉姫とお揃いの、姉妹の絆のかたちと思うものであった。エイリークは学園でも大事にいつも身に着けていた。

 

 御守りの短剣は休暇中に起きた事件でその名の通りエイリークを守り、助けてくれた。しかし今は手元にない。

 

 理由はちょっとだけ複雑で人に『貸して』いるのだが決して『授けて』なんていない。

 

 まして《騎士様》なんていない。

 

 

 話題に上げて欲しくなかったのだ。なのに今日は一番にアイリーンに出会ってしまった。彼女は自分が短剣を大事にしていることを知っている。

 

 やっぱり今年はついていない。エイリークは思った。

 

(大騒ぎになってるじゃない。アイリィ覚えてなさいよ。なんて言おう? どうしよう。短剣は《アイツ》が持ってるけど違うわ。アイツは騎士なんかじゃない。アタシというか姉さまの……いやそれも違う! どうしようどうしよう……ああっ! 休暇中のレポート忘れた。自信作だったのに……どうしよう? またアイリィに借りるのは嫌だ。よし、ミサに借りよう。ミサはもう登校しているよね。ああ。いるといいなあ、ミサの……クッキー……)

  

 +++

 

 

「エイリィ……?」

 

 彼女のあまりの混乱ぶりに心配になって滅多に使わない愛称でそっと訊ねるアイリーン。

 

 そして若干逃避ぎみで脳内の親友とクッキーパーティーを始めそうだったエイリーク。

 

 はっ、と正気に戻る。

 

「い、いやね、忘れたのよ。忘れた。レポ……じゃない短剣をね。あとで姉さまに頼んで届けてもらうわ」

「まあ、いいですけど……」

 

 訝しむアイリーン。彼女から離れるタイミングは今しかない。

 

「それじゃアタシ、ミサに用事あるから。また教室でね」

 

 退散しようとするエイリーク。

 

 

 しかし、やはり彼女はついていなかった。

 

「え?」

 

 空から声が聞こえる。見上げる2人。

 

 

「ちょっと……ど、どいてーーーぇっ!!」

 

 

 人だかりの真ん中でずしん、という音が響いた。 

 

 べちょ、という音が聞こえたかもしれない。

 

 

 

 

 空から降ってきたのは2人の少年。

 

 1人は逆立つ黒髪に青いバンダナを巻いた少年。

 

 西国の砂漠の民特有である砂除けのローブを身に纏う少年は同じ高等部の2年生、アギだ。

 

 アイリーンも見覚えがある。打ち所が悪かったのか彼は気絶している。

 

 

 問題はもう一人の少年。

 

 黒眼黒髪。東国系と思われる幼さの残る顔立ち。学園の制服ではなくこちらには見覚えがない。新入生だろうかと考える。

 

 ただ隣のエイリークは少年を見て絶句していた。

 

「痛、いたた、着地失敗。おいアギ、生きてるか。……ごめんな。やっぱ無理だったよ」

「……」

 

 気絶したアギは答えられない。

 

 しかし彼女たちは知っている。着地の際に少年がクッション代わりにして彼を下敷きにしたのだ。

 

 非道の少年は潰された彼に両手を合わせ黙祷。(死んではいない)それから周りを見て誰か人を探す素振りを見せる。

 

 少年とエイリークの目があった。

 

「アギの言うとおりだな。おーい、エイリーク」

 

 彼女に向けて手を振ると驚く周りの視線を無視して少年はエイリークに近づいた。

 

「あ、アンタどうして」

「シアさんに頼まれたんだ。レポート忘れただろ」

 

 少年の鞄から取り出されるエイリークのノート。

 

「……ウインディさん?」

「……ちょっと、アンタこっち来なさい」 

「何?」

  

 ――やっぱり忘れ物してるじゃない

 

 アイリーンの視線が痛い。

 

 ――姉さまの馬鹿ぁ

 

 

 エイリークは心の中でおせっかいな姉姫に向かって思いっきり叫んだ。

 

 +++

 

 

 アイリーンに背を向けてエイリークと話す少年。エイリークをよく知る彼女にも2人の関係が見えない。

 

 ふとアイリーンは気付く。それは少年の腰に差してあるもの。

 

 銀の装飾の施された翠の鞘。風森の紋章。

 

 幼馴染である彼女は見間違えたりしない。あれはエイリークの、本物の《守護の短剣》。

  

 何故? 一瞬考える。でも最後は悪戯っぽい笑顔をエイリークに向けた。

 

「ウインディさん。彼、貴女の《守護の短剣》も持ってきてくれてますけど?」

「あっ!」

 

 しまった。びっくりして言葉が出ないエイリーク。かわりに少年が答える。

 

「短剣? ああ。今俺が《契約》してるから借りてるんだ」

「な、んですって!?」

 

 驚いた。冗談だったのに本当だったのかと。興奮したアイリーンは少年を指差し叫ぶ。

 

「なっ、なら貴方は、もしかして、彼女の、エイリーク・ウインディの、騎士様なのですか!?」

「「「「――!!」」」」

 

「ん?」

 

 状況を飲み込めない少年。

 

 叫び、悲鳴を上げる生徒たち。

 

 凍結し、石化する生徒たち。

  

 騒ぎの中心で説明を求める少年はエイリークに振り返る。そのエイリークは、

 

 

 真っ赤になって、震えていた。

 

  

「う、ウインディさん?」

 

 やりすぎた。アイリーンは青ざめる。

 

 これから起きることはただ1つ。《旋風剣》による無差別の制裁だ。巻き込まれるのは御免だった。

 

 しかしエイリークは剣を抜かずに少年と向き合ったまま。顔は下を向いていて彼女の表情は読めない。

 

 未だに訳のわからない少年を前に顔を上げてキッ、と睨みつける。涙目で。

 

(なんで……アンタは……ここにいて……余計なこと言うのよ!) 

 

 

 エイリークの右腕に風が集まる。

 

 纏う風は腕のまわりで渦を巻き、吹き荒れる。

 

 

「ゆ、ユーマの……バァアカアアアアアアァァッッ!!!」

 

 竜巻は決して大きくはないが、あれを直接ぶつけられる側はたまったものじゃない。

 

《旋風剣・疾風突き》

 

 突きというよりアッパーカットのような一撃は、少年を空高く吹き飛ばす。

 

 静寂。完全に巻き込まれると思っていた周囲の生徒たちは宙を舞う少年に唖然。

 

「ふん!」

「……新技、ですね」

 

 アイリーンは《旋風剣》を体術に応用した幼馴染の技に感心することでこの惨劇から目を逸らした。

 

 +++

 

 

 空飛ぶ少年、ユーマは思う。

 

(女の子なんだからグーはないでしょ、グーは)

 

 そのまま自由落下してアギ少年(生死判定中)の隣に落ちた。

 

 

 

 

 ぐちゃ

 

 +++

 

 

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