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幻創の楽園  作者: 士宇一
第1章 前編
23/195

1-06 優真の決意

エイルシアと???。そして優真が手にした力

 

 +++

 

 

 エイルシアは夢を見た。

 

 少年のはじまり、しろい少女と梟の夢。

 

(……ここは?)

 

 夢から醒めても知らない世界。彼女は今、しろい世界の中にいる。

 

 エイルシアの隣には風森の精霊がいた。

 

(風森、あなたが)

 

 

 夢を見せたの?

 

 

 思い当たることはエイルシアが精霊と同化して優真に触れたこと。夢を見た原因はそれしかない。

 

 しかし翠の髪をした女性はエイルシアの問いに違うと首を振った。

 

(風森の魔力を通じてユーマさんの《心像》に触れたのではない? ではどうして……痛っ)

 

 突然うしろから髪を引っ張られるエイルシア。振り返って言葉を失った。

 

 

 

 

「う?」

 

 

 

 

 女の子だ。

 

(あなたはっ!?)

 

 しろい服にしろい肌をした女の子。

 

 髪も瞳もしろい、夢で見た女の子。

 

(ましろ……さん?)

 

 驚いたまま固まるエイルシアに女の子は無邪気な笑顔を見せた。気付いてくれたのが嬉しかったらしい。

 

(どういうこと? ユーマさんの記憶ではあの子は……風森?)

 

 精霊を見るが彼女は答えず女の子に歩み寄る。

 

 エイルシアは『その域』に達していない。知る権利が彼女にはなかった。

 

 しろい少女は精霊にがばっ、と抱きつく。

 

 言葉を知らない女の子は魔力を通して精霊とコミュニケーションを図っているようだ。

 

「ゆーま」

「……はい。わかりました」

 

 女の子に頷く風森の精霊。2人の関係と女の子が精霊に伝えた内容が気になるが、エイルシアが知ることはない。

 

「あーう」

 

 再びエイルシアに近寄るしろい少女。ちいさな手を差し出す。

 

(なにを……?)

 

「う?」

 

 繋げと言っているのだろうか? エイルシアはおそるおそるしろい手を握った。

 

(――っ!! あなたは……)

 

 言葉ではない。あたたかな気持ちだけがエイルシアに伝わる。

 

 

 

  

 ――ゆうまをたすけてくれてありがとう

 

 

 

 

 エイルシアは思わず女の子を抱きしめた。言葉が出ない。

 

 

(あなたはずっと『ここ』にいたのですね!!)

 

 

 しろい少女は正真正銘、ほんもののましろだった。

 

 

 ましろはずっと優真の傍にいた。

 

 少年の近くにいて想いに触れながらも何も伝えることができず、何もしてあげることができなくても。

 

 

 傍にいた。あの日からずっと。

 

 

 ふれあうことでましろはエイルシアに見せた。今日までの優真を見せてくれた。

 

 1人知らない世界に来た優真。隠していてもどれだけ不安だったのか。

 

 エイルシアがいてくれたこと、彼女と過ごした日々にどれだけ救われたのか。

 

 魔人を倒すと言ったエイルシアの覚悟が大好きな兄に似て悲しかったこと。彼女に何がしてあげられるかずっと悩んだこと。

 

「ゆうま」

「……はい。そうなんです」

 

 ましろは、エイルシアは知っている。

 

 少年は優しいのだ。だからエイルシアも、魔人の彼女も助けようとした。

 

 優真はラヴニカの悲しみも見逃さなかった。何の力がなくても優真は2人が争わずに救われる道を選ぼうとしていた。

 

 ラヴニカも優真に同意してくれた。なのに、

 

(なのに私は……)

 

 優真の目から見たあの時のラヴニカはとても傷ついた顔をしていて、あの時の自分がどれだけ醜い顔をしていたことか。

 

 あの時だって優真はどうして? とエイルシアのせいで悲しんだというのに。

 

「ごめんなさい。心配したよね? 私が巻き込んでしまったの。だから、だから私が必ずユーマさんを……」

 

 助けます、と言いかけてエイルシアは髪を引っ張られる。

 

 痛い。

 

 ましろはエイルシアの覚悟が気に入らない。むっとした表情。

 

「あー!」

「……いえ、何が言いたいのかさっぱり……」

「こー」

「???」

 

 やっぱりわからない。

 

 

 

 

 やがてエイルシアはしろい世界にいる自分を遠くに感じはじめる。

 

 目覚めが近い。

 

「……夢かもしれない。でもあなたに会えてよかった。ありがとう」

 

 そう言ってエイルシアはましろの世界から消えた。

 

「あー」

「……再成の世界からの伝言、確かに受け取りました。私もそろそろいきます」

 

 精霊もましろに別れを告げる。

 

「もう会うことはないでしょう。現実に戻っても今の私は彼女の力になれず、あの子を助けることができませんから……痛いですよ」

「うー」

 

 諦めた感じにご立腹のましろ。精霊だろうが容赦なく髪を引っ張る。

 

「こー!」

「……そうですか。ならば私は見届けます」

 

 ましろの主張に精霊は見守ることにした。ましろだって何もできないけれど信じているのだから。

 

 

 「こー」とは優真が教えた言葉ではない。

 

 

「私も信じましょう。あの子と……彼の力を」

「あーう!」 

 

 ましろは信じているのだ。優真には彼がいる。

 

 

 ましろを殺し、それでいてましろの願いを叶えてくれた優真の兄。

 

 本当の彼は誰よりもやさしい。だから優真を助けてくれる。

 

 

 いつだって、どこにいても、

 

 必ず

 

 +++

 

 

 目覚めの時

 

 少年が手にした力は偶然なのか?

 

 

 +++

優真の決意

 +++ 

 

 

 優真の身体は《病魔》に侵されて今までにないほどに苦しみ、それでいて《病魔》に生かされていた。

 

(熱い。それに寒い……)

 

 何も考えることができず死にそうでも死なせてもらえない。優真の意識は途切れ途切れだが消えてなくなることはなく、ただ命を弄ばれ苦しめられていた。

 

(……何だ?)

 

 ふと唇に何かやわらかい感触がした。それから苦しさが和らぐのを優真は感じる。体中に《浄化の風》の魔力が行き渡ったのだ。

 

 優真に異変が起きたのはその時だった。

  

 どくん

 

(熱い)

 

 優真は感じる。今までにないその熱さ。

 

 どくんどくん

  

 身体が何かを求めている。

 

(欲しい……)

 

 熱い渇望。無意識に優真は求めるがまま手探りで《それ》を抱き寄せた。

 

「んんっ!?」

 

 奪う。

 

「んんぅ……んむぅ」

 

 吸い上げる。

 

「んふぅ……んんんぅ…ん、んんぅ…」

 

 喰らう。

 

 

 それは……魔力

 

 +++ 

 

 

「ぷはっ、はぁはぁ、……あれ? 俺……」

 

 優真は目を覚ました。目の前にはへたり込んだエイルシアがいる。

 

 彼女の顔は紅い。

 

「シアさん? 大丈夫?」

「はひ、らいじょうぶれす」

 

 そうでもなかった。 

 

 夢から覚めるといきなりアレだったのでいろいろとぶっ飛んだエイルシア。

 

 よくわからないまま彼女が落ち着くのを優真は待つ。身体の方はすっかりよくなっていた。

 

「……よかった。《浄化の風》が効きましたね。もう大丈夫です」

 

「うん。……ごちそうさま?」

 

 「ありがとう」のかわりにそんな言葉が何故か出た優真。口元を袖で拭う。

 

「い、いえ。お粗末さまです……」

「?」

 

 エイルシアの返事も変だった。なんかすごかったらしい。

 

 沈黙。優真のアレは無意識で彼は理解しておらず、エイルシアだけが気まずい思いをしている。

 

「あれからどうなったの? 突然おじさんが現れたのは何となく覚えているのだけど……」

「っ! お父様!!」

 

 今の状況を思い出したエイルシア。立ち上がろうとしてよろめき、それから自分の異変にも気付く。

 

「あっ、私の魔力が……」

「シアさん?」

 

 エイルシアは驚くままに優真を見る。

 

「なくなっている。それにユーマさんに……あなたの《力》、それはもしかして……」

「俺の?」

 

 エイルシアには思い当たることがあった。その力は魔法使いの天敵たる特異能力。

 

「……関係ありません。ユーマさん、あなたは逃げて下さい」

「シアさんはどうするの?」

「私は魔人を封印します」

 

 エイルシアは決意する。《彼女》に出会った今、改めて命を捨てる覚悟ができた。

 

 いなくなっても想うことができるとわかったから。

 

「今の私になら精霊はきっと応えてくれる。だからあなたはここから逃げて。私のせいなのに……もう巻き込みたくないのです」

「シアさん……」

 

 もう何もできない。悔しさと悲しさで俯く優真。それがエイルシアは嬉しかった。

 

 別れを惜しんでくれる。だから別れることができる。

 

(きっとあの時のお母様も……) 

 

 

 ――あの人と同じように素敵に別れることができたら……

 

 

 微笑むエイルシア。最後に見た、先代の巫女である母のように。

 

「忘れません。あなたに逢えたこと」

「……」

「私の部屋にあなたの荷物があります。それを持って北の《銀雹の国》へ。そこまでいけばきっと」

「……? ちょっと待って。シアさん?」

 

 いまとんでもないことを優真は聞いた気がした。

 

「『俺の荷物』って何?」

「あっ、ああ。あの時動転していて忘れていたのです。ベッドの上に見慣れない鞄があったのできっとユーマさんのものだと……」

「シアさん!! 付いて来て」

「えっ、きゃっ!」

 

 エイルシアの手を取ると優真は別れのシーンを台無しにして駆け出した。

  

 +++

 

 

 エイルシアの部屋で優真は自分の鞄を見つけた。この春から使う予定だった高校の学生バッグ。

 

「あった」

 

 鞄の中にあるのは黒い箱。これは光輝特製の《圧縮ボックス》。

 

 箱の中には優真の『おもちゃ』があるはずだ。悪あがきでもこれに優真は縋った。

 

「ユーマさん?」

「まだ何かできるはずなんだ。何か……あっ」

 

 実際に箱を開けてみて優真は固まる。

 

 

 入学祝

 

 

 そう書かれた手紙がまず目に入った。それよりも問題は中身だ。中に入っていたはずの『おもちゃ』がほとんど入れ替わっていたり手が加えられている。

 

 グレードアップされていた。

 

「なんで? それにどうしてこれが」

 

 それは優真が欲しかったもの。そして今、心から欲したもの。

 

「俺でも使える簡略されたチューニングは大和兄ちゃんの《ガンプレート》じゃないか。俺の知らないカートリッジもある」

 

 思わず震えた。いつかこれを譲ると言った兄との約束を思い出す。

 

「それに《回路紙サーキットペーパー》がこんなに。回復魔法を中心にこれだけの枚数を付与してくれたのか姉さんは? 《文房具セット》もある! それに……」

 

 1着の服を見る。

  

 黒を基調とした戦闘服にブーツ。デバイス・ゴーグルのレプリカ。それにグローブ。

 

 ガンプレートとグローブにはエンブレムが付いていた。

 

 

 金の瞳と銀の翼を持つ梟を模したデザイン。

 

 

「《ナイト・ファミリア》と同じもの……光輝さん」

 

 優真はグローブを握りしめる。この使いこんだ感じのするグローブは間違いない、彼の物だ。

 

 どうして?

 

 何故ここにあるのか。今優真が『ここ』にいる事を含めてわからないことだらけだ。

 

 でも、それでも

 

「今だけ。今だけでいい……兄さん、力を貸して」

 

 それでも『今』は関係ない。どうしても今だけは優真は力を欲した。

 

 優真は首に提げていたものを取り出し握りしめる。

  

「それは」

 

 今のエイルシアは知っている。

 

 あれはましろ。《しろいはね》だ。しろい少女はやはり優真の傍にいた。

 

 少年はあの日に誓いを立てたのだ。だから優真はできることする。

 

 

 今の優真にはまだできることがある!

 

 

「シアさん教えて。さっき言いかけた俺の力のこと」

「……え?」

 

 エイルシアの目の前で優真の雰囲気が変わった。優真は少しでも情報を、戦う力を集めようとしている。

 

「それにシアさんの力を貸して。俺は……」

 

 優真は見た。ここには闇がある。それは400年も抱え込んでいた悲しいモノ。

 

 闇を狩る《梟》。今ここで兄の代わりを果たせるのは優真しかいない。

 

 

 けれど

 

 

「えーとですね、それは……」

「シアさん?」

 

 優真は戦う覚悟を決めたけれど、エイルシアが優真の力を説明するにはどうしても先程の《アレ》を説明しなければならず、

 

「ちょっと時間をください。いろいろと準備が……」

「時間がないんだ。手短でいいから早く」

「……」

 

(なぜ私だけ気にしなければいけないのでしょうか? ……何かずるい)

 

 

 話すのに少しだけ勇気と時間を要したエイルシアだった。

 

 +++

 

 

 風森の国、聖堂。

 

 優真が駆け付けた時に見たものはいまだ健在の魔人と倒れた騎士の姿。

 

「お父様!」

「まだ息がある! シアさん、これ使って」

 

 優真はデッキケースから《キュア》、《ヒール》のカードを取り出しエイルシアに渡す。使い方は先程彼女に教えた。

 

 カードに付与された魔法を発動させると、父の顔色が一気に良くなる。

 

「す、すごい…」

 

 傷も次第に癒えていく。エイルシアは紙の札に付与されていた魔力量とその効果が信じられなくて、これがほんとうの魔法じゃないのかと思いもした。

 

 優真は1人だけ魔人の前に出る。

 

「どうした小僧? 命を取り留めたようじゃが何の用かの?」

「……あなたを止めにきました」

 

 それが優真が望むすべきこと。

 

「ユーマさん……」

「シアさんはおじさんと一緒に下がって。もう魔力がないんだから。あとは俺がやる」

 

「お主では相手にならんよ」

 

 つまらなそうに魔人は言う。だけど今のエイルシアは彼女の考えが読み取れる。

 

 優真は本来無関係の人間。だからラヴニカは無駄な争いを避けようとしている。

 

「倒したいんじゃない。戦いを止めたいんです」

「ふん。我はもう狂気を抑えきれん。今度こそ死ぬぞ」

「だけどあなたは一度俺を殺さず『生かしている』」

 

 優真は退かなかった。彼女を信じているから希望があるような推測が彼にはできる。

 

「あれはシアさんがギリギリで治療できる呪いだった。俺に直接吹き込んだのは死なないように微調整するためだ」

「戯言じゃ」

「それにあれだけ時間が経つのにおじさんはまだ生きてる」

 

 ラブニカの否定を気にもせず優真は話す。

 

「狂気を抑えきれないと言って殺さないように力を抑えているのは何故です? ……今だって戦ってるんでしょ? 自分(狂気)と」

「……」

 

 ラヴニカは答えない。肯定しているように見える。

 

 エイルシアは優真の言葉にだだ驚くだけ。

 

(何も知らないはずのユーマさんは最初から気付いていた? ……私が仕掛けなければ魔人は狂気を抑え続けていられたの?)

 

 エイルシアの疑問、それと後悔を余所に少年と魔人の話は続く。

 

「だからラヴニカさん。止められないなら俺が止めます。それが俺の望みです」

「……よく言った。名前を聞こう。優しくも愚かな小僧よ。お主は誰じゃ」

 

 今の優真に兄たちのような名乗る異名も二つ名もない。だから

 

「優真。それだけでいい」

「よかろう。ならば止めて見せるがいい。……魔人の力、受け止められると思うなよ」

 

 魔人は笑った。

 

 凄惨な笑みは少年への賞賛。狂気を解放し優真を敵と認めた。

 

 

「少しは我を楽しませよ、ユーマ!!」

 

 

 まだ《精霊使い》でもない少年の戦いがはじまる。

  

 ユーマではない少年の戦い。

 

 

「うあああああ!!」

 

 

 

 

 これは優真の戦い

 

 +++

 

 

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