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幻創の楽園  作者: 士宇一
第1章 前編
22/195

X-xx しろい夜

優真とましろ。そして《梟》

 

 +++

 

 

 出会った白い人はましろと同じようで違う白い髪で白い瞳をしていた。

 

 白いのに闇。その瞳から優真は何か恐ろしいものを感じる。

 

 

「やっと見つけました。しかしあの小僧2人相手に組織がこうまでやられるとは……」

「おじさん?」

 

 白い人はそこで初めて優真を見た。

 

「でもやっと《これ》を『回収』できます」

「おじさんは誰? ましろの、この子の知りあい?」

「う?」

 

 優真は不気味な白い人に訊ねた。彼を見てもましろの反応は相変わらずだったが。

 

「ましろ……しろ、ね。ククッ、これはいい。TYPE46。よい名前をもらいましたね。さあ、お礼をしなさい。その少年を……殺しなさい」

「あう?」

 

 どうして? といった感じでましろは首をかしげた。わかっていないのかもしれない。

 

「おじさん?」

「くっ、逃走中になにかあったな。……いいでしょう。君は私が」

 

 しろい人は優真を蹴り飛ばす。

 

「があっ!」

「ゆうま!」

 

 転がる優真に駆け寄るましろ。白い人を睨みつける。

 

「うー」

「……困りましたね。私はあなたを回収しに来ただけなのです。目撃者は消します。さあ、こちらに来なさい」

「ゆーま、ゆーま」

 

 ましろは無視。優真を揺さぶる。

 

「うっ、ああ? ましろ?」

「ゆうま!」

「ちっ、ならば少し痛い目にあってもらいますよ」

 

 そう言うと白い人は手から力が溢れさせる。

 

 魔法だ。しかも攻撃用の。

  

「しろ、逃げて!」

「逃がしませんよ。君もね」

 

 優真は身の危険を感じた。あれは蹴られて痛いくらいじゃ済まない。

 

 

「うーっ、あー!!」

 

 

 突然叫ぶましろ。同時に背中から魔力を放出する。

 

 現れるのはしろい翼。白い人は意外だったのか目を疑う。

 

「何? これは……」

「ゆーま!」

「うわっ、わああああっ」

 

 ましろは優真に抱きつくと白い人から逃げ出した。

 

 

 夕暮れの、空へ。

 

 +++

 

 

 空を飛ぶましろにしがみつく優真。情けないけど落ちるよりましだ。

 

 身体のどこを掴んでるなんて考えないようにした。

 

「ゆーま!」

「な、なんだよ。ぼくはやましいことなんて何も」

「う?」

「え、違う? だったら……うわぁ」

 

 優真とましろは今、空の上にいる。日はとっくに暮れて気付けば夜になっていた。

 

「すごい。星が近い。世界が……広く見える」

「あー」

 

 優真はいつもより近くに見える星の光と自分の真下を照らす街の光を見比べる。

 

「どっちも綺麗だ。すごいよ、しろ」

「あーう!」

 

 ましろも気持ちは同じらしい。しろい瞳はちいさな光をいっぱいに納めている。

 

 少女もまたはじめて見た世界だった。優真が興奮して喜ぶものだからましろも嬉しくなった。

 

 2人は抱き合ったままゆっくりと飛び続ける。

 

 

 夜空の光の中を。

 

 +++

 

 

 しばらくはそうしていたが優真はこれからのことを考える。白い人はましろを探しているはずだ。

 

「危ない人もいるしやっぱり兄さんの所に行こう。頼むよ、しろ」

「あー」

 

 優真の案内で《桜道場》へ飛ぶましろ。

 

 

 その途中の事。優真にとって本当の事件はこれからだった。 

 

 

 

 

「ストーム・ブラスト!」

 

 

 

   

 ましろが突然の旋風に煽られ、優真を手放してしまう。

 

「えっ、うわあああああ」

「ゆーま!」

「お、お、おちるーーーっ!!」

 

 地面に直撃する直前。

 

「よっ、と大丈夫か? 優真」

「大和……兄ちゃん?」

「おう」

 

 抱きとめられた。いつもの調子で返事をする大和。

 

 それを聞いて優真は安心した。

 

(よかった。もう大丈夫だ。ましろも兄ちゃんたちが助けてくれる)

 

 そこまで考えて優真は気付いた。なにかが爆発する激しい音が聞こえる。

 

 そしてましろがいない。

 

「ましろは?」

「おい、優真?」

「しろ!」

 

 駆け出した優真に大和は出遅れた。

 

「しろ、どこだ!」

「ああー!!」

「しろ!」

 

 ましろは戦っていた。相手は銀髪の男。

 

 白い人の仲間かと思ったが違うようだ。ましろが敵意をむき出しにしている。

 

「ああああ!」

 

 ましろが放つ火炎弾が銀髪の男とその周囲を焼く。爆発音の正体はましろだった。

 

「ちいっ、回収される前に片づけないと」

「しろ!」

 

 ましろに駆け寄る優真。それがいけなかった。

 

「離れろ、優真!」

「えっ!?」

 

 何故か銀髪の男が優真の名を叫んだ。放たれた火炎弾の射線上に優真は飛び込んだのだ。

 

「ああっ!」

「ゆーま!」

「優君!」

 

 優真の前に誰かが立ちふさがる。

 

 その誰かは魔法障壁を展開。火炎弾を防いだ。

 

「大丈夫?」

「ゆうか……ねえちゃん?」

 

 優真を守ってくれたのは少年の実の姉。

 

「どうして?」

「ユウ、優真を連れて行け。あとは俺と相棒でやる」

「大和兄ちゃん!?」

 

 追いかけてきた大和はそのまま銀髪の男と並んでましろと対峙した。

 

「どうして? それにさっきの声、もしかして……」

「……」

 

 銀髪の男が大和の隣に並ぶのを見る。それで優真は気付いてしまった。

 

 

 その背中はいつも見ていた2人の姿と重なる。

 

 2人が揃えばできないことはない。誰にも負けない。そう優真は信じてきた。

 

 だから

 

 

 銀髪の男はきっと……もうひとりの兄

 

 

「光輝……にいさんなの?」

「……」

 

 梟は答えない。金の瞳はただしろい少女を見据える。

 

「どう、して? ……どうして、どうしてなんだよおおおおっ!!!」

 

 ましろは2人に襲いかかり、兄達はそれを向かえ撃つ。

 

 どうして戦うの? わからない。

 

 『事件』の蚊帳の外にいる優真は何も知らずただ叫ぶことしかできない。

 

 

 ぽつり

 

 

 優真がましろと2人で星空はもう見ることはない。

 

 

 星は雲が隠し、思い出は雨が塗り替えた。

 

 

 +++

しろい夜

 +++

 

 

 優真の部屋。

 

 

「優君? 起きてる?」

 

 姉の優花が優真を訪ねてきた。ドアをノックする。

 

 今はもう深夜の2時。優真の返事はない。

 

「入るよ」

 

 構わずに部屋の中に入る優花。部屋の明かりはつけなかった。

 

 優真は起きていた。ベッドの横に腰かけて動かない。

 

「優君?」

「……どうして?」

 

 優真はずっとそれだけを考えていた。

 

 +++

 

 

 あのあとましろは撃ち落とされた。そこに白い人は狙ったかのように突然現れたのだ。

 

「感謝しますよ《梟狼》。傷物にはなりましたがおかげで回収できます」

 

 梟は白い人を睨みつけた。

 

「させると思うか? それを殺せばお前たちの計画はすべて終わりだ」

「……や……めてよ……も、う」

 

 梟は金属板の銃を倒れたましろの頭に向ける。

 

 優真は叫び過ぎてもう声が、涙が出ない。

 

 梟に優真の声は届かない。でも

 

「……う? ……ゆ、う……ま?」

 

 ましろに声が届く。虚ろな瞳でただ少年の名前を呟いた。

 

 それに動揺したのは梟。

 

 ましろはもう彼が知っている『人形』ではない。

 

「隙あり、ですよ」

 

 一瞬の隙を突かれて白い人は梟に牽制の魔法弾を放った。咄嗟に相殺させるがもう遅い。

 

「ちいっ!」

「回収しました。ではこれで」

 

 白い人はましろを捕らえて姿を消した。

 

   

 それから梟は復帰した大和を連れて闇夜に消えたのだった。

 

 優真は姉に連れて帰られたがよく覚えていない。

 

 +++

 

 

 優真はあの時のことだけを考えていた。

 

 

 ――どうしてましろは姉ちゃん達を襲ったの?

 

 ――どうして兄ちゃん達がましろを傷つけるの?

 

 ――どうして白い人はましろをさらったの?

 

 

 知らないことが多すぎて答えが出てこない。

 

 そして

 

「あいつは……誰?」

 

 

 ――あの銀髪は誰だ?

 

 ――ましろを撃ち落としたあいつは誰だ?

 

 

「こうちゃんのこと?」

「……ちがう」

 

 姉の答えは信じたくなかった。

 

「光輝兄さんは髪も目も黒だ。……眼鏡かけていて陰険で、いつも眠そうにしていて根暗で、変なもの作って大和兄ちゃんと馬鹿やって、姉ちゃんに怒られて情けなく正座するのが兄さんだ。あいつじゃない」

「……こうちゃんがすごい認識されてる。でもね」

 

 優花は真実を告げる。

 

「あれがこうちゃん。真鐘光輝まがね・こうき。銀の髪をしても優君の知ってる『光輝兄さん』だよ」

「だったら何で! ……だったら……だったらぼくは……」

 

 優花は優真の目を見て悲しくなった。

 

 怒り。それに憎悪。

 

 優真がその感情をすべて彼にぶつけようとしているのが悲しかった。あの場には彼女も大和もいたのに優真は彼にしか目が向いていない。

 

 そのように仕向けたのは光輝だ。ましろを傷つけたのは彼だけ。

 

 光輝は憎しみを背負う覚悟がある。

 

 でも

 

「優君、付いてきて」

「え?」

 

 優花は弟を連れ出した。これは優花のわがまま。

 

 優真には彼を憎んでほしくなかったから。憎むのはせめて『すべて』を見せてからだと思った。

 

 

 梟の棲む、夜の世界を。

 

 +++

 

 

 優花に連れられて1時間。再び雨の中を飛ぶ優真。

 

「そういえばどうして姉ちゃんは魔法が使えるの? 姉ちゃんもぼくも人間だよね?」

「それは……いつか優君にも教えるね。……着いたよ」

 

 連れてこられたのは廃ビルの屋上。

 

 そこに怪我をした大和がいた。

 

「大和君」

「ユウ?」

「大和兄ちゃん……」

「優真!? おい、何故連れてきた」

 

 優真が来たのは予想外だったのか大和は慌てた。

 

「もう黙ってられないよ。だから優君にすべてを見せるために」

「だめだ」

 

 優花の言葉を大和は一言で切り捨てる。

 

「大和君?」

「今はだめだ。状況は優真にとってまずい。見せるな!」

「それってどういう……」

「しろ!」

 

 叫ぶ優真は駆け出す。優花はそれを追いかけた。

 

 隣のビルの屋上。そこにましろがいた。

 

 しろい女の子がたくさん、たくさんいた。

 

「どうしてあの子が?」

「間に合わなかった。組織は潰したが《接続》された」

  

 優花の疑問に大和が答えるが優真は理解できない。

 

 ただ最後の一言が優真に衝撃を与えた。

 

 

「あの子の『量産型』が情報を同期して目覚めたんだよ!」

 

 

 対天使・対悪魔戦用人造魔法使いTYPE46。

 

 46号体用試作体。それがましろの正体。

 

 天使と悪魔がいるこの世界は人を含めた3種族が共存してまだ間もない。

 

 世界には人間至上主義という存在がある。白い人の組織がその1つだった。

 

 この世界は3種族の中で人間だけが魔法を使えない。人間はせいぜい《魔術師》が限界だ。だからに人間が覇権を握るために対魔法戦用のモノを白い人達は造った。

 

 それが人造魔法使い。

 

 TYPE46は少女型の量産モデル。しろいのはあとで『染め上げて』一般人にカムフラージュするためだ。その運用ははテロや暗殺に近い。

 

 ましろは試作体。戦闘データを収集して量産型に提供するのが役目。

 

 彼女はこれまで天使や悪魔だけでなく、ハーフや力ある人間まで何度も襲った。

 

 この事件に大和と光輝は関わり、白い人の組織を潰しにかかったのだが……

 

 

「こうちゃんは?」

「……そこだ」

 

 隣のビルを指差す大和。

 

 しろい少女たちの輪の中で、銀髪の少年が1人戦っている。

 

 +++

 

 

 1対50。

 

 それが今の状況。最初はまだ沢山いた。

 

 優勢なのは梟だった。銀髪の少年はしろい少女たちの魔法をすべて相殺して両手に持つ金属板で確実に撃ち貫き、切り裂いていく。

 

「どうしてです! あなた達の戦闘データも手に入れました。なのにこれだけの数を相手にしてどうして!?」

 

 あの白い人がいた。信じられないと梟を見ておののく。

 

「データならこちらも『見た』。数がいても『あの子』と同じなんだろ?」

 

 冷静にまた1人撃ち抜きながら梟は答える。

 

「あの子の魔法は《理解》した。俺に2度目はない」

「魔法が効かないだと!? 人間なんだろお前!」

  

 組織の主力となるはずだった人造魔法使いを蹂躙されて彼は絶望する。

 

 天使でも悪魔でもない。まして彼のような改造人間でも。

 

 

 目の前にいるのは魔術の、魔法の天敵。アレは……バケモノだ! 

 

 

「だれだ? だれなんです!?」

 

 銀髪の少年は金の瞳で白い人を見下して彼に答える。いつもどおりに。

 

「梟。夜を識る者。闇を狩るモノ」

 

 梟は無造作にガンプレートを白い人へ向けて――

 

 

 そのまま額を撃ち抜いた。

 

 +++

 

 

 梟は一方的だった。彼の殺戮をただ見ているだけの3人。優真はもちろん、大和も優花も動けずにいた。

 

 ましろと同じ顔をした少女がまた1人、白い水溜まりに沈む。

 

「しろ……」

「優真、間違えるな。『あの子』じゃない。違うんだ!!」

「でも」

 

 ショックを受ける優真を大和が揺さぶる。

 

 そんな彼らに気付いた「ましろ」がいた。

 

「ゆうま」

「えっ」

「ゆうま、ゆーま。ゆうまゆうまゆうまゆうま」

 

 しろい少女達は少年の名前をよぶ。

 

 これはただ「ましろの情報」が量産型と同期した結果だ。

 

「「「「「ゆうま」」」」」

「「「「「ゆーま」」」」」

 

「あ…ああ」

 

 しろい少女たちがよぶ。

 

「「「「「ゆうま!」」」」」

「「「「「ゆーま!」」」」」

 

 しろい少女たちが叫ぶ

 

「ああ!!」

「優君! しっかりして!!」

 

 

 悪夢だった。しろい悪夢。

 

 

 戦う少女が、倒れた少女が、切られた少女が、撃たれた少女が、

 

 同じ顔で、しろい瞳で、あの子の声で、ぼくを、優真を呼んでいる……

 

 

「――っ!」

 

 

 

 

 ――ふざけるな!!!

 

 

 

 

 怒声

 

 吼えたのは……梟

 

 

「お前らがその名を呼ぶな!!」

 

 

「こうき……にいさん?」

 

 その声に優真は正気を取り戻した。

 

 あの声は、あの怒りは間違いなく優真の知っている光輝だった。

 

 

「お前たちじゃない。最期まで優真を呼んでいたのは……あの子なんだ!!!」

 

 

「こうちゃん……」

 

 光輝の怒りは悲鳴だ。優花はいつもそう感じる。

 

 

「……潰す。お前たちはすべて潰す」

 

 

 銀色の力が梟に引き寄せられる。

 

 怒りに呼応しているのではない。彼を慰めるように《魔力》が寄り添うのだ。

 

 

「あの子はいない。俺が殺したんだ。だから消えろ、消えろぉおおおおおっ!!!」

 

「コウ……」

 

 大和は動けない。

 

 

 ――光輝のせいじゃない。救えなかったのは俺も同じなのに

 

 

 なのにどうして俺はここにいる? 怪我をした大和は今の相棒の隣に立てないことが何よりも悔しい。

 

 

「姉ちゃん……大和兄ちゃん……」

 

 

 優真は梟から、光輝から目を逸らさない。彼がましろではないモノを殺すのをただ見ている。

 

「優君?」 

「兄さん、泣いてるよ。どうしてだろう?」

「優真……」

 

 今は深夜。雨は止んでいたが離れていれば僅かな明かりの中では声は届いても顔まではわからない。

 

 

「痛いんだ。兄さんを見ていると……悲しいんだ」

 

 

 優真は辛くても目を逸らさない。

 

 

 このしろい悪夢を狩り続ける梟をただ見ていた。

 

 +++

 

 

 夜明けにはすべてがおわった。しろい少女たちはすべて消えた。

 

 残ったのは白い水溜まりの上に立つ黒髪の少年1人だけ。

 

 光輝は大和たちと合流。優真がいたのには流石に驚いた。

 

「ごめんなさい。私が」

「そうか」

 

 光輝は優花を責めはしなかった。優真は彼を見ない。

 

「……すまん。でもこれが俺だ」

 

 光輝はそう言って優真の隣を抜けた。

 

 抜けようとした。

 

「優真?」

 

 気付けば優真が光輝の袖を掴んでいる。そしてそのまま彼の腰にしがみついた。

 

 

「う……う、うわあああああ」

 

 

 泣いた。

 

「うああ……あああああ!」

 

 優真は泣いた。


「ああ……あああああ、う……あああああ!!」

 

 悲しかった。

 

 ましろがいなくなったこと。

 

 知らなかった兄の、その在り方。

 

 それに見ているだけだった自分の……無力に。

 

 

 優真は光輝を掴んで離さない。彼もましろのように消えてしまう、そんな予感があったから。

 

 

 優真はもう誰にも消えて欲しくなかった。

 

 

「ああ……あああああ!!!」

 

 

 

 

 慟哭の中に怒りも憎しみもない

 

 誰も幸せになれない結末

 

 優真は苦しくて、痛くて、悔しくて

 

 

 悲しかった

 

 +++

 

 

 『あの日』から数日が経つ。

 

 しばらく塞ぎこんでいた優真だったが今日、ある決意を固め部屋を出た。

 

 

 御剣家のリビングで優真が見たのは2人の少年が姉の前で正座している姿。

 

「「……」」

 

 光輝と大和が正座している。2人の前には何故かカレーパンが1つ。

 

「……姉ちゃん?」

「あ。優君おはよう」

 

「「……」」

  

 うん。いつもの光景だった。

 

「なにしてるの?」

「気にしないで。……2人はそのまま」

「……はい」

「ちっ」

 

 舌打ちした方が光輝だ。陰険眼鏡。

 

「ふーん」

 

 カレーパンをほおばる優真。噴きだした。

 

「なにこれ? あま!」

「生クリーム&カスタードのダブルクリーム激辛カレーパン」

「……スパイシーな甘さってはじめてだよ。何の罠?」

 

 大方食べ物を物色しようとした大和に光輝が予め仕掛けたものだろう。

 

 問題は御剣家の冷蔵庫の中身が空になっている上にいつの間にこんな仕様もない罠を張られていたことだ。大和が食べるとは限らないのに。

 

「あ。もしかしてこれ食べたの兄ちゃんじゃなくて姉ちゃん?」

「違うよ」

 

 嘘だ。食べかすを気にして咄嗟に口元を手で抑えては説得力がない。

 

 きっと優花も噴きだして光輝達に笑われたのだろう。花も恥じらう15歳なのに。

 

 

 ほんとうに、いつもの日常だった。ながされそうになる。

 

「そうじゃなくて……話があるんだ」

 

 話を切り出すと優真は正座する2人の前で同じように正座する。

 

 そのまま頭を下げて両手と額を床につけた。

 

 

「お願いします」

 

 

 土下座。これはどうしても2人に聞いてほしい願いだった。

 

 

 ――ぼくは弱いから。もう弱いままではいたくないから

 

 

「教えて……ください。何も……できずに……あんな思いするなら……俺は」

 

 +++

 

 

 ましろの最期を優真は知らない。知っているのは光輝だけ。

 

 

「これは『あの子』からだ」

 

 光輝から手渡されたのはクリスタル・コーティングされた《しろいはね》。

 

「ましろの? 本物なの!?」

「ああ、魔力体だから消えないようにコーティングはしておいた」

 

 光輝は魔法が使えなくても『魔力を扱う道具』を作ることに関しては天才だった。

 

「優真、同じ情報と能力を持った量産型は『空を飛べなかった』。どうしてあの子だけ飛べたんだろうな?」

「……」

 

 優真にはわからない。


 でもましろは、何度も自分の名前を呼んだ少女はこの世界にいた。

 

 

 優真は忘れない。2人で見た光の夜空も、このはねと同じ色をしたしろい瞳も、

  

 優真に見せてくれた無垢な笑顔も。

 

 

 ちいさなしろいはねを優真は大切に抱き込む。

 

 はねを残してくれた想いはわからなくても、ましろは確かに『ここ』にいる。

 

 

「ありがとう、光輝兄さん。……ありがとう、ましろ」 

 

 

 

 

 失ったものは戻らない

 

 それを知っているから少年は……もう失くさないように強くなると決めたのだ

 

 

 

 

 だからこのおはなしが、きっと少年のはじまり

 

 +++

 

 

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