アギ戦記 -護衛3日目 6
*前回の更新より三ヶ月……年を跨いで今、私こと作者は復活しました。随分とお待たせしました。またよろしくお願いします
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気が付くと、知らない場所に居た。
はじめに感じたのは肌を撫でる涼やかな風。次に、湿った土の感触。
不意に差し掛かる木漏れ日の光に顔を顰め、少年は目を覚ます。木々の合間から抜ける日差しを避けるように顔を逸らし、目を開くのは、再起塾の脱獄者であった1人の少年。
薄汚れたリーズ学園の制服を着た、『奴ら』を率いていた彼だった。
「あ……?」
呻くような掠れた声。自分の声だと気付くのに少し時間がかかった。
疲労の残る頭を動かし、彼は自分の置かれている状況を少しずつ思い出していく。
『依頼主』から依頼の放棄と支援の打ち切りを言い渡されたその日。学外警備隊の襲撃を受けた。《青騎士》が率いた大部隊にアジトの廃倉庫を包囲された彼は、仲間を連れて突破を図り、命からがらにアジトを脱出した。
しかし警備隊の包囲網は2重3重と周到だった。警備隊の執拗な追撃に次第に追い詰められてしまう。逃げ惑う仲間は警備隊の巧みな誘導に散り散りになり、抵抗する者は容赦なく捕まった。
最後彼は1人、警備隊の目を掻い潜るように市街の裏路地に身を潜めていたのだが。
それからあとは何も覚えていない。気が付くと背凭れにしていた壁は裏路地の建物ではなく、人ひとり身を隠せるくらいの、太い樹木にもたれかかっていた。
ここは森? いや林か。それで。
「……だからどこだよ、ここはっ」
今度こそ覚醒した。苛立つ声を発し、はっきりした頭で疑問する。
どうして俺は、こんな林の中にいる?
予想はついた。大方ここは闇雲に逃げまわった挙句辿り着いたどこかで、自分は緊張と疲労のピークに達し、そのまま気を失ったのだろう。
だとしたら。
「……糞っ」
何人、やられただろうか。どれだけ残っているだろうか。
悪態を吐きながらそんなことを考える。
学園都市全域の治安警備に務める自治組織、学外警備隊。学生からなる自警集団の規模はとてつもなく巨大で、また《蒼玉騎士団》のような精鋭も揃っている。学園都市が公認するいわば『学園都市最大の武装組織』である。
そんな大部隊が『再起塾の殲滅』に前触れもなく、一斉に襲いかかってきたのだ。2度の襲撃で彼は、改めて思い知らされた。
学生崩れの不良集団が多少の力……端金を使って100人規模の兵隊を持ち、粋がった所で所詮寄せ集めだったと。エース資格者は勿論、訓練された千人規模の精鋭を相手に敵いはしなかったのだから。
利用する気でいた『依頼主』も、もう当てにならない。
己の保身のため、『依頼主』がこちらを蜥蜴の尻尾切りにしたのを彼は理解していた。学園都市の全域に無数に点在するはずのアジト、その中で潜伏箇所だけをたて続けに直接狙われているのはそういうことだ。アジトの情報をリークし、学外警備隊を動員しやすくしたのは『依頼主』で間違いない。
彼はそう考えた。が、しかし。
そもそも。『依頼主』が再起塾を利用、使い捨てにしてくることは、去年の末に起きた『事件』のことを思えば彼にも予想できていたのだが。
たった1日。『依頼主』が躊躇いもなく掌を返した、返さざる得なかった状況の変化。その経緯を末端の彼は把握することはできなかった。
彼は思う。結局見通しが甘かったということだろうか。
踏み台に乗る前に見切りを付けられ、捨てられた。それが結果だった。
どん底から這い上がる為の企みは失敗。学生犯罪者集団、再起塾のリーダーに抜擢するも、手にした力の殆どを奪われ、失った。それでもまだ、彼は捕まっていない。
捕まらず、終わらなかった。終われなかった。それは幸か不幸か。そんなことを考えて彼は、また悔しさで一層顔を歪める。
なんという様だろう。裏切られ、追われ、追い詰められ、1人になって。
最後はきっと――今は考えたくもない。
ああ。本当に。何1つ、思う通り上手くいかない。――あの日の敗北から。ずっと。
彼は深く息を吐くと、暫くの間木陰に座り込んだままでいた。途方に暮れていたと言っていい。身を潜め、取り留めもない思考に耽った。
今後のことを想像しては、悪い展開しか思い浮かばなかった。
ふと、彼は近くの茂みが揺れる音を聞いた。風が揺らすそれではない。それは、茂みの中を掻き分けて何者かがこちらに近づいてくる音だ。
「――っ!?」
彼はその場から飛び退いた。音のする方向に対し、背凭れにしていた木を盾にして身を隠す。
警備隊の奴らか? 接近する者に備えて身構え、緊張し、手探りで武器に手をかけようとしたその時。彼はあることに気付いた。
まだ、捕まりたくない。諦めていないという、その気持ち。
思わず笑みが浮かんだ。そうだ。まだ何も成せていないのだ。
己の気持ちに気付くと、最後まで抵抗しようと、そう思った。
右手を腰のホルダーに差した柄に回し、左の腕に嵌めた金色の腕輪を正面に翳す。先制攻撃だ。木陰から様子を覗い、出会い頭の不意打ちを狙う。
(さあ、誰でもいい。きやがれ……!)
そして彼は破滅の道連れにする相手の姿を確認すると、深く息を吐き、緊張を解いた。
茂みから姿を現したのは、黒髪の若い男だった。
袴のように裾の広がったズボンが特徴の道着風の制服。一見無愛想に見える精悍な東国風の顔立ち。両の腰に差した4本の武具は警棒ではなく旋棍。
男の服はこちらに負けず劣らずボロボロだった。自分で手当をしたのか、所々に包帯を巻いてあるのも見える。だが茂みを掻き分けて歩く姿は堂々としていて、酷い外見の割に傍目からは何事もなかった様にも錯覚してしまう。
どこか超然とした雰囲気がある道着の男。再起塾の少年は隠れていた木陰から出ると、不機嫌そうに男に声をかけた。
「……アンタかよ。先生」
《用心棒》。アギ達やクオーツ達にそう呼ばれている男だった。
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再起塾の少年は、見知った道着の男が現れたのを見てわざわざ顔を顰めた。いつの間にか味方だと、認識してしまっている自分に気付いたからだ。
仲間内で『先生』と呼ばれているこの男。その正体はリーダー格であった少年も詳しくは知らない。『依頼主』が紹介してきた『対エース用』の助っ人。その程度だった。
エース資格者達を凌駕する実力を持つ武芸者。だが行動を共にしてもこちらの作戦に応じることは少なく、単独行動が多いので不審な点が多々見られた。「使えるが怪しい」「駒としては扱いづらい」というのが少年の男に対する評価だ。
しかし。窮地を何度と助けられたせいか、無意識の内に《用心棒》のことを少なからず信用していたらしい。彼の姿を見て緊張を解いたくらいには。
そんな自分を、再起塾の少年は恨めしく思った。
「もう起きていたのか。目を覚ますのは少し先だと思ったが」
「あ?」
「ほら」
少年が内心を隠すように顔を顰める一方。《用心棒》は睨みつけてくる少年に向かって安堵、感心、そういった感情を含んだ微かな笑みを見せた。それから手にしていた何かを少年へと投げ渡す。
少年は反射で投げられた物を受け取った。それは、水の入ったボトルだった。
「こいつは?」
「喉、渇いているだろ? 声が掠れている」
いつになく親しげに話し掛けてくる《用心棒》。
水のボトルに少年は見覚えがあった。ボトルが脱出したアジトにあった備蓄だと気付くと、彼は腑に落ちないといった顔をする。
疑問を覚える。どうして『先生』がここにいるのか。
「……まさか。アンタが俺を助けたのか?」
確認するように訊ねると、
「暫くの間、休んでいるといい。外は変わらず警備隊がうろついている。それに他はまだ動けそうにない」
「外、って。大体ここはどこだよ。他、ってのはなんだ?」
「君が最後だった。拾うことができたのは君を含めて13人。今は簡単な手当てだけして近くで休ませている」
「……」
予想以上の事を言われ、呆れるしかなかった。
あの決死の脱出劇の最中。仲間を救出するような余裕がどこにあったというのか。
再起塾の少年は深い溜息を吐くと脱力。背にした木の下に座り込み、徐にボトルの水を口に含んだ。余程喉が乾渇いていたのか、ただの水が死ぬほど美味い。
「……」
「少しなら携帯食もあるが」
「寄越せ! ……なんだこれ」
袋詰めされた棒状の携帯食料。中身は乾燥させた穀物らしきものを固めた何か。表面は粒粒で、艶のある白いのと黒いのがある。
乾パンのような一般的な携帯食、保存食といったものとは随分毛色が違う。
「どちらかといえば菓子だな。膨張米という、米を膨らませたものを水飴やチョコレートで固めてある。東国の『おこし』に近いものだが……」
「米にチョコだぁ? 東国人て奴は妙なこと考えるな」
「……。そうだな」
どこか含む所のある苦笑。《用心棒》は少年の指摘に半分だけ応じた。
確かに東国の食文化は古く、麺料理をはじめとする料理の殆どは東国が発祥とも云われている。食材、調理法、調理道具も。昔から東国料理は多種多様にあって雑多。料理の中には「これ料理?」といった見るからに奇抜なものもある。
近年だと中央に先じて東西南北、4地方の食文化の融合を目指した、『多国籍料理』と呼ぶべき料理の開発にも東国は積極的だというが。
この『おこしに似た何か』に関していえば違う。
「まずは食べてみるといい。意外だと思うぞ」
「……」
「甘いものは駄目か? 疲れた時には良いと思うが」
「そういう訳じゃねぇよ」
妙に推し進める《用心棒》こそ意外だと思っただけだ。
しかし空腹なのは変わりない。昨夜から何1つ口にしていないのだ。渇きを癒し空腹を思い出してしまえば腹を満たしたくて仕様がない。
再起塾の少年はおそらく初めて見るであろう『駄菓子』、チョコバーを一口、おそるおそる齧った。
齧った瞬間。サクッ、といったスナック菓子独特の軽い食感と、チョコレートの甘味が口いっぱいに広がる。
「……っ、こいつは……!」
「意外と合うだろ? これを再現するのに結構苦労したよ」
「……自作なのか?」
駄菓子の味よりも唖然として驚く少年。
正確には。
この『ポン菓子』の一種らしき駄菓子は《用心棒》自身が企画、出資して業者に頼んで作ったものらしい。自作というよりも自前というのが正しいらしいが。
まあ、そんなことはどうでもいい。
チョコバーは駄菓子だけあって軽く、一本だけでは腹の足しにあまりならない。少年は続いて白い方の駄菓子(*《用心棒》曰く、水飴を絡めたものがプレーンらしい)もすぐに平らげてしまう。
「……他にないのか?」
「試作のチーズ味とおはぎ味が。あとは膨張剤だな」
「ちっ」
膨張剤とは空腹を紛らわす薬だ。無味無臭の粉末状。あくまで非常用で好き好んで服用する者はあまりいない。
再起塾の少年は舌打ちをひとつして《用心棒》から駄菓子と薬を受け取り、ボトルの水で膨張剤を一気に飲み下す。胃の中を擬似的に膨らませ、それから駄菓子を黙々と齧りだした。
ちゃちな携帯食で、それなりの満足感を感じている自分を浅ましく思いながら。
「どうだ?」
「あ? ……ああ。チーズはともかく、おはぎ味は無しだろ。要するにこれ、あんこだろ? あんこがサックリする意味がわかんねぇ」
「……そうか」
味の感想を求められたので珍しく素直に答えると、《用心棒》は納得したのかしないのか、よくわからない顔をする。
まあ、米でできた菓子というのにチョコが合って、あんこが合わないというのが不可解なのは少年もわからないでもないけど。
逃亡中に訪れた束の間の休息。
空腹を満たして落ち着いた少年は、それにしても、と座り込んだまま考える。
目の前にいる道着男のことが、よくわからない。
作戦の邪魔になったと思えば壊滅の危機を救ってもいる。先のことはまだ未定であるが『依頼主』に縁を切られた今、エース資格者とも互角以上に戦える《用心棒》の力は貴重、今後も当てにしたい、というのが少年の本音だ。
だが。その《用心棒》こそ、裏切られた『依頼主』から紹介された人物だという事実を忘れてはいけない。
敵か味方か、今後仲間として信用してもよいか。再起塾のリーダーである少年は、それらの判別をつけるのに未だ迷っていた。
依然正体が明らかになっていない道着の男。彼は何故か今も自分たちと行動を共にしている。その理由は何だろうか。
ふとしたタイミングで《用心棒》が隣に座り込んできた。
その時に見えた男の背中は一体何にやられたのか、斜めにざっくりと裂けている。少年はギョッ、とした。服の裂け目から血の滲んだ包帯がはっきり覗いて見える。
重傷ではないのか? 内心驚きを隠して《用心棒》に訊ねる。
「しかしアンタも。随分派手にやられたな」
「見た目よりも傷は浅い。身体も動く。問題はない」
「……《青騎士》の野郎はどうした? いくらなんでもアイツらを倒したなんて言わねぇよな?」
「流石に」
《用心棒》は苦笑。
「やはりエース2人を相手にするのはしんどかった。機を見計らって途中で逃げたよ」
「ああ?」
「問題ない。囮の札を使ってしっかり撒いておいた。いくらなんでも《獣姫》、彼女の鼻……探索能力でも追跡は難しいはずだ」
訝しげな声を上げた少年に《用心棒》は、懐から符術の札を取り出してみせ、安全を保証した。だが少年は別に猟犬より質の悪い《獣姫》が、学外警備隊を率いて追跡してくる可能性を心配をしたのではなかった。
逃げた。そう言った《用心棒》のことを意外だと思うのは、男の実力を高く買い被っていたせいだろうか。けれど。
(こいつ……戦闘狂って奴か)
少年の目に映る傷だらけの道着男は、何故か惨めには見えず、むしろ強敵との戦闘を経たことで充足しているようでいて。
決して。自分のような負け犬、敗者の様には見えなかった。
再起塾の少年たちを逃がす為、昨夜の戦闘ではエース2人の足留めに徹した《用心棒》。彼は時間を十分に稼いだあとで戦闘を中断、アジトを脱出していた。
その夜の戦闘の最後。奥の手を使った《獣姫》が《青騎士》毎、一撃で倉庫を破壊した時。《用心棒》は瓦礫に埋もれた『フリ』をして、これ以上の戦闘を避けたのだ。
同じく倉庫の崩壊に巻き込まれた《獣姫》、《青騎士》の2人の行方は不明。間違っても自爆攻撃で自滅したとは《用心棒》も、話を聞いた少年も思っていない。
「強かった。人の身で魔獣の膂力と特性を扱う《獣姫》は勿論だが……《青騎士》、彼はまた凄まじいな。いかにも《騎士》といった外見に騙された」
慎重且つ大胆。そんな言い方では生温い。修羅の騎士。《用心棒》は《青騎士》の本質をそう評した。
修羅とは神話の上で語られる闘争の鬼神のこと。守護神とされる一方、他の神々に闘いを挑む恐れ知らずの悪神とも云われている。
戦の場にあって勝機とあらば、捨身の手段を迷いなく撃つ青の騎士。遥か上にいる強者に挑むように、己を顧みず常に際どい勝負を繰り返すその在り方。あんな戦い方を続けていれば幾つ命があっても足りない。
「だろうよ。《青騎士》といいエース資格者、つうよりも《Aナンバー》に選ばれる奴らはドイツもコイツも、全員がどこかイカレてる」
つい最近まで《C・リーズ学園》に在籍していた再起塾の少年が言う。退学の憂き目にあったものの、学園の事情に詳しい彼は《用心棒》の言葉に頷きそう答える。
今期の《Aナンバー》の中で一番まともそうな《青騎士》でさえ一種の戦闘狂なのだ。他は更に酷い。
本家戦闘狂のトップエースを筆頭に腹黒魔術師、気ぐるみ女は勿論のこと、大太刀背負った『なんちゃって文学少女』やら日頃から紙束に埋もれている自警部部長に至っては訳がわからない。
《符術師》だけに実は好きで埋もれているのではないだろうか。個々の能力も然ることながら、誰も彼も普段が普通でない。
少年を退学へと追いやった元凶である《精霊使い》もまた、今の3年エース勢に引けをとらないほどイカレている。皇帝竜事件を引き起こして、学園の一大勢力を公の場で壊滅させたという実績がそれを物語っている。逆に言えば《鳥人》は《Aナンバー》の中でも『イカレ具合』からして数段劣る。
空を飛ぶことしか能のない緑モヒカンの悪餓鬼など、そこらの雑魚と代り映えしない。《用心棒》にも一撃で伸されている。そこまで考え元学園の生徒、現再起塾の脱獄者である少年は思った。
《鳥人》に比べれば『あいつ』の方が、まだ《Aナンバー》らしかった、と。
《竜使い》。己の抱く《幻想》――最強と云われた黒竜の妄執に囚われ、伝説の再現の為と力を求めた挙句、魔石にまで手を出して狂った《幻獣使い》の少年。
再起塾の少年と《竜使い》の少年は、謂わば同じ穴のムジナだった。己の存在意義を示すように皇帝竜の強化と示威行為に全てを注ぎ、その果てに重度の魔力中毒までも起こした《竜使い》。彼の情熱にも似たイカレ具合を、再起塾の少年は身を以て知っている。
《竜使い》ユウイ・グナントはその後、《精霊使い》に『公式戦』で敗れたペナルティを負ってエース資格の剥奪と同時に《Aナンバー》を脱退。その上で露わになった悪事の責任と、そして療養を名目に学園都市からも離れることとなった。
追放されたと言ってもいい。敗者の末路だ。だが再起塾の少年は思う。
《竜使い》は負けたが、確かに他のエースに劣らずイカレていた。自分も《竜使い》と同じく力を求めたが『そこ』までは至らなかったと。
こうも思う。
イカれている。少年にはそうとしか言葉にできない『それ』こそ、第一流と呼ぶべき者たちが持つ資質、皆がエースと呼ぶ強者へと至るその為の資格ではないかと。
つまるところ。少年は力が欲しかった。
負け犬であるが故に。這い上がる為の力を、渇望していた。
少年の心情はともかく。《青騎士》のことで《用心棒》は話をこう締める。
「《青騎士》の彼とは、もうなるべく戦いたくないな」
「ああ? 今更あの野郎のイカレっぷりに怖気付いたってか?」
「そうじゃない。彼は戦いにおいて真面目で真剣過ぎる。求めるのは百か零、生か死か」
《用心棒》はいつになく饒舌に語る。
「そんな男と一度交えれば、必ず油断ならない命の遣り取りを迫られる。本気になればなる程にな。そうなれば俺は……」
血が滾る。そう言いたいのか。不意に口を閉じ、腕を前に翳して拳を握る《用心棒》。
彼が薄っすらと浮かべた不敵な笑みに、再起塾の少年は寒気を覚える。
「叶うなら。彼とは今と違った立場で、別の機会に死合いたいな」
「……ちっ」
呆れ過ぎて舌打ちしか返せなかった。
ああ。ここにも。《Aナンバー》共に匹敵するイカレた戦闘狂がいる。
今更ながら思い至った。
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