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幻創の楽園  作者: 士宇一
番外 アギ戦記 後編
175/195

アギ戦記 -護衛2日目(昼) 1

 前編のおさらい。そして作戦会議、その1

 

 

《前書きクイズ》

 

*前回の問題、アギの特性スキルに関しては引き続き回答を受け付けています。

 

Q.ユーマの砂の精霊である砂更。その《精霊器》である腕輪の特殊能力『3つ』を述べよ。(難易度D:ユーマはこの腕輪がなければ、何度命を落としていただろう……)


 

 +++

 

 

 『退屈なので』現状などを確認しようと考えた。

 

 アギは昨日の出来事やユーマから聞いた話を思い出しながら、思いつくままにノートにメモしてみる。

 

 汚い字で書かれた彼のノートを要約するとこうだ。

 

 

 

 

 ①今回のエース派遣、本来の任務:セイカ女学院の警備だけだった

 

 

 元は《セイカ女学院》からの依頼。《歌姫》に関して再起塾の『奴ら』から脅迫状が届いたのがきっかけとされている。

 

 学校と生徒達への危害を危ぶみ、セイカ女学院の責任者達は事前策として学内の警備を《C・リーズ学園》に依頼。生徒会長は《鳥人》と《精霊使い》という新人エースの2人を女学院に出向させた。

 

 セイカ女学院が学園に何故依頼を申し込んだのか、その経緯をアギは知らない。また。この時女学院側は《歌姫》マイカの護衛に関して何も触れていなかった。

 

 

 

 

(俺がユーマ達をおやっさんの店に連れて行った日くらいの話だ)

 

(この時にはもう、歌の姫さんは女学院を辞める気でいたんだよな)

 

 

 

 

 ②《歌姫》の護衛:実はエース資格者たちの事件介入だった

 

 

 ユーマらが依頼を引き受けたのは3日前。その時にはもうマイカは女学院に危害が及ぶ問題を起こしたとして責任を問われ、彼女は自主退学を勧められていた。

 

 清貧貞潔を宗とする校風にそぐわず派手な音楽活動を続け、他の生徒にまで多大な影響を与えた《歌姫》。厳格で保守的なセイカ女学院の責任者達は、今回の事件を機に学校の意に従わないマイカを追い出す口実としたらしい。実害のない段階での話だった。

 

 ここでマイカを切り捨てるようにして安全を確保しようとした女学院に対して「自分とこの生徒を守らん学校なんてあるかい!」と激昂、異を唱えたのがヒュウナーだった。昔から悪童と有名な彼であったが今や立派なエース資格者の1人。彼には彼なりの通すべき道理と正義があった。

 

 ヒュウナーとユーマがエース権限を行使する(知恵を回したのはどうもユーマらしい)ことでマイカの退学は一時保留となったものの、当の本人に退学届の受理を撤回する気はなく、転校どころか学園都市を去る気でいたことを皆に告げ、ユーマ達どころか追い出しにかかっていた女学院側にまで彼女に驚かされる事となる。

 

 現在のマイカは彼女の学籍と共にまだセイカ女学院に留まってはいるが、それも正式に退学手続きが受理される4日後まで。学生でなくなった彼女のその後はどうなるかわからないが、マイカの意思は固い。

 

 

 きっかけがきっかけなので、マイカのことに関しては事情をあとから知ったアギは勿論のこと、ユーマやヒュウナーは最初から納得はしていない。事件が解決することで事態が好転した時、マイカが『外』へ出ることを改め直した時に、彼女の居場所がなくならないようにと2人は考えた。

 

 ユーマ達は、受けた依頼の傍らでマイカの身辺警護に就くことを女学院に認めさせた。第一脅迫状は《歌姫》を狙ったもの。彼女を守らないというのは道義的にみておかしい。

 

 1人の少女にエース資格者が2人という大掛かりな護衛が必要だったかどうか。それは『うたひめうめた事件』で襲いかかった『奴ら』の規模と、エース資格者以上の実力を持つ《用心棒》の存在によってすぐに証明されることとなる。

 

 『奴ら』による拉致未遂は昨日で2度。確かにマイカは危険な立場にいる。彼女を学園都市に残るよう説得するにしても、元凶である再起塾を『奴ら』の企みごと片付けなければ彼女の安全はままならない。

 

 

 

 

(ヒュウも言ってたが、『奴ら』は去年学園を襲いにきた時とは全然違う)

 

(大体金がなくて犯罪に奔るあいつらが、金で雇い仲間を増やすなんてこと自体考えられなかった)

 

 

 

 

 ③再起塾の『奴ら』:《歌姫》を狙う目的は不明。裏で手を引いている奴がいる?

 

 

 学生犯罪者の収容施設である《再起塾》。そこの脱獄者である『奴ら』は学園都市内のあちこちに潜伏しては犯罪を手引きし、暗躍している。去年はリーズ学園にも『奴ら』は現れており、生徒会派閥争いの裏で傭兵として雇われていた。この時の事件はアギ達3人の活躍によって学内の侵入は未然に阻止されている。

 

 当時襲撃を仕掛けてきた『奴ら』の規模は約50人ほど。これが学園都市の全部とは言わないがしかし、現在《歌姫》を襲いユーマ達に撃退されて捕まった『奴ら』は、昨日の時点で300人を超えていた。

 

 勢力の規模が去年と違いすぎる。しかもその大半が『再起塾に金で雇われた学生』だったということが学外警備隊の方で調べた結果わかり、大きな問題となった。

 

 ただの学生崩れの集団がある程度組織化され、百人規模で動員する大規模な拉致を2度も行なっていることが『奴ら』を支援している黒幕、『雇い主』の存在を示唆していた。《歌姫》を狙うのも『雇い主』であろう。ただしその動機、目的は不明瞭である。

 

 《用心棒》は《歌姫》のみが使えるとされる《歌術》を危険視しているようだが。

 

 

 

 

(でも。氷の姫さんは《歌術》は暗唱法の一種だと言ってなかったか? となるとやはり歌の姫さんが狙われるのはあいつの歌、世界術式の方……)

 

(ん? そういや氷の姫さん、《歌術》のことは別になんか言ってなかったか? あれは……駄目だ、覚えてねぇ。あとで聞いとくか)

 

 

 

 

 ④《用心棒》:再起塾のイレギュラーにして正体不明のエースキラー

 

 

 いくら資金等の援助を受けているとはいえ、再起塾の『奴ら』は所詮烏合の衆。ユーマら学園勢を相手に数だけで地力の差は埋め用がない。その戦力差を覆すほど補っているというのが謎の旋棍使い、通称《用心棒》である。正直これまでの争いは彼1人にやられていると言って過言ではない。

 

 学園のエース達に引けをとらない武芸者。烏龍流武術の使い手であることからみてアギの予想では、生命力を《気》として発現し闘う力へと換える《闘士》だと思われる。その『技』のみでアギ、リュガ、ヒュウナーの3人を瞬殺レベルで圧倒したことを踏まえると、彼の実力は学園最強と同等かもしれない。

 

 《用心棒》で特に注意すべきは《武装解除》。武器を持って戦うことが前提である戦士にとって、手にした武器を『外されてしまう』この技は相性が悪いことこの上ない。

 

 《用心棒》は武装術式にも《干渉》できるらしく、彼に《盾》を剥ぎ取られてしまったアギは、1日経った今でも依然使用不可能のままだった。ユーマはあらゆる武具を無力化できる《用心棒》の事を『戦士の天敵』と評した。

 

 その正体に謎が多い《用心棒》。アギの知らない話として彼はミストや《黙殺》とは顔見知り以上の関係であり、ブソウの名も知っていた。烏龍流ならば同門である《剣闘士》クルスやその師ウロン老師とも無関係でないと思える。リーズ学園の関係者ばかりなのは偶然だろうか?

 

 身に纏う空気、立ち振る舞いからみても『奴ら』とは明らかに毛色が違う。しかし一方で《用心棒》は「自分は再起塾の人間」とアギ達に告げてもいた。何者であれ《用心棒》が連中に与して《歌姫》を狙う以上、彼との衝突は避けれそうにない。幸い『奴ら』との連携はうまく取れていないようだが。

 

 《用心棒》攻略の鍵となるのは……

 

 

 

 

(んー。武器自体を使わねぇガチの格闘系か、あるいは魔術師の間接攻撃か)


(どの道1対1であいつを抑えるのは無理だ。風森の姫さんがいねぇがここはユーマと氷の姫さんを加えた『あの連携』で……)


(あー待て待て。だから《用心棒》に戦力割いちまったら、また歌の姫さんの護衛が疎かになるじゃねぇか)

 

 

 

 

 ⑤護衛チームの陣容:三原色戦士パーティーよりマシになったけれど

 

 

 ユーマの任務復帰とアイリーンの加入によって魔術師系が充実。戦士系オンリーだったパーティーのバランスが改善された。護衛チームのブレーン役と、その補佐役となり得る2人の存在は何よりも大きい。アイリーンが抑え役になればユーマも突飛なことはしないだろう……と思う。(*アギの願望)

 

 しかし。反面して戦士系のメンバーは大幅に戦力ダウン。アギの《盾》は《用心棒》に封じられたまま、ヒュウナーに至っては昨日の騒動から連絡がなく行方不明である。前衛は唯一無事であるリュガが頼みの綱……になるのか?

 

 ネックとなるのはやはり《用心棒》。場合によっては戦力不足な気もする。そのあたりユーマはどう考えているだろうか。

 

 

 

 

(とりあえず俺の方はブースター(アームガード)で代用すれば役立たずにはならねぇはず。でも、やっぱもう少し人を集めた方がよくねぇか? 学校と歌の姫さん。両方を4人で、じゃなあ)

 

(あとヒュウ。お前は何してんだよ?)

 

 

 

 

「――……アギ。ちょっとアギ」

「ああ」

 

 生返事をしながらノートの上にペンをぐりぐり。他に考えることはなかったかとアギは思いを巡らせる。

 

「あとはそうだなぁ……」

「ねぇ、聞いてるの? シスターがこっち見てるわよ」

「んー」

「……」

 

 無視。

 

 考えるのに没頭しすぎて、折角下がった彼女の不機嫌ゲージが増加していることにアギは気付かない。

 

 

 

 

 ⑥《歌姫》について:氷の姫さんを挑発するのはやめてくれ。俺が死ぬ(マジ本音)

 

 マイカ・ヘルテンツァー。セイカ女学院に身を置く2年生で学外でも絶大な人気を誇る新鋭の『姫』。類ない美貌と躍動感溢れる抜群のスタイル、派手なパフォーマンスからして周囲にアイドル視されている。2つ名は伊達でなく歌は上手いし踊りもすごい。

 

 彼女のライブの秘密は、歌と音楽を媒体に亜空間を創ることができる独自の世界術式。歌に応じて様々な風景を創造して観客たちに魅せる。術式の詳細は今のところ不明。再起塾が彼女を狙う理由はこれなのだろうか?

 

 性格は活動的で奔放。気に入らない相手には徹底抗戦、誰だろうがとことん強気で攻める傾向にある。そうとはいえ彼女がアイリーンを敵視する理由がアギにはわからない。……何故とばっちりが自分に向かうのかも。

 

 口と同時に手が出るタイプ。これまで彼女にアギがやられたのは顔に『ぐーぱん』1回にすね蹴り2回。土下座状態からの頭ぐりぐり。ステージの上から豪快に蹴り落とされてもいた。

 

 

 

 

「あれ?」

 

 思い返して「あまり酷い目に遭ってねぇな」と思ってしまったのはどうしてだろう?

 

 そりゃあ《旋風剣・疾風突き》で彼方へ吹き飛んだり、予告なしに《シールド突撃》で突き飛ばされたりに比べたらマイカの仕打ちなんて……

 

「…………やべぇ」

「わかってるの? だったらほら、前を向いて」

 

 隣の声は聞いちゃいない。

 

 

 アギはユーマやエイリーク達から受ける、文字通り『ぶっ飛んだ』仕打ちに馴れすぎてしまい、異常な耐性ができてしまった自分に焦りを覚える。

 

 マズイ。このままだと。

 

 

 ――アギは《盾》で基本が『受け』だから、その内だんだんと気持ちよく……

 

 

「なるわけねぇだろうが!!」

 

 

 俺は……マゾじゃねー!!

 

 なんて、勢い良く立ち上がって大声で叫ぶものだから。

 

 

「……アギ?」

「マゾって。何言ってんだ、お前」

 

 

 隣の席のマイカも斜め後ろの席に座るリュガも。教室内にいる誰もが唖然として珍妙な空気に包まれてしまう。

 

 沈黙。自分に向けられる「何あの人?」といった女子生徒達のイタイ視線を受け、アギはようやく我に返る。

 

「あ」

「アギさん。貴方は……」

 

 低い声で彼の名を呼んだのは教壇に立つ年老いた女性。マイカのクラスで3限目の授業を受け持つ女学院の教師シスターだ。

 

 言わずもがな。只今授業中である。

 

 マイカ曰く、怒ると怖いシスターは授業態度の悪い生徒アギに言った。

 

「授業を無視して何かに没頭するのはこの際我慢しましょう。もしかすると私の方に至らないことがあるのかもしれませんから。しかし……いきなり叫んでは他の子の勉学の邪魔をするとは何事ですか!」

「は、はい!」

 

 確かに怒ると怖い。年季の入った鋭い一喝にアギだけでなく周囲の生徒も震え上がる。

 

 

「罰です。残りの時間、立って授業を受けなさい。……何をしているのです? その場ではありません。私の隣に来なさい」

「……え?」

 

 

 アギはこのあと、シスターの厳命で教壇の前に立たされて他の生徒達と向き合い、好奇の視線に晒されながら残り時間を過ごす事になる。

 

「……くっ」

 

 時折聞こえてくる少女たちの「くすくす」といった笑いを堪える声が、ものすごく恥ずかしい。リュガの馬鹿にした表情も見ればムカついてくる。

 

 晒し首の刑と同等の恥辱。屈辱だった。

 

 

「……何よ。せっかくあたしが助けようとしてあげたのに」

 

 

 マイカも機嫌を損ねているし。

 

 +++

 

 

 3限目終了と同時に正午。昼休み。

 

 

 《バンダナ兄弟》の2人とマイカは別行動を取っていたユーマ達と合流した。

 

 集合場所はなぜか校舎裏。

 

「なんかこう、皆集まると不良の溜まり場みたいになるね」

「場所を指定したお前が何言ってんだよ」

 

 原因は無駄にデカくて見た目ガラの悪いリュガと、妙に虫の居所の悪く顔を顰めているアギの2人せいであるが。

 

「アギ? なんか機嫌悪そうだけど」

「……全部お前のせいだ。覚えてろよ」

「は?」

 

 アギの言いがかりが濡れ衣かどうか。それは半々だ。

 

「まあ、いいや。皆をここに集めたのは、この時間、人気のない場所がここしかなかったからなんだ」

「どういうことだ?」

「ちょっと他の人に聞かれたくない話もあってね。アギ達お昼用意してないでしょ? 俺の方で準備してきたから。食べながら話そう」

 

 そう言ってユーマが取り出したのは3段重ねの重箱。

 

 弁当の中身はおにぎりと……中華料理。

 

「昨日の残りのものじゃねぇか」

「手抜きだな」

「うるさいな。ちゃんと温めなおしたから食べれるって。文句言うなら自分で調達して」

 

 それはできない相談だ。生徒の自炊を推奨するセイカ女学院には、購買のパンどころか学食さえないことをアギ達は既に知っている。

 

 朝夕は別としてここの生徒達の昼食は基本、自作の弁当である。

 

 

「あたしはいらないわよ。残ってるの脂っこいものばっかりだし、おべんとあるから」

「「「えっ?」」」

「……何よ、あんた達」

 

 マイカが料理できることが意外だった3人だったりする。

 

 

 

 

 食事しながらの作戦会議。今回集まったのはユーマとアギ、リュガ、マイカ。

 

 それに今日から護衛チームに加わったアイリーンの計5人。

 

「風葉。頼むね」

「はーい」

 

 今日はマイカの頭の上にいるユーマの精霊。風葉は主人の意を汲んで魔法を使い、その場でくるくると回りだした。

 

「何させてんだ?」

「アギさん静かに。……風が止んで、周囲の音が消えた? これは《消音》ですか?」

「そうだよアイリさん。正確には同系統の結界術式」

 

 

 風属性の操作系結界術式、《台風眼・音無》。気流を操り、周囲に音をかき消す風の壁を張り巡らせる《魔法》だ。

 

 台風と名が付いてはいるが、障壁となる魔法の風は微風程度で周囲への影響が少なく、結界とは悟られにくい。台風の目となる中心部は遮音効果が高く無風状態となる。

 

「風葉はこんな魔法こともできたのですね」

「まあね。単体効果の《消音》じゃ内緒話できないし」

「ですがそこまでするとなると、余程大事な話なのですか?」

 

 ユーマがアイリーンに頷いてみせると、アギ達も一段と真面目になって表情を改める。

 

 今から話すことをユーマは、この面子以外に漏らしたくなかった。

 

 

 持参したシートの中心に重箱を広げ、5人は車座になって座る。

 

「飲み物行き渡った? 弁当は適当に摘んで。さて。何から話すか」

「お前は午前中、何してたんだ?」

 

 訊ねたのはリュガ。

 

 彼はアギと違って朝のはじめからマイカの護衛に就いていたのだが、ユーマとはずっと顔を合わせていなかったりする。

 

「確か結界の構築とか言ってたな。氷の姫さんにも手伝わせて」

「うん。侵入者対策。セイカ女学院から受けた本来の依頼、アギ達はもう知ってるよね」

 

 アギとリュガは頷いた。

 

「女学院の警備は俺達がここに留まるための前提条件。マイカさんから離れず『奴ら』から守る為に必要なことなんだ」

 

 勿論マイカ1人を守り通すだけが目的ならば、彼女だけ安全な場所、例えば学園に避難して事が済むまで隔離しておくのが最善である。

 

 ただし。彼女を避難させている間に《歌姫》を探す『奴ら』が強行手段に奔る可能性は否定できない。女学院を襲撃されたりでもした時にマイカを優先する余り、被害を抑えられなかったなら見捨てたようで寝覚めが悪い。

 

 マイカを避難させた上で女学院に警備体制を敷きブラフにすることもユーマは考えたのだが、理由があってこの案は却下。昨日護衛から離れている内に検討した結果。マイカを1番安全に匿える場所は学園ではなくここ、セイカ女学院だとユーマは判断した。

 

 

「発想は単純なんだけどね、両方を守る策として女学院を城にしようと思うんだ」

「城?」

 

 そう。《歌姫》を守る城だ。

 

 『奴ら』を中に一歩も侵入させずに外で迎え撃つ。セイカ女学院の簡易要塞化。それがユーマの策。

 

「その為にまず、探知系の結界……というよりも罠かな? それを女学院の全域に張ってみたんだけど」

 

 ユーマは説明の為に適当な石を拾い、皆の前で手にした石を粉々に砕いてみせた。

 

 これは砂の精霊、砂更の《精霊器》である腕輪の力だ。戦闘ではユーマがよく石畳などを破壊している。

 

「こうやって《白砂の腕輪》で砕いてできた砂は、砂更の支配下に置かれて自由に操ることができる。それだけじゃなくて砂更は操る砂を知覚することだってできるんだ」

「そいつは、氷の姫さんみてぇな《感知》能力なのか?」

「そうだね。仕掛けてきたのは砂に触れた何かが、砂更を通じて俺にすぐ伝わるって仕組みのやつ」

 

 侵入者の早期発見、警戒を目的とした鳴子のようなブービートラップ、あるいは精霊のパッシブセンサーといったところか。

 

 ユーマとアイリーンは午前中に女学院の外周と見取り図を参考に侵入経路を割り出し、砂更の砂を地面にばら撒いていた。

 

「砂を撒いた地面が感知範囲ってわけか。アイリーンさんの《氷輝陣・銀の舞台》みたいなものだな」

「地表のみの平面展開という点ではそうですね。私と違いユーマさんは局所に複数展開できるのですけど」

 

 納得したようなリュガにアイリーンが補足説明を入れる。

 

 平面とはいえ術者を中心とした円の全域に、広範囲に渡って氷霧を張り巡らせる彼女の奥義。これと同じような結界を展開、学校1つ収める規模まで探知範囲を広げるとなるといくら精霊でも魔力が保たず数日も維持できない。

 

 そこでユーマたちが工夫を凝らしたのは、探知範囲を要点に絞リ込むことで消費を抑え効率化する方法だ。下位とはいえ砂を操る精霊の汎用性と、応用の効く自由度の高い能力がこれを可能にした。

 

 ユーマは探知系のトラップの他、校門などの大人数が出入りする箇所には、砂を多めに撒いて落とし穴のような襲撃対策のトラップも即時展開できるようにしている。

 

「《精霊使い》の力。つくづく出鱈目だと思い知りました」

「これもアイリさんがアイデアを出して手伝ってくれたおかげだよ」

「でもそれって地面だけなんだろ? 大丈夫なのか?」

「ヒュウさんでもない限り空から侵入してくるなんてありえないから。でね、アギ達にはこれに目を通しておいてほしいんだ」

 

 シートに広げられた大きな図面。それはセイカ女学院の見取図。ユーマが色々と書き込んでいる。

 

「簡単に説明するとバツ印のある箇所が侵入される可能性がある場所で、砂を撒いてきたとこがマル印ね」

「ちょっと。女学院の見取図なんてどこで手に入れたのよ?」

 

 もっともな疑問を口にするのは女学院の生徒であるマイカだ。

 

「それにここのバツ。あたしやイレーネが使ってる秘密の抜け道よ。シスター達も知らない場所なのにどうやって……」

「見取図も抜け道の情報も昨日、学園の報道部で買ってきた」

「……はぁ?」

 

 ユーマの言ったことがわからず、マイカは絶句。

 

 

 C・リーズ学園報道部。そこの取材班の中には学園の生徒に関わらず学籍を偽り、他校へ通って情報を集める特派員が数多く存在する。

 

 そんなスパイまがいな報道部員がセイカ女学院にもいるらしく。

 

 

「これが内緒話の1つ。俺達以外にも学園から影でバックアップしている人がいるってこと、当事者のマイカさんには伝えておくけど、イレーネさんとか他の人には絶対言わないでね。任務の支障に障るから」

「偽装学生に密偵? なんなのよ、あんた達の学校」

「俺に聞かないでくれ」

「俺にも」

 

 とんでもない話を聞かされたのはアギとリュガも同じだ。

 

 

 ユーマが学園に来て3ヶ月足らず。でも学園の裏事情に関してだけはもう、アギ達よりも詳しいかもしれない。

 

 +++

 

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