0-12 魔銃と狙撃手
ユーマVS《射抜く視線》
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魔銃と狙撃手
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「敵発見! 覚悟お!!」
「うわっ」
ユーマはあれから散発的に遭遇する1年生を《風弾》とスタンガンで無力化していった。
そんな中、突然1年生の女の子に襲われる。
「外したか。次は……ってきゃあああああ!」
「ストーム・ブラスト!」
竜巻で吹き飛ばす。だが少女は空中で体勢を整えると身軽に木の枝の上に降り立った。
「危ないわね。何するのよニンゲン!」
「こっちのセリフだってそれ……ん? 人間って? 君もしかして魔族?」
「そうよ。アタシはユンカ。勝負よ!」
「……エイリークみたいだな、こいつ」
ユンカと名乗った小柄な少女は浅黒い肌をしていて短い銀髪を二つ結びにしている。
先のとがった耳。瞳の色は紅。一般にダークエルフと呼ばれる魔族だ。
魔族とは魔力を体内に多く保有するエルフ、ドワーフといった亜人たちのことを指す。魔力をほとんど持たない亜人は鬼という。
「てりゃあーーっ」
「はやっ、ってか重っ!」
「誰が重いですってー!!」
飛びかかるユンカ。激怒しながら振るわれる双剣の一撃は重く、ユーマは凌ぐのに精一杯だ。
ユンカはエルフでは珍しい強化系魔族。体内の魔力のすべてを身体強化に費やすことができる。
小柄な体格を活かした素早い双剣の技を強化されたパワーで振るう彼女は強力な剣士だった。
「それっ、それそれ。どうだー!!」
「くっ……調子にのるなよ、ちびすけ!」
ユーマは黄色の金属板からスタンガンの電撃をイメージ。ガンプレートで双剣を受ける。
勘が良いのかユンカは瞬時に受け止められた剣から手を離した。絶縁処理なんて施されていない武骨な剣は激しく火花を上げる。
「きゃあ!」
「もらった」
ユーマは銃口をユンカに向け風弾を撃とうとしたその瞬間、
――撃てばあなたを……撃つ!
「――!!」
ぞくり、とした悪寒。ユーマは急遽飛び退き、木を盾にして身を隠す。
伏兵なんて気付きもしなかった。その隙にユンカは離脱してしまう。
「何だ? この嫌な感覚……狙われてる?」
ユーマは林の陰に隠れた。しばらくの間、動けなかった。
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「ジン!」
逃げ出したユンカは1人の少年を探し、木の上でやっと見つけた。
「ありがとう! たすかったー」
「ユン! 離れて。近い、顔が近いから!」
ユンカに抱きつかれて赤くなっている少年の名はジン・オーバ。
東国出身でユーマと同じ黒眼黒髪の少年。魔術師には見えず武器らしいものも持っていない。
「僕たちを除いて1年生はほぼ全滅だ。さっきまで隠れて《銀の氷姫》の様子を見ていたんだけど」
ジンはアイリーンの戦いぶりを思い出して身震いする。
「あの術式はマズイ。術者本人が振り回されている感じだったけど気配を感じ取られそうだったからこっちに来たんだ」
「アタシは《旋風の剣士》のところ。来た時にはもう20人くらいの屍の山ができていたわ」
実際に見たものは吹き飛ばされて木の枝に引っ掛かった同級生たち。モズの速贄のようだったとユンカは言う。
「1度離脱したところであの弱そうなのに遭遇したんだけど」
「ユーマ・ミツルギか。僕は結局狙撃できなかったよ」
そして2人は先程の事を思い出す。
「そういや最初の精霊はすごかったね。高等部、というよりも《中央校》の生徒はみんなすごいな」
ジンは東地方の分校である《E・リーズ学園》、その中等部から来た編入生である。
ユーマ達に感心するジン。割と素直な少年だった。
「どうするのジン? このまま負けるなんて嫌」
「ユンは隠れて様子を見てて。双剣の片方を落したんでしょ。……あとは僕がやる」
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ユーマはしばらくしてエイリークとアイリーンの2人と合流した。
「それは《射抜く視線》のジンでしょうか?」
先程の悪寒の話をすると2人から答えが返ってくる。
「優秀な《弓使い》の噂があったわね。東校じゃなかった?」
「おそらく高等部からこちらへきたのでしょう」
「どんな人?」
ユーマは気になった。
もしあの時撃たれていたらそこで終わっていたと感じたから。その正体が知りたかった。
「アンタと同じ黒髪の男。《射抜く視線》で狙いを定めて《幻想の弓矢》で獲物を仕留める弓使い。アンタが感じたのはその視線よ。きっと」
エイリークの説明をアイリーンが引き継ぐ。
「《幻想の矢》は『無属性の属性弾』です。不可視の矢と思ってください。《射抜く視線》に狙われると矢は必ず当たります。視線から逃れるか防御するしかないのですが姿を隠した彼の見えない矢をどうやって防ぐかが問題です」
ジンは狙撃手。身を潜めて狙い撃つのは彼の得意とするところ。現にユーマは狙われるまで気付かなかった。
「弱点は視線が強くて勘が鋭い奴は大抵狙撃の直前で気付くことができること。矢の連射はできないみたいだから一撃を防げば位置を特定することができるけど」
エイリークの捕捉にユーマも攻略法は大体理解した。
「こっちの方が数はいるんだから囮を使う方が早いって話か」
「ええ。《氷輝陣》を使えるなら私が適役なのですけど」
アイリーンはハンデで自ら《氷輝陣》を封じている。
「俺がやる。エイリーク、これ持ってて」
「これ?」
「試したいことがあるんだ。借りもあるし今度は逃げない」
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林の中を1人ぶらぶらする囮役のユーマ。不本意ながら餌に獲物が食いついた。
「今度こそ倒す!」
「お前かよ。厄介な」
剣1本で攻撃を仕掛けてくるユンカ。
そこにアイリーンが飛び込んできてユーマを《氷晶球》で庇う。
「アイリさん」
「ここは私が」
エイリークならともかく近接戦ではアイリーンの方が不利だ。
ユーマはガンプレートを青の金属板に換装。IMは《氷》。彼女を援護することにした。
「凍れ!」
「……」
「…………?」
ガンプレートは何も反応しない。……ただの金属板のようだ。
「何をしているのですか?」
「……ごめん。冷凍光線が出ない。俺も凍結系は苦手みたいだ」
「わ、私は苦手ではありません!!」
自覚はあるのに意地になるアイリーン。
それで隙ができた。すかさず放たれる《幻想の矢》。
「しまっ!」
矢に反応するも遅かった。彼女が腰に付けた《マーキングボール》が割れ、彼女の服に赤い塗料が飛び散る。
「ユーマさん!!」
「やったあ。ジン!!」
「……ごめんアイリさん。あとお前は吹き飛べ」
ストーム・ブラストで喜んで隙だらけのユンカを吹き飛ばす。今度は直撃した。
「さてと。1対1か」
近くにいることは今のでわかった。ユーマはガンプレートの金属板を白に換装して狙われるのを待つことにした。
「……覚えてなさい」
「……」
アイリーンの呟きは幻聴と思いたかった。
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ジンはユンカが吹き飛ばされるその間に狙撃ポジションを変更。木の上を移動していた。
「隠れてって言ったのに。仕方ないなあ」
ジンはユーマが囮だというのはわかっていた。
ユンカにはもしも狙いを外したときに追撃してもらいたかったのだが彼女を餌にアイリーン・シルバルムが釣れた。彼女が隙を見せたのは幸運にすぎないが仕留めたことは大きい。
ユーマはともかくエイリークは近接型。《感知》特性を持ち遠距離攻撃が可能な《銀の氷姫》がいないのであれば状況はジンの方へ有利に傾くはず。
「あとは彼か。あのブースターは見た感じ特殊なものだけど射程はこちらが上だ。問題は僕が一撃で射抜くことができるかどうかだけど」
空の両手を見るジン。手にはじっとりと汗ばんでいる。
「……やるさ。このまま何もせず負けるのは僕も嫌なんだ、ユン」
ジンは気持ちを切り替えて何もない両手で『弓を構える』。『矢をつがえて』、『弦を引く』。
《幻想の弓矢》
弓という幻想を操り幻創の矢を放つゲンソウ術の弓術。
威力こそジンのイメージ通りのただの弓矢にすぎないが不可視、無音、無限の矢を持つこの技は遠距離からの狙撃を得意とするジンと相性が良かった。
ジンはユーマを見る。彼の左肩にあるボールを見据える。
《射抜く視線》
ジンの放つ矢は彼の視線に誘導され、その名の通り見たものを射抜くことができる。
この技を身に付けた経緯は本人しか知らない、特異能力だった。
この能力を使うときだけは優しい雰囲気を持つ少年も鋭く目を光らせる。
「――!!」
強すぎる視線を察知して振り向くユーマ。
振り向きざまにガンプレートを向けるが狙いはジンに向いていない。当てずっぽうだ。
(気付かれても隠れなかった時点で矢は当たる。僕の……勝ちだ!)
ジンが矢を放つのとユーマがガンプレートを撃つのはほぼ同時だった。
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――来た!!
1度感じたものと同じ悪寒にユーマは振り向く。視線を感じる方に向けてガンプレートを構えた。
(狙う必要はない。方向さえわかればいい。……あとは『再現』できるかどうかだ)
白の金属板から流れ込むイメージをユーマは《補強》する。
イメージは太陽。空を見上げれば感じることのできる――あの光の眩しさ。
「いけっ、閃光弾!」
ユーマの周囲で光が弾け、誰かが驚きの声を上げる。
白の金属板に付与されたIMは《光》。
光は火をはじめあらゆる属性に備えられているが純粋な光属性の基本IMを構築できるのは学園の生徒では天才兄妹の妹、ポピラ・エルドだけ。
ユーマは眩しさで目を開くことができない。近くにいるアイリーンも同じだろう。
しかしジンの矢はユーマを掠めただけで外れた。閃光弾はジンの『視線を逸らす』ことに成功したようだ。
(囮役はおわり。あとは)
「そこまでよ」
エイリークは目が眩んでしゃがみ込むジンに短剣を突き付ける。
彼女はユーマの持つ《遮光》の付与された砂除けのゴーグルを身につけていた。1人だけ閃光弾が効かなかったのだ。
ずどーん。
目の見えないユーマは誰かが吹き飛ばされる音を聞いた。
つまりエイリークは容赦しなかった。
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1年生は結局制限時間前に全滅。
ユーマ達はアイリーンの被弾、とやられた本人は不服だが1年生にすれば上出来といえる結果で彼らの洗礼式は終わった。
エイリークは最後をこう締める。
「あれだけのハンデを与えてあの人数差の結果がこれよ。これが実力。でも貴方達はこの1年で私達と同じレベルまで上ることだってできる。崩れた自信は自分で積みなおしなさい。貴方達はまだ強くなれる……あの《銀の氷姫》を『倒した』のだからね。あのアイリーン・シルバルムを!!」
「……」
「……覚えてなさい」
その呟きが隙を作らせた自分なのか、撃ち抜いた彼なのか、
それとも目の前で堂々とする彼女に向けて言ったのかをユーマは判別できなかった。
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洗礼式終了後。
学生ギルドから報酬を貰うとユーマ達はそのまま打ち上げをおこなう事にした。
アギやリュガを呼んでエルド兄妹も参加。
そして、
「僕たちも参加してよかったんですか?」
「いいのよ。洗礼式は1年生との交流のためでもあるの。報酬も交際費に使われるのが伝統よ」
ジンとユンカの2人も加えられた。
市街のとある飲食店に入るとそれぞれ適当にメニューを注文していく。
「こいつらが今回の敢闘賞の1年か?」
「そうね。他にもアタシ達が受け持った中では何人かいたけど目に付いたのは彼らよ」
ジンたちを見てアギはエイリーク達に訪ねた。それになぜかユンカが答える。
「そうよ。《銀の氷姫》を射抜いたんだから。ジンはすごいの!」
「ユン! すいません。あれはルールと場所が僕に有利だっただけです。実戦では先輩には敵いません」
「気にしていませんよジンさん。……ええ、私は」
嘘だろうと思ったが、誰も口にしなかった。
「おい。《ガンプレート・レプリカ》の方はどうだ。今回はお前の要望通りカートリッジは『基本属性のIM』のみにしたが」
「うん。おかげで風以外の属性も扱う事ができた。不向きな属性と『使ったことのない魔法弾』の再現は無理だったけど」
「氷属性ですね。そこは私の仕事です。カートリッジを特定の術式の補助を目的とした《インスタント》仕様にすれば使いやすくなるはずです。汎用性はなくなりますが換装できますので」
ユーマとエルド兄妹は今回の実戦データを元にガンプレートの改良について話し合った。
この兄妹、興味のあることに関して話すには人あたりは良い。
「新しいカートリッジもだけどガンプレートのオプション、追加装置も考えて欲しいんだ。発射音を抑える消音器とかどうかな?」
「追加装置だと!? 何だその創作意欲を掻き立てる言葉は! ブースターの補助術式を換装させる仕組みだけでもおもしれぇのに。よし。詳しく話せ。今から創るぞそれ」
「……馬鹿ですね」
「アンタ達、あとにしなさい。……飲み物はみんな持った? 今日はお疲れ様。次は《昇級試験》! 全員のランクアップを目指して張り切っていくわよ」
エイリークの乾杯の音頭に合わせてグラスを掲げる。騒ぎ出す仲間達。
ユーマが学園に来てからまだ1ヶ月も経っていない。
でもエイリークやアギ達に出会い、多くの仲間に囲まれた学園生活。この日常をユーマは楽しんだ。
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