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幻創の楽園  作者: 士宇一
番外 アギ戦記 前編
159/195

アギ戦記 -再起塾の《用心棒》 3

《霧影》VS《用心棒》?

 

 注意書き:ミストが本気になるという状況は、極めて切羽詰まった時です。今回は?

 

 +++

 

 

 アギは合流したリュガと共に、マイカを連れて学芸会館へ。先にリュガが暴れ牽制したためか、今のところ襲撃はない。

 

 しかし。ステージの開始時間からはもう、20分も遅れていた。

 

 リュガを先頭に急ぐ3人。《盾》を使えないアギは後方にいて警戒に専念している。

 

 

「館の前や中で、待ち伏せなんてねぇだろうな……」

「大丈夫。学芸会館は学園都市が運営する公共施設よ」

 

 アギの懸念に答えたのは、彼の前を走るマイカ。館の警備は学生ではなく大人、つまりプロがして厳重とのこと。

 

「だから中に入れば、とりあえず安全なの」

「そうか。よくこんな場所借りれたな」

「みんなのおかげよ。《歌姫》の歌を聞いてくれるみんながお金カンパして、立派な舞台を用意してくれるから」

 

 何があってもみんなに応えないといけない、とマイカは前を向いて走る。

 

 アギは素直に感心した。

 

「なんかすげーな、お前」

「ふふっ。今頃惚れた?」

「……そんなんじゃなくて。体力あるよな」

 

 ふと思ったが彼女、アギと逃げまわってからずっと走りぱなしだが、息を切らした様子は見られない。今も大剣片手に猛然と走るリュガに遅れず付いていってる。

 

「足も速いし、ランニングなら風森の姫さんくらい走れんじゃねぇか?」

「……」

 

 茶目っ気のある微笑みから一転。

 

 マイカはひと睨みすると、アギを無視するように走り続けた。

 

 

「……ふん」

「? なんだよ。いきなり」

「アギ、ヒュウナーはどうした?」

「あいつは……」

 

 《用心棒》にやられたかも知れない。そう説明すると、アギだけでなくマイカも表情を曇らせる。

 

 ところがリュガは。

 

「そうか。だったらあいつは先輩たちに頼もう」

「先輩?」

「ユーマがな、報道部を経由して応援を寄越してたんだよ。学外警備隊も俺より先に手配していやがった」

「あいつが?」

 

 学園にいるユーマのバックアップが早速功を奏した。

 

 リュガが警備隊に聞いたところ、この辺り一帯は今、学外警備隊による警戒網が敷かれている最中らしい。彼が合流する前にぶっ飛ばしたという『奴ら』もまた、包囲されそうになって慌てて逃走を図る連中とかち合ったからだとか。

 

「なんで、どうやって」

「知るかよ」

 

 用意周到というか、代理に就く彼らのことを心配、あるいは信用していなかったというべきか。

 

 後者だとしても、失態を演じた2人は言い返せない。

 

「ユーマもこっちに来てるのか? それとも報道部、つうとヒュウの先輩の忍者か?」

「わかんねーよ。後回しにしろ。俺達がやるべきことは1つだ」

「……そうだな」

 

 マイカを無事にステージへつれていくこと。学芸会館はもう目の前だ。

 

 

 

 

 一方その頃。武芸者と忍者が対峙している。

 

 武芸者とは《用心棒》とよばれる男。《歌姫》の身柄を確保に来た、再起塾に加担する謎の旋棍使い。

 

 そして忍者とは、ヒュウナーの救援に駆けつけた(と思う)《Aナンバー》の1人。

 

 赤いマフラーを靡かせている(*風は吹いていないのに)その男は、学園の報道部隠密班筆頭。その名も《霧影》ミスト・クロイツ。

 

 前置きしておくと、ミストは盗撮を得意とする念写能力者カメラマン、変態である。

 

 

「……フフ。待ちに待った《歌姫》のイベントがもう15分も遅れている。邪魔する奴ぁ、どこのどいつだあ!」

 

 

 登場して間もなく「お前何しに来たの?」と言わんばかりの似非忍者であるが。

 

 

「――と。フザケるのはここまでにしよう。……まさか。まだ学園都市にいたとは」

「ミスト・クロイツ。相変わらずだな」

「……フフ。それは勿論」

 

 

 苦笑する《用心棒》を見てミストは、マフラーで隠した口元に薄く笑みを浮かべた。

 

 +++

 

 

 なんや。これは? ヒュウナーは戸惑っている。

 

「ヒュウ。立てるかい?」

「あ。ああ……」

 

 ミストだ。彼がいつもと違う。真面目なのだ。

 

 目付きが、身に纏う空気が、鋭く研ぎ澄まされている。こんな彼の姿は「ブラザー」と呼び合うヒュウナーさえ知らない。

 

「報道部を訪れた後輩ユーマの話を裏で聞き、まさかと思いここまで来たが……こんな場所でまた会えるとは思いもしなかった」

「えっ?」

 

 ミストはヒュウナーに手を貸すと《用心棒》を一瞥。睨みつける。

 

 まさか。威嚇している?

 

「ブラザー?」

「ヒュウ。あの男の相手は荷が重かっただろう。ここは俺に任せバンダナ君達と合流するといい」

「え? ええっ!? ちょい待ち。戦うならワイはまだ」

「……ふぅ。目的を見失っているな。ならはっきり言おう。退けヒュウナー、君の任務は失敗だ。理由はわかるな?」

「ぐっ」

 

 場を離れている間にマイカを攫われかけた。これは油断と言っていい。

 

 アギたちがいれば問題ないだろう、というヒュウナーの慢心。ユーマが誰にしてやられたか、彼はその目で見てもいたのに。

 

「後輩がいないとわかっておきながら、どうして護衛を人任せにして場を離れた? 第一『マイカ嬢の監視』は、君が女学院から任された本来の仕事だろう」

「それは、けどっ」

「鳥籠は御免だ? マイカ嬢の自由にさせてあげたい? ならばその責任は最後まで自分テメエが果たせ。それができてこそのエース、学園の誇る《Aナンバー》だ。俺はエース資格者でもないバンダナ君達にまでこの責は問わん」

「!」

 

 すべて君の過失だと言うミストに、ヒュウナーは言葉がない。

 

「ミスト。ワイは」

「君と比べあの時の後輩はどうした? 思いだせ。君と分断された彼は、精霊がいるとはいえあの男を加えた何十人も相手に1人で、指1本彼女に触れさせなかったぞ」

「あいつは……」

「確かに『自殺点』なんて真似をしたがな」

 

 それでもマイカを不躾な悪意に触れさせず、怖い目にも、痛い目も遭わせなかった。

 

 いきなり埋めたのは緊急の避難措置。その後マイカの怒りを買うのも計算ずく。ユーマは拉致されかけた彼女の恐怖と不安のはけ口を、わかりやすいように己に向けただけ。

 

「後輩がそこまでせざる得なかった状況で君は、何をしていた?」

「っ」

 

 まんまと陽動にかかり、足止めを受けて、身動きがとれないでいた。

 

 つまり今回と同じだ。

 

 事態に慌ててアギを発見した時。逃げる時間を稼げばよかった? 違う。《用心棒》に瞬殺された時、ヒュウナーはあっさり負けを認め、「十分だ」と浸っただけ。

 

 十分? それではいけなかったのだ。前回も今回もヒュウナーが常にマイカの傍にいて、危険を察知すれば彼が逸早く彼女を連れ、空へ退避させるのが最善だった。女学院の外へ出さないことが1番だというのは言うまでもない。

 

 

 そもそも襲撃を受けたあの日。「護衛がいるのなら外へ出たい」と気軽に言ったマイカに対し、窘めようとしたユーマを無視して安請け合いしたのはいったい、誰だ?

 

 ヒュウナーに向けるミストの目が、厳しい。口にする言葉もまた。

 

 ミストは言い切った。事を招いたのはヒュウナー、すべてお前の甘さだと。

 

 

「敵を侮り仲間を過信し、他人どころか己の意を通す力もなく。挙句に失敗。ヒュウナー、エース失格だ」

「……」

「前回は後輩が君のツケを払ったが、今回の尻拭いは俺がしよう」

「……くっ」

「身体は動くな? 今、君がやるべきことは」

「ちっくしょぉぉぉぉ!!」

 

 やるべきことはわかっている。アギと合流してマイカを守ることだ。

 

 ヒュウナーは悔しさで歯を食いしばり、地を蹴った。飛翔してこの場を離脱する。

 

 ミストが1人空を見上げ、ヒュウナーを見送った。

 

 

 失敗しない人などいない。次に活かせ。

 

 と、飛ぶ彼の背に先輩風を吹かせて。

 

 

「……さて」

 

 ミストは改めて《用心棒》を見た。

 

 道着風の制服を着た再起塾の男。彼は手にした旋棍は下ろしたまま、ミストをじっと見つめている。話が終わるのを待っていたかのように。

 

「お待たせした。柄にもなくつい長話を」

「いや。面白いものが見れた。退屈はしていない」

 

 《用心棒》は苦笑した表情を戻さずに言葉を交わした。

 

「お前の後輩か」

「ええ。モヒカンの彼は俺が目をかけています。バンダナ君達はブソウの後輩です」

「ブソウ・ナギバか。懐かしい名だ」

「そうでしょうね」

「お前が先輩面をするところなんて、目にすることは一生ないと思っていた」

「……フフ。お恥ずかしい」

 

 ミストは微笑するだけ。《用心棒》も。

 

「俺が仕掛けるとは思わなかったのか? 話の間、隙だらけだったが」

「勿論。俺の知る貴方は、正面から堂々と打ち勝つことを信条とする武人そのもの。そう。今代の学園最強、クルス・リンドのように」

「……」

「変わらないですね。貴方は」

 

 突然の再会。2人は旧知の間柄であった。

 

 

 旧交を温めるのはここまで。《用心棒》はミストに訊ねる。旋棍を構えて。

 

「ミスト。次はお前が邪魔をするか」

「逆でしょう。どうして貴方が俺達の前に立つのです? 再起塾の脱獄者風情などと与してまで」

「……」

「答える理由がない、ですか。不器用に無言を通すのも貴方らしい。……ならば」

 

 ミストが纏う空気がまた変わった。彼も戦闘態勢をとる。

 

 手にする武器は、写真。

 

「ミスト。俺は」

「おーれぇ? 随分と標準語がお達者になって。そこは拙者で御座らんかぁ?」

「――疾っ!」

 

 ミストもいきなりだったが、《用心棒》も突然トンファーを投げつけてきた。

 

 彼を刺激する何かが、ミストの言葉にあったらしい。かちんときた。

 

 ブーメランの要領でトンファーを投擲するこの技は烏龍流旋棍術の飛技。《用心棒》は本気でミストを狩りにかかる。

 

 首を刈る一撃。回転しながら飛ぶトンファーは、ミストの身体を……

 

 

「あーれぇー、お代官様。そんな、《吾霧体ごむたい》な」

 

 

 すり抜けた。

 

 トンファーは旋回して再度ミストの背後を襲うが、それもまたすり抜ける。

 

 ゲンソウ術を発動している? ふざけてくるくると回るミストに《用心棒》は舌打ち。手元に戻ってきたトンファーを難なく手にする。

 

「ちっ。やはり威力を『散らされる』か」

「……フフ。これでも痛いんですよ、ほんの少し」

 

 今までになくイラッとくる《用心棒》。目の前の似非忍者は厄介な相手なのだ。

 

 打撃斬撃といった攻撃は、身体を霧状に《現創》できるミストには有効打とならない。

 

「あと誰が官職だ。昔の事掘り起こして、闘る気か」

「本当に変わらないですね、貴方」

 

 生真面目で、冗談が通じない。意外と短気。

 

 今にも討ちかからんとする《用心棒》を前にミストは平然。

 

「貴方がでしゃばるおかげで、こっちもキャラ崩してまで相手してるんです。そちらにも相応のダメージを受けてもらわないと」

 

 割に合わないと言われれば、《用心棒》の目も鋭くなる。

 

「巫山戯てるな」

「……フフ。俺の《吾霧体》は貴方もご存知ですね? 霧となる体は恐ろしく軽く、脆い。今の俺は物理攻撃への耐性がものすごく高い反面、身体のかたちを維持するのが精一杯。歩くこともままならず、手はほら。紙切れ1枚を持つのがやっと」

 

 そう言ってミストは手にした写真を裏にして見せつける。

 

「ですが」

「……お前」

「退け、《用心棒》。何を考えてか知らないが、馬鹿正直にマイカ嬢を説得しようとした時点で貴方は失敗したのだ」

 

 ミストが珍しく戦意を剥き出しにして、《用心棒》を見据えている。

 

 許さないといったように。

 

「教訓としてヒュウナーにはああ言ったが。敵も味方も、余計な混乱を生じさせているのは全部貴方のせいだ。これ以上場をかき乱すな。害しかない」

 

 ユーマとアギ、リュガにヒュウナーも。皆が《用心棒》の存在に引っ掻き回されている。

 

 男との実力差に愕然とし、マイカの護衛という本来の目的や己を見失うほど警戒して、再起塾にしてやられている。

 

 だけど見誤るな。ミストは言った。

 

「今回はきっと、偶然の巡りあわせだろう。俺は、貴方が何者かを知っている。貴方と相対する事態は俺達にとって想定外過ぎた」

「……」

「《歌姫》を巡る争い。これには俺達の学園にいる馬鹿が1枚噛んでいる。故に彼女たちを巻き込んだ俺達が責任を取る」

「……。だから退け、いや。俺にこの件からすべて手を引けと、そう言いたいのか?」

「そのとおり。今更貴方がここにいる理由、その目的は問いはしない。あなたの都合も。相対した以上障害なんです。俺達にとって貴方は」

 

 そして。俺の方からは退く気はない、とミストの目が言っている。

 

 それで。《用心棒》は笑った。今度は面白そうに。

 

 敵と見定める様、獰猛に。

 

「言うようになった。一応訊こう。なんだ、その手の写真は」

「……フフ。ご存知でしょう?」

「そうか」

 

 見せ札か、それとも切り札か。

 

 《吾霧体》程度ならば、《用心棒》は破ることができる。しかし。得体のしれない写真を手にするミストは不気味。警戒せざる得ない。

 

 《用心棒》は知っているのだ。ミストが隠している彼の写真の、真の力を。

 

 

 例えば。ミストが先程使った『代わり身の術』。これは別に忍術でもなんでない。もっととんでもない代物だ。本当はある条件をクリアすると、被写体を対象にその写真とモノの位置を『交換』することができる。

 

 ヒュウナーを庇った時のように、ミストは人だって写真と『交換』できる。術式発動の有効距離に制限はあるがそれでも、『この場からC・リーズ学園まで』は優に届いている。

 

 つまりだ。ミストは条件付きで応援を瞬時に喚ぶ事ができるのだ。それはまるで忍法、『口寄せの術』のように。

 

 《Aナンバー》全員の強制招集。《用心棒》が懸念しているのはそれだ。

 

 全員といかずとも、ミスト以外にあと3人。

 

 《剣闘士》や《黒鉄》、《烈火烈風》といった学園のエース勢が揃えば――

 

 

 互いに睨み合ったまましばらく動かない2人。先に動いたのは《用心棒》だった。

 

 彼は戦意を解いて武器を収めたのだ。

 

「む?」

「……成程。時間稼ぎというわけか。まんまとかかった」

「そう思いますか?」

「ああ」

 

 《用心棒》は言った。己の力を過信したことはないと。

 

 ちなみにミストが手にした写真は発動条件を満たしていない。写真は――うさベアさんを脱ぎ脱ぎしている半裸のメリィベル。ただの盗撮だ。ミストのブラフを見切った上で、《用心棒》はそう言ったのだ。

 

 続けてこうも言った。

 

「引き際のようだ。お前と『彼女』。この組み合わせは正直、今の俺には荷が克ちる」

「ご謙遜を。でも褒め言葉と受け取っておきましょう。ねぇ」

「……」

 

 ミストが背後に向けて同意を求めても、その場に佇む『彼女』は無反応だった。

 

 そう。写真など使わずとも、ミストに援軍が来たのだ。

 

 

 街の中では場違いに目立つ、黒ローブを身に纏いデスサイズを手に持つ死神。フードに隠された素顔と僅かに覗く蒼い双眸。

 

 彼女は学園の元エースにして現報道部の幽霊部員。ユーマの要請に応じた報道部部長が、非常事態に緊急派遣したスーパーリザーブ。

 

 その名は《黙殺》。魔術殺しのアサシンである。

 

 

「君も久しぶりだな。元気そうで何よりだ」

「……。ゴザるの人……?」

「……フフ。違うよシーさん。彼は拙者の人だよ」

「シーさんはやめて。……そうだった?」

「……」

 

 黙り込む《用心棒》にぺこりと一礼する彼女。

 

 《用心棒》はすごく、やりづらそう。

 

 +++

 

 

 ようやく学芸会館に辿り着いた。

 

 

 改めて説明すると。学芸会館は学園都市の区画ごとに複数用意されている、小中規模の集会施設だ。運営は学園都市。公共施設である。

 

 音響をはじめとする設備や観覧席が整ったこの施設は合唱や吹奏楽、演劇など、文化系学生活動の発表会や演習の場として貸し出されている他、都市の外から招いた楽芸団や旅芸人の催し事が行われてもいて娯楽施設としても活用されている。

 

 学芸会館の収容人数は場所によって違うがおよそ200~800人ほど。施設の貸出は予約制、個人でも貸出は可能。ただし利用料金は相当なものなので利用者は部活動など、団体や学校単位で借りるのが普通である。一般公開の発表会に学芸会館を利用するにしても、学生個人のコンサートに使われることは殆ど無い。

 

 つまりだ。《歌姫》が開くイベントに対し学芸会館が満席――収容人数500人を超える人が集まり、それさえもファンの一部――という事実を目にすれば、アギが彼女の人気の凄さを思い知るのに十分だった。

 

 

 チケットが手に入れることができなかった《歌姫》ファンが、一目彼女を見ようと外で人集りを作っている。それでここまで来たのに人垣が邪魔で3人は館の中に入れない。

 

 思わず立ち往生するアギとリュガにマイカが叫ぶ。

 

「何してるの? 正面からは無理に気まっているわ。裏に回って」

「裏?」

「こっち」

 

 マイカが迂回するように先頭を走り出した。彼女の存在に気付きだすファンもいたが構いはしない。

 

 追いかけようとしたり道を阻むファンはやむを得ず、アギとリュガ2人で追い払う。が、いかんせん相手は一般生徒が殆ど。女子生徒もいる。手加減するには数が違いすぎる。

 

「《歌姫》だ。しかも制服だぞ」

「えっ、本当? ステージはどうしたの?」

「マイカさーん!」

「ごめんみんな。急いでるの、ちょっとどいて!」

 

 マイカが叫ぶも、突然の《歌姫》登場に熱狂するファンは聞く耳をもたない。

 

「囲まれるぞアギ。こんなとこで剣は振れないし、でかい《盾》でも使って押しやれないのか?」

「……悪い、まだ使えねぇ」

 

 どうしてしまったんだ。《武装解除》は何時になったら回復する? アギは自分の身に起きた事に戸惑い、内心焦りだけ募る。

 

 素手で人垣を退けようとする2人。でもこれでは前へ全く進めない。

 

 このままでは……

 

 

「マイカの道を空けんかい、どるぁ!!」

「なっ!」

 

 

 突然空から襲撃が来た。《鷲爪撃》だ。

 

 不用意にマイカのもとへ迫るファン数人を、ヒュウナーは一撃で蹴散らす。

 

「ヒュウ!」

「やりすぎだぞ、お前」

「腑抜けんな! こいつら全員、『奴ら』や!」

「「!?」」

 

 苛立だしげに怒鳴るヒュウナーに「はっ」とした。まさかと思いつつも2人でマイカの傍に立ち、庇って周囲を見渡す。

 

 囲んでいるのは100人どころではない。これが全員、ファンを装っている?

 

「……この人数、嘘だろ?」

「おそらく《用心棒》と同じや。再起塾に雇われとる馬鹿が混ざっとる。第一《歌姫》のファンがマイカのステージを邪魔する奴なわけないわい!」

 

 叫ぶヒュウナー。彼の怒気が収まらない様子に、アギたちはおかしいと思いだす。

 

「ヒュウ?」

「いいかアギ、リュガ」

 

 彼は言った。

 

「お前らももうわかるやろ? こいつらは去年の『奴ら』と違う。組織化されてきっと、うしろにもデカいやつがおるはずや。金とか兵隊とか、再起塾を支援しとる奴が」

「そいつは……」

「ワイにはまだわからん。やけど」

 

 『奴ら』を睨むヒュウナーの凄みが増す。

 

「もうワイは油断はせんで。こいつらを甘くもみらん。ここは任せて先に行け、マイカを中へ!」

「わかった。リュガ!」

「おう!」

 

 もう遠慮はいらない。リュガが自分の馬鹿でかい大剣を抜いた。振り回しては学芸会館への道を力でこじ開ける。

 

「行くぜ。姫さん!」

「ええ。ヒュウナー、ありがとう!」

「くそっ、もう少しで。追え!」

「させるかい!」

 

 《鳥人》がふたたび空を舞う。

 

 やつあたりや。群がる連中を上から見下し、彼は言った。

 

 

「お前らへの怒り、不甲斐ないワイ自身への怒り。全部ぶつけたる。覚悟せい!!」

 

 

 連続で《鷲爪撃》が炸裂する。

 

 +++

 

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