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幻創の楽園  作者: 士宇一
第3章 前編(下)
143/195

3-15b エピローグ-王様最大の秘密

ネタバレ大会は続く。《砂漠の王国編》は最後まで王様が主役でした


レヴァンの秘密。詳細は外伝にてお送りします

 

 +++

 

 

 そろそろ時間だ。エイリークたちが待ってるはず。

 

「お世話になりました。行きます」

「お元気で」

「ああ。またな坊主」

 

 別れを告げるユーマにレヴァンはもう一言。

 

「そうだ。もしもでいい。あいつらに会うことがあったら伝えてくれ」

 

 レヴァンは伝言をユーマに頼む。

 

 2人に伝わるように、レヴァイアでない彼の本当の名前で。

 

 

「えっ?」

「秘密だぜ。それがお前と……あいつらのダチの名前だ」

 

 +++

 

 

 帰り支度にユーマが立ち去ったあと。入れ違いになったのか今度はアギが屋根の上に登ってきた。

 

「今度はお前か」

「王様。ミハエルさん。うっ」

 

 海蛇を見てアギは少し怖気づく。どうやら『砂漠の龍蛇』だけでなくにょろにょろ全般が駄目らしい。

 

「ここは俺の特等席だって言ってるのにどいつもこいつも。坊主は下に降りたぞ」

「ああ。わかった」

 

 そうは言っても、アギはその場を動かない。

 

「どうした? 何か用か?」

「いや。……なんでもねぇ」

「歯切れの悪いやつだな。……そういやミハエル。さっきの話の続きなんだが」

「!?」

「目の色変えんなよ。聞いてたか?」

「ち、違っ」

 

 わかりやすい反応。

 

「違うんだ。ユーマのやつを探しててそれで偶然。気になったけど風で聞き取れなくて、あと出るに出れなくなってそれで」

「隠れてたのか。悪いやつだな、お前」

 

 自分こそ悪そうに笑みを浮かべている。

 

 第一屋根へ登る尖塔は1つだけ。入れ違いになるわけがないのだ。アギは簡単に引っ掛かった。

 

「ひでぇよ、王様」

「男の内緒話を盗み聞きしようとしたお前が言うな。……坊主のことか?」

 

 アギは黙って頷いた。だけどその先、言葉が続かない。

 

 ユーマだけじゃない。今回彼も色々と思うことがあった。

 

 学園の外での、初めての戦い。故郷を守る、譲れない戦い。

 

 だけど。

 

 

 ――俺の代わりに……守ってくれ

 

 

 背負わせて、

 

 

 ――邪魔。どいて

 

 

 足手まといにしかならなくて。

 

  

 結局のところ。アギは途中から役に立たず、彼が戦った《3神器》の2人はユーマとマークとチェルシーの3人が撃退し、機巧魔獣はマークと《炎槍》が破壊した。『王蜥蜴』には玉砕しただけ。

 

 アギの《盾》は一体何を守れたのだろうか?

 

 少年は悩む。思い切って王様に相談しようと思ったけれど、いざとなるとアギはなんと言ったらいいのかわからない。

 

 

 なんとなくレヴァンは察しているのだけど。

 

「……ったく。なあ、アギ。はっきり言って坊主はバケモノだ。悪魔のガキといったところだな」

「悪魔……?」

「普段ならともかく、今回みたいな土壇場じゃお前や嬢ちゃん達はついていけねぇよ」

「っ!?」

 

 息を呑むアギ。

 

「あの時の坊主、怖かっただろ? 『王蜥蜴』に玉砕した時だってお前、あれは坊主の本気に皆が呑まれてやったんじゃねぇのか?」

「それは……」

「あんなのにつきあってたら命がいくつあっても足りねぇ。忠告だ。離れるなら今のうちだぜ」

「駄目だ。それだけはしちゃいけねぇ」

 

 アギは、そこだけははっきりと言葉を返す。

 

「死んだお袋が言ってた。恩を返せない奴は最低だ、友達から目を背ける奴は最低だって」

「何?」

「ユーマはダチで、王国の為に機巧魔獣と戦った。だから俺はっ」

「あいつが……そうか」

「王様?」

「いや。だがな。坊主の力は危うい。あいつが間違った時、止める奴が誰かいなければ何が起きるかわかんねぇ。今回は俺が止めることができたが、この先」

「どうすればいい?」

 

 すぐにショックから立ち直った。これがアギの強さだ。

  

「どうしたら俺は、俺の《盾》はダチを守ることができる? 教えてくれ、王様!」

「……馬鹿だな。お前」 

 

 少年の、仲間を想う心意気がレヴァンは嬉しく思う。

 

  

 ――ああ。そうだ。それでこそ『アギ』だ

 

 ――お前はそれでいい。

 

 

 自分の《盾》を受け継ぐのは、間違いなくこの少年しかいない。

 

 

 レヴァンは《盾》を使うことができなくなっていた。《城壁》をはじめとする派生術式もまた。

 

 海竜の上位精霊を喚び戻したその時、レヴァンは《交信》の媒体に《盾》を使い、光となって壊してしまった。レヴァンの持つ《幻想》が精霊と触れたことで違う何かに変わってしまったのだ。

 

 レヴァンの左手の甲には海竜の紋章が刻まれている。壊れた《盾》が海竜と繋がる海蛇の《精霊器》となっていた。ゲンソウ術の武装術式、あるいは人自身が精霊の受け皿となるのは前代未聞である。今後レヴァンが《盾》を取り戻すには、折角結んだ上位精霊との繋がりを断ち切るほかない。

 

 今、《幻想の盾》とは違うあの《盾》を使えるのはアギだけだった。

 

 

「強くなりてぇか? 坊主に負けねぇくれぇに」

 

 アギは力強く頷いた。

 

「守れればいい。みんなを。王様みてぇに」

 

 決意は固い。アギはレヴァンと2人を見守るミハエルに「お願いします」と深く頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 次の世代かと、この時レヴァンは染み染み思ったらしい。

 

 自分の《盾》の継ぐこの少年が《精霊使い》の少年と肩を並べ、どんな時も共にあれるようになれればとレヴァンは思う。ロウと名乗った『彼』の相棒のように。

 

 レヴァイアとなる以前の自分が、隣に立つことさえできなかったから。

 

 +++

 

 

 ユーマたちが出立して数日後。王国の復旧も目処が立ち、作業を手伝っていたチェルシーたち西高の生徒たちも帰郷して王国に日常が戻ってきた。

 

 レヴァンは変わらず忙しい。《蜃楼歩》を使い国中を『跳び回る』毎日を送っている。

 

「ミハエル。今日は何か『用事』あったか?」

「そうですね……今日の午後から再開区2丁目のミミルちゃん(7)との婚約を巡り、10人の幼馴染が決闘するそうです」 

「魔性だな、ミミルちゃん。あとで様子を見に行くか」

「どうぞ。あとは……婚約と言えば大通りの花屋を営むメルシェさん(21)と新開区で石切りをしているゴロ(27)なんですが」

「どうした?」

「メルシェさん、妊娠3ヶ月だそうです。できちゃった婚ですね」

「ぐぅぉろぉぉおぉぉおお!!!」

 

 平和である。

 

 

 激務に追われる彼の癒しはやっぱり愛しの王妃様だ。偶然見かければいつも飛びつきたくてたまらない。

 

「さーよこさーーーーん!!」

「シャァァァ!」

 

 海蛇がレヴァンの首を締めて急ブレーキ。窒息でぶっ倒れるレヴァン。

 

 公衆の面前で襲われかけたサヨコは危機一髪。

 

「ぐえぇっ!? っ、テメェ! 何度俺とサヨコさんのラブラブタイムを邪魔すりゃ気がすむんだよ!?」

「最近のあなたが見境ないからです。にょろちゃん。いつもご苦労様」

 

 いらっしゃい、とサヨコが言えば海蛇は喜んで彼女の腕や首にまとわりつく。

 

「ひんやりして気持ちいいわね」

 

 そう言われれば、海蛇はサヨコの頬に顔を寄せてすりすり。

 

 所詮ヤツも男だ。《巫女》だって本当は彼女がよかったに違いない。

 

 そんなことを思うレヴァンの嫉妬は深まるばかり。

 

「くっ。ペットのくせに俺のサヨコさんをいつもいつも独り占めしやがって……」

「あなた。私はこれから休憩です。一緒に如何ですか?」

「行く! さあ、行こう!」

 

 現金な王様である。

 

 

 2人と1匹がやってきたのは、またもや城の屋根の上。

 

 実はレヴァンにこの場所を教えたのはサヨコである。彼女も慣れたもので、いつもの桜色の着物を着たまま易々と屋根の上へと登る。

 

「サヨコさん。今日はあの子どうした? ミヅルちゃん」

「お父様のところです。書斎に珍しい本があるそうで」 

 

 サヨコの姪にあたる学園の《賢姫》ミヅルは、マークたちが去ったあともカンナの家に帰らず、1人王国に滞在していた。すべては敬愛する叔母のためである。

 

 いつもサヨコにべったりでレヴァンの邪魔をするミヅル。しかし今日は宰相の部屋に入り浸っているという。普段は人を寄せ付けない宰相も初めて会った孫のことは気を許したらしい。

 

「お父様もあの子から郷にいるお母様のこと、ミハル姉様のことを聞くことができて嬉しそうにしていました」

「へっ。元とはいえ天下の皇帝陛下も孫には甘いってか」

 

 でもでかしたぜジジイ! と邪魔者ミヅルがいないと知りレヴァンは大喜び。

 

 ペットはいるが2人きり。レヴァンはちょっと甘いことを期待したのだが。

 

 

「ねぇ。アギ」

 

 

 サヨコがレヴァンをことをそう呼ぶので気分が吹き飛んだ。

 

「やめてくれ。それはもう俺の名じゃない」

「そうでしたね。……最近頑張ってますね、あの子」

「まぁな」

 

 レヴァンは仕事の合間を縫って、時折アギに《盾》を使う訓練の指導をしている。

 

 学園の夏季休暇中、アギはシュリと共にしばらく王国近衛隊に身を置いた。そこで元反乱軍の猛者や元帝国軍人、加えてミハエルの下で心身を鍛えている。

 

 目まぐるしい少年の成長。その真価は休暇明けの学園で遺憾なく発揮されるのだが、それはまたあとの話だ。

 

 

「私のことは構わず名乗ってもいいのですよ。あの子に自分が父親だって」

「またその話か」

 

 彼にしては珍しくサヨコに対して鬱陶しそうな態度を見せる。

 

「サヨコさん。何度言えばわかってくれるんだよ。伯父だよ伯父。アギは戦災で亡くなった妹の子だ」

 

 レヴァンがそれ知ったのは建国して間もない頃。アギが戦災孤児だったことから唯一の家族が亡くなっていたことを知らされた。

 

 今更名乗る必要はない。そう思っている。レヴァンにすれば今サヨコの誤解を解く方が重要だった。

 

「あいつの子供なんて知らなかったし、名前も俺が死んでもねぇのに俺のを勝手につけてたんだよ。俺はアギの父親じゃねぇ。第一似てねぇだろ?」

 

 俺のほうがダンディでハンサムだとレヴァンが嘯くとサヨコは。

 

「そうですよね。あの子は母親似ですから」

「……サヨコさん?」

「彼女は義妹でしたよね」

 

 

 ……え? 何を疑われてるの?

 

 

 でも義妹は本当なので否定できなかったレヴァン。それで何故サヨコが知っているのかがわからない。

 

 薄ら寒いものをレヴァンは感じる。

 

「あのう、サヨコさん? 何か怒ってらっしゃいますか?」

「いいえ。ただこの前あなたとミハエル君からあの子、ユーマ君のことを聞いて色々と思い出したので」 

「色々?」

「はい。昔のことです」

 

 懐かしそうに微笑むサヨコ。

 

「あなたにリュッケさん。それにコウキさんとヤマトさん」

「俺の知らない名前があるぅーーっ!?」

 

 義妹の名前を知られているのはこの際構わない。だけど残り2人は。

 

「サヨコさんに、昔の男の影がっ」

「何を言ってるのです。あなたもよく知ってる人ですよ」

「へ?」

 

 サヨコのこととなるとレヴァンは察しが悪い。

 

「だ、誰?」

「秘密です。けれど。もしもあの2人がいなければ、私があなたと一緒になることもミヅルちゃんだって生まれていなかったでしょうね」

「えっ? なにそれ、どういうこと」

「内緒です。私と……あの人達の秘密なのです」

「サヨコさん!?」

 

 サヨコは微笑むだけ。

 

「……気になる。なあ、お願いだから教えてくれよ、サヨコさん」

「一生、あの子に父親だと名乗らないのですか?」

「サヨコさんがスルー!? あと伯父だから伯父!」

「別に怒りませんよ。義妹さんに手を出したんなんて……昔のことですし」

「刀に手をかけながらそんなこと言わないで! 手なんてだしてねぇええええ!!」

「本当に?」

「……」

 

 そこで考えてしまうのが駄目なんだと思う。

 

「冗談です。私だってこうしてあなたと話すのは久しぶりなので」

「サヨコさん!」

「でも真面目な話、あなたがあなた自身の《盾》をあの子に教えるのを見ていて思ったのです。親子みたいだな、って」

「……」

「甥でも息子でも、あの子にあなたの跡、国を継がせたいと思わないのですか?」

「別に。あと息子だけど息子じゃねぇし」

 

 よくわからない言い草だがレヴァンは真面目な顔をして否定した。『レヴァイア』の名はアギだけではなくシュリやファルケといった、王国の息子たちの誰かが継いでくれると彼は思っている。

 

 王族なんて作る気はない。王国に住む民は皆が家族だから。

 

「アギは王である俺を見て勝手に《盾》を手にした。今教えてるのはあいつが男として頭を下げたからさ。他意はねぇ」

「そうですか」

「ああ。だからこの話は終わり! 大体アギのことは前に話したぜ。蒸し返すなんて一体どうしたんだよ」

「いえ。この話をするとあなたが過剰に反応するのでつい楽しくて」

「サヨコさん!?」

 

 本心が読めない。年齢にそぐわない悪戯するような子どもっぽい笑みも彼女はよく似合う。

 

 サヨコに振り回されるレヴァン。「それでもいいや。好きなんだもん」なんて楽しんでる時点で彼は重症である。

 

 

「幸せなんですよ。私」

 

 気が付けば彼女はレヴァンの隣に立ち、彼に密着するように体を寄せていた。

 

 ちょっと手を伸ばせば肩を抱けるその距離。いきなりのことにレヴァンは緊張が走る。

 

 普段は自分から飛びかかるくせに。

 

「さ、ささよこさん?」

「今みたいに冗談を言ったり、笑うことも昔は辛くてできなかった。だけどあなたが変えてくれたのです。私たちの故郷であるこの砂漠を、この国の未来を。私の未来だって」

「サヨコさん……」

「ありがとう。私はあなたと、沢山の家族に囲まれて過ごす毎日が楽しくて嬉しくて。幸せなんです」

「ああ。俺だってそうさ」

 

 花のようにやわらかい笑み。それでいて芯のしっかりした女性ひとだ。彼女や皆がいてくれたからレヴァンはここまでこれた。

 

 愛する人が傍で笑ってくれる。抱きしめることができる。

 

 いつからだろうか。思い描く理想が彼女の笑顔と重なったのは。

 

 ずっと守りたい。守ってみせる。この幸せを。

 

 

「ねぇ。あなたの夢は叶いましたか?」

「いや。あと1つだけ」

「それは何?」

 

 訊ねられたレヴァンはサヨコを抱き寄せて笑ってみせる。

 

「あいつらにサヨコさんのことを自慢することさ」  

 

 綺麗な嫁さんがいて、でっかい家を作って沢山の家族がいて、今ではばかでかいペットもいて、

 

 見せたいもの、自慢したいこと、伝えたい事が沢山あるから――

 

 

 

 

 青いバンダナを額に巻いた少年は、17の年からずっと戦火の中にいた。長年《帝国》に虐げられいた、砂漠の民の起こした反乱だった。

 

 あれから20年。少年は青年となり反乱軍のリーダーを経て自由を勝ち取った。

 

 彼が理想を掲げ建ち上げた国は砂漠に住む者すべての未来を変え、王となった青年は国父として砂漠の民すべての家族を守る《盾》の王と呼ばれた。

 

 そして。王の持つ《盾》の光は皆の守る心を1つに束ね、王は遂に上位精霊を従える《海竜の巫女》、《精霊使い》となる。彼の精霊の復活はかつての栄光《西の大帝国》の復活を意味していた。

 

 

 王冠の代わりに青いバンダナを巻いた、数々の偉業を為した英雄王。

 

 彼の伝説は1人の悪魔と出会ったことがはじまりだというが、真相は定かでない。

 

 

 

 

 愛する人の肩を抱いてレヴァンは空を見上げた。昔と変わらないその景色に思いを馳せる。

 

 あの少年に託した伝言が、彼らに届くことを少しだけ期待しながら。

 

 

「見てるか? どこかで。俺は――」 

 

 

 今度こそ見返してやるから。いつでも来やがれ

 

 待っているぞ

 

 

 

 

 《砂漠の王国》。理想が実現したこの国で。

 

 彼は再会の時を待ち続ける。

 

 

 +++

砂漠の王国編 完

 +++

 

 

 おまけの話。

 

 

 レヴァンは回した腕に少しだけ力を込めた。サヨコは「んっ」と反応して為すがままに彼の胸元へ頭を寄せる。

 

 身を委ねて上目遣いで見上げる彼女は色っぽい。レヴァンは最近ご無沙汰なのでこれが一層堪らない。

 

 そのまま見つめ合う2人。サヨコが目を閉じるとレヴァンは――

 

 海蛇がじっと睨みつけるので動けない。

 

「「……」」

 

 絶対の存在である上位精霊、その威圧感といったら。

 

 

(……おい、にょろすけ。邪魔すんな、引っ込め)

 

(陽が高い。外でなど破廉恥だ)

 

(馬鹿野郎! 夜はミヅルちゃんが邪魔するんだ、キスくらいしてもいいじゃねぇか)

 

(オレの《巫女》は身も心も清廉潔白でいるべきだ。情念を捨てろ)

 

(男の俺に要求すんじゃねぇ!?)

 

 

 そうやって無言で睨み合っていると。

 

「しないのですか?」

 

 サヨコが焦らされて目を開いた。

 

 あれ。少しだけ怒ってる?

 

「誘ったのはあなたの方なのに」

「違う! にょろすけのやつが」

「いたらしてくれないのですか?」

「うぐっ」

「……」

 

 そこで黙ってしまうのが駄目なんだと思う。

 

 サヨコは、

 

「へたれ。甲斐性なし」

 

 と、本気とも冗談ともいえない素敵な笑顔でばっさり切り捨て、

 

「にょろちゃん。行きましょ」

 

 レヴァンを1人置いて行ってしまった。

 

 

「さっ、さ、サヨコさーーん!? ……てめぇ。いつもいつも邪魔しやがって、待ちやがれ!」

 

 サヨコの首筋に巻きついている海蛇。レヴァンの精霊はその怒鳴り声に鎌首をもたげ振り返る。

 

 それから。レヴァンに向かって邪悪に笑った。

 

「お前の嫁はオレの嫁だ。そうだろ? 相棒」

「なっ!? お前、喋っ」

「あっ……」

「サヨコさんの服の下に潜り込むんじゃねぇええええ!!!」

 

 

 《砂漠の王国》は王様が騒がしいくらいが平和なのである。

 

 +++

 

 

「……ふう。やっとついた。4ヶ月ぶりか」

 

 

 王国から直通の《転移門》を抜けて、ユーマは帰ってきた。

 

 彼にとっての『はじまりの地』。風森の国へ。

 

 

「行こう。シアさんたちが待ってる」

「そうね。ミサ、ポピラ。あと少しよ」

 

 

 エイルシアにラヴニカ。それに封印から目覚めた王妃が、

 

 風森の国で彼女たちが、少年たちの帰りを待っている。

 

 

 夏期休暇はまだ始まったばかり。

 

 +++

 

 

 第3章中編 風森の王妃編へ続く

 

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