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幻創の楽園  作者: 士宇一
第3章 前編(下)
142/195

3-15a エピローグ-ユーマとレヴァン2

エピローグの前半。王様によるネタバレ大会

 

 +++

 

 

「内緒話って」

「まあ待て。まずは一杯だ。喉乾いてねぇか?」

 

 城の屋根の上。戸惑いながらもレヴァンからグラスを受け取るユーマ。

 

 レヴァンは腰に提げた水筒の蓋を開けてユーマのグラスに自らの手で飲み物を注ぐ。飲み物は無色透明な液体だった。

 

「あの、お酒はちょっと」

「違う違う。そいつは水だ」

「水?」

 

 そう言われればアルコールの匂いがしない。レヴァンはミハエルにもグラスを渡すと「乾杯」と自分のグラスを掲げぐびぐびと美味そうに水を飲んだ。ユーマも彼に倣い水を口に含む。

 

 水は良く冷えて美味かった。爽やかでミネラルとは違う『味のある』水。外の暑さもあるがユーマはここまで美味い水を飲むのは初めてだ。

 

「すごく美味しいです。レヴァンさんこれは……って」

「あ? いいだろ個人で楽しむくらい。もう少しくらい出してくれよ」

 

 レヴァンはグラスだけでなく水筒の水までも飲み干し、おかわりを要求していた。『蛇口』からなみなみとグラスに水を注ぐ。

 

 言い換えると、レヴァンの首に巻き付く不機嫌そうな海蛇の口から、レヴァンのグラスに向かって水がげぼげぼと吐き出されている。

 

 ユーマは思わず自分のグラスを見る。

 

「この水ももしかして」

「《清水》ってやつだ。そこらの酒なんて目じゃない贅沢品なんだぜ」

「これが?」 

 

 《清水》の希少価値はユーマも学園で学んでいる。コップ1杯の水に1滴混ぜるだけで清めの聖水となる、霊薬ともよべる水だ。

 

 原液で飲んで身体に害はないのか?

 

「何より水の出所は知りたくなかった」

「細かいこと気にすんなよ。ほれ。ツマミでも食え」

 

 差し出される紙袋。中には乾燥したカボチャの種などを香ばしく炒られたミックスナッツが入っている。

 

 カリッとして塩加減が絶妙。ミハエルが大量に作っていた実は自慢の逸品。

 

 3人はナッツをツマミに《清水》を味わう。まるで炎天下で水分と塩分を補給するような、実に細やかな飲み会がはじまった。

 

 

 +++

エピローグ

 +++

 

 

「さて。何から話そうか」

 

 話を切り出したのはレヴァン。

 

「そうだな。好きな子の話でもするか」

「はい?」

「まずは言いだしっぺの俺がサヨコさんのことをだな」

「やめてください。それで1話分使い切るつもりですか」

 

 止めないとレヴァンは何時間もノロケてしまう。ここはミハエルがメタ発言をしてまでシャットアウト。

 

「なんだよ。男同士の内緒話ならお約束だろ? お前も好いたの惚れたの1人くらいいるだろ?」

「あのですね」

「恥ずかしがんなよ、ミハエルくんよぉ」 

「……水で酔ってませんよね?」 

「じゃあ坊主だ。どっちだ?」

「どっち、って」

 

 どうして『2人』と決め付けるのだろう。なんだか最初から駄目な気がしてきた。

 

 

「レヴァン様。彼も時間があまりありませんから」

「そうだな。……チッ」

「レヴァン様……」

「わかってるよ。坊主、昨日は助かった」

 

 いきなり真面目な顔をして、レヴァンは頭を下げる。

 

「礼を言う。正直機巧魔獣は……坊主が国の外で食い止めてなけりゃ奇襲に気付かず間に合わなかった」

「そんな」 

 

 違う。自分は感謝されることなんてしていない。

 

 困惑するユーマは心の内でレヴァンの言葉を否定する。あの時。ユーマは許せなかっただけだから。


 それで彼がやったのはただ――

 

「レヴァンさん達なら、俺なんかいなくても王国を守れたはずです。俺なんてただ」

「八つ当たりをしただけだ。ってか?」

「あ……」

「違うか? でも、そうじゃねぇんだろ?」

 

 ユーマは驚く。そのセリフは『彼』のものだった。

 

 レヴァンの少年を見る目は優しい。「しょうがねぇ奴だ」と、苦笑ともいえない笑みを浮かべている。

 

 薄々と気付いていた。レヴァンと話しているとユーマはもしかしてと思うことが多々あった。

 

 

 この人はあの人たちを知っている。

 

 

 確かめたい。でもそれはユーマを見るレヴァンも同じだ。

 

「そうだな。まずは俺の昔話を聞いてくれ。俺が『レヴァイア』でもないただのガキだった頃の話だ」

「……はい」

「20年も昔、俺が坊主と同じか少し上くらいの頃、俺が住んでいた集落に2人の旅人が来た。といっても砂漠越えの装備何一つ持っていない、妙な2人組だ」

 

 

 ――馬鹿かお前! 日除け砂除けの装備もなしで焼け死にてぇのか!?

 

 ――空腹で死ぬ。頼むから飯を分けてくれ

 

 

「年は当時の俺くらい。見つけたのが運の尽きで野垂れ死にされても後味が悪い。それで仕方なく俺が2人を拾って集落に案内した」

 

 旅の目的もどこから来たのかも告げず、集落に滞在する謎の2人組。

 

 当時砂漠の民の生活は貧しく、食糧も少なければ水を手に入れるのも一苦労。過酷な環境の下、砂漠の民は小さな子供も野良仕事しなければ生きていけなかった。

 

 そんな集落に居候する自称旅人の2人は彼に次々と不満を口にしたらしい。

 

「どこの生まれか知らねぇが俺達の暮らしを見て散々言いやがる。腹が立つんで俺はあいつらに言った」

 

 

 ――文句があるなら、自分らのことくらいどうにかしやがれ

 

 

「それで?」

「本当にどうにかしやがった」

 

 レヴァンは思い出し笑い。それは冗談のような本当の話。

 

「変な奴どころじゃねぇ。とんでもない奴らだった。たらふく肉が食いてぇと言ったと思えば『王蜥蜴』の尻尾千切ってくるわ、うまい水が飲みてぇと穴を掘って水を掘り当てるわ」

「『王蜥蜴』!? 肉って」 

「どうした?」

「いえ」

 

 まさかと思い、ユーマは肉に関する都合の悪い記憶を封印した。

 

 焼肉は美味しかったんだけど。

 

 

 レヴァンの話は続く。

 

「実はな、《西の大帝国》の地下水道を発見したのは俺じゃなくその2人なんだ。そこで砂に埋もれた《西の大帝国》の地下が使える可能性をあいつらに教わった」

 

 これにはユーマだけでなくミハエルも驚いた。彼も知らない王の秘密だったらしい。

 

「ミハエルも知らなかったか?」

「ええ。……でも。そう言われればそうだと納得できます。あの方々は常識はずれでしたから」

 

 ミハエルは彼らのことを思い出して義手の肩に触れる。

 

 実はそこに彼の知らない文字でこう書かれている。『MB-type0X Fenrir』と。

 

「だよな」

「はい。2人で帝都を強襲した上でミハル姫を攫ったりもしていますし」

「はぁ!? 知らねぇぞそれ。そんなこともしてたのかよ」

 

 驚いて、呆れて。思い出話に笑いあう2人。ユーマは1人ついていけない。

 

「レヴァンさん。続きを」

「ん? ああ悪い。――それ以来俺の住む集落は水に困らなくなって、『王蜥蜴』の皮や骨が素材としてすげぇ高く売れたおかげで貧しい暮らしは一転。3年は食うに困らないほどの蓄えを持つこともできた。あいつらは一躍集落の人気者さ。俺は嫉妬さえした。なんでもできる、自由なあいつらのことを」

 

 ヒーローみたいで羨ましかったんだな。レヴァンは昔の青臭い自分を振り返る。

 

「それからその2人は?」

「いなくなった。集落が帝国軍に焼かれた次の日にな」

「――!?」

「あの頃は反乱軍もなくて、よくあったんだ。人狩りじゃねぇ、『砂喰い狩り』が」

 

 話は急転。レヴァンの声の調子も幾分低く下がる。

 

 

 夜襲だった。

 

 あっという間にレヴァンの生まれ育った集落は炎に焼かれ、《機巧兵器》に蹂躙された。帝国軍の兵は砂漠の民というだけで無抵抗の女子供も逃さず、容赦しなかった。

 

 レヴァンはその時に唯一の家族であった彼の妹を……

 

 

「レヴァンさん……」

「俺はあの時地獄を見た。でもな、それは《帝国》の奴らにじゃねぇ」

「えっ?」

「帝国軍が地獄を見せられたんだ。あいつに」

 

 

 彼は理不尽な惨劇の中で変貌した。銀色の悪魔に。

 

 悪魔はまず光を翼のように広げて炎を薙ぎ払った。それから暗闇の中、その金の瞳で帝国軍を見据えて手にした金属板を振るい、《機巧兵器》諸共すべてを一方的に叩き潰して滅ぼした。

 

 

「帝国軍はたった2人を相手に全滅。その時生き残ったのが今回王国を襲った『帝国貴族』のあの中将。そしてミハエル。こいつだ」 

 

 驚くユーマにミハエルは「昔のことです」と笑みを返した。

 

 彼が左腕を失ったのも、レヴァンと初めて出会ったのもその時だったという。

 

「怖かったですね。彼にあの『銃』を向けられた時のことは今でも夢を見ます」

「ミハエルさん……」

「俺は……許せなかった。集落を焼いて、仲間を殺していった帝国軍も憎かったけどな、それがどうでもよくなるくらい俺は、あいつのことを認めたくなかった」

「レヴァンさん」 

 

 救いがなかった。許さなかった。怒りに任せて潰しにかかり、滅ぼして、何も残さない、

 

 悪魔の所業。

 

 

 ――お前は、あいつらがやったことが許せるのか?

 

 ――潰し合ってどうする!? 傷つけるのも傷つけられるのも俺はまっぴらだ!

 

 

「あいつに助けられたなんて思いたくねぇ。あいつみたいには絶対にならねぇ。そう思って俺は、今まで生きてきた」

「……誰なんです? その人は」

 

 もう間違いない。もしユーマの考える『あの2人』ならば、時と世界を越える荒業なんてしてもおかしくない。

 

 大きな疑問。そして思わぬ手掛かり。レヴァンが出会った2人組が『彼ら』だというのなら――

 

 

「教えてください。その2人の名前は!」

「あいつらは――」

 

 レヴァンは答える。

 

 

「マガヤンとロウ。坊主、奴らを知っているか?」

「知りません」

 

 即答した。つい反射で。

 

 

 なんだ、それは。

 

 

 『ロウ』はわかる。きっと『狼』だからだろう。でも……まがやん? 

 

 いったい昔に何をしていたのだろう? あの兄達は。

 

 

 考えてもどうしようもないことだった。

 

 

「そうか。どちらかが坊主の親父かと思ったんだが」 

「まさか。もしかすると弟が1人くらいいるかも知れませんけど」

「……まあいい。坊主、2度目だがもう1度聞いていいか?」

 

 嘯くユーマにレヴァンは特に何も言わなかった。それで改めてユーマに訊ねる。

 

 レヴァンが見るのは、包帯が巻かれたユーマの右腕。機巧魔獣を滅ぼすために少年が支払った代償。

 

 止めなければこの少年は、もっと多くのものを失くしていたかもしれない。

 

「あの時の坊主はマガヤン、あいつによく似ていた。殺しに殺しまくって、助けた奴らにまでバケモノと恐れられた、救いようのないあの大馬鹿悪魔野郎にな」

「……」

「お前といいあいつといい、どうしてそこまでするんだ?」

「それは」

 

 訪ねられたユーマは、無意識に首に提げた『しろいはね』を服の上から握りしめる。それから、

 

「……怖かったんです」

 

 そう答えた。

 

 

 失ったものは戻らない。少年は知っている。

 

 失くさないように強くなることを望み、この世界でも鍛錬を怠らなかった。それこそ『一睡もせず』だ。ゲンソウ術のあるこの世界で、《精霊使い》となった『ユーマ』は『ただの少年でしかなかった御剣優真』以上の力を手にすることができた。

 

 

 けれど。それでも限界がある。今回ユーマは現実を直視する。

 

 

 暗闇の中、無数にある機巧魔獣の赤い光に囲まれて、壊しても壊しても次々と現れて、迫ってきて、

 

 絶望を目の当たりにして、また無力を味わった。

 

 

「俺じゃ守れないと思った。何もできなくて、失くしてしまう。そう思ったんです」

「……」

「怖くて、でも諦められなくて、俺は……」

 

 拳を握りしめて、願った。自分が駄目でも『あの2人なら』と。

 

 不可能じゃない。ユーマは《転写体》。バケモノだから何にでもなれる。

 

 光輝と大和。《梟》と《狼》。あの2人のように『今、なれたら』とユーマは願った。

 

 ゲンソウの力でその願いを再現する。それが『あの優真』だ。恐れを抱く闇を狩るモノ。

 

 御剣優真の可能性の1つ。だけどあの時、レヴァンが止めなければ2度と『切り替わる』ことができず戻れなかったかもしれない。

 

 

「もう『あれ』しかなかった。弱かったから。できることはビビってブチ切れて、暴れるだけ暴れるしかなかった」

「……」

「それから『王蜥蜴』が現れて結局俺は何もできなかったけど。みんなを守りきったレヴァンさんに比べたら俺なんて」

「まあな」

 

 当然だとレヴァン。

 

 彼は少年の倍以上生きて、少年の生きた年数以上の月日を戦場で過ごし戦い続けてきた。戦場で多くの仲間を失い、多くの敵をその手で殺し、さらにはその上に立って、彼は王となり国を建てた。

 

 《砂漠の王国》は、今では20万人を超える家族と住む彼の家だ。レヴァンが背負う大事なもの。守れなければ死んでいった彼らにも合わせる顔がない。そう思っている。

 

 責任がある。捨てるなんて決してできない。

 

 積み上げてきたものがあまりにも違う。ユーマは子供で、彼は大人。それだけのことでもある。

 

 

(そうだな。こいつはガキで、あの時の俺もガキだった。あいつらも……)

 

 

 昔聞けなかった答えを得ることができた気がする。沈むユーマを見てそう思う。

 

「だけどな。1人で守るだなんて俺だって無理だ。レヴァイアサンだって皆に支えられて喚び戻すことができた。そうだろ?」

 

 相棒に訊けば、「当然」と首に巻き付く海蛇がレヴァンに返事を返す。

 

 海蛇が伝える言葉にレヴァンは大きく頷いた。

 

「ああ。そうだ。勇者や悪魔なんていなくても、誰かが犠牲にならなくても、俺たちは守れる。俺たちは1人じゃない。1つになれば奇跡だって起こせる」

 

 辿り着いた。20年かけてやっと。

 

 

 ――俺は、お前みたいには絶対にならねぇ!

 

 

 砂漠の王国。そこに住む愛すべき、守るべき家族たちはいつだって自分を支えてくれる。みんなを守ってくれる。

 

 彼がずっと昔から望んだ、上位精霊さえも喚べる、彼らとは異なる大きな力。

 

 守れる力。それを得て今、レヴァンは思う。

 

 

 やっと。追いつくことができた。

 

 

「レヴァンさん?」 

「どんなに力を持とうがお前はまだガキだ。お前には先がある」

 

 レヴァンはユーマに言葉を送る。

 

 激励のような彼の願いを。

 

「だからな。1人で生き急ぐな。俺もお前もあいつらじゃない。ゆっくりでいい。いつか。あいつらとは違う何かになってくれ」

「あ……」

「それにありがとな。俺たちのために戦ってくれて」

 

 

 守ってくれて、ありがとう。

 

 

 それは、昔一方的に喧嘩別れして彼らに言えなかった感謝の言葉。

 

 少年はあの2人ではないけれど、ようやく言うことができた。

 

 

 救いのある生き方をして欲しい。少年の行く末を思ってレヴァンは願い、ユーマは感謝と敬意を込めてレヴァンに頭を下げた。

 

 出会えてよかった。


 彼らと出会い、彼らと違う在り方を目指した、でもどこか似ているこの人に。

 

 

 

 

 最後に。ユーマは訊ねてみる。

 

「どうしたらレヴァンさんみたいになれますか?」

「サヨコさんだな」

「はい?」

 

 即答するレヴァン。なんだかまたおっさんモードに戻ってしまった。

 

「男は好きな女の為なら限界なんてすぐにぶっちぎれるぜ。愛の力は偉大だ」

「はぁ」

「サヨコさんがいれば俺は1週間くらい寝ずに働ける」

「まあ、レヴァン様はそうでしょうね」

 

 根性論とそんなに変わらない気がする。

 

「つまりだ。強くなる1番の近道は誰かを好きになることだ。俺が最初に『好きな子の話をしよう』と言ったのはその辺にある。アドバイスが欲しけりゃ参考に今から俺とサヨコさんのことをだな」

「嘘ですから。自分がサヨコ様のことを語りがたい為の方便ですからね」

「ミハエル!」

「愛の力って。言いたいことはわかるんですけど」

「だろ? よーし。坊主、これはサービスだ。王国土産に持っていけ」

 

 機嫌良くレヴァンが渡すのは、宝石の嵌め込まれたペンダント。

 

「これは?」

「《消魔石》って知ってるか? この辺りで採れる鉱物でそれを使ったものだ。一種の魔除けアイテムだな。元々坊主が国を出る前に渡すつもりだったんだが」

「俺にですか? しかも2つも」

 

 これは最初に『王蜥蜴』が縄張りから離れ、王国に接近した事件が関係している。その原因が砂漠を渡るユーマの精霊たちの魔力に釣られてのことだったと、ミハエルから聞いたレヴァンがユーマの為に用意したものだった。

 

 魔獣は魔力に惹かれる。《消魔石》を身に付けて魔力の残滓をかき消せば、魔獣に襲われる危険を抑えることができるという。

 

「俺も《精霊使い》になったんでな。1つは自分用に用意したんだがそれもお前にやる。気になる女の子へのプレゼントにでもしてくれ。坊主の恋愛成就を祈る」

「はぁ」

 

 おせっかいだなぁと思いながら、ユーマはペンダントの宝石をまじまじと見た。

 

 嵌め込まれた《消魔石》は指先ほどの丸い宝石だ。カットの仕方が独特なのか、光に当てると5枚の花弁を持つ花のようにも見える。

 

 宝石の色にも特徴があって中心は鮮やかなピンク、外に行くほど周りは透き通っており、宝石はカットにあわせ桜の花を連想させる。

 

 《桜姫》と呼ばれたサヨコ絡みのデザインだ。王様はどれだけ王妃様が好きなんだろう。

 

 でも。

 

「この宝石の色は」

「気に入らねぇか?」

「……いいえ。ありがとうございます」

 

 

 もしかすると。

 

 このピンクダイヤに似た《消魔石》というものは、《魔術回路》という特殊な加工を施すことで魔人にも匹敵する膨大な魔力を封じ込めるアイテムが作れるのではないのだろうか。 

 

 それと。まがやんとかいうふざけた偽名の人は、この《消魔石》が必要だったのではないだろうか。

 

 例えば、幼馴染の誕生日プレゼントなんかに。

 

 

(ほんと。普段なにしてるんだろう?)

 

 

 そんなことをユーマは考えたのだが。

 

 レヴァン達の手前、口にはしなかった。

 

 +++

 

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