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幻創の楽園  作者: 士宇一
第3章 前編(下)
131/195

3-10a 帝国の闇 前

インターミッション。舞台は最後の局面へ

 

 +++

 

 

 エイリークは目を覚ました。

 

「……アタシは……?」

 

 自分が横になっているのがわかる。気絶していた? ……膝枕?

 

 目を開く。見上げても膝を貸してくれた相手が見えない。

 

 盛り上がった胸が邪魔だ。

 

「……ミサ?」

「! リィちゃん……」

 

 ミサはエイリークが目覚めたことに気付くと、感極まって彼女に抱きついた。

 

 膝枕状態のまま、覆いかぶさるように。

 

 押しつぶした。

 

「ちょっ!? ミサ苦っ……」

「えぐっ、り、りぃちゃぁぁぁぁん!!」

 

 ミサは大泣き。エイリークは窒息しそうになってじたばた。

 

 あ。動かなくなった。

 

 

「潰れましたね」

「うん。潰したね」

「……潰せるんですね」

 

 複雑そうに自分の胸に手を当てる少女たち。

 

 +++

 

 

 あれから。

 

 《昇華斬》を放ち機巧魔獣の欠片1つ残さず消し飛ばしたエイリークは、連戦の疲労に加えスーパーモードの反動でそのまま倒れた。

 

 アイリーンもポピラも、チェルシーや彼女の騎士団だって皆が疲労困憊でボロボロだった。

 

 しばらく何もできず、彼女達はなしくずしにその場で休む事にした。

 

 

「どのくらい寝てたの?」

「1時間程ですね。アギさんたちとも合流しています」

 

 ポピラはエイリークに彼女が気絶してる間のことを説明。ミサはエイリークの無事を確認すると、安心して次はアイリーンの世話をしている。

 

 周囲を見れば仲間たちの無事が確認できる。アイリーンは建物の壁にもたれかかってぐったり。アギは折れた右腕を吊っている。

 

 シュリは上半身を包帯でぐるぐる巻き。背中と左腕から血が滲んでいる。チェルシーは《レアメダル・メカニック》のメンバーと一緒にマシンと《駱駝》の応急修理とメンテナンスに取り掛かっていた。

 

 そして《炎槍》とファルケ。今は敵ではないらしいが、離れた場所でなにやら話し込んでいる。

 

「じゃあ機巧魔獣は」 

「はい。近衛見習いの皆さん達の伝令と情報網で確認しました。王都内の敵は全て撃退しました」

「そう。……よかった」

 

 王国を守れた。エイリークは素直に喜んだ。

 

 

「目が覚めたんだね。大丈夫かい?」

 

 エイリークの様子を見にやってきたのはマーク。上半身は裸だ。

 

 ローブの上からではわからなかったマークの逞しい体つきには、彼女も多少は驚く。

 

「その身体……」

「ああ。ローブもシャツも駄目にしちゃってね。女性を前に不躾だったかな?」

「構いません。……すいませんでした。勝手に戦いに参加したりして」

 

 エイリークはマークに謝った。彼女にミサやポピラ、自分が守るべき者の為に残れと諭したのは彼だった。

 

 結局エイリークは先輩の言いつけを破って飛び出してしまったわけで。

 

 だけどマークは簡単に彼女を許した。

 

「過ぎたことだよ。それに君やポピラさんがいなければこっちの機巧魔獣は倒せなかったし王立研究所も傭兵に占拠されていた。反省してるならそれでいい」

「でも」

「納得いかないかい? だったら今日のこと、許す代わりに条件をつけよう」

「条件?」

「ウインディさん。君はエース資格を取るべきだ」

「!?」

 

 驚くエイリーク。

 

「協調性がなく先輩の言うことを聞かない。自分の正義があって力があればすぐに振るいたがる。うん。向いてると思うよ」

「……」 

 

 どこの暴君ですか?

 

 それが……アタシ?

 

 エイリークは驚くことも先輩相手に怒ることもできず呆然。

 

「そんな自分勝手な人ばかりだから。エースは。勿論まかり通るのは成果を上げるからなんだけど」

「変なこと言わないで頂戴。あなたやクルスと一緒にされるのは御免よ」

 

 口を挟んできたのはいつの間にかやって来たミヅル。彼女はサヨコの代理として新開発地区から様子を見に来ていた。

 

 ミヅルは頬を染めて俯き、マークに彼のローブを差し出す。

 

「ほら。縫い合わせたからいい加減服を着なさい」

「あはは。ごめんね」

 

 ミヅルはサヨコの指摘通り、実は初心で異性に対する耐性が極端に低い。

 

 上半身裸のマークを見て思わず真っ赤になって斬りかかるほど。

 

 笑顔でローブを受け取るマーク。裸の上からいつもの黒衣を纏った。

 

 ばっさり切り裂かれていたとは思えない出来栄え。《賢姫》の家庭科の成績はランクAである。

 

「うん。縫い目も目立たないし流石だね」

「ちゃんと前を隠して。……聞いてたわ。それで話は戻すけど、あなたがエースになるのは私も賛成よ。何なら私の《Aナンバー》の称号を渡してもいいけど」

「駄目だよミヅルちゃん。彼女はリアちゃんから正々堂々剣で奪い取るんだから」

「ちょ、ちょっと。先輩?」

 

 言いたい放題のマークとミヅル。

 

 まさか《烈火烈風》とエース資格をかけて決闘するのは確定なのだろうか?

  

 困惑するエイリーク。

 

「ああ。でもブソウ君のを奪ってもいいんじゃないかな」

「そうね。元々エースと自警部の2足わらじなんて無理があったんだし」

「あのっ!」

「冗談だよ。半分はね」

 

 あはは。いつもの笑みをマークは浮かべる。

 

「半分って」

「僕ら《Aナンバー》に決闘する必要はないってことさ。今まで中央校は伝統でエースは10人しかいれなかったけど」

「今年は《アナザー》なんて例外ができちゃたのよね」

「あっ……」

 

 《精霊使い》の少年のことだ。

 

 学園長が設けた異例の、11人目のエース。

 

 それに《Aナンバー》に挑戦する以外にもエース資格を取得する方法がある。チェルシーなど他の学校にいるエースがそうだ。

 

「資格試験」

「そうよ。《Aナンバー》の名前は残るでしょうけど、この先学園には彼の存在を理由にエース資格者が増えてくるでしょうね」

「生徒会長なんてそのままエースを連れてきそうだよ」

「……」 

 

 《青騎士》、《獣姫》、《鳥人》を除く《Aナンバー》達には懸念がある。疑念がある。

 

 生徒会長。そして《会長派》に。

 

 生徒会長はまだ2年生だ。来年、自分達が卒業した後の学園の往く先をマーク達は心配している。

 

 

 マークは言った。

 

「期待してるんだよ。君たちには。だから目指してみないかい? 《Aナンバー》、あるいは次の《アナザー》を」

「先輩……」

 

 エイリークは思わず自分の、鞘に納めた細剣を握り締めた。

 

 

 姉を、家族を守りたいと願って手にした力。これからも守る為に振るい続けると決めた剣。

 

 彼女の次なる目標。

 

 エース。なれるだろうか。それに強くなれるだろうか。

 

 

 自分の先を行く、あの少年のように。

 

 

(――あっ)

 

 不意に、エイリークはここにいないユーマのことを思い出した。彼女の《直感》が漠然とした不安を自身に伝えている。

 

 エイリークはユーマのことをポピラに訊ねようとしたが。

  

「そういやユーマ君はどうしたの? 君たちと一緒だったよね?」

「そうなんですか?」 

 

 先にマークが思い出して訊ねてきた。訊き返すのはポピラ。

 

 ミヅルは勿論、そういえば合流前の話なのでポピラもユーマが別行動をとったことを知らないはず。

 

 

 ……はず? 

 

 

 事情を知るアイリーンもチェルシーも、誰もユーマを確認していないのか? エイリークの不安が一層強いものになる。

 

「エイリークさん?」

「先輩。ユーマは……ポピラ達と合流する前にアタシ達と別れました。国の外に増援がいるからって」

「「……」」

 

 マークとミヅルは驚くよりも「またあの子か」といった感じ顔を見合わせる。

 

「ポピラ。アイリィ達から聞いてない? 何も知らなかったの?」

「……はい。それにわかってるのは王都内の情報だけです」

「外か。まずいね。すぐに動けるのは……」

 

 マークは考える。

 

 アイリーンは消耗しすぎ。アギは腕を折ってはいるが《盾》は使えるだろう。だけど。

 

 今、戦闘が可能なのは。

 

「僕とミヅルちゃん。それに応急処置を終えればレアちゃんのエース3人。あと《炎槍》さんか」

「先輩、アタシもまだ」

「君はもう駄目だ。最低でも機巧魔獣と戦える力が残ってないと」

 

 ついて行こうとするエイリークを止めるマーク。

 

「君が大丈夫でもポピラさんが保たない」

「くっ……」

 

 エイリークのスーパーモードによる強化は、ポピラの《同調》を使った支援術式によるものだ。スーパーモード発動の負荷は全てポピラにかかっている。

 

 ポピラがエイリークに《同調》してかける4つの支援術式。その負荷は多大でポピラは《サポート・バレット》を1日に何度も撃つことができなかった。

 

 《ミサイル・トリガー》や《ボルテックストーム》などを使い消耗してしまった彼女なら尚更。

 

 マークからの戦力外通達に歯噛みするエイリーク。ポピラは申しわけなく彼女に謝った。

 

「すいません。無理すればあと1回はできるでしょうけど……」

「落ち着きなさい。まずは情報よ。外にいる王国軍とは連絡取れてるの?」

「先輩たち! 王さまが来てくれた。こっちに来てくれ」 

 

 ミヅルが状況把握の為に皆に訊ねようとしたところ、アギの彼女らを呼ぶ声が。

 

 

「……生きてたのね」

「ミヅルちゃん?」

 

 誰が、とは急に不機嫌になったミヅルは話さなかった。

 

 +++

 

 

「レヴァイア様!」

「無事か? 坊主たち」

 

 防衛線での戦闘を終え、王都へ戻ってきたのはレヴァンと《機巧剣》を担いだミハエル。それともう1人。

 

 氷の目をした巨漢の男。

 

「あら《氷斧》。王さまと一緒?」

「……色々とあった」

 

 問いかける《炎槍》に《氷斧》はそれだけを言った。

 

 

 ユーマの《砂縛陣》に飲み込まれた《氷斧》は地下400メートル、《西の大帝国》で使われていた採掘場まで落とされた。

 

 脱出を試みようと彼は坑道を進み、砂で塞がった場所は周囲を凍らせ砕きながら上を目指した。ダンジョンアタックである。

 

 語られることのない孤独な脱出劇。そうして彼が地上へ抜け出た先が王国軍対機巧魔獣の戦場だったという。

 

 

「いやー助かったぜ。《氷斧》の旦那が来てくれてよぉ」

 

 レヴァンはそんな《氷斧》を何故かダチのように接して労っている。

 

「機巧魔獣があと5体ってところでミハエルの剣が動作不良起こしてな。旦那がいなけりゃ防戦一方で打つ手なかったぜ」

「まったくですね。私はもう左腕1本で戦う覚悟をしましたよ」

「……」

 

 《氷斧》は無表情。何も言わない。

 

 彼は《炎槍》が捕まっていることを理由にレヴァンにいいように使われていた。残りの機巧魔獣を倒したのは彼である。

 

 核の魔石ごと機巧魔獣を氷漬けにしたのだ。コピーもされる間もなく、一瞬で。

 

「やるじゃないの、レー君」

「資格を失くしたとはいえ魔獣退治は俺達ハンターが専門だ。一応仲間である傭兵を助けてもらった恩もある」

「変なところで義理堅い子ねぇ」

「……魔力で動くタイプで自爆すると聞いたので凍らせたまま放置してある。あとで祓ってくれ」

「了解よん」

「……」

 

 《氷斧》はそれ以上彼女には何も言わない。

 

 大丈夫だったか? 無事でよかった。

 

 そんなこと、彼は何も伝えなかった。

 

 

 一方。ファルケはミハエルの持つ《機巧剣》に釘づけになる。

 

「それは……まさか!」

「ええ。あなたの父、ジャファル様の物です」

 

 ミハエルの言葉にファルケが驚く。

 

「な、なんで? なんであんたが」

「遺言で託されたのです。《帝国》を守る最後の剣として」

「……」

「おもかったですね。当時の私にこの剣は」

 

 ファルケは神妙に父の最後の部下であったミハエルの話を聞いていた。

 

 変わりましたね。ミハエルはそう思う。

 

「あの最後の戦の前。帝都に1人残された私に『《帝国》の民を守れ』と、将軍は私に仰られました。『決して民を傷つけるな』とも」

「《帝国》の、民……」

「忘れないでください。昔、砂漠の民を了承もなく最下層民と決め、帝国民に仕立て上げたのは私達『帝国人』です。私達は皆、帝国人であり砂漠の民なのです」

 

 ミハエルは今こそファルケに伝える。彼の父、英雄の言葉を。

 

「私達は同じ砂漠に住む1つの民です。私達は争ってはいけない。共に1つの国を創るべきだった」

「ミハエルさん……」

「いつかあなたも気付くはずです。『レヴァイア』の名を継いだあの方もまた、ジャファル様の遺志を継ぐ1人だと」

 

 ミハエルはレヴァンに向けて《機巧剣》を掲げた。

 

 その所作は帝国式ではあるが忠誠を誓う騎士のそれではない。それは、戦友の武運を祈る略式のもの。

 

 想いを共にすると。

 

「だから私はジャファル様の代理として、この剣と共にあの方といるのです」

「……」 

 

 いつかわかってくれる。そう信じてミハエルは話をするのだった。

 

 それにしても。

 

 生身で《機巧剣これ》を振れるのだからジャファル様も化物でしたね。そう思い最後に苦笑するミハエル。

 

 +++

 

 

 マークやエイリーク、チェルシー達もレヴァンの元に集まり一同集結。

 

「嬢ちゃん達も無事だったな。王都内は特に危険を『感じなかった』からそこまで気にしていなかったが」

 

 レヴァンはエイリーク達を労った。

 

「よくやったぜ。おかげで外の方もケリがついた。俺達の勝ちだ」

 

 おおっ! 盛り上がるのは《レアメダル・メカニック》や《黒耀騎士団》の学生たち。

 

「ん? どうした、嬢ちゃん達? そういや精霊の坊主がいないみてぇだが」

「王さま。それなんだけど」

「あんたに話がある」

 

 エイリークの言葉を遮り、レヴァンに話しかけるのはファルケ。

 

 彼の傍には《炎槍》、《氷斧》が控えている。

 

「アンタ」

「……どうした? ちょっと見ねぇ間に随分男らしくなったみてぇだが」

「降伏してくれ。《新帝国軍》に」

「なっ!?」

 

 誰もがファルケの発言に驚く。熱り立つのはアギやエイリーク。

 

「ファルケ、お前」

「この期に及んで、アンタはまだっ」

「待て。おい。どういうこった?」

「まだ中将が率いる本隊がいる。傭兵なんかじゃない、正規軍の精鋭だ」

「……マジかよ」

 

 思わずアギは声を漏らした。他の生徒たちにも動揺が走る。

 

「王国軍も、あんた達だってもう戦う力は残ってないはずだ。悪いことは言わない。降伏してくれ」

「それでどうするんだ? みすみす国を空け渡せってか?」

「無駄な争いをせず時間を稼いでほしい。その間に俺が中将の下へ行き説得する」

「……!」 

 

 意外なことを言われ驚くレヴァン。


 でもそれがファルケの決意だった。

 

「機巧魔獣なんてモノを持ち出した中将はおかしい。それくらい俺にだってわかる。だから止めないといけない。アレが国や民を潰す前に」

「お前」

「あんたたちじゃもう勝てない。だから、俺が停戦協定を結ばせる。もうこの国で争わないように」

「本当に、俺達じゃもう守れねぇのか?」

 

 レヴァンは訊ねる。今のファルケの話だけでは説得力が足りない。

 

 それに青臭い少年の熱意に全てを賭けるほどレヴァンは甘くなく、若くなかった。

 

 帝国軍、あるいは『帝国貴族』のやり方というものをよく知っていた。

 

「例えばそこにいる《炎槍》や《氷斧》の力を借りて、出払っている王国軍3万の将兵が戻っても無理か?」

「それは《炎槍》さんと相談した。勝てるかもしれない。でも確実に甚大な損害が出る。あの機巧魔獣が放たれて集団で乱戦になったりしたら尚更」

「機巧魔獣。まだいやがるのか」 

 

 《魔導砲》の威力に術式のコピー能力と自己修復、広範囲の自爆攻撃。単体ならともかく、数が揃えば機巧魔獣は恐ろしいほどの脅威になる。

 

 だからレヴァンも防衛線では数の差を活かした分断、各個撃破を選択したのだ。でもいくらレヴァンでも皆を《盾》でフォローするのは限界がある。

 

 一体帝国軍は、あとどれだけ機巧魔獣を保有している?

 

 

「時間がない。本隊はもう近くにいる。俺はすぐに《炎槍》さん達と行くから、あんた達は攻撃されないよう抵抗の意思を見せずに」

「待って」

 

 今度はエイリークがファルケの言葉を遮る。

 

「本隊はどこ?」

「何?」

「大分前にユーマが帝国軍の増援がいると言って国の外へ向かったわ」

「なんだと」

 

 まさか。

 

 ファルケやレヴァンだけでない。知らなかった全員が驚く。思い出したアイリーンとチェルシーも驚愕している。

 

「戻って……きていません」

 

 不安が消えない。だからエイリークはファルケと、レヴァンに訊ねる。

 

「教えなさい。帝国軍は本隊の他に伏兵を用意していたの? それに王さま、あなたは何も『感じて』いないの?」

「……! まてよ嬢ちゃん。まさか坊主は」

 

 ファルケはもう帝国軍の作戦を把握していなかった。彼が知っている本隊の陣容、《虎砲改》の数も本当なのか定かではない。

 

 そしてレヴァンは、わからない。機巧魔獣を倒した以降、彼に危険を告げる『声』が聞こえてこない。

 

 

 何かが阻害している? 何故かレヴァンはそう思った。

 

 それでエイリークに言われてレヴァンにも不安と焦りが募ってくる。

 

 

 エイリークは言った。

 

「もしも。ユーマが食い止めようとしているのが伏兵じゃなくて、敵の本隊だとしたら……」

「ミハエル! シュリ!」

 

 すぐさまレヴァンの指示が飛ぶ。

 

「外に待機してある王国軍から偵察隊を出せ」

「すでに周囲を警戒させています。私は情報の収集に外へ」

「頼む。シュリは暗視用の望遠鏡だ。どこか高い所に登ってお前の目で外を調べてくれ」

「は、はい!」

「あたしが手伝う。アレッく君、あたし達のスコープレンズ持ってきて」

 

 ミハエルが駆け出し、チェルシーがシュリを手伝った。

 

 ブーツユニットをパージしたチェルシーは、マシンアームでシュリを掴みあげるとブーストジャンプ。ホバリングして高度を維持する。

 

 シュリは空を飛ぶ感覚に驚きながらも手にした《メカニック》特製の暗視スコープを取り出した。彼は《遠見》の特性スキルを併用して周囲を見渡す。

 

 

「どうだ!?」

「はっきりとはわかりません! それに北西の方は砂嵐が酷くてまったく見えません!」

 

「砂……」

「嵐?」

 

 十分な情報だった。

 

 愕然とした。アギやアイリーン、ユーマを知る誰もが。

 

 

「あの馬鹿!」

 

 

 エイリークが駆け出す。続いてアギが、アイリーンが、マークたちがあとを追う。

 

 

 

 

 ひとりじゃないと伝えることができたなら。

 

 

 ――ユーマさんだって1人で無茶なんてしない。どんな困難も、みんなの力で乗り越えてくれる

 

 

(姉さま!!)

 

 エイリークは走るしかない。今は、ただ。

 

 

 

 

 戦っている。ユーマはまだ。

 

 ずっと、1人で。

 

 +++

 

 

「ああああああ!!」

 

 

 ユーマは戦っている。月と星と、砂の世界で。

 

 暗闇の中、鈍く輝く赤い光に囲まれて。

 

 

 彼が倒した機巧魔獣の数は、もう12体になる。

 

 +++

 

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