3-09b 総力戦 後
レヴァン&ミハエル。王国最強タッグVS機巧魔獣
副題「ミヅルさんはお邪魔虫」
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機巧魔獣は機械と鋼の体を持ち魔力で動くいわば魔法生物だ。脳であり心臓と呼ぶべき核は魔力を供給する魔石にある。
戦車型機巧兵器《虎砲》をベースとした『威力偵察型』と呼ばれるこの機巧魔獣は、腹部と頭部の2か所に魔石が備えられている。核となる魔石は腹部だ。
頭部の魔石は《魔導光閃》と呼ばれる貫通レーザーの発射口というだけでなく、腹部の核を破損した場合自己修復に使う魔力を蓄えておく非常用の予備電源のような役割があった。
つまるところ。機巧魔獣は頭部の魔石を失っても腹部の魔石が無事ならば問題なく動けるのだ。
新開発地区。地下都市への侵攻を防ぐ彼女達の戦い。
両腕をサヨコ、頭部をミヅルに斬り飛ばされた機巧魔獣は尚も戦闘可能。その鋭く尖った脚で刺し潰そうと2人に突撃を仕掛けようとした。
対するは大太刀の柄に手をかけ、珍しくも勇ましく前に出るミヅル。
「叔母様。さがって」
「大丈夫」
そう言ってサヨコはミヅルを宥めた。
「動いた時点でもう終わっています」
「えっ?」
その通りになった。機巧魔獣が突撃しよう脚を動かしたところ、機巧魔獣の脚は上半身を支え切れず前のめりに倒れたのだ。驚くミヅル。
実は勝敗は初見で決まっていた。見れば機巧魔獣の8本の多脚がすべて『斬り』離されている。何故か自己修復はされなかった。
機巧魔獣は最後に残された腹部の《魔導砲》を撃とうとしたようだが、その核である魔石までも修復不能。細切れにされている。全てサヨコがやったことだ。
淡く儚くさりげない動作から一転。痛烈に繰り出される、気付いた時には誰もがはっとする鮮烈で鮮やかな剣技。
抜刀からの連続剣、そして納刀までの動きが1つに重なって見えるほどの速さ。
その技は彼女の色に合わせて《桜襲》という。
「これは。もしかして叔母様が?」
「いけない」
驚きに冷静さを欠いたミヅルよりも、状況判断はサヨコの方が早かった。
手足と頭、魔石、そのすべてを斬っても機巧魔獣はただで終わりはしなかったのだ。致命傷を負った機巧魔獣は最終手段を発動。
魔力の暴発を利用した自爆攻撃。
全身から魔力の光を漏らす機巧魔獣に遅れて気付くミヅル。並々ならぬ様子にその威力は予想もつかない。
せめてできるだけ離れないと。そう思ったミヅルの前にサヨコが立った。
「逃げられないわ。ミヅルちゃん。私のうしろに下がりなさい」
「叔母様!?」
「あなたに何かあったら、郷にいる姉様に申しわけないの」
だけど庇いきれるのか?
刀を手にサヨコが逡巡したその時。思いもよらぬ怒声が飛び込んできた。
「てめぇ! 俺のサヨコさんに何しようとしてやがんだどらぁああっ!!!」
「「――!?」」
今度こそ間に合った。レヴァンは《王様ジャンプ(仮)》なる瞬間移動でサヨコのピンチに飛び込んだ。
そのまま自爆寸前の機巧魔獣にダイビングキック。前方に展開した《盾》をぶつける1人シールド突撃でレヴァンは機巧魔獣を引き離す。
突然現れたレヴァンに2人は驚いた。サヨコが驚いたのは彼が夜中に《蜃楼歩》を使えないことを知っていたからであったが、ミヅルは別のことに過剰に反応した。
(俺の、ですって?)
私の叔母様よ! とつい言い返しそうになる彼女。熱心なサヨコ信者(レヴァンをはじめ、アギなど砂漠の民皆が患っている病気)となったミヅルは、青バンダナのおっさんの正体がわからず熱り立つ。
非常事態にもかかわらず大太刀片手にレヴァンを問い質そうとするミヅルだが、その前に機巧魔獣が自爆。彼女は自分達の身の危険をすっかり忘れてしまっていた。
「絶対に、させねぇ!」
「あなた!」
「あなっ、たぁ!?」
驚愕して素っ頓狂な声を上げるミヅル。
サヨコに傷1つつけさせまいと全力で展開したのは、《牢壁》という《城壁》の応用技だ。レヴァンは自分達ではなく機巧魔獣を《城壁》で包囲することでその被害を最小に抑え込む。
雷が大地を割るような激しい轟音。それだけを残し機巧魔獣は跡形もなく消え去った。
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「ちっ。道連れにしようとなんてふざけたヤツだ。……威力も洒落にならねぇ」
自爆攻撃でレヴァンは《牢壁》を構成する20万枚の《盾》の内、1撃で約半数を消し飛ばされた。その威力は彼が間に合わなかったらミヅルとサヨコ、2人だけでなくこの辺り一帯がどうなっていたのかわからない。
「あんなのにサヨコさんを一生寝取らせてたまるかよ」
「まったく。あなたという人は」
「……」
ミヅルはサヨコのおっさんに向ける、呆れながらもどこか安心したような、親密な声音に耳を疑う。
それで愛する王妃の無事を確認したレヴァンはというと。
「さーよこさーーーーん!!」
壊れた。
今日まで約1週間。溜めに溜めこんだ寂しさとか情欲をすべて解放。
レヴァンは野生を解き放ち、男の本能のまま、抱きしめたくてサヨコに飛びかかる。
「サヨコさんサヨコさんサヨコさんサヨコさんサヨコさんサヨ、くぅおっ!?」
「ミヅルちゃん!?」
剣閃が暴走するおっさんを押しとどめた。驚くのはサヨコ。
そう。《賢姫》は敬愛する叔母を守る為、《剣鬼》となる。
《斬鬼首切丸》の刃がレヴァンが咄嗟に展開した《盾》を斬り飛ばした。ミヅルの躊躇いのない首を狙った1撃をレヴァンはブリッジで緊急回避。そのままバク転で後退。
回避できたのはレヴァンがミヅルと似たサヨコの太刀筋を身を以て知っていたことと、奇しくも野生を解放していたおかげだろう。生存本能が彼を生かした。
「てめっ、なにしやがる!?」
「失礼。ところで……どちらさまですか?」
ミヅルはどこか薄ら寒い笑みを浮かべ、レヴァンに訊ね返した。心なしか黒髪が逆立っている。
「『私の』叔母様に何の御用で?」
「……おい。いまなんつった?」
今の発言はレヴァンにとって聞き捨てならなかった。
どこまでも醒めた視線を送るミヅルに対し、レヴァンは激情のままに叫ぶ。
「『俺の』サヨコさんはおばさんじゃねぇ! 永遠に20代だ!」
「そんなの当り前です。飛ばすわよ」
「いえ。いくらなんでも。私も来月でさんじゅ……」
「「そんなことねぇ(ないわ)!!」」
実は気が合う?
でも感情が先走って埒が明かない。仕方なくサヨコは仲裁に入った。
「落ち着いて下さい。あなた。この子はカンナの家にいる私の姉の、1番上の子です」
「何? じゃあミハル姫の娘か」
「母の事まで。何者なの?」
「ミヅルちゃん。この人は私の良人よ。だから刀をしまって頂戴」
「嘘」
レヴァンが王様、ということよりもサヨコの夫であるということにショックを受けるミヅル。
レヴァンはそこそこ背が高く中年にしては無駄のない体つきをしているのだが、青くてださいバンダナを額に巻いてどこか粗野で荒っぽい顔立ちをしている。しかも今は汗まみれ砂まみれのおっさん。思春期の少女が「くさい」と生理的に嫌がりそうな風体。
本の虫でどちらかというと夢見がちな少女であるミヅルが、初対面で無条件で嫌悪するタイプであった。
「こんな人が」
「いい加減なところが目立つ人だけど、《帝国》との縁を絶ったカンナの人たちを説得してくれたのはこの人よ」
「えっ?」
「帝国の皇女だった私が母様のお郷に行くことができたのも、20年ぶりに亡命した母様や姉様、それにあなたとも会うことができたのもこの人のおかげよ」
「……叔母様がそう言うのなら」
渋々と大太刀を開閉式の鞘に納めるミヅル。だけど視線は厳しくレヴァンを見据えている。今度叔母様に不埒な真似をしたら許さない、そんな感じ。
レヴァンを警戒するミヅルの視線は2点に絞られている。
いつでも抜けるように柄に手をかけ、彼女が見つめるのはレヴァンの首。若しくは――
レヴァンは寒気が走り思わず股間の前に《盾》を構えた。
「怖っ! サヨコさん何この子。男の敵!?」
「いいえ。何を言ってるのかしら?」
「……仕方がないわね」
サヨコは敵愾心を隠さないミヅルの説得に入った。
「ミヅルちゃん。そんな風に脅したら駄目よ。縮んじゃうから」
「…………叔母様?」
「男の人って意外と繊細だから。たたなくなるのよ」
「たっ、たた!?」
何がとはミヅルは訊けない。《賢姫》は耳年増である。
羞恥で真っ赤になるミヅルから殺気が抜けた。もう1度レヴァン(の下の方)を見て大人しくなる。
「あと、年頃の女の子がまじまじと見ちゃ駄目よ」
「~~っ!?」
「初心なのね。かわいいわ」
とは来月で三十路になるサヨコの言葉。
僅かな時間で姪の弱点を見抜く叔母は数段上手だった。
「サヨコさん……」
複雑そうに股間を隠すレヴァンがなんとも情けない。
「冗談はさておき。……大丈夫ですか?」
レヴァンに近づくと身長差から見上げるサヨコ。真面目な話になるとレヴァンは何も答えられない。
すべてを見透かされていそうな彼女の黒耀の瞳。今は見られたくない。
「辛く、ないのですか?」
「っ」
なのにサヨコはレヴァンの心を暴く。一目見て彼女はわかってしまったから。
泣いている。ずっと、ずっと。
「こんなに汗をかいて。ずっと走りまわっていたのですね」
「サヨコさん」
「その右腕。ちゃんと止血してますか?」
「……ああ。血は止まってる」
《魔導砲》からユーマ達を庇った時の傷だった。
あの時、突然のことに《城壁》の展開が少しだけ間に合わなかったのだ。出血はそうでもないが右腕の皮膚はズタズタに裂かれている。
レヴァンは応急処置として右腕を服の帯でぐるぐる巻いて縛っているだけだった。腕全体が赤黒く染まっていた。
心配するサヨコはそっとレヴァンの右腕に触れ、悲しそうに目を伏せる。
彼の手前、涙を流すわけにはいかなかった。
この人が。
血を流してるのはどうして?
水のように全身から汗を流してるのはどうして?
泣けなかったからだ。
泣いても悲しいことは何も変わらないから。彼は走り続け、身体を張り続けた。
理想を掲げた王国を戦火に晒してしまった。戦うしかなかった。そう言い聞かせてきた。
虚勢でもいい。ふざけてでもいい。自分を信じて戦う皆の為に、彼は堂々と在り続けなければいけなかった。
この夜。この人は涙の代わりにどれだけのものを流せばよいのだろう?
その姿にサヨコは、かつての皇帝陛下の姿を重ねてしまう。
「なんだか。お父様に似てきましたね」
「やめてくれ。あんな引きこもりの頑固ジジイに似てるなんて。冗談だろ?」
「そうでしょうか」
本気で嫌そうな顔をするレヴァンにサヨコは微笑みを返した。
大丈夫よ。そんな優しい笑みを。
「なあ、サヨコさん」
「はい」
「地下都市にいるみんなのことを頼むわ」
サヨコの瞳に映る、自分を顔を見るレヴァン。
「俺の為じゃなくて、子供たちの傍にいて今みたいに笑ってあげてくれ」
「あなた……」
「みんなが不安になってる。ちびたちは泣いてるかも知れねぇ。……今日はお誕生会で楽しくやってたのにな」
「……」
「ずっと気になってた。でもこればっかりは俺じゃ無理だ。……守れねぇよ」
最後に震えた声は、彼が僅かに漏らした弱音だった。
レヴァンは気付いていたし、今確認した。
自分の目が笑っていない。獰猛な笑みはずっと前から戦士のそれに『戻っている』。
それで彼はサヨコに懇願する。
やさしい顔をしてくれ。あなただけは戦わないでくれと。
「傍にいてあげてくれ。安心させてあげてくれ。頼む」
「……はい」
サヨコは頷くと、次の瞬間に自ら1歩踏み出して身体をレヴァンに預けた。ミヅルの「ああっ!?」という悲鳴はこの際無視する。
汗だくで砂まみれのレヴァンを構わずに抱きしめ、腕を背に回した。
傍にいれない代わりに。今だけは。
彼の心を癒す為に。想いを全て全身で伝える為に。
「守ります。あなたの代わりに、あなたの家族を」
「サヨコさん……」
「だから守ってください。私を、私の家族を」
「ああ」
レヴァンもサヨコを抱きしめた。
愛しい人を血で汚したくなくて、左腕だけで力強く。
「信じています。あなたが砂の上に築いた理想は決して崩されないと。あなたが崩させはしないと。だから、行ってください」
「ああ!」
応えなければいけない。誰よりも、この人の為に。
待たせたな。
レヴァンは頭の中に響く『声』に向かってそう答えた。もう大丈夫だと。あとは任せろと。
湧き上がる力はサヨコが与えてくれたものだ。今なら何でもできる。男なんて単純だから。
限界も不可能も、いくらだって超えていける。
「待ってろよ。今行く」
《蜃楼歩》。そしてアギから教わった『守るべきものの前に立つだけ』の瞬間移動の術式。
2つの力を合わせた、新たなゲンソウ術でレヴァンは『跳んだ』。
全てを守る盾となる為に。
「世界よ。お願いします。レヴァイアの名を背負うあの人に、加護を」
「叔母様……」
愛しくて、せつなくて、胸を締め付けられるほど綺麗で。
レヴァンを想い、祈るサヨコの姿にミヅルは圧倒された。羨ましいとも思ってしまった。
2人の愛を蚊帳の外で見せつけられたミヅル。これが今後の彼女、特に恋愛方面で大きな影響を与えることになるのだが、それはまた別の話。
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王国外郭より外。対帝国軍第3次防衛線付近。
たった1人で10体もの機巧魔獣を相手にするミハエル。王国軍の支援砲撃はあるものの、それは機巧魔獣の侵攻を食い止め、敵であった傭兵達の撤退を支援するためのものだ。
彼は巨大な《機巧剣》1つで孤軍奮闘していた。
左の機械腕のパワーと武器の重量で叩き潰し、斬り伏せる。しかし、そうやって倒した機巧魔獣はすぐに自己修復してしまう。
砂地を転がりながらレーザーを躱して、ミハエルは溜息をついた。
「倒した傍から復活ですか。こっちは久しぶりの実戦なんですけど」
少しだけ困った顔をするミハエル。
久しぶりとはいっても息が上がっていないのは、きっと毎日あの神出鬼没な王様を追いかけ、国中を駆け回っていたおかげだろうと彼は思う。苦笑するしかない。
それでもミハエルの身体は左腕以外すべて生身だ。改造人間にも体力に限界があった。
「……参りましたね」
機巧魔獣に四方から囲まれ、《魔導砲》を撃たれた時には流石の彼も諦めざるをえなかった。
なのに。
「――ようミハエル。遅刻だぜ」
あの王はいきなり現れて自分を守り、こんなことを言うのだ。
ミハエルは瞬間移動程度ではもう驚きはしない。慣れているから。
「レヴァン様」
「お前6時間で戻れつっただろ。何してたんだ?」
「どこかの王様が直通の《転移門》を封鎖していまして。ケイオス様の『ご厚意』で研究中のロケットなるものを使い空を飛んで参りました」
「そいつは……」
「砂漠を歩いて10日以上かかる距離を5分で辿りつくなんて、人の乗るものじゃありませんよ。あれは」
《城壁》に囲まれる中、レヴァンと背を合わせ愚痴を零すミハエル。レヴァンは「そりゃご愁傷さん」と一言だけ。
いつもと変わらない飄々とした態度。けれども『国王付き』であるミハエルはレヴァンのことならすぐにわかる。
こんな事態でもいつもと変わらない。ということは。
「サヨコ様にお会いになったのですね」
「わかるか?」
「見違えましたよ。ではどうしましょう?」
ミハエルは改めて《機巧剣》を構えた。
それは、《帝国》から受け継がれた民を守る剣。
「俺が全てを守る。だからお前が全部ぶち壊せ」
「大雑把ですね」
だけど揃った。王国を守護する盾と剣が。
「では王よ。我らにご命令を」
「守るぞ。俺達の国は、俺達の家族は、俺達の手で」
レヴァンは広げる。《盾》を、皆を守れるだけの数を。
レヴァンは叫ぶ。王として、力の限り。
力を貸す。だから力を貸せと。
「野郎共! 《盾》を取れ。守る為に!」
「前進せよ。王国軍!」
王国軍の兵たちが怒声をあげて砂山から飛び出し、王の下へ一斉に駆け出した。
彼らはレヴァンの《盾》を受け取ると、先陣を切るミハエルと共に果敢に機巧魔獣へと立ち向かう。
総力戦。誰もが生き残る為に。
「いくぜ。それと帝国の傭兵ども。おめーらはどっちだ?」
最後にレヴァンは残った傭兵達に訊ねた。
化物と人間。どっちの味方だと。
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王都防衛戦、最終局面。
レヴァンの指揮の下、戦うのは王国軍と傭兵の混成軍約1万。対するは機巧魔獣10。
帝国軍に与していた傭兵のほとんどがレヴァンの要請に従った。
――死にたくねぇ。それにもう死なせたくねぇ
――みんなで生きたい。だからおめーらの力が欲しい
そんな切実な願いだった。
何より傭兵達はレヴァンの目に惹かれた。
元反乱軍のリーダー。悲惨で非業な死を遂げた同胞を何百、何千人と見届けた、ここにいる誰よりも修羅場を潜った彼の放つ光。王の真の姿に気付いた者は格の違いに息を呑むしかない。
傭兵達は戦士としてのレヴァンに敬意と畏れを抱いた。彼らがレヴァンから貸与された《盾》に触れ、その『あつさ』に全面の信頼を寄せたのも確かだった。
レヴァンが知る機巧魔獣の情報は少ない。そんな彼が兵の指揮を執り、立てた作戦はこうだ。
機巧魔獣1体につき約千人ずつで当たり数にものをいわせて機巧魔獣を分断。次に兵が全員で《盾》を使い身を固めながら機巧魔獣を牽制。その間にミハエルが1体ずつ仕留める。
最後は自爆する機巧魔獣をレヴァンが《牢壁》で被害を抑える。といったもの。この作戦ですでに機巧魔獣を2体仕留めた。
「まったく。レヴァン様は人使いが荒い」
王国軍唯一のアタッカー、ミハエルは愚痴を零しながら《機巧剣》を振るう。
機巧魔獣の弱点が腹部の魔石だとレヴァンから聞いた彼の猛攻は凄まじかった。
複合型機巧兵器である《機巧剣》は辛うじて剣のかたちをした全く別のモノだ。全長2メートルもの機械の塊は重量そのものが凶器である。ミハエルが左の機械腕のパワーでやっと振りまわせる代物だ。
ミハエルはまず力任せに《機巧剣》の『峰』に当たる部分を叩きつけ、爆発。
火薬で炸裂する《ヒートハンマー》で機巧魔獣の脚を潰す。
続いて返す刀で鎌のような機巧魔獣の腕を刀身で受け止めた。片刃である《機巧剣》の刃は鎖鋸で構成されている。
それはチェーンソーだ。物々しい唸り声を上げ、ミハエルは弾き返すと同時に機巧魔獣の腕を力任せに切り裂く。これで防御を崩した。
最後にミハエルは《機巧剣》の先端、錨のような爪のある切っ先で腹部の魔石を貫き、グリップを引いて《プラズマアンカー》の放電を放った。魔石を粉砕したミハエルはすぐさま《ヒートハンマー》を機巧魔獣に叩きつけ爆発の反動で飛び退く。
機巧魔獣が自爆する直前、レヴァンがミハエルの前に飛び込む。それから《牢壁》で囲み爆破処理。
これで3体目。
「よし。次!」
レヴァンはすぐに『跳んだ』。彼は縦横無尽に跳び回り、兵が殺されないよう1人で全面をカバーしに走りまわっている。
あらゆる場所から彼の檄が飛ぶ。
「囲めぇ! 正面の奴は身を寄せ合って《盾》を固めろ!」
「側面と後方の奴。注意を引け。前に負担をかけさせんな」
「腹の攻撃は俺に任せろ!」
「うらぁ! 効かねぇんだよ!」
「いいか、あと7体だぜ。手の空いた奴はこっちに来い。へばった奴は無理せず下がれ」
「死ぬなよ。仲間を守れ。誰1人死ぬんじゃねぇ!」
その言葉に、その姿に引き寄せられ、引き込まれる。
守ってくれるから。命を預けられる。
《盾》の王がいる限り、手にした《盾》がある限り、王国軍も傭兵も、誰1人機巧魔獣を恐れはしない。
「ミハエル! さっさと倒しやがれ!!」
「そんなに働かれると、文句が言えないじゃないですか」
ミハエルは腰だめに《機巧剣》を構えた。《ヒートハンマー》の炸裂弾をグレネード弾として撃ち放ち、不意打ちで機巧魔獣の頭を潰す。
続いてアンカーランチャー。先端の《プラズマアンカー》を射出して機巧魔獣の腹部に突き刺し粉砕。
これで4体。
「次です!」
5体目に斬りかかるミハエル。
しかし。ここにきて彼らは機巧魔獣で最も警戒すべき学習能力を思い知ることになる。
機巧魔獣の《盾》がチェーンソーを防いだのだ。更に《牢壁》でミハエルを封じ込めようとする。
「これは? まさかレヴァン様の」
閉じ込められる前にミハエルは《ヒートハンマー》を地面に叩きつける反動で真上に跳んだ。そのまま上空からグレネードとアンカーを撃つ。彼が機巧魔獣に本当に驚くのは次だった。
『跳んできた』2体の機巧魔獣が《盾》を構え、ミハエルに狙われた機巧魔獣を庇ったのだ。
「《蜃楼歩》まで使うのですか? くっ!」
3体の機巧魔獣のレーザーによる対空攻撃がミハエルを襲う。
ミハエルの《機巧兵器》による攻撃は純粋な兵器なので機巧魔獣にコピーされなかったのだが、レヴァンの使った術式は残る6体に完全に解析されてしまった。
攻撃力こそ変わらないものの、《盾》を使い瞬間移動まで使えるというレヴァンそのものの機巧魔獣。
それが残り6体。ミハエルの武器が弾かれるのを見た誰もが絶望を味わった。
ただ1人を除いて。
「ふざけんじゃねぇ!!」
レヴァンはボロボロの右腕を突き出して、機巧魔獣の《盾》に自分の《盾》をぶつける。
「舐めんじゃねぇ。《盾》は俺の、俺達のものだ。てめぇに貸した覚えはねぇ」
「!!?」
押し返す。レヴァンの気迫が機巧魔獣を圧倒する。
レヴァンは本能で理解し、アイリーンと同じ結論に至っていた。
《盾》は自分のものだということに。
だから。
機巧魔獣の《盾》がそっくりそのままコピーした、『レヴァンの《盾》』というのなら。
「返しやがれ!!」
《干渉》が可能だ。
レヴァンは3体の機巧魔獣が展開する全ての《盾》を奪い、解除する。
均衡が崩れる。
「今だ。ミハエル!」
「はぁああああっ!」
上空から飛び込むのは《機巧剣》を投げ捨てたミハエル。
機巧魔獣のレーザーを機械腕の装甲で弾いた彼はそのまま素手で突撃。
《盾》を奪われた5体目の機巧魔獣は、為す術もなくミハエルの左の貫手に核を貫かれ、魔石を引き抜かれた。
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