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幻創の楽園  作者: 士宇一
幕間章 日常編
13/195

0-09 学生ギルド

ユーマ、バイトを探す

 

 +++

 

 

 今更だがユーマはこの世界における異世界人だ。

 

 この世界、まして学園生活においてユーマには足りないものがある。

 

 

 言葉は問題ない。何故か通じる。これは世界の謎。

 

 読み書きも問題ない。

 

 ユーマの精霊、砂更は博識な精霊で彼が代読してくれるからだ。

 

 風葉は意外にも達筆だ。小さな体でペンを抱き、紙の上を踊るように代筆してくれる。流石にユーマは授業のノートは自分の世界の文字を使うつもりでいるが。

 

 

 衣食住も問題ない。

 

 学園に来て特待生となった彼の生活は学園内において保障されている。

 

 寮生活になるし食文化もそれほど差異はない。味噌汁らしいものがあってカレーがない世界はどうかとユーマは首を捻るけど。

 

 

 彼に足りないもの。それは、

 

 お金。

 

 お小遣いがないのだ。まずこれがないと遊べない。

 

 

 C・リーズ学園は学園都市内にある。学園都市というだけあって街には10代向けの様々な店舗や娯楽・遊戯施設があるのだ。

 

 放課後を訓練や研究に費やす生徒も多いが自由に都市内を廻ることはもちろんできる。

 

 学園に来て数日。魔術やゲンソウ術を駆使した体験型仮想ゲームのある施設を教えて貰い、それに興味があるユーマは学生らしい楽しい放課後ライフを迎えたいのでお小遣いが必要になった。

 

 

 差し迫って足りないものがもう1つ。ユーマは自分の武器、できればブースターを欲していた。

 

 彼は精霊以外の自衛の手段を必要としている。

 

 

 リーズ学園は思った以上にトラブルが多い。ユーマも学園に来て早々決闘を仕掛けられたり、エイリークに吹き飛ばされたりしたもの(今も)だがどうやらそれが普通の出来事らしい。

 

 荒事に関係なさそうな技術士志望の生徒や非戦闘系の一般生徒のほうが比率的に多いが、戦士・魔術師志望の生徒は決して少ない訳ではない。

 

 喧嘩決闘事件事故は日常茶飯事のこと。剣と魔術がぶつかりあう毎日。

 

 でも技術士の事故が1番怖かった。ユーマは3号棟校舎の一部が吹き飛ぶのを見たから。機密保持の為自爆したのだと後に報道部は語る。

 

 とどめはエイリーク・ウインディ、彼女だ。

 

 彼女の人気が高いのはユーマも薄々気付いてはいたが彼女はアイドルではない。ヒーローだった。

 

 しかもトラブル割り込み型。見かけるとすぐに首を突っ込み、悪い方、もしくは喧嘩両成敗と《旋風剣》で吹き飛ばす。ついでにユーマも吹き飛ぶ。

 

「皆迷惑してるの。通行の邪魔よ」

 

 と不良生徒のグループに旋風剣。ユーマはとばっちりで吹き飛んだ。

 

「そこおっ、割り込むなぁ!」

 

 と食堂にて旋風剣。ユーマの日替わり定食が吹き飛んだ。

 

「今度こそ完成よ。だから……よけるなぁ!!」

 

 と新技の訓練のユーマに旋風剣。ユーマはアギごと吹き飛んだ。

 

 彼女の近くにいるユーマが今後も吹き飛ばされない保証はない。

 

 それでも困っている生徒を助けることも多い彼女の活躍はちょっとした美少女剣士の痛快活劇というと聞こえはいい。しかし自警部(生徒による学内自警組織)でない彼女が自衛目的以外に《旋風剣》を使う事は何かと問題である。

 

 彼女が未だランクBなのは時折減点対象の校則違反をおかしているせいかもしれない。

 

 もちろんユーマはトラブルに関して精霊たちの力を使えば何も問題なく対処できるのだ。しかしユーマ自身の《特性》が精霊使いの力と相反して制限をかけてしまっている。

 

 《全力》状態はもちろん、力を抑えても長い時間精霊の力を行使できない。風葉たちはなるべく温存しておきたかった。

 

 とはいえ先日おこなった能力測定で分かったユーマの実力は精霊抜きでDに近いギリギリのランクC(精霊込みでランクAの上位)。生徒同士の喧嘩や小競り合いに巻き込まれた場合、自力で対処するには心許ないので装備で自分の地力を底上げしたいのだが、

 

 装備を買うにもやはりお金が要る。

 

 

「というわけでどこか働ける場所ないかな?」

 

 

 ユーマ・ミツルギ15歳。

 

 はじめてのアルバイトは異世界にて探すことになった。

 

 

 +++

学生ギルド

 +++

 

 

「学生ギルドに行きなさい」

 

 エイリークに簡潔なアドバイスをもらった。暇してたアギを道案内に連れて学生ギルドにむかうユーマ。

 

 

 学生ギルドは学園都市内における学生による事業組合である。

 

 未熟ながらも戦士・魔術師・技術士である生徒たちが依頼を受けて報酬をもらうことができる、実戦と実践を兼ねたアルバイト斡旋所ともいえる施設だ。

 

 受けることのできる依頼は年齢と個人のランクで決められており、依頼者も同じ学生から近隣の国までと幅広い。

 

 そして学生ギルドが発注する公式依頼は課外実習扱いとなり、成績に加算されるのも魅力である。

 

 

「お、『甲殻竜の角探してます。』だってよ。これにしようぜ」

「いやだ」

「じゃあ、『砂漠の竜蛇の舌3体分、高く買い取ります。』これは?」

「「いやだ!」」

 

 学生ギルドに来たのはユーマとアギだけでない。背の高い少年がもう1人ついてきた。

 

 リュガ・キカ。南方の《かがりの部族》の少年。

 

 褐色の肌で長身の戦士。アギと同じように逆立てた髪は赤く、さらに同じように赤いバンダナを巻いている。

 

 アギの友人である彼は《アイリーン公式応援団》の一員である。

 

 リュガとユーマは彼女絡みで能力測定の日にひと悶着あったのだがアギのおかげでとりあえず和解。今は3人でつるむことも多い。

 

「甲殻竜なんてダメだ! あれは《風刃》弾くし、《突風》なんて無視して群れで突撃してくるんだぞ」

 

 《西の大砂漠》での激闘の記憶からユーマは魔獣狩りの依頼に拒否反応を示した。

 

「こっちは足場の悪い砂漠にいるのにあいつらの動きは機敏でまるでイノシシみたいな奴なんだ。あれ相手に角を折る依頼なんてやりたくない!」

 

 一方でアギの封印は解かれた。

 

「竜蛇ハイヤダ。……逃ゲナキャダメダ。逃ゲナキャダメナンダヨ。……喰ワレタクナイ飲ミ込マレタクナイ……ああああああ」

 

 アギはユーマと共に学園へ向かう途中、《砂漠の竜蛇》に追いかけられたことがある。

 

 飲み込まれかけて涎を被ったのだ。あの酸っぱい臭いはトラウマだった。

 

「……冗談だ。そもそも俺とアギはランクCだぞ。魔獣狩りなんて依頼受けれねぇよ。ユーマもやる気ねぇし」

 

 アギの過剰な反応に引いたリュガ。

 

「『自警部の校内の見廻り増員募集』とか『リーズ学園中等部の訓練指導』とか学園内の依頼でいいんじゃねぇか?」

 

 というわけで『C・リーズ学園依頼一覧』を見る3人。

 

「……このギルド非公式依頼の所にある『アイリーン・シルバルムの写真、1枚500から』ってのは?」

 

 依頼主は匿名。リュガを見る2人。リュガは慌てて否定する。

 

「違う! 《公式応援団》はそんなものは欲しがらない!」

「じゃあ、『ユーマ・ミツルギへの奇襲作戦参加者募集』これは?」

「……昔の話だ」

 

 依頼主は《アイリーン公式応援団》とある。

 

「取り消せ、今すぐ! ……何人かもう受けてる! しかも報酬がアイリさんの写真て……」

 

 リュガを見る2人。今度は黙るリュガ。

 

「……欲しいか?」

「「……」」

 

 弁解の余地なし。

 

 

 ユーマは砂の精霊の力でリュガを外に埋めた。

 

 +++

 

 

 ユーマは学生ギルドから依頼を幾つか受けるとアギ達と別れて学園に戻った。

 

 彼の手には受けた依頼内容のメモとギルドからの紹介状がある。

 

「しかしこれは……」

「ユーマさん」

「ん? ああアイリさん。今帰り?」

 

 途中、アイリーンに出会った。

 

「いえ、この前話をした《氷輝陣》の改良案について貴方に話を聞こうと思っていたのですが。ご用は済みましたか?」

「うん。学生ギルドから依頼受けてきたんだ。あとはブースターの製作依頼と見積りを練金科に頼もうと思ったんだけど、別に明日でもいいよ」

 

 練金科は金属や宝石、道具に付与効果を与える技術を専攻する技術士系の科目だ。


 術式の補助装備であるブースターも練金科で研究されている。

 

「ブースター、ですか。貴方は《精霊器》を2つも持っていらっしゃるのに?」

「短剣は借り物。下手に使うとエイリークがうるさいんだ。腕輪は砂更と併用するのが前提だし」

 

 ユーマの短剣の扱いは素人だ。《守護の短剣》はユーマにとって魔法の杖でしかなく《精霊器》としての能力は風森の姉姫の持つもう1つの短剣がなければ使いようがない。

 

 《白砂の腕輪》の能力は2つ。1つは付与効果で『物理防御力の底上げ』される効果がある。

 

 そして砂の精霊《砂更》をサポートする『物質を砂状に変える力』があるのだがこれは生物に液体や氷、加工された鋼などには効果がない。

 

「もう少し自分向けの武器が欲しいんだ」

「そうですか。ブースターも素材と付与する術式次第で製作費が大きく変わりますからね」

 

 そこでアイリーンは1つの提案をしてくれた。

 

「貴方のブースターにも興味があります。資金面でお困りでしたら私達が受けた依頼を一緒にやりませんか? 職員からの公式依頼ですので報酬は期待できますよ」

「本当? 私達ってエイリークと? ……わかった。助かるよ」

「ええ。詳しくは後ほど……ってそれは?」

「あ」

 

 ユーマが手にしていたものの1つに彼女の目が止まる。それは写真。

 

 首まで砂で埋められたリュガが助けを請い、ユーマに渡した秘蔵の写真だった。

 

「そ、そ、それは!!!」

「リュガに貰ったけど、……アイリさん。これちょっと趣味が……」

 

 

 写真の中身はうさぎさん。

 

 黒いスーツに網タイツ。

 

 白い尻尾にうさみみバンド。

 

 銀のトレイで胸元を隠して振り向きざまにはいポーズ。

 

 

 白金蒼眼のバニーさん。

 

 

「き、きゃあああああ!!」

 

 がつん。

 

 突然ユーマは殴られた。

 

 氷塊で。

 

 どさり。

 

 床に沈むユーマ。

 

「どうして!? 学園祭の写真はすべて回収したはずなのに!?」

「……」

 

 屍のユーマは答えない。

  

 学園祭でなにがあったの? とは聞けなかった。

 

「……リュガさんから頂いたそうですね。あの赤バンダナの頭、凍らせてあげます!!!」

 

 我を忘れて駆け出すアイリーン。ユーマは放置された。

 

 静寂。見かけた生徒は誰も助けてくれない。

 

 

 これも日常茶飯事だから。

 

 

(アイリさん凍結は苦手なんだから……リュガは氷で頭を冷やすどころか氷でかち割られるな)

 

 ユーマは血に染まる赤バンダナ(人ではなくバンダナの方)を思い、心の中で合掌。

 

(……でも今度会ったらリュガはまた埋めよう。な? 砂更)

(……)

 

 

 精霊は何も答えてくれなかった。

 

 +++

 

 

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