3-08e 機巧魔獣 5
総力戦開始までカウントダウン
『リュガ』の最期、《賢姫》の新たな武勇伝
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誰もが戦っている。ただ、守りたくて。
止められるのは今、自分しかいなかったから。
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防衛線の側面を狙うように進軍する帝国軍の増援。その数2千と《虎砲改》が10。
《精霊使い》の少年は精霊と共に夜の砂漠を駆けた。今、この増援を食い止められるるのは自分しかいなかったら。
帝国軍は夜襲を仕掛ける為か篝火を焚いていないようだ。月と星と、砂だけの世界。ユーマは1人闇を見据える。
「……」
「だいじょうぶですよー」
「風葉?」
「わたしがいますよー。サラっちもですよー」
ユーマの肩にしがみつく風葉は、少年の意を酌んで優しく、力強く伝えた。
「あなたの思うがままに。わたしたちは、あなたに人を殺めさせません」
「……ありがとう、風葉」
それでユーマは決意する。『選べる手段だけ』で帝国軍を必ず食い止めると。
「行くぞ。砂更!」
ユーマは砂の精霊にイメージを伝える。2千もの兵に対抗できる《一騎当千》の技を。
できるはずだ。今の砂更なら『彼』の真似ごとくらい。
ユーマと砂更が展開したのは、砂で模造した千騎もの騎兵部隊。
《砂人・千騎兵》
「ブソウさん。ちょっと真似します。全軍、突撃!」
ユーマは王国軍の増援と見せかけ1人で逆奇襲を仕掛けた。
砂の津波と砂塵の竜巻が帝国軍を襲ったのはこのあとの話。
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誰もが戦っている。ただ、守りたくて。
彼女達にも意地があったから。
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王立研究所付近で猛威を振るう機巧魔獣。戦うのはエイリーク、アイリーン、チェルシーの3人。
機巧魔獣は腕に《旋風剣》の竜巻を纏っては《氷晶壁》で身を守り、さらに《氷弾の雨》でエイリーク達を攻撃している。どれも戦闘中にコピーされた技だった。
防戦一方。《魔導砲》と頭部レーザーを警戒し牽制するのがやっとの状態。
「このおっ!」
チェルシーは非常用の武器である手榴弾を氷の壁ごしに投擲。これが思った以上に威力があって機巧魔獣は爆発でのけ反る。
ゲンソウ術でないチェルシーの武器は機巧魔獣にコピーされない。唯一有効な攻撃手段であったが。
「……ごめん。これであたしは本当に打ち止め」
そう言ってチェルシーはバックパックから最後の武器である両手持ちの大型レンチを取り出した。本職が技術士である彼女の近接戦が当てにならないことは誰もがわかっている。
消耗戦の限界をアイリーンは感じた。
「ジリ貧、ですね。まさか自分の魔術で苦戦を強いられることになるなんて」
「せめて氷の壁が使われなかったらね。そしたら関節とか弱い部位を狙えたんだけど」
そこまで言って、チェルシーは思いついたことを自ら否定した。
「やっぱり駄目かな。ずっと見てたんだけどアレ、自分で傷を直してるよ」
「えっ?」
耳を疑う。しかしチェルシーは技術士の視点で観察し、機巧魔獣の『仕組み』におおよその見当をつけていた。
「ほら。エイリーちゃんが《爆風波》で頭部を殴ったやつ。もう痕跡が見当たらない。時々動きが止まるのは光線を出す予備動作だけじゃなくて魔力で自己修復してるみたい」
「そんな」
「魔石の輝き方にも何種類かあるね。機巧魔獣は攻撃も防御も回復も、動くのも魔石の魔力を使ってるみたい。今のあたし達が機巧魔獣を倒せるとしたら、アレの魔力切れを狙うしかないよ」
「……私達が持ちこたえきれればいいですけど」
戦いは自分達の消耗の方が激しい。今だって機巧魔獣が攻撃してこないのは自己修復をしているからだというのに。
エイリークは悔しそうに眉を顰めた。
「じゃあ、ユーマの言ったとおりなのね」
「ええ。長期戦は圧倒的に不利。機巧魔獣を倒すなら技を真似されないよう1撃で。それができるのはエイリィとポピラさんしかいなかった」
「《昇華斬》。でもポピラは」
無意識に無残な姿を晒した舟を見て、エイリークは歯を食いしばる。
おそらくポピラは、それにミサも『リュガキカ丸』に乗っていたはずだ。死体を見つけたわけではないが無事だという保証はない。
もしも《魔導砲》で2人がかたちもなく消し飛ばされていたら……
ギリッ
「倒すしかない。ポピラがいなくても」
エイリークは細剣を握り直す。
何度も折れて砕けても、《気刃》を砥ぐことで今も共にある愛剣から力を分けてもらうように。
「それでもあたし達が食い止めないといけない。先輩が言ってることが本当なら勝機がないわけじゃない」
機巧魔獣は動けば動くほど、攻撃するほど、魔術を使うほど、そして傷を修復するほど魔力を消費していることになる。
「だったらやるしかないじゃない!」
我慢くらべ。上等だ。エイリークは諦めない。
ここで負けたりすれば送り出したユーマに合わせる顔がない。
そうこうする間に機巧魔獣は手榴弾のダメージから回復して動き出した。腹部の魔石が輝き出す。
「前で撹乱するわ。援護お願い」
「エイリィ!」
《氷晶壁》の防壁から飛び出したエイリークは突撃。アイリーンが正面から牽制してくれる間に機巧魔獣の側面に回り込む。
アイリーンの《氷弾の雨》は機巧魔獣の《氷晶壁》に防がれてしまう。術式をコピーされる以上彼女は氷弾以上の魔術を迂闊に使うことができなかった。
氷弾と氷晶壁の攻防戦。
埒が明かないと判断したのか、機巧魔獣は貫通力のあるレーザーを放とうとしている。その隙にノーマーク状態のエイリークは勝負にでた。
ここで脚の1本や2本折ることができれば……
「いくわよ!」
「――! まって!」
チェルシーの制止は遅かった。
エイリークは突撃の速さを上乗せした《旋風剣・疾風突き》で機巧魔獣の脚、その関節をピンポイントで狙う。
「駄目っ。あの魔石の光り方は、逃げてーーっ!」
悲鳴を上げるチェルシー。彼女だけが機巧魔獣の頭部にある魔石の輝き方の変化に気付いた。
――左側面ヨリ近接スルモノアリ。《魔導光閃》ノ発動解除
――選択。風属性近接迎撃術式、発動
すなわち、《爆風波》。
エイリークの《旋風剣》は炸裂する圧縮空気の衝撃波に弾かれた。彼女は反動で体勢を崩してしまう。
そこへ繰り出される機巧魔獣の《旋風剣》。
「あっ――」
「エイリィーーっ!!」
絶体絶命。今、エイリークを救えるのは。
「馬鹿ですね」
みつあみの少女はガンプレートを構えた。
「エイリークさんはやらせません」
「うおおおおおおっ!!」
雄叫びと唸るエンジン音に目と耳がいった次の瞬間。その『逆方向から』放たれ、機巧魔獣に直撃したのは放電する竜巻の奔流。
続けて猛スピードで体当たりを仕掛ける装甲車が、感電して動きが止まった機巧魔獣を思いっきり突き飛ばした。
「機巧兵器!? あれは」
「王国の《駱駝》だよ。乗ってるのはアレッく君?」
「今の内だ、早く!」
「ポピラ!」
間一髪のところを助けられたエイリークは、姿を見せたポピラに駆け寄る。
「エイリークさん」
「アンタ、生きてたならなんで」
「すいません。私達だけでは勝てそうになくて。舟を囮に隠れて作戦を立てていました。ミサさんも無事です」
「作戦?」
「あなたの力が必要です。来てくれることを信じていました」
訊ね返すエイリークにポピラは安堵の笑みを浮かべた。
エイリークはポピラが言ったことの意味を察する。やはり機巧魔獣を倒せるのは。
「昇華斬……」
「そうです。1度態勢を立てなおしましょう」
ポピラは《レプリカ2》のツインカートリッジから風と雷の属性カートリッジを抜き出すと新たなカートリッジを差し込んだ。
「あの攻撃もガンプレートで?」
「ボルテック・ストーム。元が《機巧兵器》であるあれに雷属性は有効みたいですね」
先程のガンプレートの魔法弾は、ポピラがユーマを《模倣》して使える数少ない大技の1つ。ツインカートリッジの特性を活かした2属性の複合術式だ。
「ポピー! 早く乗って」
「機巧魔獣が動き出しました。急いで」
《駱駝》の後部にある人員輸送用の荷台の上から、チェルシーとアイリーンは2人に向けて手を伸ばす。
全員が乗り込んだのを確認すると《駱駝》は全速力で離脱した。
「これが最後です。全弾発射」
《駱駝》を追いかけてくる機巧魔獣に向けて、ポピラは《ミサイル・トリガー》を発動。『リュガキカ丸』が残ったミサイルをすべて打ち上げ機巧魔獣を足止めした。
彼女達が最後に見た『彼』の勇姿は、機巧魔獣のレーザーで体をまっ2つにされる姿だった。
爆発。
「リュガさん……」
「アンタ、男だったわよ」
「馬鹿でしたけど……いい人でしたね」
思わず赤いバンダナの戦友に別れを告げる少女たち。
彼女達は《駱駝》に乗って、決戦の舞台へと急ぐ。
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誰もが戦っている。ただ、守りたくて。
やっと、失くしてはいけないものに気付くことができたから。
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「ああああああーーっ!?」
《魔導砲》の光の前にファルケは絶望の叫び声をあげた。
だけど後悔はしていない。シュリを、友を救うことができたから。
十分な戦果だ。帝国軍人として誇れるはず。
(父上……)
光に呑みこまれる。ファルケはそう思った。
「ファルぅーーーーっ!!」
絶叫するシュリ。だけど。
諦めるのは、絶望するのは。
「まだ早いわよん」
《魔導砲》の光を真正面から受け止めるのは赤い刃。
その炎は燕のかたちをしている。
「こいつは……!」
「いきなさい。火燕ちゃん」
炎を纏う《翼刀火燕》は光を切り裂き、そのまま機巧魔獣へと向かい腹部の魔石に傷を負わせた。
そのまま翔け抜けて旋回。翼刀に宿る火の精霊は、主人である彼女の命のままに機巧魔獣へ襲いかかる。翼刀は高熱で炙って装甲を溶かし、両腕の鎌を切り落とす。
そこまでして主人の元へ戻り、パシッ、と彼女は翼刀を片手で受け取った。
いつの間にか彼女は枷を解いていた。
無造作に縛った赤い髪を靡かせ、槍使いの女傭兵はそっと、ファルケの前に歩み寄りそのまま彼の前に立つ。
「……《炎槍》さん。どうして」
「教えて。なぜあんなことしたの?」
有無を言わせない静かで迫力のある声。ファルケはたじろぐ。
「どうして?」
「お、俺は」
思わず目を逸らしそうになって、踏みとどまった。
「俺はただシュリを殺されたくなくて、気付いたら体が動いてた」
「ファルケ……」
1度口に出したら止まらなかった。
答えはそれだけであったが、ファルケはそのまま心の内を全て彼女に吐露した。
取り戻したかった街を壊した後悔と機巧魔獣への疑問。英雄だった父とかけ離れて行く自分の姿に傭兵を主力とした今の帝国軍の在り方への不安。
中将に対し募ってゆく不信感。
「許せなかった。あの、機巧魔獣というやつが。《帝国》の誇る《機巧兵器》はあんな化物じゃない。俺にでもわかる。あれは《帝国》だけでなく世界に不要なモノだ」
「それで。あなたはどうしたいの?」
「中将に会います」
はっきりと口にした。1度死にかかったせいだろうか、憑きものが落ちたような顔をしている。
「俺は知りたい。だから会って本当のことを訊きます。機巧魔獣のことも、これからの《帝国》のことも」
ファルケは自分の意思を言葉にしているうちに決意が固まった。彼女にしっかりと伝える。
今、何がしたいのかを。
「問い質して中将が間違ってるというのなら、俺は、《帝国》の過ちを正します」
そこにかつての傲慢な姿も、挫折して迷いを見せる頼りない姿もなかった。
『帝国人』で在り続けると誓った少年は、今を見据え自分の意思で理想へ歩み出す。
それがファルケだけが掴める彼の《幻想》。
「そう」
一皮むけた少年に《炎槍》は優しく微笑んだ。
戦士には似つかわしくないやわらかさとあたたかさ。彼女のもう1つの顔。
「ギリギリのギリで合格。『ファルケ』。《それ》をもう忘れたら駄目よ」
「あっ……」
「坊やたちも。覚えておきなさい」
ファルケだけでない。彼女はアギやシュリ、心に宿す強い力を見せてくれた少年達に戦士の先輩として伝えた。
真髄を。
「どんな現実でも正面から受け止め、感じるままに想い、願いなさい。自分は何がしたいのか? 人は《現想》から《幻想》を生み出すのよ」
「現想……」
それは、あまりにも当たり前のことで省かれてしまっている、ゲンソウ術の第6にして第1工程。
現実を前にして願う心。
はじまりは想いを描くことではない。自分が感じ取ったものから願う、想いを知ることからはじまる。
「《幻想》から続く4つの工程は結局すべて一緒。本当は魔術でも魔法でもない。『想いを現す力』。それが真のゲンソウ術」
「《炎槍》さん……」
「あなたはもう大丈夫。迷っても、うちのめされても、自分の力で前へ進める」
ファルケにそう言った《炎槍》は槍を振りまわして前へ進む。
思わぬダメージに自己修復を優先している機巧魔獣へ。
少年達を守ろうとしているその姿に、アギは彼女のことがますますわからなくなる。
「あんたは一体? なんで?」
「お節介焼きの美人なよーへーのおねーさん。それじゃ不満?」
「うっ」
今度は艶っぽく笑う《炎槍》。それには肌を大胆に晒した格好もあってアギは急に意識してしまい、シュリやファルケも顔を真っ赤にする。
気まぐれを装う彼女は決して本心を悟らせない。だけど彼女は言った。
冗談のように。
「《三神器》って、実は正義の味方なのよん」
「あはは。それを聞いて安心しました」
「――えっ?」
立ちあがるのは、やられたはずの黒衣の魔術師。
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誰もが戦っている。ただ、守りたくて。
愛する人が与えてくれた、大切な家族を。
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新開発地区。レヴァンは間に合わなかった。
王都に転移してきた3体目の機巧魔獣は、誰にも邪魔されることなく遂に避難所である地下都市の入口まで辿りついてしまった。
機巧魔獣を阻むものは1枚の隔壁のみ。それもレーザーで簡単に焼き払われてしまう。
地下への侵入を許してしまえば戦えるのは僅かな学生たちしかいない。このままでは袋小路の避難民は為す術もなく虐殺されるだけ。
機巧魔獣が地下通路へ踏み入ろうとしたその時。
「ここは、立ち入り禁止です」
レヴァンの代わりに彼女が間にあった。遥か遠く、東国の郷から。
用を為さなくなった隔壁を抜け、彼女は機巧魔獣に姿を晒す。
普段と違う着物は結い上げた髪と同じ黒。戦装束。腰に差すのは黒塗りの鞘。
刀の銘は《宵ノ桜》。それが彼女の覚悟の証。
王妃サヨコは巨大な鋼の化物を前にして、物怖じもせずただ前に進む。
「この先にいるのは、あの人が与えてくれた私の家族です」
前へ。
「皆が私の父と母。兄で姉。そして子供たち。あの人がつくってくれた家族だから、私は……」
前へ進む。
「国の母として、抱きしめ、愛することができた」
叶わなかった願いを彼は叶えてくれた。
サヨコはレヴァンに、すべての家族たちに、どれだけ愛されているかちゃんとわかっている。
だからこそ前へ。王妃として、国母として愛するものを守る為に。
家族を、子供たちを、国も王の想いも全て。
「化物。おまえはこの先に何があるのか知っているのですか?」
前へ進み、彼女は答える。
「未来です。あの人が砂漠に創る理想。その想いを共にし受け継ぐもの達です。この国におまえが踏み躙れるものは何1つありません」
サヨコは前へ。そして立ち塞がる。機巧魔獣の前へ。
その距離。わずか数歩。
サヨコは告げた。
「それでもこの先を進み、皆を手にかけるというのなら」
「ギ、ギギィ!」
無情にも鎌を振り下ろす機巧魔獣。サヨコはそれでも前へ進み――
「私の『桜』で――散りなさい」
サヨコは静かに機巧魔獣の脇を通り抜け、《宵ノ桜》を鞘に納めた。
同時に機巧魔獣の両腕が斬り飛ぶ。
「……ギイ!?」
「叔母様、危ない!」
自分を呼ぶ声に振り返るサヨコ。目に映るのは頭部レーザーを放つ直前の機巧魔獣。
それと、どこか自分と顔立ちの似た、黒髪のストレートを風に靡かせる少女の姿が。
黒髪の東国風の少女は白のブラウスにスカートという学園の夏服を清楚に着こなし、それでいてイメージを台無しにする長大な大太刀を背負っている。
あの少女はサヨコの。
抜刀、一閃。
「……ミヅルちゃん。来ちゃったの?」
「当然です。こんな危険な国、叔母様を1人行かせはしません」
サヨコはつい先日訪れた母の郷で初めて出会い、懐かれた姪に向かって少し困った顔をした。
姪の名はミヅル・カンナ。《C・リーズ学園》では《賢姫》と呼ばれ、《剣姫》、《剣鬼》と裏で恐れられている《Aナンバー》の1人。
彼女の持つ大太刀は勿論《斬鬼首切丸》。学園で数々の武勇伝を刻みつけた業物だ。
王国側としては思いもよらぬ助っ人。これはサヨコの人徳かもしれない。
ミヅルは忘れない。
母と祖母がいつも話してくれる憧れの初代《桜姫》。それが実は自分の叔母で想像通りの女性だと知った、今年の夏を。
(叔母様は絶対にカンナの家に連れ帰ってみせるわ)
後にレヴァンの宿敵となる彼女だった。
思いなおしてミヅルは、サヨコを狙った機巧魔獣の方を向いた。
「それにしても……知らない魔獣ね。私の叔母様に何をしようとしたのかしら?」
「……」
機巧魔獣は何も答えられない。
淑やかな雰囲気に騙されてはいけない。ミヅルはかなり怒っている。
大太刀の柄に手をかけ、彼女は告げた。
「飛ばすわよ」
何を、と言われなくても。
機巧魔獣の頭部はもうなくなっていた。
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誰もが戦っている。ただ、守りたくて。
信じるものがあって、譲れないものがあるから。
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居住区での戦い。倒されたはずのマークは平然と戦列に復帰した。
切り裂かれた黒衣のローブだけ見れば致命傷のはず。
「先輩?」
「……ごめん。少し気絶してた」
マークは傷だらけの後輩たちを見ると、『無傷』の自分が申しわけなくてつい謝った。
「無事だったのね。だとしたらわざと枷を外してくれたのかしらん?」
「《炎槍》さん」
マークは訊ねた。
「何?」
「貴女が味方してくれると信じて訊ねます。アレをなるべく被害を抑えて消す方法、ありますか?」
「……少し時間が欲しいわね。迂闊に大技で仕留めようとして技を覚えられると厄介だし、何より下手に核となる魔石を壊して周囲を汚染したくないわ」
《炎槍》は彼女なりに機巧魔獣を分析していたようだ。
「時間は? 方法は?」
「意外とせっかちな子ね。時間は3分くらい。方法は秘密。ヒントは《精霊使い》って《巫女》にもなれるのよん、ってことかしら」
「成程」
「先輩?」
今のでわかったのか? アギ達は蚊帳の外だ。
「わかりました。では時間稼ぎは僕が」
次のマークの発言は度肝を抜いた。
「ちょっとあれ、ぶん殴って沈めてきます」
「……はい?」
「ちょっ、先輩!?」
「僕はこれでも怒ってるんだ」
マークはズタズタのローブを脱いで半袖のシャツとズボンだけになった。
切り裂かれたシャツの隙間から覗く身体は、細身とはいえ魔術士とは思えぬほど逞しい。袖口から伸びる腕も華奢とは程遠い。
「その身体」
「あの魔獣は僕の《黒鋼術》を使って君たちを傷つけた。僕の鋼は君たちを守れなかった」
マークは両腕に《黒鋼術》で創った篭手を嵌めた。腕全体を覆うような重装騎士の篭手だ。
実はマークの2つ名である《黒鉄》の由来は《黒鋼術》ではない。この漆黒の篭手にある。
マークは自分の不甲斐無さに鋼の拳を握り締める。
「こんなんじゃ僕は、あの人に合わせる顔がない」
自分に鋼の強さを教えてくれた、あの《精霊使い》に。
+++
一方。《駱駝》で離脱したエイリーク達は、わざと機巧魔獣に追われて決戦の舞台へとおびき寄せていた。
逃げる間に彼女達は情報交換を終える。
「……というわけ。機巧魔獣はアタシ達の使った術式をそのまま使ってくるわ」
「なるほど。ガンプレートは極力使わない方がいいですね。《昇華斬》も1回勝負ですか」
「えっ?」
「躱されて《昇華斬》を覚えられたら手の打ちようがありません」
「あっ」
「それ以前に私の《サポート・バレット》までも覚えられたら」
機巧魔獣が更に強化されるとそれこそ手のつけようがなくなる。
「それにしても『魔石で動く自動兵器』ですか。一体どこの誰がそんなもの」
「ポピラ?」
「いえ。とにかく支援術式は隠れてやりましょう。問題は機巧魔獣の動きを封じる手段です」
「そこはあたしたちの出番だね。アレっく君。予備のマシンは?」
「整備はバッチリですチーフ」
チェルシーに答えたのは《駱駝》の操縦士を務める《レアメダル・メカニック》の副団長、アレックス。
「こんなこともあろうかと左腕のシリンダーは例のアレに換装しときました。『ブーツ』も使えますよ」
「ナイス! こんなこともあろうかと!」
「馬鹿ですね」
ポピラは一蹴。同じ技術士でもノリが合わないらしい。
作戦の最終確認。
「では。先制は私と待ち伏せしている騎士団で。その後チェルシーさんが撹乱、機巧魔獣の動きを封じるのはアイリーンさん」
「アイリィ、大丈夫なの?」
「ええ。これが最後です」
一発勝負は余力のない彼女の望むところだった。
「とどめはエイリークさん。お願いします」
「いい? 次で決めるわよ」
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誰もが戦っている。ただ、守りたくて。
「いくよ。あの歪な機械にほんとうのマシンを見せてあげる」
許せないから。
「教えてあげるよ。あのマガイモノの金属にあの人の、真の鋼の強さを」
譲れないから。
「あたしのマシンは」
「僕の鋼は」
「「こんなものじゃない!!」」
2人のエースはその力の真価を、すべてを出し切ることを決意する。
機巧魔獣という存在を認めたくないから。
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ここまで読んでくださりありがとうございます。
《次回予告》
マークが、チェルシーが、エイリークが。そしてレヴァンとミハエルが。残る力を振り絞り皆が機巧魔獣へと立ち向かう。
でも。もしもそこまでも、誰かのシナリオ通りであったとしたら。
次回「帝国の闇」
「見ろ。これが《雲鯨》の力だ」




