3-08a 機巧魔獣 1
対傭兵戦決着? 次の展開へ続きます
王様より活躍するエース達
《前書きクイズ》
Q. 126028。話中に出たこの数字は何か?(難易度B:読み返さずに気付いたらマニアック)
Q. マークのクラス(兵種、職業)は魔術師の他にもう1つあります。それは何か?(難易度A:予想問題。『リーズ学園だより バックナンバーver1.90』でも非公開)
+++
レヴァンがユーマ達の前に現れた少し前。王立研究所。
傭兵の侵入を許したここはもう1つの激戦区。
「ミサイル、セット」
ガスマスクを被りガンプレートを構えたポピラに応じて、舟の両舷に備えられたミサイルラックが開く。
「1番、2番。発射」
《ミサイル・トリガー》の発動にリンクしてボトルサイズのミサイルが次々と撃ち上げられる。
ポピラが研究所の技術士に頼み、協力してもらうことで緊急に量産された改良型の《リュガキカミサイル》だ。
ミサイルは密集した傭兵達の中心に炸裂。
爆発の衝撃と同時に散布した『催眠ガス』が傭兵を一瞬で混乱に陥れた。
「ううっ。何かが、沁みる」
「涙が……とまんねぇ」
「かあちゃん、俺……!」
大の大人が揃って感情のままに泣き叫ぶ様は阿鼻叫喚。
と思ったら傭兵は次の瞬間にはすべて眠ってしまった。
あちこちで鼻を啜る音がしてうるさい。
「……ぐすっ」
「催涙弾ではなかったのですか?」
「ポピラちゃん。1番ラックは《泣き寝入りミサイル》だったよ」
それは集団催眠を起こして無理矢理泣かせた上に眠らせるという非殺傷兵器。
試作にも程がある。
「そうでしたか。それで……どうにかならなかったのでしょうか」
このネーミング。
ポピラがうしろを見れば、同じくガスマスクをつけた整備主任や技術士達が親指を立てている。ビシッ。
やったな、と。
「……作ってもらっておいて文句は言えませんね」
諦めた。
「ミサさんは西校の人と一緒に弾薬の運搬と装填作業をお願いします」
「うん」
「外へ出ます。《駱駝》を出して下さい」
「了解。荒っぽい運転は覚悟してくれよ」
そう言って操縦席のハッチを閉めたのは《駱駝》の操縦士を務める西校の男子生徒。
学生騎士団の副団長だ。
彼は《駱駝》の運転に専念すると言って騎士団の全権を部外者ながら同格にあたるポピラに委ねている。
「チェルシーさんと合流するまでですよ」
「もちろんだ。頼んだぜ、義妹さん」
「……発進」
ポピラは時間が惜しいので否定することを諦めた。
《駱駝》はミサイルタンク兼弾薬庫と化した『リュガキカ丸』を牽引して走りだす。
整備工場の壁をミサイルで突き破り、飛び出した。
+++
そんな彼女達の奮闘をはるか上空から眺める少女が1人。
「やるじゃない。さすがはあたしの騎士団」
夜風にサイドポニーの髪を揺らし、背中から火を噴いてホバリングしている。
汚れたツナギにタンクトップ。被った多目的ゴーグルが彼女の素顔を隠しているが、見える口元は嬉しそうに笑みを浮かべている。
「ポピーもがんばってね」
+++
ポピラ達が研究所の傭兵をミサイルで蹴散らしていた頃。
「待たせたな坊主。あとは任せな」
「レヴァンさん」
「あの赤いねーちゃんが《炎槍》、デカイのが《氷斧》だな。それに」
レヴァンはファルケの方を見る。
「こんなとこにいやがったか。不良息子」
ファルケは突然現れたレヴァンに呆然としていたが、仇敵であることを思い出して彼を睨みつけた。
あいつこそ親父を殺した――
歯ぎしりをして、憎悪に顔を歪ませる。
「《炎槍》さん。あいつは!」
「言われなくてもわかってるわよん」
国王であるレヴァンの首は帝国軍で最優先とされるターゲットだ。傭兵にも王を仕留めれば莫大な報奨金が約束されている。
のこのこ現れた王の首を狙い、《炎槍》がレヴァンに襲いかかる。
「ボーナス、いただきよ!」
言葉とは裏腹に今までで1番速く、鋭い突き。
それでもレヴァンはその場から動かず、《盾》を使うまでもなく赤い一閃を躱してみせる。
「あらっ?」
「おせぇ。サヨコさんの愛情あふれる突き技に比べればなんてことはねぇ!」
《炎槍》を蹴り飛ばす。
続けてレヴァンの背後を戦斧が襲うが、それは振り向きざま《盾》で容易く受け止める。
斧を受け止めたレヴァンは微動だにしない。
《干渉》による精神攻撃も彼のサヨコさんラヴ情熱ハート(これはたぶん嘘)には通じない。
「そんなもんか? ヘタレの《氷斧》さんよぉ」
「……くっ」
《氷斧》はもう1撃叩き込もうとして戦斧を大きく振り上げる。
しかし。振り上げた斧は何もない場所で壁のようなものにぶつかり、刃が『何か』に食い込んでしまう。
《氷斧》は『何か』に邪魔をされてレヴァンにうまく攻撃ができない。
「何だ、これは?」
気付くのが遅かった。
いつの間にか《氷斧》の周囲は《盾》に囲まれていたのだ。これでは狭い場所にいるのと同じで戦斧を自由に振りまわせない。
同じく追撃をかけようとした《炎槍》も《盾》に包囲されて身動きが取れずにいる。
《幻想の盾》は無属性の武装術式。無属性は不可視なので2人はすぐには気付けなかった。2人は驚く。
「武装術式を複数同時、遠隔展開ですって?」
「流石にお前さんら2人を相手になんてできねぇよ」
レヴァンはまず彼女達の近接攻撃を封じ込める作戦に出た。
倒す、ではなく制する。それが武器を持たないレヴァンの戦闘スタイル。
ただし相手は《三神器》と呼ばれる凄腕の2人だ。
足留めして邪魔はできても拘束はできない。
「……フン!」
《氷斧》は包囲している《盾》を全て凍らせて破砕。
砕いた氷塊をレヴァンに向けて飛ばす。
「何? どわっ」
「甘いわよ、王さま!」
《炎槍》は包囲を抜け切れずにいたが、上空に無数に展開している炎の槍のターゲットを変更。
エイリークとアイリーンを狙っていたやつだ。それをすべて《氷破弾》を《盾》で凌いでいるレヴァンに向けて放つ。
炎の雨による一斉掃射だ。しかも攻撃範囲が広い。
彼女自身が「狙撃砲撃は専門外」と言っていたが、これは火力ばかりで技が大味すぎる。
《炎槍》の無差別攻撃は《氷斧》諸共、レヴァンだけでなくユーマ達にも降り注ぐ。
回避不能。誰もが防御態勢をとる中でレヴァンだけが迎え撃った。
「舐めんじゃねぇ!」
何十、何百と同時展開した《盾》。何重にも重なって強固な壁となり、更にその壁がいくつも並ぶ。
《盾》の防壁は大きく広がってユーマとアギ、それと少し離れたところにいるエイリークとアイリーン、おまけに《氷斧》までも囲み、炎の雨から皆を守り抜く。
《城壁》
この巨大な広範囲防御術式こそレヴァンの奥義だ。
敵も味方もレヴァンの《盾》の凄まじさに驚くしかない。
「す、すごい。無敵じゃないか」
「まさか。何百もの槍を防ぎきったというの?」
「いいこと教えてやる」
レヴァンが語るのは王様10の秘密。その7。
「俺が同時展開できる《盾》の枚数は――20万と7102だ」
レヴァンは冗談ではなく本気で言った。
王国に住む家族たちの数だけ《盾》があると彼は言ってのける。
国を守る親父、《盾》の王は伊達ではない。
「……冗談でもすごいじゃない。だけど」
《炎槍》は不敵に笑う。
「とったわよ」
「レヴァンさん!」
炎の槍の雨に紛れていたのは、炎の翼刀。
ずっと隙を窺っていたようだ。レヴァンが全力を出したこのタイミングで《城壁》を掻い潜り、死角を突いてきた。
レヴァンの反応は一呼吸遅れる。
致命的だ。
「王様!」
「やらせるか」
近くにいたアギとユーマがフォローしてレヴァンを庇う。しかし翼刀は2人を嘲笑うように急旋回。
陽動だ。
傭兵達の本命は氷で1回りも2回りも大きくなった巨大な戦斧。
一撃必殺の《氷斧》。
レヴァンまでも翼刀の方を注視してしまった。回避も防御も間に合わない。
「王の首。獲らせてもらう」
「しまった」
「ユーマ!」
ユーマ達諸共レヴァンを氷の戦斧が薙ぎ払う。
+++
ところが。
《氷斧》の攻撃はレヴァン達には届かなかった。
彼らは守られた。氷の斧刃は間一髪で出現した鋼の壁にぶつかり、砕け散る。
「飛べ、鋼星球」
次に《氷斧》に向かって巨大な棘付き鉄球が飛んでくる。
《氷斧》はうしろに跳び、回避することで後退を余儀なくされる。
「このエグい鉄球は……?」
「あはは。お邪魔します」
「マークさん!」
レヴァンを救ったのは《黒鉄》のエース。マーク・K・フィー。
王様に遅れて駆け付けた黒衣の魔術師。彼は息を切らせた様子もなく朗らかに笑う。
急いで来たのかよくわからない。一緒に走って来た近衛見習いの少年なんか疲れきって息も絶え絶えだから尚更。
「シュリ君も」
「ぜーっ、ぜーっ……うぷっ。……全力であんなに走って、信じられない。あなたは本当に魔術師なんですか?」
「一応ね。僕の相棒が脳細胞まで筋肉だから体力がないと大変なんだ」
流石に王様にはついて行けなかったよ。そう言うマークをシュリは信じられないもののように見ている。
「それにしてもクルスが喜びそうな顔ぶれだね。苦戦してるなら僕も手伝うよ」
「中央校の《Aナンバー》が2人も!? それに……シュリか」
ファルケは幼馴染であるシュリが現れて複雑な顔をする。
自分が帝国軍にいて彼が王国軍にいる。
敵対することはわかっていたが、まさかこんなに早く遭遇するなんて思いもしなかった。
シュリもファルケがいることに気付いた。
彼が帝国軍の軍服を着ていることにも。
「ファルケ。お前、何してるんだよ」
「……」
「おい!」
「お友達?」
「いえ。今は……敵です」
見習いとはいえ王国軍にいる限り。
《炎槍》の問いにファルケは目を逸らしながら答える。
「ファル!」
「そこまでにしろ。シュリ」
「レヴァン様」
「話はとっ捕まえてからだ。いいな」
「……はい」
シュリはファルケを見つめ、警備用の長い棒を構えた。
マークの参戦で形勢が傾く。
炎の槍の牽制から解放されたエイリークとアイリーンが復帰してこれで7対3。睨みあう10人。
「どうする?」
「ユーマ君。戦いはここだけじゃない。長期戦は不利だし一気に行こう」
「マークさん。研究所の方は」
「そっちはポピラさん達が頑張ってるから大丈夫」
驚くユーマ達。
「ポピラが?」
「だからこっちに『彼女』が来てくれたみたいだ。ここは僕達で」
「わかりました」
「何をする気?」
訊ねるエイリークにマークが答えた。
「君たちは次世代のエース候補だ。だから見ておくといい。僕らの力を」
「エースの?」
「それに」
次のマークの発言がエイリーク達に衝撃を与える。
「この中でユーマ君の力についていけるのは、多分僕だけだ」
+++
「状況はちょっと不利かしらん?」
《炎槍》はそう判断した。
マークやユーマ達の力を見てではない。彼女達はレヴァンの力を見誤っていたのだ。
「あの盾は早々破れないわ。一体何をイメージしてるのかしら?」
「ただの《幻想》ではないな。おそらく俺達以上の場数を踏み、実戦を経て培われたものだ」
「反乱軍のリーダー、ね」
《氷斧》に言われて納得する彼女。
「あの精神力も半端ではない。20万の盾。冗談ではないかもな」
「おっそろしいわね。まっ、確かにあたい達の世代であの王さまほど戦争を経験した人はいないでしょうけど」
「年がばれるぞ……ぐっ」
槍の柄がわき腹に食い込んだ。
「一旦退く? 王さま殺しのボーナスは欲しいけど」
「……。(ものすごく痛いらしい)」
「レー君?」
「任務中は二つ名を使え。……傭兵の目的は王都内部の撹乱だ。今更だが散開して暴れ回った方がいい」
「そうね。お坊ちゃんもそれでいい?」
「わかりました。帝国軍が勝つことが先決です」
ファルケはレヴァンを倒すことよりも帝国軍人として任務を遂行することを優先した。
決して私情を捨てたわけではない。彼はシュリと戦うことを避けたかったのだから。
すっかり自分の言いなりになってしまっているファルケを見て《炎槍》は密かに溜息をつく。
(しっかりしてきたけど、もうちょいなのよねー)
「2手に別れるわよ。お坊ちゃんはあたいに付いてきて」
対峙する面子の中で1番の強敵であるレヴァンを警戒しながら、彼女は散開の合図をカウントする。
3……2……
1。
「いっくよーーっ!」
《炎槍》のものではない甲高い女の子の声。それが反撃の合図。
ドカーン!!
狙い澄ましたかのようなタイミング。砲撃が《炎槍》達を襲う。
しかもユーマ達の攻撃ではない。
「伏兵ですって!? 一体どこから」
「風葉!」
「っ!?」
砲撃の直後。疾風が駆ける。
彼女の目前まで迫っていたのは、全身に風を纏う黒髪の少年。
「なっ!? はや――」
「ああああっ!」
奇襲は凌いだ。《炎槍》は短剣の突撃を辛うじて防ぐ。
《ヒート・カッター》の追撃を槍で弾き返して反撃に出る《炎槍》。しかし乱れ突きは2刀流でことごとく防がれてしまう。
逆にユーマが強化されたスピードを活かし、でたらめな剣技で押し返す。
エイリークの剣速よりも……速い!
「あたいが手数で押されてる? 火燕ちゃん!」
翼刀は完全に自分の意思で飛んでいた。燕の化身は彼女の指示を受けユーマの背後を突く。
ユーマは体に纏う風を通して翼刀を感知。振り向かずに真上へジャンプ。
尚も追いかけてくる翼刀をガンプレートで撃ち落とした。精霊の援護を得たユーマはその力を存分に発揮する。
今ユーマが使用している《疾風闘衣》は風属性の複合強化術式。《高速移動》のような走行速度だけでなくあらゆる動作速度を飛躍させることができる。
さらに全身を包む風は身体保護の役割だけでなく《風盾》、《風読み》の効果があり防御面と反応速度も強化されている。未だゲンソウ術では再現されていない高度な《魔法》の1つだ。
しかもユーマ達の攻撃は止まっていない。
ユーマのジャンプ直後。《炎槍》が見たものは、勢いをつけて迫ってくる鋼の円柱。
これは破城槌だ。
「突き破れ。鋼城槌」
マークの使う《黒鋼術》は鋼鉄を《現創》する。地属性でも特異な魔術だ。
質量まで再現された巨大な円柱の追突に《炎槍》はガードの上から吹っ飛ばされる。
攻城戦用の魔術を人間相手に使うので彼も容赦ない。
「ああっ! いきなり何、この子達」
「たーつーまーきー」
攻撃はまだ終わらない。
上空にいるユーマは風葉の魔法で《疾風》の風を変換。
全身を竜巻で覆い、《炎槍》に向かって急降下。
「手加減はなしだ。これがヒュウさん直伝」
《旋風・鷲爪撃》。いわゆるライダーキック。
竜巻の勢いを乗せた大技を前に《炎槍》も目を剥く。
「あんなの食らうなんて冗談じゃ……何?」
「逃がさないよ」
マークがカバーに入る。
彼は鋼鉄の檻《黒鋼牢》に彼女を閉じ込めた上で《鋼針剣》という鋭い投剣を創っては連続で飛ばし、彼女の動きを封じる。
狭い場所に閉じ込められては満足に槍を振るえない。《炎槍》は防戦一方。
「ちょっ、容赦ないわよ、坊や!?」
「くらえ!」
激突する直前で《黒鋼牢》は解かれた。ユーマの必殺キックが《炎槍》に炸裂。
一方、マークは《氷斧》への攻撃も忘れていない。『彼女』の援護砲撃に合わせて《黒鋼術》で創った武器を次々と射出している。
中距離からの物量戦だ。近接戦闘が主体の《氷斧》が1番嫌とする戦術でもある。
加えて《氷斧》の氷はマークの鋼とは相性が悪いようだ。向かってくる鋼の武器を《氷斧》は《凍破》で片っ端から凍らせて砕いていくが、きりがない。
創られた鋼の武器は思いのほか重量があって《氷破弾》で撃ち返してもすぐ地面に落ちてしまう。《氷晶壁》のような氷の壁で防いでも突き刺さってヒビが入り、今度は質量攻撃の衝撃で砕かれてしまう。
物量戦なんて1人で出来る芸当ではない。マークは最初から全力だ。
格上である《氷斧》を完全に抑え込もうと彼は負担を無視して《黒鋼術》を振るう。
「貴様等っ」
「いくぞ砂更!」
マークが足留めしている間にユーマの仕掛けが整った。
規模は小さいが砂の精霊が創る蟻地獄に《氷斧》は足をとられる。
「ぬぅおっ!?」
「沈めよ。砂縛陣!」
《氷斧》は蟻地獄に抵抗して周囲の砂を凍らせる。しかし《砂縛陣》は容赦なく凍りついた砂ごと呑みこんでゆく。
マークの攻撃も続く中、《氷斧》はそれでも踏みとどまる。
「う……ぉおおおっ」
「くそっ、あと少しなんだ」
「何をする気だい?」
「実はこの下にも、ここからずっと地中深くに使われていない地下スペースがあるんです」
それはエイリークが参戦する前、ユーマが最初に考えて仕掛けていた罠と同じもの。
砂更に地下を探らせた上で仕掛けた落とし穴。
「それが大帝国のシェルターと同じ構造しているから、そこまで落として閉じ込めてしまえば……」
ユーマは蟻地獄に足掻く《氷斧》を見る。
「駄目だ。即席だから砂更が《砂縛陣》に練り込んだ魔力が足りない。このままじゃ破られる」
「成程。なら僕が巨大ハンマーを創って叩きおと」
「させないわよ!」
飛び出したのは赤い髪の女傭兵。
相当なダメージを受けたにもかかわらず、《炎槍》は2人に襲いかかる。
ユーマはガンプレートと短剣を交差して赤い槍を防ぐ。
「嘘。あれ食らってまだ動け……くっ!」
「ユーマ君!」
「だから甘いのよ坊や。直撃を避けて、蹴りの衝撃波だけであたい倒そうだなんて。火燕ちゃん!」
「うわっ!」
力づくで叩きつけて防御を崩し、薙ぎ払いでユーマを弾き飛ばす。マークは炎の翼刀が牽制。
マークは高速で飛び交う翼刀に翻弄されてユーマの援護ができない。
「《氷斧》! 今の内に脱出なさい。こっちも決めるわよ」
《炎槍》は槍を1度だけ大きく振りまわすと投擲の構えをとる。
手にした赤い槍を媒体にして、彼女は炎を《幻創》して槍に纏わせる。
炎を纏う槍は力を込める毎に次第に長く、太くなっていく。
最終的には大樹をそのまま杭にしたような燃え盛る巨大な槍を形成した。
全長は10メートルを易々と超える、巨人が使うようなこの槍を《炎槍》はゲンソウ術で操作し自由に振りまわすことができる。
「でかっ! なにこれ」
「炎樹槍。これがあたいの本当のエモノ。覚悟なさい」
「待てよねーちゃん」
1撃で終わらせようと《炎樹槍》を投げつける気でいた《炎槍》。
そんな彼女の前にレヴァンが、そしてアギが《盾》を構えて立ち塞がる。
「レヴァイア王!?」
「絶対、やらせねぇ!」
「そうだアギ。止めるぜ。おい、人んちで物騒なもん振りまわすんじゃねぇぞ」
「レヴァンさん。アギ」
「おい坊主! 今の内に《氷斧》を抑えろ」
「ちょっとまったぁ!」
彼女の声は空から聞こえた。
見上げてみれば声に似つかわしくない異様なかたちのシルエットが、照明弾に照らされた夜空に浮かんでいる。
人の胴体ほどの太さと長さを備えた、巨大な腕を持つ少女の姿が。
「みんな消耗してるんだ。最後はあたしにおまかせよ」
+++
「あれは……チェルシーさん?」
「ブースターエンジンカット。自由落下、いっくよおーーっ!!」
彼女は《氷斧》に向かって降下突撃。
彼女の名はチェルシー・レアメダル。《W・リーズ学園》のエース資格者。
『機械』専門の技術士である彼女の武器は、バックパックの動力源に接続されたマシンアーム。
西校で行われている『機巧兵器再利用計画』。その一環で作られたこの機械腕は破棄された《機巧兵器》の部品を流用したもの。試作ながら強靭なパワーと複数の火器を内蔵している。支援砲撃をしていたのは彼女だ。
チェルシーはバックパックから伸びた操縦桿でマシンアームを操作。
左腕を振り上げ全重量を乗せた1撃を《氷斧》に叩き込む。
「はんまぁぁぁぁっ、ナッコォ!」
「ぐおっ!?」
ズシン!
ガードの上から叩き込まれた機械の拳で、《氷斧》は膝まで砂地に沈み込む。
「もういっちょう! ってありゃ?」
「なめるなよ」
《氷斧》に掴まれた左腕が凍りつきはじめた。マシンのパワーでも引き剥がせない。
チェルシーは宙ぶらりん。足をじたばた。
「は、離せ」
「おもちゃが。ふざけてろ」
「!」
それが彼女の琴線に触れた。自慢の作品をおもちゃと言われてかちんときた。
チェルシーはガチャガチャと操縦桿を弄りボタンを連打する。
「左腕部ロック解除、パージ。自爆装置起動!」
「何? うおっ!?」
爆発。左腕を切り離し、距離をとったチェルシーはその間も操縦桿を操り残された右腕へ『コマンド入力』。機能を解放する。
唸りを上げるマシンアームの肘から突き出した、これまた巨大なシリンダー・ユニット。
「《パイルストライカー》起動。エンジン全開エアコンプレッサーも最大。……ブーストジャンプ!」
バックパックから火を噴いて飛び上がるチェルシー。真上から攻撃を仕掛ける。
今まで見たこともない武器。そして戦い方。
《氷斧》は彼女の奇抜さに驚き、呆れている。
「……何だ、お前は?」
「見せてあげる。あたしのマシンは、おもちゃじゃないんだからっ」
マシンアームが繰り出す、チェルシー必殺の掌底。
「インパクトォ!!」
ズン!
掌底は戦斧でガードされた。
「同じ手は効かん」
「まだまだ!」
チェルシーは続けてマシンアームの肘から伸びたシリンダーユニット《パイルストライカー》を打ち込む。
ズシン!!
マシンアームの掌底に追加される衝撃波が戦斧を砕く。
「なん!?」
「とどめぇ!!」
ズバァァァァァァン!!!
最後はシリンダーユニットに蓄積された圧縮空気を後方に解放してブースト!
マシンアームで《氷斧》の頭を掴み、蟻地獄の底に強引に押し込む。
問答無用。《氷斧》は声を上げる間もなく砂地に沈められた。
+++
「砂縛陣解除。捕縛成功。でも……」
ユーマは最後の展開に微妙な顔をする。
「何よ、あれ?」
「あはは。いつ見てもレアちゃんは奇抜だね」
「冗談でしょ? 《氷斧》が、あんなのに力負けした?」
「あの娘がピエラのお弟子さんか」
チェルシーの勝利に一同唖然。
「いぇい!」
彼女は残った右腕を操作してぎこちないピースサイン。
ゴーグルを外すとみんなに向かって「にかっ」と笑った。
+++