3-07d 王都防衛戦 4
引っ張り過ぎた。満を持して王様登場
《前書きクイズ》
*ごめんなさい。予告していたチェルシー参戦は次回です。
Q. 《三神器》解散の理由、あるいは《炎槍》たちがハンター資格を剥奪された理由を述べよ(難易度B:予想問題。《雷槌》は何処へ)
Q. 傭兵、機巧兵器を主力とする帝国軍対し、王国側が投入できる戦力残り何人か?(難易度C:カウントされないのは今回の話までに参戦しているユーマ達4人、レヴァンです)
+++
《砂縛陣》
それは精霊を核にすることで瞬時に展開できる巨大な蟻地獄。広範囲捕縛術式。
対象の身動きを蟻地獄で封じ、生き埋めにして圧殺。さらに《爆砂陣》という大規模殲滅術式に繋ぐことで必殺となる《精霊使い》ユーマの奥義ともいえる技である。
以前に学園のトップエースに破られはしたが、砂漠があり砂更の力が何倍にもなるこの国で《砂縛陣》を使えば、いくら数段格上である《炎槍》たちもあるいは。
「俺にかまうな。やれぇ!!」
アギは叫ぶ。
貫かれ、切り裂かれた《盾》に流しこまれる苦痛のイメージを堪え、アギは傭兵達を逃がすまいと《盾》に彼女たちの武器を食い込ませたまま離さない。
明らかにパワー型である《氷斧》が全力で引き抜こうとしても、氷の斧刃は《盾》から抜けない。
「……むっ」
「ちょっと。この槍特注なのよん。離しなさい」
逃がさない。
そんなアギの奮戦を見て、ユーマは葛藤する。
どうすればいい?
《砂縛陣》、いや《爆砂陣》を使えばアギが無事で済む保証なんてどこにもない。
「馬鹿、やめろ!」
「早くしろ。長く、もたねぇ……」
「しっかりしなさい!」
「ユーマさん」
苦悶するアギにエイリークとアイリーンは何もできない。代わりにユーマを見る。
「このままですとアギさんが」
「どうするのよ?」
「馬鹿野郎」
ユーマはそれしか言えない。
帝国軍の侵入を食い止めるためにも《炎槍》、《氷斧》の2人は何としても止めないといけない。だけどユーマはアギを巻き込み、犠牲にしてまで倒したいだなんて思っていなかった。
それ以上にユーマは冗談ではない展開に頭を悩ませている。
《砂縛陣》は。
(この先の区画に仕掛けてるんだよっ!)
……。
アギは無駄死フラグを立てていた。
自分を信じて、自爆した。
どうしよう?
今ので多分罠があると気取られたかもしれない。
「アギ……」
「ユーマ?」
ユーマはやるせない思いで皆を庇うアギの背中を見つめた。
その視線はアギに何か《気》のようなものを感じ取らせる。
もしくは嫌な予感。
「……おい。まさか……」
――ハズレか?
――うん
コンタクト成立。アギは自分の失敗に気付いて一気に血の気が引き、青褪める。
「嘘だろ?」
「アギ!」
「いけない」
気が緩んだ。《盾》が抑え込んでいた槍と斧が抜け、《炎槍》と《氷斧》が自由になる。
アギに振るわれる槍と斧。
「まず1人」
「くそっ」
ユーマは咄嗟に《高速移動》を使い、アギに向かって駆けだした。
さらには《ストーム・ブラスト》を背後に向けて放ち、竜巻の推力を得てブースト。
アギの《盾》ごと敵へと体当たりする、この合体攻撃は。
シールド突撃?
「ちょっ、待て!」
ところが。ユーマのアギにぶつかる角度が違った。
ユーマはアギの真うしろではなく斜めうしろからぶつかり、アギを押し出す。
「お前!?」
「離れて」
アギのいた場所に入り込むことで、彼が受けるはずの攻撃をユーマが受けた。
ユーマは身体を駒のように回転させ、《炎槍》の槍はガンプレートの《ヒート・カッター》で弾き、《氷斧》の斧は《守護の短剣》に《風盾》を発動させ受け流す。
さらに《爆風波》で《氷斧》を牽制。無理矢理距離をとらせる。
「やるじゃない。じゃあ……これは?」
《炎槍》が上空に展開したのは、以前王城でユーマを襲った無数の赤い矢。
よく見ればそれは槍だ。投擲用の炎の槍。
炎の槍が全周囲を囲む。狙われたのは。
「エイリーク! アイリさん! 逃げて」
後方にいる彼女たちだ。降り注ぐ赤く鋭い炎の雨。
逃げる暇なんてなかった。
アイリーンは《氷晶壁》を展開するものの、瞬時のことで魔術のイメージが固まらない。
たいした強度を得られなかった氷の防壁は、炎の槍を数発受けて蒸発。
「きゃあっ!」
「アイリィ! ああっ」
エイリークも《旋風剣》と《風盾》を駆使して凌ぐが長くもたない。
細剣が炎に弾かれる。
無防備になる2人。アギはユーマの体当たりで体勢を崩していて間に合わない。
それでも容赦なく襲いかかる炎の槍。
彼女たちを守ったのは。
「かぜはー、ばーりあー」
ユーマが待機させていた風の精霊だ。
風葉は《旋風壁》を半球型のドーム状に展開。2人を竜巻で覆うことで上空からの攻撃を全て弾く。
「だいじょうぶですかー?」
「……風葉? アンタ、いつから?」
風葉はいつもユーマにするよう、エイリークの肩にしがみついていた。
姿を隠して、エイリークが乱入してからずっと。
風葉はもしもの時に備えたユーマの保険だったのだ。
このことにエイリークとアイリーン、それにアギもとんでもないことに気付いた。
「おい」
「まさか」
「もしかしてユーマは」
3人は思わず1人で傭兵を食い止めているユーマを見る。
――今まで精霊の力なしで戦っていた?
ユーマは風葉の魔法、砂更の砂を操る力をゲンソウ術で《補強》することで《精霊使い》として真価を発揮する。
以前のユーマなら《サンドワーム・ブラスト》や《旋風剣・螺旋疾風突き》といった大技はもちろん、ガンプレートを使った魔法弾を除けば《高速移動》、《風盾》のような補助術式も彼の精霊、風葉に依存していたのだ。
彼は学園に来てゲンソウ術を本格的に学び、エース資格を得てからは任務を通して実践と経験を積んだ。
その中で《爆風波》、《風読み》のような中位の術式も習得した。学園に来る数ヶ月前まで彼ができなかったことが今ではできるようになり、精霊に頼らなくてもここまで強くなっていた。
そう。ユーマはまだ《精霊使い》として戦っていない。
知らなかったことに3人は驚き、同時に気付かされたことがあって皆がショックを受けた。
この戦い。ユーマが風葉にずっと、自分達のフォローに専念させていたとしたら。
彼女たちはユーマの……
「お見事。思った通りね」
「! あなたはっ」
「坊や。そのままでいいの?」
彼女は防がれるのを予想してエイリークとアイリーンを狙った。
《炎槍》は槍を受け止められたまま、続けてユーマに言う。
「これでわかった? お荷物を抱えたまま戦える程、あたい達は甘くないわよん」
「「「――!」」」
お荷物。足手まとい。
はっきりと言われた3人に動揺が走る。
「そんなことであたい達から王国を守れるのん? あの時も、バンダナの坊やごと攻撃すればあたい達を倒せたかもしれなかったのよ」
彼女は問いかける。彼女は問い詰める。
《雷槌》が認めた少年の力は、その程度かと。
「そんなこと」
「一切考えなかったとでもいうの?」
「……!」
ユーマは動揺して躊躇いを見せた。
それだけで《炎槍》は少年のことを理解する。
(できるできないじゃなくて、思いついてもやりたくないのね)
彼女は苛立った。
(なんて……甘い子)
《炎槍》は腕に力を込め、《ヒート・カッター》のエネルギー刃を押しはじめる。
「うっ」
「余裕? そんなことないわね。なのに半端な気持ちと覚悟であたい達《三神器》の前に立つの?」
「っ!?」
槍の穂先が朱色に染まる。
直感でユーマは咄嗟に身を引いた。
「だったら……最初から戦場に出てくるんじゃない!」
次の瞬間。赤い槍が穂先から火を噴き出した。
《炎槍》は火炎放射でユーマを薙ぎ払う。
+++
ユーマは自分から身を引いた分僅かな余裕ができ、それで噴き出す炎の初撃を躱すことができた。薙ぎ払いはジャンプで回避。
そのまま《天駆》と《高速移動》で空中移動。距離をとった。
「熱っ! 駄目だ。離れないと」
「煮え切らない男は嫌いよ。がっかりさせないで頂戴」
子供が相手だとしても、戦うのなら『戦士』と戦いたい。《炎槍》は常にそう思っている。
例えばたった1人で果敢に挑んだ剣士の少女のように。
例えば身を呈して仲間を庇い、勝つ為に自分を犠牲にすることを厭わなかったバンダナの少年のように。
《炎槍》が見る限り2人は十分に戦士だった。
たとえそれが自分達と比べればあまりにも未熟で無謀であって、簡単に踏みにじられるような強さでも。戦場に立つ者が持つ意志を彼女は垣間見た。
でもあの少年は違う。中途半端だ。
『お友達』を庇って力を発揮できない。
守りたいものに足を引っ張られ、何も守れずにいる。
何故?
誰よりも強いのに、どうしてその力を十全に振るわない?
力を振るうことで守れるものは沢山あるというのに。
今だってそう。少年が最初から全力で立ち向かって自分達を引き受けてしまえば『お友達』を逃がすことができ、危険に晒さなくてもよかったはず。
戦いに身を置く者が、力を振るわずに何を守れるというのか?
仲間を戦士と認めず、戦場で気遣うくらいなら最初から連れてくるな!
少年の戦う姿勢、覚悟。それに伴う意志が読みとれない。彼女の苛立ちはそこに集約していた。
(キー君、見込み違いよ。これで坊やがお坊ちゃんみたいに駄目駄目なら……)
背を向けて逃げるユーマに対し《炎槍》は翼刀を手にした。
赤い翼刀は彼女が手にした槍のように朱色に染まる。
朱く、燃える。
「焼きを入れるわよっ!」
投擲。炎を纏う翼刀は弧を描いてユーマを襲う。
+++
「砂更、トラップ解除だ。来いっ」
ユーマは退きながら仕掛けていた《砂縛陣》を解いて砂の精霊を呼び戻した。
続けて地形操作。
地面の砂を隆起させて壁を作り、《炎槍》、それと《氷斧》の視界と進路を塞ぐ迷路を創りだす。
時間を稼ぐ。今更ながらエイリーク達を逃がす為に。
「みんな! 一旦退くぞ」
「そんな子供騙しで」
「!」
《氷斧》は砂の壁を氷の戦斧を振るい、片っ端から凍らせ、打ち砕いた。
「あたい達を止められるとでも思ってるの?」
「ユーマ、うしろ!」
「!?」
ユーマに迫り来る炎を纏う翼刀。
飛んで弧を描く翼刀はユーマの後方から右側面を狙う。
ただしユーマは《風読み》で反応。翼刀の軌道を読み切り、ガンプレートで受け止めて弾き返す。
「ブーメランなんて」
「とっておきを見せてあげる。火燕ちゃん」
「チ!」
弾き飛ばされた翼刀がまるで自分の意思を持つかのように飛翔した。
「えっ?」
照明弾に照らされた夜空を、炎が翔ける。炎が舞う。
朱い軌跡を描く。
この炎は、燕のかたちをしている。
「まさか。あのブーメランは」
ユーマはそれ以上驚く暇がない。
火の燕と化した翼刀はでたらめな軌道を描きユーマを襲う。
ユーマはガンプレートに短剣、篭手に変形した《白砂の腕輪》を駆使して何とか直撃を避けるも、掠ったときに炎に炙られ、じわじわといたぶられる。
砂の壁で防御しようにも砂更は《氷斧》の足留めで手一杯だ。
「ユーマ!」
「だめですー」
加勢に飛び出そうとしたエイリークは風葉に止められた。
エイリークは風葉に促されるまま空を見上げると、炎の槍は今も彼女たちに狙いをつけている。
「狙われてますよー。動かないでくださいー」
「くっ、自分のことくらい自分で守るわよ」
「私が氷輝陣を展開します。だから風葉はユーマさんのところへ」
アイリーンはそう言うが、風葉はふるふると首を横に振る。
精霊は見抜いている。病み上がりであるアイリーンの集中力は、戦いが長引くにつれ格段と落ちてしまっている。
今の彼女だと《氷輝陣》の展開はおそらく数分も保たない。
「はやく逃げてくださいー。そうしないとー」
ユーマがもたない。エイリーク達がいて助けに行けない風葉は焦っている。
「お荷物はじっとしてなさい。これは坊やが招いた結果。報いを受けさせるわ」
《炎槍》は余所見をしてエイリーク達に話しかけた。その間も翼刀はユーマを攻撃している。
彼女が操っているわけではないようだ。
「結果ですって」
「あの子は『お友達』を連れてきたせいで自分の首を絞めた。そういうわけ」
「なっ」
《炎槍》は言葉に容赦がなかった。
「余計なことに力を割いて苦戦してるじゃない」
「それはっ」
何も言い返せない。
「剣士のお嬢ちゃんがいいセンいってたから坊やも期待してたけど、非情になりきれずバンダナの坊やの覚悟も無駄にした。要となる精霊はお嬢ちゃんのお世話に使った。格上を相手にそんな余裕ないはずなのに」
「そんな……」
「あの子は戦士じゃない。子供なのよ。甘過ぎて残念」
《炎槍》がちらりとユーマの方を見る。
見ればユーマはボロボロだ。学園指定の簡易戦闘衣はところどころ焼け焦げ、立っているのがやっとの状態。
同じくユーマを見たエイリークとアイリーンは焦燥と罪悪感に駆られる。風葉がいれば彼もこんなことにならなかったはず。
「ユーマさん……」
「……」
特にエイリークは思い出してしまう。風森の国で、引き際を間違って傭兵に捕まった時のことを。
自分のせいでユーマを巻き込んでしまったことを。
あの時の自分とは違う。
でも今の自分に何ができる?
「逃げるわよ」
「エイリィ!?」
それが彼女の決断。
悔しくても、何もできない。
「アタシたちは、ユーマの邪魔になる」
「……わかりました」
「その決断も遅かったようね」
「があっ!!」
ユーマはガンプレートを翼刀に弾き飛ばされ、受けた衝撃を殺しきれず地面を転がる。
「ユーマ!」
「ユーマさん!」
「さーて。これで終わりかしらん?」
何かを期待する《炎槍》。気分屋の彼女の態度は一貫せずよくわからない。
でも言えることがある。絶体絶命。
ユーマが転がった先に待ちかまえていたのは、氷の目をした巨漢の斧使い。
+++
「……ぐっ、……ああっ!」
「終わりだ」
《氷斧》の斧が振り下ろされる。
ユーマはすぐに立ち上がれない。
回避が間に合わない。
ユーマに向かってアギが駆ける。でも間に合わない。
間に合わないはずなのに。
次の瞬間。アギが、消える。
「させねぇ!」
まだ名前のない瞬間移動の術式。次にアギが現れたのは、ユーマの目の前だった。
ユーマが見たものは、自分を守る為に右手を翳し《盾》を張る青バンダナの少年。
その背中。
「……アギ?」
「っ、……さっきは悪かったな。おらっ!」
受け止めて氷の斧に触れた《盾》はすぐに凍りつきはじめる。
アギは自分から凍りついた《盾》を砕くと、すぐに左腕を突き出し《盾》を展開。
「何?」
「やらせねぇ」
凍りつきはじめたらまた砕いて右の《盾》。次に左、また右とまるで斧に殴りつけるよう交互に《盾》を繰り出す。
ユーマを守る。
「今の内だ。姫さん達を連れて行ってくれ。俺が足留めする」
「アギ!?」
「王様と合流して体勢を立て直すんだ。このままじゃ俺は」
――何も守れねぇ
王国の為に何かができる、守れると信じて疑わなかった自分は甘かった。アギは痛感する。
アギは覚悟した。ここで命を懸けてユーマ達を守ることを。
ユーマを守ることで故郷を守れると信じることを。
ユーマに自分の大事なものを、すべてを託すことを。
「俺の代わりに……守ってくれ」
「!」
愕然とするユーマ。アギの覚悟が、託そうとするものがあまりにも重い。
そんなもの、受け取れない。
「駄目だ、アギ!」
「餓鬼が。水を差すな」
遮るのは《氷斧》。
冷徹なその視線でユーマを一睨みし、それから彼はアギの方を見た。
この時のアギの目は、ユーマからは見えない。
「死に場所を決めたか。良い目だ」
「……」
「ならば同じ戦士として相応に相手をしよう」
「やめろ」
ユーマの声は届かない。
「きやがれ」
「やめろ」
ユーマは遅かった。覚悟を決めることが。
人がなぜ拳を握るのか。その意味を知り、気付くのが遅すぎた。
ユーマはもう間に合わない。
激突するアギと《氷斧》。
突き出した両手の《盾》はあまりにも容易く凍りつき、砕け散った。
アギを守る《盾》はもうない。それにも構わずアギは拳を握り《氷斧》に飛びかかる。
拳に込めたものは、諦めず最後まで戦うことを誓う覚悟そのものだった。
戦え。すべては背にしたものを守る為に。
拳に込めたその想いを、ゲンソウ術に変える力が。
アギには……ない。
「やめろぉおおおおおお!!」
ユーマの絶叫が響き渡る。
エイリークが、アイリーンが、それにファルケが。《炎槍》までもがアギの最期を疑わなかった。
アギが《氷斧》に斬られる現実を否定したのは、ただ1人。
+++
《盾》はアギを守った。
「あ……」
「させねぇよ」
突然現れたその背中を、アギは昔見たことがある。
あの時、住んでいた孤児院が火事にあったアギは1人逃げ遅れた。
いつだって思い出せる。燃え盛る炎と落ちてくる瓦礫から自分を守ってくれたのはこの人だった。
どこから走って来たのかわからない。汗だくなその姿は昔とちっとも変らない。
いつも飄々として、王様らしくなく破天荒で、本当はサヨコさんラヴなだけのおっさんだけど。
アギが憧れるこの人は、家族を守る為ならどこへでも駆け付けるヒーローだった。
「おう、さま?」
「あー、頭イテェ。おいアギ。教えてもらっておいてなんだが、この技の負担はなんとかなんねぇのか?」
《盾》を使い、片手で戦斧を受け止めながら頭を押さえるレヴァンはそんなことを言う。
あまりにも平然としたその態度。この場にいる誰もが唖然としている。
「《蜃楼歩》とは全く別もんじゃねぇか。跳べる距離は極短けぇし、跳べる場所も『守る対象の目の前』だけって制限かけ過ぎつうの」
「あの、王様?」
「まあ、こいつは夜でも使えるし間に合ったからいいけどな。大丈夫か?」
「なんだ、その技は?」
問いかけるのは《氷斧》。アギに続いて見せられた謎の瞬間移動は彼もさえも知らない。
「……ふっ。見たか。これが新必殺《王様ジャンプ》だ」
「そ、そんな技じゃねぇ!?」
自分のオリジナルに酷い名前を付けられ突っ込むアギ。
この瞬間移動自体がレヴァンをイメージしているので間違ってはいない気もするが。
「突っ込みできるくらいならまだ元気だな」
「……ふざけてるな」
「《氷斧》! そいつがレヴァイア王よ」
《炎槍》は叫ぶ。
「ボーナス対象! 仕留めちゃって」
「レヴァンさん!」
ユーマは《氷斧》の戦斧を受け止めたレヴァンの《盾》が凍りつくのを見た。
凍てつく《干渉》による精神攻撃。
「あん?」
「……っ!?」
ところがおののいて身を引いたのは《氷斧》の方だった。
「何だよ、それ」
「《氷斧》の《干渉》が効いてない?」
「干渉? ああ。人の心ん中に独身野郎の寂しさを押し付けたさっきのやつか」
「は?」
きょとんとする《炎槍》。
「いいか?」
レヴァンは堂々と叫ぶ。
「んなもんで……俺のサヨコさんへの愛で日夜煮え滾る情熱ハートが屈するわけがねぇ!!」
魂が籠っていた。
誰もがどう突っ込めばいいかわからない。
「アギ……」
「こういう人なんだ。でも」
アギは万感の思いを込めて言った。
「もう大丈夫だ」
+++
ここまで読んでくださりありがとうございます。
《次回予告》
遂にレヴァン参戦。2人のエースも駆け付けユーマ達は強敵である傭兵達を前に体勢を立て直す。
そこへ転送される《忘却》の置き土産。現れた謎の《機巧兵器》が王国にさらなる危機を呼ぶ。
次回「機巧魔獣」
「あたしのマシンは」
「僕の鋼は」
「「こんなものじゃない!!」」