表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻創の楽園  作者: 士宇一
第3章 前編(上)
116/195

3-05 ユーマとレヴァン

残念ながら『王様10の秘密』の半分はサヨコさんでできています

 

 +++

 

 

 襲撃に乗じて王城から逃げ出したファルケは、赤い燕に誘導されて2人の傭兵と合流した。

 

「おかえりなさい、火燕ちゃん」

「チ」

 

 赤い髪の女は自分の相棒を肩に乗せて労う。

 

 氷の目をした巨漢は無言でファルケを見つめた。

 

「所詮おぼっちゃんか」

 

 凍てついた視線は明らかにファルケを蔑んでいた。

 

 ファルケは物怖じせず口を開く。

 

「任務に失敗したのは確かです。だがそれもあんた達傭兵のせいでもある。文句を言われる筋合いはない」

「……」

「《炎槍》、《氷斧》。大体最初からお前達が動けば」

「そこまでよ坊や」

「っ」

 

 突きつけられる赤い槍。

 

 眉間を狙われたファルケは黙るしかない。

 

「あたい達は坊やたちのバックアップ。それが将軍様の依頼なのよん。自分の失敗を人になすりつけないでほしいわん」

「……わかりました」

 

 向けられた槍を下ろされてファルケは息をついた。

 

「さーて。坊やも回収したことだし戻りましょうか」

「……」

 

 そう言いながらも傭兵達はファルケを置いて、密かに設置しておいた《転移》の魔法陣へ向かいさっさと姿を消した。

 

 

「……傭兵風情が。いい気になるなよ」

 

 

 ファルケは『入隊』してからずっと辛酸を舐め続けている。

 

 それでも彼は挫けなかった。ファルケには目的があったから。

 

 帝国人としての誇りを取り戻す為に。

 

 

「見てろよ。いつか俺が、俺達が《帝国》を取り戻す」

 

 

 王城をもう1度睨みつけ、ファルケは『拠点』へと戻った。

 

 +++ 

 

 

 城の上で待つ。

 

 そうレヴァンに言われたユーマは王城の最上階まできたものの、どこを探しても彼の姿は見当たらなかった。

 

「いないじゃないか。……砂更?」

 

 砂の精霊は姿を現すとユーマを誘導するように先へ進んだ。

 

「一体どこに」

「……」

「え? 上ってまさか」

 

 砂更が連れて来たのは城の尖塔。屋外へと昇る階段だった。

 

 

 +++

ユーマとレヴァン

 +++ 

 

 

 尖塔から屋根の上へ。

 

 

 外へ出た途端、照りつける日差しと少々砂の混じった熱い風にユーマは少しだけ顔を顰める。

  

 ユーマは畳んでいた砂除けのローブを着込むと屋根の上から周囲を見渡した。

 

 王国で1番高い建物である城のてっぺん。そこからは再開発地区の城下町や住居区の集合住宅だけでなく、その先にある新開発地区までも国中を見渡すことができた。

 

 熱風に乗って聞こえてくるのは人の声や工事の喧騒。とても賑やかだ。

 

 

「ここは」

「すげーだろ? ここからなら国だけじゃなく向こうの砂漠まで見渡せる」

 

 王はそこにいた。

 

 

 遥か遠くの砂漠と青い空を背景に立つレヴァンの姿は、よくある国王のイメージと随分かけ離れていたが彼らしく、よく似合っていた。

 

「レヴァンさん」

 

 ユーマはここへ来た要件を思い出して話を切り出した。

 

「さっきの、ファルケさんのことですけど」

「ああ。別にいい」

「……へ?」

「坊主が来る前に調べはつけた。今ミハエルが裏を取ってる」

「……早いですね」 

「それでだ。この件、坊主たちはもう首を突っ込むな」

「わかりました」

 

 ユーマは即返事をした。

 

 これにはレヴァンも拍子抜け。

 

「おいおい。やけに物わかりがいいじゃねぇか」

「多分内政干渉ってやつですよね? エイリークやアイリさんがいるから」

「……正解だ」

 

 レヴァンは頷いた。

 

「嬢ちゃん達は一国の姫だ。だから国の客人扱いで滞在している。そんな嬢ちゃん達がこの国の事情にあまり関わってもらうのは色々と問題なんだよ」

「そうでしょうね」


 ユーマは相槌を打つ。

 

 国の事情。そこに何か引っ掛かったが、巻き込まれそうになったアイリーンは無事だ。

 

 無暗に干渉すべきじゃないとユーマは身を弁えた。

 

「ここは学園都市、中央中立地帯にある国じゃねぇ。お前らが勝手に事件に突っ込んで暴れてもらうのは迷惑だということをわかってくれ」

「はい」

「それに風森の嬢ちゃんもそうだが、どうも坊主たちはやり過ぎるようだ」

 

 1日で城を2度も壊していると言われればユーマは何も言えない。

 

「明日の朝には直通の転移門を使えるようにしてやるからそれまで大人しくしてくれ」

「……わかりました」

 

 少しばつが悪そうにユーマは返事をした。

 

 

 これで用件は終わりだ。

 

 エイリーク達に合流しようとレヴァンに挨拶して場を離れようとしたユーマだったが。

 

「そう言うなよ。城の屋根は王様である俺の特等席なんだぜ」

 

 戻ろうとすれば「まあ、休憩時間の話し相手になれ」とレヴァンはユーマを離さなかった。

 

 このままレヴァンの暇つぶしに付き合わされていることになる。

 

 

「なあ坊主。今日1日この国を見てどう思った?」

「どう?」

「建国当時は人口は5万人だったこの国も今じゃ20万人以上。西国でも最大といわれる国になった。坊主はこれをすげーと思うか?」

「はい。実際ミハエルさんに街を案内して貰って凄いと思いました」

 

 ユーマは素直に答えた。

 

 

 戦後10年足らずでここまで復興、発展した国は他にないだろうと思う。

 

 ユーマは正直な感想としてレヴァンの偉業を称えた。

 

 

 なのにレヴァンは。

 

「……面白くねぇな」

「はい?」

 

 30代後半のおっさんがつまらなそうに口を尖らせるのはどうだろうか。

 

「お前はもっと毒の効いたこと言えねぇのか? 『20万人なんて所詮地方都市程度だ』とか、『やろうと思えばちっぽけな島国でも1億人以上住める』とか」

「そんな国ないですよ」

 

 風森の国だって人口2万人足らずの国だというに。

 

 この王は自分の国をどうして卑下するようなことを言うのだろうか? ユーマはレヴァンが何を言いたいのかわからない。

 

 

 そもそも人口100万人以上の国なんてこの世界に存在しない。

  

 それがユーマの知る『こっちの世界』の常識なのだ。

 

 

「まっ。それが普通か」

「レヴァンさん?」

「いや。変なこと訊いたな。代わりといったら何だが今度は坊主が質問してくれ。今なら特別に『王様10の秘密』を教えてやらないわけでもねぇ」

「……はぁ」

 

 ユーマは振りまわされている。

 

 でも折角の機会だ。この破天荒で謎の多い王様の秘密とやらを訊いてみることにする。

 

「レヴァンさんやアギが使う《盾》って結局何なんですか?」

「? 訊きたいことがわかんねぇな。あれは《幻想の盾》。無属性の初級術式だぞ」

「初級? そんな馬鹿な」

 

 アギの鉄壁ぶりを間近で見ているユーマとしては、どうしたって《盾》が初級術式のそれだとは思えない。

 

「基本にして奥義ってやつだ。ゲンソウ術は《幻操》による工夫や《現創》の再現度も肝心だが術式に込める想いと願い、《幻想》の力が大きく左右される。俺は学校なんて行ったことねぇがこれは習うもんなんだろ?」

 

 そう言われるとそうなのだが、どこか釈然としない。

 

 

 次にユーマはレヴァンがよくする謎の『跳ぶ』に関して訊いてみた。

 

「『王様10の秘密』その6だな。こいつは昔交流都市で研究してもらったから大体解析している。蜃気楼って知ってるか?」

 

 ユーマは頷いた。

 

 蜃気楼は空気の密度の違いにより光が屈折して起きる現象。砂漠の地表や海上など、空気が局部的に温度差をもつところに発生しやすい。

 

「蜃気楼は幻だ。遠くのものが近くに見えたりしちまう。俺はゲンソウ術で『近くに見える幻に足を伸ばしている』。《幻創》からの《現操》で実際の距離を短縮しているらしいな」 

 

 要するに思い描いた場所を蜃気楼として目の前に生み出し、その幻を通って目的地へ『跳ぶ』という単体の瞬間移動、ワープの類らしい。

 

「世界中で俺しか使えねぇ技なんだぜ」

「あれ? 学園じゃアギも使ってましたよ」

「何? ……。成程。多分それは《蜃楼歩》じゃねぇな」

 

 ユーマの話を詳しく聞いてレヴァンはそう結論を出した。

 

「でも、前にアギは王様が使っていたやつだって」

「じゃあ真似ごとだな。俺も色々試したが《蜃楼歩》は砂漠の日中でしか使うことができねぇ。そりゃ別もんだよ」

「真似ごと?」

「結構曖昧なもんなんだぜ、ゲンソウ術ってやつは」

 

 それならば度々ユーマ達を救ったアギのあの瞬間移動はなんだというのか。

 

 謎のままだった。

 

 

「……さて。俺の休憩もそろそろ終わりだな。坊主、次が最後だ。あと1回質問に答えてやる」

「最後」

 

 考える。

 

 レヴァンの謎といえば《蜃楼歩》に合わせて『誰かの危機に駆け付ける』というのがある。

 

 ユーマが目撃したのはエイリークにファルケがやられそうになった城門前の件。それに先刻のアイリーンの誘拐未遂の件ではユーマが離れた間に『跳んで』待機していたらしい。

 

 加えてユーマが受けた謎の赤い矢の襲撃もレヴァンは予知していたかのように現れ、守っている。

 

 偶然なのか、それとも何か仕掛けがあるのか。

 

 レヴァンに訊ねようとしたところ。

 

 

 ――あの地下都市を見てみろ。

 

 ――あれこそ大帝国、いや『帝国人』に対する砂喰い共の冒涜だ!

 

 

(あ……)

 

 ふと思い出したのは彼の言葉。

 

「レヴァンさん。この国の地下都市の事ですけど」

「おう。それがなんだ?」

「基盤となったあの地下の空間が何だったのか知ってたんですか?」

「……」

 

 レヴァンの雰囲気が変わった。

 

「坊主、案内をしたミハエルは何か言ってたか?」

「……いいえ。地下都市は見学しただけで歴史的なことは何も」

「じゃあ慰霊碑も何も見てないんだな」

「慰霊……じゃあ、やっぱりレヴァンさんは『あれ』を知っていながらあそこに街を」

「まあ待て」

 

 レヴァンは間を置いて詰め寄ろうとしたユーマを落ちつかせた。

 

「まずは坊主、お前が地下都市になる『前』のことで知っていることを教えてくれ。答えるのはそれからだ」

「……わかりました」

 

 

 精霊が伝えた《西の大帝国》の真実。

 

 今度はそれを、ユーマがレヴァンに話した。

 

 +++

 

 

 現在王国で開発中の地下都市は400年前に存在した《西の大帝国》、その遺跡ともいえる地下の空間を基盤にしている。

 

 その地下の空間はブロック構造を組み合わせた、とてつもなく強固で広い空間だった。今の王国が半分以上収まるほどの規模だ。

 

 大帝国の誇る水道網を取り入れ換気設備も充実。2千万人もの人間を収容できる上に食糧を積み込めば10年は生活できるという計算の代物。

 

 

 それは、《西の大帝国》の、その中の一都市にある避難施設。

 

 つまり非常用のシェルターだった。

 

 大帝国は《機巧兵器》をはじめ優れた技術力を誇っており、都市計画の段階から災害対策が十全に施されていたのだ。

 

  

 400年前といえばまだ《魔法》が普及していた時代。


 とある日。とある都市のに住む大帝国の民は《予知》を通して大帝国が滅ぶ可能性を予見し、予め避難を行っていた。

 

 その時に使われたのがこのシェルターである。

 

 それから結局大災厄が起き、首都を中心に大破壊が起きた。

 

 西国の半分を砂漠化し、多くの国々を巻き添えにして滅んだ《西の大帝国》。だが実は地下の奥深くに避難した大帝国の民は大災厄の被害から逃れていた。

 

 

 それからが2千万人もの避難民たちの、地獄のはじまりだった。

 

 +++

 

 

「シェルターは砂に埋もれて出口が塞がってしまっていた。給換気設備は無事で空気はあったけど生き埋め状態です」

「……」

「それでもシェルターの中では10年は生きることができる。それだけの時間があればいつか外から助けが来ると避難民たちは希望を持つことができた。でも……」

 

 10年が経って、100年が過ぎた。

 

 彼らが救い出されたのは、それからさらに300年後のこと。

 

「……」

「遺体は」 

 

 黙り込んだユーマに代わって、レヴァンが口を開いた。

 

「国の皆ですべて運び出して埋葬した。どんな惨状だったかは話さねぇが、碌なもんじゃなかった」

「……」

「なあ、大帝国の技術ってのはホントすげぇんだぜ。あの地下は400年経った今でも水があって空気も澄んでいた。でもそれだけじゃ人は何百年も暮らしていけねぇんだよな」

「だから街を?」

「半分はそうだな。でも地下で自給自足できるなんてのは技術的にまだ無理だ」

 

 ただ俺はあの場所に活気を与えてやりたかった。レヴァンはそう言った。

 

「活気、ですか?」

「精気とか生きる力だな。あの地下空洞を発見した時、俺は怨嗟ようなものを感じた」

「怨嗟」

「ああいうのが国に残っていると人や土地に影響を及ぼす」

 

 魔力に含まれる狂気と同質のものらしい。

 

 ここ砂漠地帯の緑地化が進まないのも、あるいは『帝国人』の歪みもそのせいだったのではないかとレヴァンは言う。

 

「負には正、死には生。相対するものをぶつけないと浄化なんてできねぇ。生憎この国には《巫女》なんていねぇから地下に人を入れることで活気を満たして、それで時間をかけて少しずつ浄化する方法しか俺は思いつかなかった」

「そうか。やっぱり」 

 

 地下都市の開発はファルケの言うような墓暴きではなかった。

 

 あれはユーマが思った通り、レヴァンなりの鎮魂であり弔いだったのだ。

 

 

 ユーマは《精霊使い》。精霊を通して『何か』を感じることができる。砂更を通してユーマが見た王国の地下都市は何の淀みもなかったのだ。

 

 レヴァンと砂漠の民たちはもう十分に遺した怨嗟を祓い、大帝国の民を癒している。

 

 

 感心したところで、ふと疑問に思ったことをユーマは口にした。

 

「巫女、ですか?」

「知らねぇか? 世界と《世界》を繋ぎ、秩序の循環を促す者。精霊を通して地を治め、人の魂を還すことができる奴のことだ。《風邪守の巫女》もそうだ」

「シアさんが?」

「風森をはじめ精霊の加護を受けた国は《世界》に守られる。逆に精霊のいない、『精霊を拒絶した国』は例になく滅びの運命を辿る。《帝国》もそうだ」

「王国はどうなんですか?」

 

 ユーマは訊ねた。《砂漠の王国》に《風森》のような精霊が棲んでいるのか。

 

「さあな。俺は王だからかちょこちょこ何かを『感じる』んだが。坊主、お前の方がわかるんじゃねぇか?」

「俺?」

「《精霊使い》なんだろ? なら坊主も《巫女》の資格があるんだぜ」

「そう言われても。男が巫女なんてなぁ……」

 

 ぼやきながらユーマは砂更を呼び出して訊ねてみる。

 

「……」

 

 しかし、今のユーマの力量では砂更は何も答えることができなかった。

 

「……駄目です。制約のせいで俺じゃわかりませんでした」

「そうか」

 

 残念という感じではなかった。

 

 それにしても、レヴァンの『感じる』というその力がユーマは気になった。

 

 

 《精霊使い》でもないレヴァンのその力は一体……

 

 

「訊きたいことはもうないな?」

「はい」

 

 大分時間が経ってしまった。

 

 レヴァンには他に色々訊きたいことがあったがエイリーク達を待たせている。ユーマは『ここまで』だと自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 結局、ユーマは1番訊きたいことを訊ねなかった。

 

 何故ならユーマが自分のことをレヴァンにうまく説明できないと思ったわけで、何より訊くことに躊躇いがあったから。

 

 

 訊きたかったこと。それは《西の大帝国》が滅び、大災厄の原因となった『大規模儀式魔術』。その実験の詳細。

 

 

 《召喚術》について。

 

 +++

 

 

 2人はこの場から離れようと屋根から立ち上がった。

 

 その時、レヴァンはユーマの腰のあたりに目をやる。

 

「そうだ。坊主、ちょっとでいいからそれ、見せてくれねぇか?」 

「? ガンプレートを?」

「珍しいもんだろ、それ」

 

 レヴァンは新しいおもちゃをみつけたように《レプリカ2》を見ている。

 

「いいですけど」

 

 ユーマは仕方なく腰のホルダーからガンプレートを抜いてレヴァンに手渡した。

 

 レヴァンは何かに期待するようにしげしげとガンプレートを見ていたが、一見すればただの金属板だ。程なくしてがっくり。

 

「なんだブースターか。昔は増幅器といや魔術師の使う杖や魔導書が定番だったが」

 

 2枚のカートリッジを抜き差しして遊ぶレヴァンを不思議そうにユーマは見た。

 

(あれ? なんか手慣れている?)

 

 レヴァンはさらにユーマが驚くべきことをした。

 

 

「バァン」 

 

 

 レヴァンはガンプレートのグリップを正しく握ると《水鉄砲》を放って見せたのだ。

 

 いくら水属性のIMカートリッジを差し込んでいたとはいえ、ガンプレートは『銃』の特性がイメージできなければつかえるものではないのに。

 

「成程な。『拳銃型』のブースターつうわけか。飛び道具として使うなら最適だな」

「嘘」 

 

 

 さらにレヴァンは手にしたガンプレートで、何を思ったか無造作に真横に振った。

 

 次の瞬間。ガンプレートは水の刃を《幻創》。

 

 レヴァンは初見でガンプレートの銃剣までも扱って見せたのだ。

 

 

 ユーマは、それになぜかレヴァンまでも《ウォーター・カッター》の刃に驚いて目を見開く。

 

「こいつは……悪魔の武器だな」

「えっ?」

 

 一瞬何を言われたかわからなかった。

 

 レヴァンは何を思い出したのか、急に忌々しいもののように《レプリカ2》を見ている。

 

「悪魔? ガンプレートが?」

「……いや」

 

 レヴァンは思い直してユーマに説明した。

 

「銃のことだよ。《帝国》が持ってた《機巧兵器》と呼ばれたやつにこういうのがあったのさ」

「兵器……」

「昔のことさ。《機巧兵器》なんて人の手に余るモノは反乱軍が全部破壊したからな。だが」

「レヴァンさん?」

「……」 

 

 声をかけられてレヴァンは思案するのをやめ、頭を振る。

 

「なんでもねぇ。どうも俺が『銃』を知っているからこいつを使えるらしいな。それだとアギは無理でもミハエルとかこの国の野郎共も多分使えるんじゃねぇか?」

「そうかもしれません。でもそれを見て普通銃だと思いませんよ」

   

 ガンプレートは見た目「へ」の字に折れ曲がった金属板。おもちゃの銃でもまだマシなものがあるはず。

 

 

「かもな。……でもよく似ている」

 

 

 レヴァンはそう言うが、そんなことはないだろうとその時のユーマは思った。

 

 

 

 

 この話はこれで終わったので、ユーマはレヴァンがなぜ銃剣を使えたのか訊きそびれてしまった。

 

 それで。

 

 レヴァンが《レプリカ2》と《機巧兵器》を見比べていたわけではないことに、ユーマは気付くことはなかった。

 

 +++

 

 

 レヴァンと別れたあと。ユーマはエイリーク達と合流しようとアイリーンのいる部屋へと戻った。

 

「……あれ?」

 

 部屋に入った途端、場の空気が変わった。

 

 全員見舞いに集まっていた仲間たちは生温かい目でユーマを見ている。アイリーンはいきなり布団を頭まで被った。

 

「? アイリさん具合悪いの?」

「大したことじゃないわよ」

 

 でも答えたのはエイリーク。

 

 

 おかしい。

 

 

 エイリークは呆れているようで素っ気ないし、ミサはユーマを見ては気恥ずかしげにそわそわしている。

 

 ポピラは今でも「馬鹿ですね」と言わんばかり。表情はいつものまま変わらないけれど。

 

「アギ? シュリ君?」

「「……」」

 

 気まずそうに目を逸らされた。

 

「何かあったの?」

「アンタがしたのよ」

「俺?」

 

 エイリークに言われて思い浮かんだのは、やはりファルケの件で城の壁を粉砕したことだろうか。

 

 時間がなかったとはいえ「ついカッとなって思わずやってしまった」のいい訳は苦しかったかと思うユーマ。

 

 

 通じるわけがない。

 

 

「いや、別に俺はわざとお城を壊すようなことしたわけじゃないんだけど……」

「そうでしょうね。じゃあ、アンタが何をしたのか教えてあげる」

「はい?」

「風葉、見せてあげなさい」

「はーい」

 

 ユーマとは別行動をとり、さっきまでミサのクッキーを貪っていた風葉は元気よく返事をした。

 

 

 しかしこの風の精霊さん。主人であるユーマを余所にエイリーク達の言うことをきくのはどういう了見か?

 

 

「風葉?」

「かぜはー、げきじょー」

 

 いきなり小芝居がはじまった。

 

「ダイジェストでー、いきますよー」

「まさか」

 

 風葉とユーマは繋がっている。

 

 だから離れても風葉はユーマが何をしていたのか知っているのだ。

 

 

 風葉はふよふよー、と部屋の端のほうへ飛ぶと「えい」と壁をパンチ。


 おそらくユーマが壁を壊して砂を作った場面。

 

 

 それからちいさな手で鉄砲のかたちをつくると「ばんばん」と敵を撃つ真似をした。


 傭兵をガンプレートで倒すシーン。

 

 

 最後に。

 

 風葉は決めポーズを「びしっ」と決めて決め台詞。

 

 

『アイリさんを傷つけようとするなら、今ここで潰す』

「風葉ぁ!?」

 

 

 ユーマは思わず絶叫。

 

 どうしてそのセリフだけ、ピンポイントにセレクトしたのか大いに文句を言いたい。

 

 しかも《変声》まで使って完全再現。

 

 

 風葉はこだわりの演技派だった。

 

 

「これは、ちょっと違っ」

「大まかな流れは『これ』でわかったから。アンタは何があったか正直に答えなさい」

「……はい」

 

 

 ユーマは羞恥プレイのあとで尋問を受けるのだった。

 

 

 

 

「……」

 

 

 アイリーンは布団から出てこない。

 

 +++

 

ここまで読んでくださりありがとうございます。

 

《次回予告》

 

 水面下で働く傭兵の暗躍。レヴァンの下へ現れる学園都市からの使者。

 

 事件は起きた。

 

 次回「帝都解放戦」

 

「放っておけるわけないじゃない!」

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ