3-04b 帝国の影 後
ユーマとファルケ
*前回予告のところまで話が進みませんでした。すいません
このパートはあと1話分続けます
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城内のとある廊下。ここで思いがけなく行きあうことになるユーマとファルケ。
特に行く先で待ち伏せされたようにユーマとばったり出会すことになったファルケは、驚きの表情を隠しきれていなかった。
ファルケは1人ではなかった。
他に男が2人、連れがいる。明らかに年上のやけに身なりが整った男達。
だけど彼らの顔立ちや歩く姿はあまりにも粗野で違和感がある。イメージとしては格下のチンピラが要人警護の黒服の真似をしたといったところ。
変装ならば10点。兄ならばそう採点するだろうとユーマは思った。
それに。
男達と似た雰囲気の連中に、ユーマは風森の国で出会ったことがある。
彼らはおそらく、傭兵。
ユーマは先に声をかけた。
「ファルケさん、でしたね。頭とかエイりークにやられたとこは大丈夫でしたか?」
「あ。……ああ。あの程度別になんともない」
ぎこちない返事。
ファルケは埋められたことまで風使いの少女剣士にやられたと思っている。思い出して苦い顔。
「お前、一般の部外者だよな? 何故城の中にいる? 」
「友達のお見舞いです。城の出入りは王様に許可貰ってますよ」
「見舞いだと? ちっ」
ファルケは王と聞いて不機嫌そうに顔を歪めた。
「そういうファルケさんはどうしてお城に?」
「俺は古くから《帝国》に仕えるシュペル家の人間だ。城にいても何の問題もない」
迷いなく答えるファルケ。ただ理由としてはやけに曖昧すぎて腑に落ちない。
この国で《帝国》の姓を名乗っても何の意味もないのに。
「……へぇ」
「いいからどいてくれないか。先を急いでる」
「この先に? 来賓用の客室しかなかったですよ?」
「それは」
「いいんだよ小僧」
言葉に詰まるファルケに代わって、傭兵らしき男が答えた。
「大人しく坊ちゃんの言うことを聞きな」
「ここはガキのいる所じゃねぇぞ」
「アイリーン・シルバルム」
「何?」
男達を無視して呟いた。ユーマを除く誰もが目を見張る。
(砂更はこいつらの悪意を感じたんだ。矛先はアイリさん?)
ユーマは彼女の名を聞いて動揺したファルケを見逃さなかった。
「どうしてその名を」
「見舞いに行った友達の名前ですよ。もしかして、ファルケさん達も彼女に用ですか?」
北の大国、《銀雹の国》の王女に。
「ちいっ」
「小僧!」
男達の次の反応は早かった。だけどユーマの方がさらに早い。
取り押さえられるよりも早くユーマは真横に跳んだ。そのまま石材でできた壁を左腕で思いっきり叩く。
篭手に変形した《白砂の腕輪》。その能力で叩かれた壁は音もなく粉砕。
砂状になった石壁はユーマの精霊、砂更の支配下に置かれ自在に動かすことができるようになるのだ。
「なっ!?」
「遅い」
粉砕された壁に目がいった瞬間、男達は砂礫に目を潰された。
ユーマは続けてガンプレートを抜く。
視界を奪われた傭兵は為すすべもなく《風弾》の連射とスタンガンで無力化され、その場に倒れた。
「お前!」
「動くな」
思わず抜刀したファルケをユーマは声で制した。
ガンプレートを向けるまでもない。砂更が《砂人の腕》でファルケの足首を掴みその場に縛り付けている。
ファルケは何より現れた砂の精霊の、その姿に驚いた。
白いローブに金髪。それは《帝国》の昔から言われている『砂喰い』にそっくりだったのだ。
「……何だ、お前は」
「中央校の《精霊使い》」
「――!?」
驚愕された。
C・リーズ学園の伝統。10人のエース資格者に送られる《Aナンバー》の称号。
その異例の11番目、《アナザー》のエースというのが《精霊使い》である。
「まさか……学園都市において秩序と破壊を繰り返すというあのっ」
「……まあ、いいや」
それにしては驚き過ぎだ。
一体西校ではどんな噂が立てられているのか気になるところである。
私情はあとにして、ユーマは倒した傭兵達の懐を探った。
「えーと。携帯用の細いロープにこの瓶は……睡眠薬かな? 薬学の講義で嗅いだことある匂いだけど」
ラベルを見るとどうやら市販の薬のようだ。証拠として確保しておく。
「さてと。どういうことか説明してくれる?」
「……」
「何も言い残すことがないのなら、それでもいいよ」
沈黙するファルケ。ユーマはガンプレートから《プラズマ・カッター》を放出。
バチバチと放電する紫電の刃を見せつけるが、脅し程度だとわかっているのかファルケは冷静だった。
「……何をする気だ? いくらお前がエース資格者だとしてもここは学園都市の外だ。お前に裁く権利はない」
「知ってるさ。学園都市内でもそんな権利はない。だから」
無慈悲に告げる。
「《アイリーン公式応援団》の法に基づき、私刑」
「!? 待ってくれ!」
そんなふざけた理由で裁かれるのはあんまりだった。
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私刑は保留にしてユーマは訊ねた。
「じゃあなんです? この人達傭兵でしょ?」
「それは」
「これが朝の仕返しだとしても、こんな人達連れてアイリさんに何かしようとするなんて間違ってる」
仕返しならばエイリーク達を狙うはずだ。それにアイリーンはその場にはいなかった。
そもそもファルケは、エイリーク達とアイリーンの関係を知っているのか?
「くっ」
ファルケは何も答えない。
「……質問を変えます。あんた達はこの城に彼女がいることを知っていたんですね?」
「……そうだ」
「アイリさんが銀雹の姫と知っていた?」
「ああ」
「それで誘拐を?」
「違う」
そこは否定するファルケ。
ユーマは切り口を変え、倒れた傭兵を見る。
「俺が彼女の名前を言った途端、あの人達襲ってきましたよ? 何故です?」
「それは……」
「まるで俺という目撃者を消すようでした。ああ。今更無関係を装っても無駄ですよ。あんたのこと『坊ちゃん』って言ってたの聞いてるんですから」
「……保護だ」
「は?」
訊ね返すユーマにファルケは堂々と答えた。
「そうだ。俺は誇りある帝国人、シュペル家の者として《帝国》を代表し、彼女を迎えにあがったのだ」
「……なんだよ、それ」
「《帝国》は今、奴ら砂喰い共の手の中にある。こんなところに銀雹の姫を置いておくわけにはいかない」
言い訳にしては大げさだ。でも怒り混じりの声でファルケは必死に訴える。
この国は《帝国》だと。
ユーマには理解できない。
「どういうこと?」
「俺の話を聞くか? いいだろう。……奴らはあろうことか皇帝陛下をどこかへ幽閉するとこの国を次々と別のモノへ作り変えていった。国中に砂を家を建てたと思えば多くの仲間と他国の人間を呼び寄せ、この国のあらゆる場所を掘り起こした」
「……そういう見方もあるか」
「そんなことがもう7年も。このまま砂喰いに国を変えられることが、俺は我慢できない!」
故郷を穢された怒り。それはきっと正しい感情だ。
いくら国の再開発で生活環境が改善されたとしても許し難かった。それならばユーマも理解できる。
でも、ファルケは何かが違う。ユーマにはそう感じる。
ファルケの怒りは止まらなかった。
「砂喰いは昔から大帝国の遺跡を掘ることしかしない《墓荒らし》なんだよ。あの地下都市を見てみろ。あれこそ帝国人、いや偉大なる祖先、《西の大帝国》の民に対する砂喰い共の冒涜だ!」
「違う」
「あ?」
「違うよ。それは」
ユーマは否定した。
王国が開発している地下都市。確かにあれは知る人から見れば墓暴きと言われてもおかしくない代物だ。
でも《精霊使い》であるユーマが実際に地下都市を見て『感じた』ことを思うと、砂漠の民の冒涜とは思えなかったのだ。
ファルケにはうまく説明できない。
あの都市はレヴァンなりの……
「確かにこの国はもうファルケさんの知る《帝国》じゃないかもしれない。でも、レヴァンさんはきっと」
「もういい。所詮余所者か」
「ファルケさん……」
「お前たちに俺達『帝国人』の誇りは理解できまい」
ファルケはこれ以上聞く耳を持たなかった。
あまりにも頑なで、一方的な価値観。
「だったら『帝国人』ってなんです?」
「何?」
ユーマはただまっすぐにファルケを見つめた。
「故郷が変わっていくことに嘆くのはわかる。でも『帝国人』であるというあんたは『砂喰い』とか言って昔の因習に引きずられて、この国と砂漠の民を非難しているだけじゃないか」
「何だと?」
「あんたを見ても『帝国人』の誇りなんて俺にはわからない」
「貴様ぁ!」
ファルケが怒鳴ってもユーマが怯むことはなかった。
「余所者が。言わせておけば」
「余所者って誰です? 『帝国人』以外の誰かですか? そこには俺の他にも、アイリさんだって含まれてますよね?」
ユーマは改めて訊ねた。
「アイリさんに何をしようとしたんです? 『帝国人』でも砂漠の民でもない余所者の彼女に」
「っ」
ファルケは言葉に詰まった。
そしてユーマの視線は次第に醒めたものに変わっていく。
「保護って言わないんですね? やっぱり嘘だ。他に目的があって彼女に近づいたんですね?」
「ち、違」
「当てて見せましょうか? あんた達の目的」
淡々と。その中で沸々と。
醒めた雰囲気から漏れ出した怒りを感じ、寒気を覚えたファルケは何も言い返すことができない。
(なんだ、こいつは……?)
一方でユーマは自分に嫌気が差していた。
この振る舞いは彼の兄、光輝を真似たものだったからだ。
エイリークみたいに悪い奴を吹き飛ばして終わりなら、どれだけすっきりして楽だろうかとつい思ってしまう。でも傭兵を見た時点で一筋縄ではいかないことをユーマは理解していた。
辛抱強く自分を抑えて相手に問いかけ、問い詰める。
揺さぶりをかけて情報を引き出す。
所詮真似ごとの尋問術だという自覚はユーマにもあった。だがファルケのような自尊心の強い相手なら脅迫、恫喝の類よりも有効で十分に通用すると踏んでもいる。
光輝の思考をトレースし、吐き気がするような下衆なこと考え、ユーマは口を開いた。
「ファルケさん。あんたはきっと『砂喰い』達のいるこの国を滅ぼしたいんだ。だからアイリさんを利用しようとした」
「なっ! 何を」
「彼女を拉致して事件を起こす。これが簡単方法ですよね、きっと。銀雹の国は大国だ。この国の人が彼女に危害を加えたなんて知られたら戦争の引き金にだってなる」
話しているのはユーマ、考えたのもユーマだ。
でも彼はファルケを責めるように見て言葉を繋ぐ。
「それとも自作自演でもしますか? 悪い国からお姫様を救い出した王子さまが大義を得て他国の協力を仰ぎ、この国に一斉に攻め込むんです。悪い国を滅ぼして王子様がお姫様と一緒に新しい国を建てる。英雄譚になりそうなシナリオですよね」
「何が、言いたい」
「違う? じゃあ……既成事実でも作りに来ましたか?」
「――っ!!」
脅迫材料を作りに来たと言い変えてもいい。
最悪のなのは彼女を利用してファルケ達が《銀雹の国》に取り入ることだ。
その手段は考えたくもない。
この外道、最低の悪党。ユーマは言いたい放題にファルケを罵り、刺激した。
「にっくき砂喰い共を滅ぼす為ならば余所者のお姫様も道具として使う。それが『帝国人』なんですね? よくわかりました」
「ふざけるな!! 言いたいこと言いやがって。俺達はそんな卑怯なことはしない!!」
「へー」
「馬鹿にするな!! 俺は誇り高き帝国軍人、ジャファル将軍の息子だ!!」
足元を拘束されたにも構わず、ユーマに掴みかかろうと凄み、足掻いている。
ユーマに散々侮辱され、ファルケは激昂した。
「だから俺も、親父のように上の命令に忠実に従って」
「命令? 上って誰に?」
「っ」
激情は一瞬で醒めた。ユーマはやっと漏らしたと内心安堵する。
これは所詮いいがかりだ。ファルケはまんまと引っ掛かった。
「末端だったってわけか。本当はアイリさんに何をしようとした?」
「……」
「まあ、いいや。どうせ連れて来いってくらいで大したこと言われてないんだろうし」
図星だったのか、ファルケの表情がまた驚きに変わる。
「な、なんで」
「経験からかな? 傭兵を使った誘拐に巻き込まれるの2度目だからなんとなく」
主犯は別にいて知らないんだろうな。そう言うユーマにファルケは絶句するしかなかった。
「ファルケさん、考え直した方がいい。あんたの言う『上』が誰かは知らないけれど、こんなことに傭兵まで使う奴は碌なもんじゃない」
「だが、俺は」
「『帝国人』だから、ですか? 誘拐の幇助なんかしてあんたは自分に誇りを持てるんですか?」
「違う! ただ俺は」
「黙れよ。自分のことばかりで何も考えてない癖に。俺が言ったこと、『上』が考えてるかもしれないんだぞ」
睨みつける。《プラズマ・カッター》が一層激しく火花を散らす。
「命令だった。だから知らなかったで済ますわけにはいかない。アイリさんを傷つけようとするなら、今ここで潰す」
「お、俺は……」
「あんたのしていることが自分を、『帝国人』の誇りを汚していることに気付け」
「……」
それがとどめだった。ファルケは力なく項垂れた。
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関わるのはここまで。
ファルケのことは彼を利用する存在もあって思った以上に根深い。
この国の問題に関わることならば余計なことはせず、レヴァンに任せるべきだろうとユーマは考えた。
「ファルケさん。あなたの身柄は傭兵達と一緒にレヴァンさんかミハエルさんに引き渡します。このあとのこと、よく考えて下さい」
「……」
返事はなかった。
ファルケの剣を取り上げ、拘束しようとユーマはガンプレートを下ろした。
その時。
「チチッ」
ユーマが壊した外壁から入りこんで来た1羽の小鳥。
二股の切れ目の長い尾を持つ赤い小鳥が、ファルケの肩に止まった。
「この鳥は」
「燕?」
「チ?」
人間くさい動作で首を傾げる小鳥。
この鳥の正体を一早く察したのは他でもない『同種』である砂更だった。
精霊は急いでユーマに危険を伝えるが、状況が理解できず彼の反応は遅れる。
「……!」
「えっ、砂更?」
「伏せろ! 坊主!!」
次の瞬間。
上空から、外壁の穴から城の中へ。
ユーマ達に向かって無数の赤い矢が降り注いだ。
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「うーん、命中! ……かしらん?」
城の外。砂埃の舞う辺りを見上げ、いい加減なことを呟くのは長身の赤い髪の女。
「どっちだ?」
彼女の隣にいるのは、氷のような冷たい目をした壮年の巨漢。
2人組は『新米』の傭兵だった。
「さあねん。ここからじゃ目視出来ないし。一応火燕ちゃんを目印に放ったけど、狙撃砲撃はあたいの専門外だからん」
けらけらと笑う赤い髪の女。
女は露出の多い服装をしており、褐色に焼けた肌を惜しげもなく晒している。
いい歳してるくせに。そうぼやいて殴られたことがあるので、巨漢はそのことに触れずにいた。
「……おぼっちゃんは?」
「逃げたわよん。火燕ちゃんが誘導してるから大丈夫」
「問題は失敗した傭兵と目撃者の排除、か」
氷の目の巨漢は無表情だった。
淡々と任務をこなすその在り方は理想の傭兵、駒といってもいい。
「いいわよん放っておいて。思いつきで動いたあいつらの尻拭いなんてまっぴらごめんよん」
「……そうか」
「ええ。それにしても傭兵ってお粗末ねぇ。あんなのと一緒にお仕事するなんて先が思いやられるわん」
「……」
「再就職先、間違ったかしらん?」
「何を今更」
巨漢は呆れているようだが表情は変わらない。
「おぼっちゃんを回収して依頼主の所へ戻るぞ。この件で今日中に動く可能性がある」
「今日しかない、でしょ? このことがなくても動くわよん。きっと」
「……何故だ?」
「依頼主、あたいの嫌いなタイプなの」
美少女の勘ね、おほほ。と笑う。それでも巨漢の表情は変わらない。
年齢の割に美人だとは思うが、誰が美少女で『少女』なんだとか。「おほほ」って一体なんだとか。
巨漢は決して突っ込まなかった。
「……長居は無用だ。行くぞ、《炎槍》」
氷の目をした巨漢は、赤い髪の女を相手にせず場をあとにした。
「ああん。相変わらず冷たい子ねぇ。ちょっと待ちなさい、《氷斧》」
赤い髪の女は巨漢を追いかけようと、その場に立て掛けておいた槍を手にして担いだ。
その槍は彼女の二つ名のような炎の色をしている。
《炎槍》と呼ばれた傭兵の女は、振り返ってふと城の方を見上げた。
「キーくんに免じて見逃してあげる。だからこれ以上この国に深入りしちゃだめよん」
誰に対して呟いたのか。それは彼女しか知らない。
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王城の3階、ユーマのいた廊下。
ユーマは《炎槍》の襲撃を受けたのだが彼は無事だった。
砂更が咄嗟にユーマを庇い砂の壁を展開したこともあったのだが、石壁を壊して作りだした砂はあまりにも少ない。これだけではユーマはきっと無傷では済まなかっただろう。
ユーマが無傷で済んだ理由は1つ。
「無事か。坊主?」
「レヴァン、さん?」
突然現れたレヴァンが外壁の穴を塞ぐように《盾》を展開したからだ。
「砂埃を起こしたのはいい判断だ。狙撃ならこれで目を眩ませられる。坊主、今の内に」
「はい」
レヴァンが庇ったのはユーマだけではない。倒れた傭兵達もだ。
ユーマはレヴァンの意図を察して傭兵達を外壁の穴から遠ざけた。
この時、砂更の拘束が解かれたファルケは襲撃に乗じて姿を消している。
「ファルケさん……」
「馬鹿息子が。……つるむならもっとマシなダチを選べよ」
傭兵を見ると、ここにはいない息子に向かってレヴァンは悪態をついた。
次にレヴァンはユーマの方を向いた。
「悪い、遅くなった。さっき『感じた』のが嬢ちゃんの方だったんで部屋の方にいたんだが」
「はぁ」
何と言ったらいいかユーマはわからない。レヴァンはこの事態まで察知して『跳んで』きたとでもいうのか。
ならばアイリーンもまた、突然現れては消えるという王の神出鬼没ぶりを目の当たりにしたに違いない。
「ともかく。例によって飛び込んだもんだから状況がわからねぇ。話が聞きてぇからちょっと付き合ってもらうぞ」
「はい。……あ。でもアイリさんやエイリーク達が」
「そうだな。じゃあ俺は先にミハエルと話をして城の上で坊主を待っておく。坊主はその間に嬢ちゃん達と合流して事情を話してくれ」
「上? ……わかりました」
「これほどの騒ぎが起きたんだ。嬢ちゃん達もすぐにここへ集まるだろう。ただし」
レヴァンは言った。
「ファルケとこいつらのことは内緒で頼む。まだ公にしたくない」
「……どうして?」
「この国の問題だから関わるな。それで察してくれ」
「……」
ユーマは無言で頷いた。
「いい子だ。じゃあまたあとでな」
レヴァンはそう言って、もう何度目かわからないがユーマの目の前で『跳んで』消え去った。
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レヴァンが姿を消して、廊下に1人取り残されることになったユーマ。
「……なんて説明しよう?」
レヴァンが外壁の外に《盾》を展開した為に廊下の被害はそう酷くもない。
あるのは自分の空けた壁の大穴だけ。
この状況で彼女達にどう言い訳しようか。ユーマは大いに悩んだ。
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