3-04a 帝国の影 前
久しぶりのアイリーン。事件は後編で
+++
昼過ぎ。時間でいえば午後3時といったところ。
再開発地区へ戻ったユーマは熱射病に倒れたアイリーンの見舞いに1人王城へ向かった。
入城して彼女が休んでいるという部屋の前に立つ。
お約束だと迂闊にドアを開けて実は着替え中でした「きゃー」といったラブコメ的展開が予想されるが、生憎彼はこの手のパターンを回避できる少年だった。
ドアのノックを忘れずに入室の確認もとる。
「アイリさん。見舞いに来たよ。入ってもいい?」
「どうぞ」
「失礼しまー……うわっ!」
驚いた。
別に着替え中じゃなかったけど。
「ユーマさん?」
「……アイリさん。暇なのはわかるけど」
ユーマは非難する声をあげた。
「こんな時に夏休みの課題をやるなんて、駄目じゃないか!」
「……怒っている意味がわからないのですけど」
ベッドの上に身を起こして、ノートとペンを手にしていた彼女はきょとんとしている。
「宿題は期限ギリギリまで追い込んで一気にやるのが醍醐味なんだ。それなのに」
「貴方は時に妙なこだわりを持ちますね。違いますよ。ほら」
アイリーンはノートを開きユーマに見せた。
「えっ、これってIMの構築式? しかもこの字はティムスの」
「ええ。ポピラさんからお借りしました」
IMとはゲンソウ術を使う際の明確なイメージ構築、それと汎用性を持たせる為に作る規格概念のこと。
大まかに例えれば、IMの構築式とは「火=赤い、明るい、熱い、燃える」などといった性質のイメージを事細やかに書き込んだものだ。
この情報の塊ともいえるIMを術者のイメージに付与させ、ゲンソウ術の発動と再現を補助するアイテムがブースター(増幅器)である。
「これはエルド兄妹の研究書です。ユーマさんの使う術式をIM化したものが書かれています」
「俺の? ということはガンプレートの」
「ええ。以前ユーマさんは新型ブースターの性能テストをしていましたね。あの時のです」
以前ユーマはティムスと一緒に人を集め、実戦形式で《レプリカ2》の性能テストをしていたことがある。
その時ティムスが記録していたのがユーマがガンプレートで放つ《ストーム・ブラスト》のような魔法弾と、《風刃ブーメラン》のような既存術式に変化を与える《補強》イメージの詳細だった。
尚、このデータを元に特定の術式発動に特化した『インスタント仕様』のカートリッジが創られており、ポピラはこれを複数使い分けることでユーマのように《レプリカ2》を扱うことができる。
「《補強》は基本イメージである《幻想》に変化を付与する《幻操》の基本。貴方のそれを学ぶことで私は《氷晶術》からの派生術式を考えていたんです」
「へぇ」
相変わらず魔術に熱心なお姫様である。
「この前披露した《氷晶樹》だってそうですよ。ユーマさんのガンプレートを参考にしてるのです」
「あれが? あれに1番近いのは……スプリットホーミングレーザー?」
以前ユーマはそれをイメージして《水鉄砲》を撃った事がある。
それは『敵に向かって』『枝分かれしながら』『まっすぐ伸びる』といった単純なイメージで既存術式を《補強》したもの。
ユーマはアニメやゲームの映像としての明確なイメージがあるので、ゲンソウ術として容易に再現可能ではあるが、他の術者がこれを再現しようとするとそうはいかない。
ノートを見ると分裂するタイミングと枝分かれする回数や本数、射程距離などの詳細が構築式として書き込まれていた。
「でもあれって威力も拡散するから牽制技にしかならなかったんだよな」
「私は刺突貫通攻撃にして威力を得ることにしましたが、ユーマさんだったら火や雷の属性で延焼や感電を狙ってもいいのでは?」
「いや。俺はその2つの属性を飛び道具に使うと威力がガタ落ちするんだ。拡散なんてもってのほかで《スタンガン》のように至近距離で使うか《フレイム・ブラスト》みたいに風葉の魔法と併用しないと」
「成程」
しばらくノートを見ながらあれこれと新術式のアイデアについて話し合う2人。
会話が弾んでいたところ、アイリーンはふと考えた。
個室に年頃の少年と少女が2人きり。
なのに会話に全然色気がない。
(……私もエイリィとそんなに変わらないのかも)
どうも姫どころか女の子らしくない。
彼女はノートを閉じた。
「アイリさん? もういいの?」
「……ええ。まだ体調が良くないので」
いつもなら最低1時間は付き合わされる魔術話。
それをアイリーンの方から打ち切られて、ユーマは本当に体調が悪いんだなと思った。
「そっか。熱射病って確か高熱で体温調節機能がおかしくなるんだよね。熱ある? お昼食べた?」
「少しだけ。今の状態だとぼんやりして魔術は使えそうにないです」
「……危ないね。風葉を呼び戻すから護衛につける?」
「大丈夫ですよ」
気を遣われるのは素直に嬉しいと思うアイリーン。
「そう言えばユーマさん1人ですか? ウインディさん達は」
「あとから来ると思うよ。今王国の体験学習なんてやってるんだけど、途中からみんなバラバラになって行動してるんだ」
王国の地下都市を見学したあと、ユーマ達は国営の食堂で、工事の人たちの昼食の準備と給仕を手伝いをしてそのまま昼休みをとった。
午後からは自由行動。ユーマ達はレヴァンやミハエルの計らいで、予め用意された見学先を好きに選んで体験学習できるようにしてもらっていた。
ユーマは一通り仕事終えたので集合場所にしていたアイリーンの下へ一足先に来たという。
「皆さんはどちらへ?」
「えーと。まずポピラが王立研究所だったかな」
王立研究所とは大帝国の遺跡発掘とその技術解析を主に研究している場所だ。
《技術交流都市》とは技術提携しており西国でも最先端の技術研究所の1つとしても有名。
「そこに『リュガキカ丸』を預かってもらってるから、舟のデータ採取と学園にいるティムスの所へ送り返す手続きをしてる」
風葉がポピラの護衛についてるという。
+++
王立研究所、整備工場。
ここは研究所でも工事で使う撹拌器や破砕器などの装置や馬車のような乗り物、兵士用の装備、大型調理器具などあらゆるものの修理点検を行う場所である。
ポピラはその一画に据え置きされた舟をやや呆然と眺めていた。
「……あの人達は『王蜥蜴』を相手に一体どんなを立ち回りをしたのでしょうか?」
無残に破壊された赤い衝角。フレームの歪んだ船体。
外装の表面は熱砂との摩耗で融けた形跡がある。通常航海では問題なかったので戦闘時にどれ程のスピードで砂地を走らせていたというのか。
原型を留めているのは、偏に兄ティムスがユーマの無茶な運用を想定した構造計算を行っていたおかげだとポピラは思う。
気絶していたとはいえこんな状態の舟の中にいたこと思い出すと今でもぞっとしない。
「大丈夫ですかー?」
「……はい。私は大丈夫です。風葉ちゃん」
ポケットから這い出て心配するともだちに、ポピラはそっと微笑み頭を撫でた。
風葉に癒されたポピラは気を取り直して作業をはじめた。
舟のデータ採取は、学園に送り届けさえすればティムスが《解読》で一気にやってしまうだろう。だけど彼は多忙の身だ。
休暇をくれた兄の為に、レポートくらいは作成しておこうとポピラは思いここへ来たのだった。
「戦闘データのレポートはミツルギさんにお願いしましょう。エイリークさん達にもアンケートをとるとして、私は破損状況のチェックを……」
「すげーな。こいつで『王蜥蜴』とやりあったってか」
突然現れたのは、青バンダナの白い付けひげをした王様。
しかも舟の中から。
「酷ぇ外見の割に中はしっかりしてる。随分と頑丈だったんだな」
「……」
「ったく、最近の学生は贅沢でいい趣味してるぜ。小型の砂上船なんてガキの秘密基地にしちゃあ立派すぎる」
「……どうして?」
舟の中にいたのでしょうか?
あと……ひげ?
疑問に思うポピラ。
レヴァンはポピラを見つけると、呆然としている彼女にも構わず声をかけた。
「お。みつあみの嬢ちゃん。よかったらうちの奴らにこいつ触らせてもいいか? 嬢ちゃんにもここの整備器具や人を貸し出すからさ」
「……はぁ。それは私の手伝いをして下さるのならこちらも助かりますけど」
「よっしゃ。おいおめーら、嬢ちゃんから許可が出たぞ」
王の一声でおおーっ、と歓声を上げ、舟に群がって張り付く技術士たち。
「この折り畳み式のマストには帆が巻かれている? うおっ、レバーを回すだけで帆が張れるのか!?」
「根元を見ろよ。こいつは多分ギアボックスだ。帆の向きを変える際の負荷をこれで軽減させてるんだぜ」
「まさか《機巧術》も取り込んでるのか?」
「《建築士》の奴らも呼んで来い。コンパクトなギャレーといい、キャビンのデザインも凄いぞ」
「外装は錬金術を施してるな。付与された耐熱、耐摩耗性能は……」
「水が出るぞー!」
「「「「何だって!?」」」」
白熱する技術士達。戸惑うのはポピラ。
「……あのう」
「なーに。悪いようにはしねぇ。学園都市の技術が珍しいだけさ」
そう言うレヴァン自身が珍しいおもちゃを見るように楽しそうであったが。
心の中では王国でも作ろうと考えているに違いない。
「……はぁ」
「嬢ちゃんはどうする? データ取りならうちの野郎共が喜んでやると思うが」
「……」
「研究所の中でも見学するかい?」
「そうですね」
ここの研究所は遺跡から採掘された『機械』を取り扱っていたはずだ。
ポピラはその資料を兄のお土産にしようと整備工場をあとにした。
+++
「ウインディさんは?」
「ミサちゃんと一緒に食堂街に残ったよ」
エイリークとミサは夕食の仕込みと、遅めの昼食や休憩に来たお客の給仕を手伝っているらしい。
「朝にちょっと揉め事があってね。エイリークはミサちゃんを1人にしておけなかったみたい。ミサちゃんはミサちゃんでこれを機会にエイリークに包丁の使い方とかを教えるって張り切っていたよ」
「あの2人らしいです」
アイリーンにとっても幼馴染である2人。
彼女達のやりとりを想像してアイリーンは微笑んだ。
「でも、ミサさんはともかくウインディさんが料理に給仕というのは心配ですね」
「そう? 料理は別としてエイリークは給仕は得意だよ。学園でも喫茶店の『ウェイター』よくしてるし」
「……お客さんを吹き飛ばしたりしてませんか?」
「多分」
大丈夫だと信じておく。
+++
ユーマ達の心配は杞憂であった。
エイリークは今、細剣の代わりに泡だて器を持ち、大量のクリームを相手に格闘している。
「リィちゃん。クリームまだ? こっちの生地はもう焼きあがっちゃったよ」
「ちょっと待ちなさい」
ひたすらクリームを作るエイリーク。かれこれもう1時間は泡だて器を握っている。
2人は最初食堂の給仕を手伝っていたのだが、急遽子供たちの合同お誕生会の準備に駆り出されていたのだった。
とにかく大量の焼き菓子を作らなければならないらしい。おばさん達に混ざっておまんじゅうのようなケーキを分担作業で作っているのだが、単純作業というのがまた辛かった。
甘いものは決して嫌いでないエイリークだって、ずっと甘い匂いが籠った部屋に軟禁されれば胸やけして嫌気がさしてしまう。
「まだ足りないの、クリーム」
「うん。この国のお誕生会って月に1度のこどものお祭りなんだって。それで国中の子にお菓子をあげてるみたい」
「一体いくつ作ればいいのよっ!」
剣ならば何時間も振り続けると言うエイリークも勝手が違うのか、泡だて器を持つ腕がぱんぱんになってもううんざり。
エイリークは泡だて器を睨みつけ、考える。
「リィちゃん?」
「……そうよ。ユーマのあれを応用すれば……」
《旋風剣》を発動。城壁の修繕をしていた時を思い出し、泡だて器に纏わせた竜巻がミキサーのように高速回転。
それを見たミサが慌てだした。
「よし。これで一気に」
「リィちゃん!? ちょっとまって」
「いけぇっ!」
エイリークは構わず、クリームが一杯入ったボウルの中に泡だて器を突き刺す。
「きゃあぁぁぁぁ!?」
当然固定されていなかったボウルは泡だて器の竜巻に弾き飛ばされ、部屋中にクリームを飛び散らせた。
「……リィちゃーん……」
「もう……何よ!!」
自爆して頭からクリームを被ったエイリークは、やり場のない怒りに叫ぶしかなかった。
+++
一方その頃。
「ちびっこどもー。サヨコさんから誕生日プレゼントだぞー」
子供たちのお誕生会。サンタルックで突然現れ、プレゼントを配るのはこの国の王様その人。
「おおさまー」
「おひげだー。あかーい」
「「「わー」」」
レヴァンは靴下に入れたプレゼントを群がる子供たち1人1人に配っている。
この王様、子供にも人気がある。
「おうさまー。どうしてきょうはおひげなの?」
「あおくないのー?」
「ふっ。それはな、今日の俺は王様じゃないからだ」
「それじゃあ、レヴァイアさまはなにものなのー?」
レヴァンはお菓子を口いっぱいに頬張る子供たちに向かって、真顔で答えた。
「今日の俺は、サヨコさんの愛を届ける妖精さんなのさ!」
「「「……」」」
王様、大マジ。
「きゃあー」
「きもーい」
「やっぱりおうさまだー」
無邪気にはしゃぐ子供たち。
嫌っているようではないが、時折不敬罪になりそうな酷いことを自称妖精さんに言っている気がする。
それにしても『やっぱり』とは、この国の王様は子供たちにまでどういう認識をされているのだろうか?
「ねー。さよこさまはー?」
「じっかにかえったてほんとう?」
「おうさま、さよこさまににげられちゃったの?」
「なにぃ!?」
王妃様がお誕生会に来れないことを知ると、子供たちは大騒ぎ。
実は国母サヨコは王様以上に人気があるのだ。
「やだー。さよこさまー」
「レヴァンさま。げんきだして」
「さよこさまをはなしちゃだめだよー」
「まけないでおうさま。がんばれー」
何故かレヴァンは慰められた。
「よかったですねレヴァン様。プレゼントは子供たちも大喜びです」
「そうだな。……ミハエル」
「何でしょう?」
「今日も暑いな」
「……あまりお気になさらずに」
汗が目に染みた王様だったりする。
+++
「あとアギはシュリ君と一緒に近衛隊の兵舎に顔見せに行ってるよ」
「ユーマさんは何をしていたのですか?」
「俺? 俺はほら、砂更がいるから最初採掘工事の手伝いをしようと思ったんだけど」
この国で砂を自在に操る精霊の力は非常に助かるものだとユーマは思っていた。
ところが、試しに砂原を2つに割ってみせると、ミハエルが精霊のその圧倒的な力を前に冷や汗をかき、労働者達の仕事をすべて奪いかねないと危ぶんでユーマを止めたのだった。
「代わりにミハエルさんに別の仕事を頼まれたよ」
「それはなんです?」
「家の掃除」
ミハエルに懇願され、押し付けられるように頼まれたのは住居設備の清掃だった。
ここ砂漠の国ではしょっちゅう砂埃が舞い、こまめに掃除をしないと部屋の中が砂まみれになってしまうのだ。
この仕事は主に国の子供たちでやる仕事だという。幼少時のアギやシュリもこれでお小遣いを稼いでいたとミハエルは言っていた。
「要は部屋に溜まった砂を掃いて外に出すだけだから砂更で一気にやれるんだよね。すぐに終わるから子供たちの仕事まで引き受けて全部やっちゃったよ」
砂更が、とユーマ。
仕事の取り分はいらないと言うと、子供たちはとても喜んでいたことを思い出す。
今日はお誕生会があるので、掃除が早く終わると子供たちは急いでお菓子を貰いに外へ駆け出していったのだった。
「そうだ。ここに来る途中レヴァンさんが『跳んで』来て子どもたちのお礼だってお菓子貰ったんだ。アイリさんも食べる?」
「折角ですから。頂きます」
焼き菓子を半分こにして2人で食べる。
レヴァンから貰った焼き菓子は、実はエイリーク達が作っていたおまんじゅうのようなケーキ。ふんわりした生地の中にフルーツクリームがたっぷりと詰まっている。
決して上等なお菓子とは言えなかったが、砂糖よりも果物に甘みがあって酸味も効いている。
「……美味しいです。甘いというよりもやさしい、そんな味です」
「うん。なんとなくわかる。家庭の味って奴かな、きっと」
「そうですか。……これが」
それからアイリーンは噛み締めるように、少しずつ焼き菓子を口にした。
そんな彼女を不思議そうに見るユーマ。
「……女性の食事をまじまじと見るのは失礼だと思いますが」
「あ。ごめん。アイリさんがあんまり嬉しそうに食べるもんだから。半分じゃ足りなかったかなって」
「私は、別にそんな食いしん坊でもありません」
赤くなって拗ねられた。
それでユーマはもう1度アイリーンに謝る。
「……もう。でもこの国の人たちはきっと幸せなんでしょうね」
「ん?」
「子供たちがみんなで手づくりのお菓子を食べたりできることが。私はまだこの国を見ていませんけど、ここは人のあたたかさに包まれた国なんでしょう?」
「そうだね。外は日差しが強くて正直キツいくらい暑いんだけど、それに負けないくらい国の人は元気なんだ。その力をこの国に与えてるのが王様、レヴァンさんなんだよ。きっと」
ユーマはそう思う。
砂の精霊が教えてくれた真実に加えて、レヴァンが計画したというあの地下都市を見たあとだと余計に。
「その方が国王様、ですか?」
「うん。アイリさんはまだ会ってない? 顔は似てないけどアギみたいな人」
「いいえ。でもアギさんみたいな王様って一体どんな」
「いや。アギより変だよな。あの人」
しれっと失礼なことを言うユーマ。
「初めて会った時はさ、知らずに一緒になって飯食ってたんだ。子供っぽく振舞ったと思ったらいきなり真面目になって。でもやっぱりふざけてて」
「それで?」
ユーマはアイリーンにレヴァンのことを話した。
瞬間移動といえる謎のゲンソウ術を使って姿を消したこと。次に見かけたのは王都の広場前で殴り合いをしていたこと。
城門前ではエイリークのトラブルに割り込んで《旋風剣》を容易く受け止めていたこと。
絡んできた少年達の代わりに自ら頭を下げたものだからエイリークが随分戸惑っていたことなんかも。
「俺達がやってる体験学習ツアーも王様の思いつきなんだ。でもこの国を廻りながら、ミハエルさんに色々話を聞いてるとやっぱり凄いと思う。アギが憧れるのもわかる気がするんだ」
反乱軍のリーダーとして《帝国》との争いに終止符を打った英雄。
帝国の姫を妻として迎え、新たな砂漠の王となった彼の国の躍進は、その破天荒な人柄と共に後世に語り継がれるに違いない。
「神出鬼没で無茶苦茶で。でもすごいのを発見したり開発したりもして、とにかく騒がしく楽しそうな人なんだ」
「……ふふっ」
「アイリさん?」
アイリーンは思わず笑ってしまった。
だって少年の言う王はアギというよりもむしろ。
「それって学園にいる時のユーマさんみたいですよ?」
「……えー」
あんな変なおっさんに似ているのは嫌だな。
やっぱりレヴァンに対して失礼なことを思うユーマだった。
+++
「この国のこと、もっと聞かせて下さい」
「そうだね。もうすぐエイリーク達も来ると思うから、その時にみんなで地下都市を見学した話を……」
不自然に口が止まった。
「ユーマさん?」
「……喋り過ぎたね。喉乾いてない? ちょっと飲み物貰ってこようと思うけど」
「そうですね。では、私のもお願いしてもいいですか?」
「うん。またあとでね」
ユーマはそのまま部屋を退室した。
廊下にでると、ユーマは砂の精霊に促されるままに先を進む。
精霊を通してユーマへと伝わった《危険予知》と呼べるもの。ただしそれは何が起こるのかはよくわからない。
予知といってもただ悪い予感が近づいてくるといったものだった。
それでもユーマは未だ本調子でないアイリーンを巻き込んではいけないと、部屋の外で迎え撃つことにしたのだ。
「砂更。悪意ある気配って一体」
「……」
程なくしてユーマはその悪意の発生源に遭遇した。
「お前は……確か城門前にいた」
ユーマが城の廊下で出会ったのは、城門前でエイリークに滅多打ちにされた『帝国人』を自負する少年ファルケ。
「悪意、ね。本当ならエイリークの《直感》ってやっぱり当たるのかも」
その彼の取り巻きのように控えた、危険な目をした男達を見てユーマは溜息をつくしかなかった。
+++