3-03d 砂漠の王国4
砂漠の王国の体験学習ツアー
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というわけで。
エイリークが破砕した城壁の修繕からはじまった、ユーマ達の『砂漠の王国体験学習ツアー』。
「準備はできたでしょうか?」
「はい。着替えてきました」
案内役は王様に代わって国王付き宰相補佐のミハエル。
レヴァンは国の子供たちのお誕生会の準備や国の警備があると、彼を呼び寄せ少年達を押し付けたのだ。
その押し付けられた当人は予想通りなのか溜息さえつかなかったけど。
「レヴァン様。顔が腫れてしまっています。子供たちの前にでるのにそれはどうかと」
「しまった。ゴロの奴がいい右を持ってたんでな。あの気迫の籠ったやつは効いたぜ」
「……仕方ないですね」
そう言ってミハエルが王様へ差し出したのは、もっさりとした白いひげと赤い帽子。それと靴下。
「ミハエル、なんだこりゃ?」
「《精霊紀》の時代にいたという冬の妖精を模したものです。子供たちに贈り物を届けるそうですよ」
これを聞いたユーマはクリスマスとサンタクロースを連想した。
「今は夏ではありますが、余興としてお誕生会はこの妖精に扮装して腫れた顔を隠してはいかがでしょうか?」
「……流石だぜ。お前」
レヴァンは喜んで付けひげを付け、どこかへ『跳んで』消えてしまった。
「……どこへ行かれたのでしょうか? お誕生会は昼過ぎからなんですけど」
「ミハエルさん……」
あの王様も変だけど、このスーツ姿の青年もどこかおかしいと思うユーマ。
閑話休題。
オーバーオールの作業着に着替えたユーマ達は城門前に集合。ミハエルから修繕作業の説明を受ける。
用意されたのは袋詰めされた粉らしきものと大きなバケツ。他にへらやこて、棒、柄杓といった道具の数々。
「ご存知の方もいると思いますが、この袋の粉は速乾性の凝固剤です。これに砂漠の砂と水を練り、型に流し込んで乾燥、固めたものを我々は建築物などに利用します」
「セメント?」
ユーマの呟きはミハエルは聞こえなかったようだ。彼はそのまま解説に入る。
「説明しますと、この凝固剤はレヴァン様が反乱軍時代に《技術交流都市》の協力を得て開発されたものです。実用化されて10年以上経ちまして、今では多くの国へ砂漠の砂と共に出荷され使われております。学園都市にある校舎もこれを利用した建物が増えてきましたね」
今からやる作業は砂漠の砂と凝固剤を水で練り合わせ、それで破損部分を補填する充填材を作るという。
本来は大型の装置を使うところ、今回は体験学習ということで充填材を手作業で作ることになった。
「ではまず外から砂を集めて運んできてもらいましょうか。力仕事ですから男の子が頑張ってくださいね」
「ユーマ、頼む」
「砂更」
ユーマは砂の精霊に頼み、周囲の砂を操ってかき集めた。
すぐに小山ほどの砂山が出来上がる。
「このくらいで足りるかな」
「……便利ですね」
次に凝固剤と砂を混ぜる作業。
各々がバケツの中に決められた比率の砂と凝固剤を入れ、専用の撹拌棒で混ぜ合わせる。
ユーマが見るに凝固剤はどうやらセメントとは違うようだ。粉の色は砂漠の砂より白っぽく砕いたガラスのようにキラキラしている。
「塊はよく砕いてしっかり撹拌して下さい。この作業を怠ると強度に影響します」
「次は水だな。ユーマ、その辺に水場があるから先に汲みに行ってくれ」
「わかった」
砂更のおかげでいち早く撹拌作業を終えたユーマ(彼は何もしていない)は水の用意に近くの水場へ向かう。
ユーマは何も考えずに水場にあった『蛇口』を捻り、水をバケツに注いだところで。
「うわっ!?」
驚いた。
「どうした?」
「アギ。み、水が出てる。蛇口から」
「……何言ってんだ?」
水場にあったのは、井戸や溜め池などではなく横1列に並んだたくさんの蛇口。
ユーマが知っているものの中で1番近いのは小学校にある手洗い場や足洗い場のようなやつだ。
砂漠の国に蛇口。
偏見かもしれないが、ユーマにはこれがオーバーテクノロジーのような異質なものに感じる。
蛇口の口の中なんて散水しないようにギザギザの星型にもなってるし。
「そりゃ出るだろ。学園のと同じじゃねぇか」
「違うって。学園のは備え付けの給水タンクから水を落とすやつじゃないか。でも周りにはタンクみたいなのないし、これってまるで水道が」
「あるぜ。水道設備」
「……へ?」
「あるんだよ地下に。《西の大帝国》時代の用水路なんかじゃないすげーのが。この国の周辺どころか大砂漠の方まで網のように張り巡らされてんだよ」
ユーマは絶句した。
「この水道が砂漠地帯の地下に流れる水脈とつながってるらしくてな、王様が発見して使えるようにしたんだ。詳しいことはミハエルさんにでも訊いてくれ」
「発見って……レヴァンさんって何者?」
「そういう人なんですよ」
言ったのはミハエル。アギに続いて水を汲みに来たらしい。
「ミハエルさん」
「レヴァン様はこの砂漠の地に何度も奇跡を起こしたのです。砂を資源として利用したと思えば水を掘り起こし国を潤わせました。物資の流通だってレヴァン様が個人で築いた人間関係を基盤に成り立っているのです」
ミハエルは誇らしそうに語った。
「地下の水道網もそう。レヴァン様は帝国の者以上に大帝国の遺産に可能性を見出し、正しく扱って見せた。だからこそ陛下はあの方に『レヴァイア』の名を託されたのでしょう。誰よりもこの砂漠の国を想い、砂の地を踏みしめてきた。そしてこれからも駆け抜ける方ですから」
「語るね。ミハエルさん。流石は『国王付き』」
アギが茶化したので「いえいえ」と彼は謙遜した。
「君の王様好きも大したものですよ? まあ、レヴァン様は普段があんな方なんでお仕えするのは大変なんですけど」
ミハエルの本気かもしれない冗談にアギもユーマも笑った。
「水もバケツに溜まりましたね。では行きましょうか」
そう言ってミハエルはユーマの倍以上の容積のある特大バケツを左腕1本で軽々と運んで行った。
「……なんであんなゴミ入れるポリバケツみたいなやつに水一杯に入れて運べるの?」
しかも片腕。
「ミハエルさんはただの宰相補佐官じゃねぇんだよ。なんせ『国王付き』だからな」
「強化系の術式も使ってなかったよね?」
アギの説明では納得できなかった。
ユーマは何となく自分のバケツに汲んだ水を見つめた。
地下には浄化設備まであるのだろうか。水は透き通っている。
「俺、この国の人達は水を半日くらいかけてオアシスへ汲みに行ってるイメージがあったよ」
「はぁ? 《門》もあるのにそれいつの時代の話だよ。行こうぜ」
転移門の話を聞くと、尚更異世界を意識するユーマだった。
戻って修繕作業の続きを行う。
今度は水を加えて砂と凝固剤を更に混ぜ、練り込む。
手作業でやるとこれが1番難しい。特に水加減。
加える水の量が少ないと十分に砂を練ることができず、逆に水の量が多いと泥のようになって最後の充填作業が難しくなるのだ。
「少しずつ水を加えるのがコツです。ダマを残したままだとやはり固まった時に脆い部分ができてしまい、強度が格段と落ちてしまいます」
「水が入ると砂じゃなくなるんだよな」
砂更は砂や粉状のものしか操ることができない。ここはユーマも真面目に手作業で行った。
余談だがこの作業はユーマ達の人間性が表れることになった。
まずアギは目分量で水を入れ過ぎ、あとから砂と凝固剤を加えまた水を加えて……と何度もいい加減を繰り返して大量の砂を練っている。シュリは練る作業が雑でバケツの底の方が混ざっていない。
「小麦粉で生地作ってるみたいだね」
「こういった作業は専門外なんですけど」
これはミサとポピラ。彼女達はお試し程度にボウルサイズの器で砂を練っている。
料理間隔で砂をサクサクとへらで混ぜ合わせるミサ。少量とはいえできたペースト状のものは理想の練り具合。
ポピラもミサと同様の出来。慎重で丁寧な作業は技術士の面目躍如といったところ。
一方でエイリークは。
「まどろっこしいわね。……えいっ」
《旋風剣》の竜巻を利用して一気に混ぜ合わせようとしたところ、力の加減に失敗してバケツの中身を周囲に飛び散らせた。
ちょっとした大惨事。ユーマも被害を被った。
「ううっ。何よ、もう!」
「……なにしてんの。でもそのアイデアはいただき」
ガンプレートを抜いた。それを見てギョッと目を開くのはミハエル。
そんなミハエルに気付かず、ユーマはバケツの中にガンプレート突っ込んでイメージ。エイリークのように竜巻の回転で混ぜ合わせようとする。
ポイントはエイリークとは違いユーマには『ハンドミキサー』のイメージがあることだ。
そのイメージで《補強》したガンプレートの小さな竜巻は高速でスムーズに砂と水を混ぜ合わせる。
「できた! ってなんか膨らんだしクリームっぽい」
「練り過ぎです」
とミハエル。
彼が言うにはユーマが作ったクリーム状のそれは空気を多く含み過ぎており、乾くと全体的に極小の気泡が無数にある、軽くて脆い全く別のものができあがるという。
発泡材?
ユーマ、やっぱり何をしてもやり過ぎるきらいがある。
「失敗なんだ」
「いえ。これはこれで完成です。強度の問題で構造物には向いていませんが、同じ体積で比較して従来のものより3分の1以下の重さになるのです。煉瓦や植木鉢のような焼物の代わりを作るのに向いています。石材の補修、接着剤としても使われますね」
この素材は軽量というのが何よりの強みであり、現在強度問題を改善した新素材が研究中だという。
「へぇ」
「君のは修繕した箇所の仕上げに塗りましょう。……しかし手作業でこれはできるものではないんですけどね」
ミハエルはユーマと砂クリーム、それとガンプレートを見て苦笑した。
「やはりあれは……」
最後に破損した城壁の穴に作った充填材を詰め、ユーマの作ったクリームを表面に塗り込んで修繕作業は完了。
この作業ではアギの《盾》が活躍。
素人がこてで表面を均せばどうしたってムラができるところ、アギの自在に変化する《盾》を大きなこてとして使い1度に壁を均したのだ。
しっかりと練り込まれた充填材は程良い固さであり、垂直な壁面に塗り込んでも垂れ落ちることはなかった。
ミハエルは作業を終えたユーマを労う。
「お疲れさまでした。これに充填材が乾いたあと、日焼けによる劣化を防ぐ対候性塗料を塗って完成です」
「これってすぐ乾くのですか?」
「結構な量を詰めましたので完全に乾燥するのに最低3日はかかりますね。なので今日はここまでです」
「ふう。そんなに時間はかからなかったけど、やっぱりこういう作業は大変だ」
「そうね」
エイリークが同意したところでユーマはもう一言。
「だからエイリークも修理する人のことを考えて《旋風剣》で吹き飛ばしたり、叩きつけたりする真似は控えるようにね」
「そうだぜ。姫さん」
これはアギだけでなくミサもポピラもユーマに同意してくれる。
「うっ。……わかったわよ」
よい教訓になりましたとさ。
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《砂漠の王国》の基盤となったのは元《帝国》の帝都である。
昔から砂漠地帯で資源といえば、遺跡から発掘されるオーパーツと呼べるものか《西の大砂漠》付近で採掘できる魔石のような魔力資源くらい。基本的に資源は乏しい。
特に戦後は困窮を極める状態。新しい国を1から創るよりも帝都を再開発する方がよほど経済的だった。
『帝国貴族』により荒れ果てた帝都は新王レヴァイアの下で復興、王都と名を変えて国の中心に据えられると、《帝国》であったその都市は王国の《再開発地区》と呼ばれるようになった。
それで《砂漠の王国》の王城は《帝国》のものそのままであり、場所は当然再開発地区にある。城下町ともいえる住居区画にはシュリ少年の家もある。
再開発地区。民を家族、国を家と言う王の言葉を借りるならば、そこは元皇帝より譲られた『借家』を改築した場所である。
また、王の理想とする『マイホーム』は王国の《新開発地区》にて現在も開発を進めている。
レヴァイア王が計画した帝都の再開発、そのノウハウを活かして進められる新開発地区。
それらの計画を構築するものは、大災厄を免れ砂漠の地下に遺されていた水道設備をはじめとするかつての《西の大帝国》の遺産、その技術を再利用した『あたらしい』ものばかりであった。
王の提示したアイデアの数々は当時の《技術交流都市》の技術士、建築士たちが驚愕したものだ。
大帝国の技術の再現。その魅力に惹かれた彼らは喜んでレヴァイア王に協力を誓い、共に国を興すことになる。
西国南部にある《技術交流都市》。この国は王国が建ちあがる前からの同盟国であり、この国の技術士達はレヴァイア王が反乱軍にいた頃からの盟友達でもあった。
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城壁の修繕を終えたユーマ達が次に行くのは王国の《新開発地区》。
ミハエルの案内で見学することになった。
「そこでは何をするのですか?」
「いえいえ。君たちに工事を手伝わせるわけにはいきませんから。ここは新開区の見学だけです。ああ。工事の皆さん達の昼食の準備は手伝ってもらいますね」
この国の伝統料理を体験しましょう、とミハエル。
「では新開区に着く前に少しだけ説明を。この国、ひいては以前の《帝国》は《西の大帝国》の跡地に建国されました。《帝国》は大帝国の首都を基盤に国を興したと言われていましたが」
「知っています。ここは大帝国の一都市でしかなかったんですね」
「その通りです。流石はエルド先生の娘さん」
「……母は関係ありません。学園で学ぶことです」
「失礼しました」
不機嫌になったポピラにすかさずミハエルは頭を下げる。
「……取り直して話の続きを。ポピラさんの言う通りこの国は大帝国のほんの一部でしかないという事実が数年前にわかりました。これを発見されたのも実はレヴァン様です」
「はー。レヴァンさんってほんと凄い人なんだね」
「ええ。ではレヴァン様がどうやってこの事実を突き止めたのかわかりますか?」
少年達に訊ねるミハエル。
それでユーマは先程のアギとの会話を思い出した。
「……地下の水道?」
「その通りです」
ミハエルは最近の学生は優秀ですね、と感心した。
「レヴァン様が地下で発見された大帝国の水道網。これは歴史的発見でした。この水道を調べることで大帝国の規模を測ることができたのです」
水道網の配置、枝分かれする配管の大小から大帝国の首都は別の所にあるとわかったらしい。
「調査の結果から推測すると、大帝国は人口数千万人という今の時代では信じられない規模の国だったようです。その首都は《西の大砂漠》に存在したと言われています。流石にあの場所を調査するのは困難なので真実は未だ不明なのですが」
「大砂漠ね……ユーマ、何か知ってる?」
「知ってるって、あの時は生き残ることに必死で」
エイリークの問いにユーマは何を思い出したのか、青い顔をして首を振る。
「あ。でも10回くらい蟻地獄に落ちた所に神殿らしいとこがあったな」
「……え?」
全員がユーマに注目する。
「大砂漠って地下に蟻の巣みたいに空洞ばっかりあって、その1ヶ所にでっかい湖があったんだ。水が飲みたくて近づいたらそこででっかい海蛇に追いかけられてさ、そしたら今度は湖の中に落ちて」
「……アンタ、なんで生きてるの?」
「アギ、彼は一体」
「こいつ、大砂漠を横断してるんです。砂の精霊はその時に拾ったそうですよ」
「はぁ!?」
「何と無謀な」
初めて聞いたシュリとミハエルは開いた口が塞がらない。
「……湖の神殿。海蛇はきっと眷族の守護獣。だとすると……」
「ミハエルさん?」
「1つ訊ねますが、その神殿に大帝国のものを示すなにかありませんでしたか?」
「えっ? 神殿っていってもあくまで『らしい』です。廃墟だったんで」
でも、とユーマ。
「砂更が言うにはそこは精霊を奉る祭壇があったそうです。その精霊が何なのかは教えてくれなかったけど」
精霊の知識を授かる事ができるのは《精霊使い》の特性のひとつ。
ただしその能力は使い手の力量に応じるものであり、今のユーマは砂更から詳しいことを聞きだすことはできなかった。
「……成程。大変興味深いお話でした。……話を戻しましょう」
ミハエルは王国の《再開発地区》、それと《新開発地区》のことを説明した。
「再開区はもうご覧になりましたね。帝都を再建したここの街並みは《帝国》のそれとそう変わりません。《帝国》との大きな違いはレヴァン様が発見した地下水道を使えるようにしたことです。ただ、家屋のある場所を掘るわけに行かなかったので国中に水場を設置しているわけです」
「あの蛇口の列か」
「ええ。本当は家一軒毎に水道を引っ張りたいのですが、現段階で実現は難しいですね。元々あった都市に次々と新しいものを取り入れたので街の景観は全体的に整合性がない所も見られます」
昔からの家屋の隙間に入り込んだ砂色の四角い建物。これはきっと例の凝固剤と砂で作ったものだろう。
「元の帝国民に砂漠の民、それから都市開発や遺跡の研究にやってきた他国の技術士たちなど、この国は数年でたくさんの人を受け入れました。それに合わせて再開区は住居設備の拡大を図っています」
「それじゃあ……あの横長でたくさんある建物は集合住宅?」
「そうですね」
「何それ?」
エイリークが訊ねると、学園都市の寮みたいなものだとユーマは答えた。
「建国当時は資金不足なものでその時から名残ですね。まあこの国では共有設備が充実してますので個室として使われる住居は概ね好評です。あと元々あった一軒家でも部屋を間借りして一緒に暮らしてる人もいます」
「ルーム、いやホームシェア?」
「俺とシュリみたいにな」
「お前は家に飯食いに来てるだけじゃないか」
「ははは。レヴァン様もそうですね」
笑うミハエル。
「変わった国ね」
「お国柄ですよその辺りは。この国の者は皆が家族。どこの国のどの家族だって1つの家にそれなりの折り合いを以て共に暮らしているはずです。この国だって同じようにして成り立つのです」
そう言われても王国の在り方に違和感があるのだろう。エイリークは自分の故郷と比べて難しい顔をした。
「……だからかな」
ユーマはファルケがこの国に反発していたことを思い出し、そう呟いた。
受け入れられず、馴染めないのだと。
「それにしてもこの国の、再開発地区でしたか。ここはあなたの言うとおり以前の街並みに色々とくっつけた雑多な印象を受けます。新開発地区はどうなのでしょうか」
「もちろん。新開区はその辺を踏まえて都市計画を企てています。でも新開区の凄いところは一目ではわからないでしょうね」
ミハエルはポピラにそう答え、先へ進んだ。
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王国の新開発地区は再開発地区、つまり今の王国の隣にある。
要するにここは王国を拡大するように新たな都市を建設しているのだ。
「どうです?」
「どう、っていわれても」
よくわからない。
計画されたと思われる整然とした街路。でも建物は殆どが未完成で更地ばかり。その割に工事で多くの人が賑わっている。
完成したらきっと素晴らしい街になるだろうと思う。でもそれはきっと『すっきりした再開発地区』といった街だろう。
ミハエルの言う通り、新開発地区の凄さはユーマ達にはわからなかった。
「新開発地区は大帝国にあった1つの都市の『基礎』を掘り起こし、その上に新たな都市を建設しています。地下の水道網を元に街の区画を決めてもいます。もしかすると完成すれば大帝国の街並みを再現できるかもしれませんね」
「基礎?」
「むき出しになっている場所もありますからそちらへ行きましょう」
移動する一同。
向かった先で見たものに1番驚いたのはユーマだった。
「? この『床』もあの砂で作ったやつ?」
「違う。でもこれって……まさかコンクリートじゃ」
砂地を深く掘り起こして露わになっているのは、石のような素材でできた白灰色の床。
接ぎ目もないそれが区画の1面に広がっている。
「これが大帝国の都市の基礎? ……いや。砂更!」
ユーマは砂更に砂を通してこの床の『下』を探らせた。
「……」
「……えっ?」
しかし、そんなことをせずとも砂更はユーマに答えを伝えた。
この《西の大砂漠》にいた砂の精霊は、《西の大帝国》を何よりも知っているから。
この下に何があるのかも精霊は知っている。
「ユーマ?」
「……シェルターだ。このコンクリート層からもう2階くらい下の地下に大帝国時代の避難施設があったんだ」
砂更の伝えた真実にユーマは愕然とした。ここ一帯がすべて地下シェルターだったのだ。
これほどの設備を創る技術を持ってさえも大帝国の人たちは……
「……ミハエルさん、アギ。ここの地下って」
「では皆さんをご案内しましょう」
ミハエルはそう言った。
これは体験学習ツアーのメインイベントだと。
「レヴァン様が水道網と共に発見した大帝国のもう1つの遺産。それを元に開発しているのがここの地下都市です」
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ここまで読んでくださりありがとうございます。
《次回予告》
《砂漠の王国》の地下都市。そこから《西の大帝国》の過去の一端を知ることになるユーマ達。
まだまだ続く体験学習ツアー。その途中でユーマはファルケと衝突し、レヴァイア王と2人で話をすることになる。
次回「帝国の影」
「見てろ。俺達は……帝国を取り戻す」
「こいつはな。悪魔の武器だ」