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幻創の楽園  作者: 士宇一
第3章 前編(上)
110/195

3-03a 砂漠の王国1

ユーマVS王蜥蜴。その顛末

 

あとシュリ君の災難

 

 +++

 

 

 頭が重い。

 

 身体が思うように動かない。

 

 目覚めたばかりの少年は覚醒しきれておらず、頭がぼんやりしていた。

 

 

 そこにどこからともなく男の声が聞こえる。

 

 少年は今までずっと誰かに話しかけられていたようだ。もう何か喋ったのかもしれない。

 

 

「――では話してください。君はあの時、砂漠の海で何をしていたのですか?」

「?」

 

 

(あの時? どうなったんだっけ? 確か……)

 

 

 ユーマは少しずつ、思い出す。

 

 +++

 

 

 1撃だった。魔獣の群れが全滅したのは。

 

 

 『王蜥蜴』。魔獣の群れを突破した直後、あの山のようなトカゲの化物がいきなり2本足で立ち上がり、ちっぽけな舟に向かってのしかかってきた。

 

 それは前に戦ったことがあるユーマさえも知らなかった攻撃パターン。全長80メートルもある巨体を使ったボディプレスは凄まじかった。

 

 『王蜥蜴』の攻撃はこれだけでは終わらない。ボディプレスの激しい衝撃が波紋のように広がり、雪崩か津波のように砂漠の砂を周囲に押し流したのだ。魔獣のほとんどがこれに呑み込まれてしまった。

 

 ユーマ達の舟はアギが咄嗟に展開してくれた《盾》でほんの一瞬だけ堪え、その間にユーマが砂更の力で地下へ潜り緊急回避。

 

 《盾》が『膜』の役割を果たし、砂をクッションにしてボディプレスの直撃は避けたのだが、災害のような攻撃の余波に巻き込まれてしまい、舟は砂中からまた外へと押し流されてしまう。

 

 精霊たちのおかげで砂の荒波に呑まれても舟の転覆だけは何とかせずにすんだのだが、激しい揺れの連続にエイリークをはじめアイリーン、ポピラが耐えきれず気絶。

 

 無事だったのは精霊に守られていたユーマと専用シートに固定されているアギの2人だけという状態。

 

 幸か不幸か。『シールド発生装置』というアギの固定装置は、ティムスの設計もあってとんでもなく対ショック性能が優秀だったのだ。

 

 

 舟を守る《盾》でもあったアギは、気絶することさえも許されなかったともいう。

 

 

 気絶したエイリーク達はユーマが舟の中へ押し込み、2人は『王蜥蜴』を前にどうするかを考えた。

 

 

「『王蜥蜴』はでかすぎる。俺の《盾》じゃ掠っても舟ごとぶっ飛ばされるぞ」

 

 

 状況は最悪。彼らは『王蜥蜴』を何とか振り切り、撒いて逃げ切らなければならない。

 

 『王蜥蜴』を倒すことはほぼ不可能。サイズが違いすぎてどんな攻撃も焼け石に水なのだ。

 

 なのにユーマは。

 

 

「あいつに1撃叩き込む」

「はぁ!?」

 

 

 『王蜥蜴』はその大きさに似合わず砂地を這う速さも尋常ではない。下手をすると『リュガキカ丸』の全速力よりも上かもしれないという。

 

 1度怯ませて隙を作らなければ、脱出の糸口も見出せないことをユーマは身を以て知っていた。

 

「やるぞアギ。俺とアギ、それに『リュガ』。3人の力を合わせれば」

「3人、ってまさか」

 

 アギは嫌な予感がした。

 

 同時に『リュガキカ丸』の船首に取り付けられた真っ赤な衝角を見て、青褪めた。

 

 

 そして。

 

 

「集え、集え集え。風よ集いて螺旋を描け」

 

 

 『王蜥蜴』の攻撃はどれも致命傷。この魔獣を前に舟は1撃も耐えることができない。だからユーマは舟の操作を砂更にすべて委ねた。

 

 砂の精霊は主人の期待に応え、砂地を操作して舟を自在に滑らせる。

 

 激しくも、流れるように滑る『リュガキカ丸』。砂更はジャンプ、ドリフト走法など舟にあるまじき動きで素早く切り返し、砂の壁で『王蜥蜴』の尻尾や前脚の前にワンクッション入れるなどしてすべての攻撃を回避してみせた。こうして反撃の為の時間を稼ぐ。

 

 攻撃の度に撒き散らされる砂礫の雨はアギが《盾》で傘のように弾いた。

 

 

「回れ回れ竜巻よ。風を束ねて一振りの槍へ」

「ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐー」 

 

 

 ユーマは次の1撃にすべてを出し切る為に《全力》モードで集中、それで風葉はずっと回っている。

 

 仕掛けるのは合体攻撃だ。今できる最大の攻撃を『王蜥蜴』の頭に叩き込む以外に活路はない。

  

 ユーマはエイリークのスーパーモードなど及びもしない程の風の力を風葉の魔法で集めてもらい、ゲンソウ術で《補強》して必死に制御している。

 

 その力は『リュガキカ丸』の衝角にすべて収束。纏う竜巻の槍は今は嵐の前のように静かに、解放されるのを待っている。

 

「……よし。いくぞ、アギ」

「畜生、やるしかねぇんだろ!?」

 

 アギは自棄になった。

 

 どの道やらなければ終わりなのだ。《雷槌》の傭兵がいたとはいえ、1度は『王蜥蜴』から逃げ切っているユーマに懸けるしかない。

 

 

 アギが衝撃に備えて船体を《盾》で覆い、準備完了。

 

 ユーマは風の制御に苦しみながらもコックピットから『王蜥蜴』を睨む。

 

 

「前におっさんとやった手だけど、これしかないんだ。効いてくれよ」

 

 

 いざ、勝負。

 

 

 まずは風葉が溜め込んだ魔力を一気に解放。

 

「たーつーまーきー」

 

 巨大な竜巻の奔流が『リュガキカ丸』を呑み込み上空へ高く突き飛ばした。竜巻に合わせて船体は錐揉みして高速回転。

 

 急上昇。そのまま急降下。竜巻の高速回転に落下速度も加え、真下にいる『王蜥蜴』脳天めがけて突撃。

 

 さらに回転しながら牽制の《リュガキカミサイル》を撃ち込む。炸裂するミサイル攻撃に『王蜥蜴』が上を向いて額を見せた。

 

 そこがこの魔獣の弱点だと、ユーマは知っている。

 

 今だ。ユーマは叫ぶ。

 

 

「3つの心を1つに束ね、今必殺の!」

 

 

 アギの《盾》に覆われた『リュガキカ丸』でユーマの必殺技。これが『3人の』合体攻撃。

 

 

「リュガキカ丸ーっ、スピーーン!!」

 

 

 赤バンダナの彼のように、赤く塗られた衝角を覆う竜巻のドリル。

  

 この衝角は『リュガキカ丸』の、いやリュガの魂だ(多分)。

 

 3人の力を合わせれば、『王蜥蜴』だって(きっと)。

 

 

「いけぇぇぇぇ!!」

「ぎゃああああ!!」

 

 

《旋風剣・螺旋疾風突き》

 

 

 突貫!! 

 

 

 しかし、それでも『王蜥蜴』の地層のようになった分厚い皮膚を突き破るに至らない。

 

「……?」

 

 効いていない。

 

 『リュガキカ丸』は纏う竜巻の勢いで『王蜥蜴』の額を押すのだが、うしろに下がらせることも怯ませることもできず、また弾かれることもなく拮抗してしまい宙に停滞。

 

「駄目じゃねぇか!?」

 

 アギは絶叫。《盾》のおかげで船体はバラバラにならずに済んではいるが、自壊してしまうのは時間の問題。

 

「くそっ、やっぱり『リュガ』じゃ……」

「まだだ」

「……ユーマ?」

 

 ユーマはこのタイミングでガンプレートを抜いた。

 

 気絶したポピラから拝借したのだろうか。ガンプレートを2丁持っている。

 

「おい、まさか」

「押す」

「ちょっ!?」

 

 アギは慌てて《盾》を前方に向けて集中した。失敗すると追突の衝撃で自爆してしまう。

 

 一方、ユーマは舟の後方、天に向かって2つのガンプレートを構えた。

 

 既存術式をイメージで《補強》して、《ストーム・ブラスト》の強化を図る。

 

 

「いくぞ、ダブルストーム・ビッグ・ブラストぉ!!」

「馬鹿、野郎がぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 『リュガキカ丸』はオーバーブースト。

 

 

 シールド突撃!

 

  

 ズシン!! ゼロ距離からの体当たりは衝撃を逃さずに『王蜥蜴』の装甲のような皮膚に浸透。

 

 

「!? ーーーーァアアッ」

 

 

 この一撃は『王蜥蜴』の頭まで衝撃が行き渡った。悲鳴のような奇声が砂漠に響き渡る。

 

 

 バキッ

 

 

 同時に『リュガキカ丸』の衝角が攻撃に耐えきれず折れてしまった。

 

 《旋風剣・螺旋疾風突き》を構成していた竜巻のドリルが弾け飛ぶ。

 

 

「リュガぁーーっ!?」

 

 

 ぐらついた『王蜥蜴』。粉々に飛び散る赤い衝角リュガのたましいを見て悲鳴を上げるアギ。

 

 かけがえのない友(?)を犠牲にして、『王蜥蜴』に脳震盪を起こさせることに成功するユーマ達。

 

 だが『リュガキカ丸』は体当たりの勢いを失くしてしまい、『王蜥蜴』の皮膚に船体を弾かれてしまう。

 

 

 この時、ユーマは弾かれた舟が斜め上を向いた一瞬に光明を見た。 

 

 

「今っ! とべぇぇぇぇぇ!!!」 

 

 

 そのまま特大の《ストーム・ブラスト》で舟を空へと押し出す。

 

 

 

 

「ちょっ、おま……リュ、リュガぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 

 

 

 衝角を失くした『リュガキカ丸』。アギの絶叫が砂漠の地に木霊する。

 

 

 舟はそのまま、ユーマの放つ竜巻を推力にしてまっすぐ飛んで行き――

 

 +++

 

 

「……そうですか。『王蜥蜴』を相手にしてなんともまた」

 

 

 ミハエルは未だぼんやりとしている少年の話を聞いて、何というか呆れるしかなかった。

 

 アギに話を聞いた時も信じられなかったのだが、《西の大砂漠》のヌシを相手に1発入れて逃げるなんて誰がやれるというのか。

 

(レヴァン様ならあるいは……いやいや)

 

 妙なことを考えたミハエルは頭を振る。

 

「あんな場所にいた事情はわかりました。では最後に確認しましょう」

「……確認?」

「君のことです」 

 

 ミハエルは改めて真顔を作るとユーマに訊ねた。

 

 

 

  

「ユーマ・ミツルギ君。学園都市から数人の女の子を拉致、それとあの舟に監禁していた犯人は君で間違いないでしょうか?」

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 目が覚めた。なんだそれは。

 

 

 +++

砂漠の王国

 +++

 

 

 調査隊が謎の舟を調べた時に船内で発見したものは、毛布やらロープやらで全身を包み、ぐるぐる巻きにされた上でベッドに固定された4人の女の子。(ユーマが『王蜥蜴』に突撃する前に縛り付けていた)

 

 気絶ししていた少女達は猿轡までされており、まるで人売りに連れ去られてしまったような有様。ミハエルはすぐに彼女達を保護した。

 

 それから彼が生徒手帳などで少女達の身元を確認したところ、4人の内1人はなんと風森の妹姫。

 

 さらに1人は北の大国、銀雹の姫君だったのだ。これは驚くしかない。

 

 

 要するに。

 

 ユーマにかけられた嫌疑は『王女誘拐』。

 

 世界中で指名手配されてもおかしくない罪状だ。

 

 

「もしかすると別に犯人がいて舟から離れていたかもしれません。しかし、あの場で君だけ拘束されていなかったのが気になって。もしかすると……」

「ちょ、ちょっと待っ……!?」

 

 起き上がろうとしたユーマは、ここで初めて自分が拘束されていることに気付いた。

 

「な、なんで?」

 

 大の字に寝かされた上で両手両足を拘束。

 

 妙な威圧感を感じ、首を捻って周囲を見渡せば黒い頭巾を被った男達に囲まれている。

 

 まるで改造人間を造る昔の秘密結社のよう。

 

 

 こんなことを冗談でも本気でも、実際にやってしまう人間をユーマは1人しか知らない。

 

「罠だ! 光輝さん、いるんだろ!?」

「何を言ってるんです? これは、えーと……我が国に伝わる誰もが素直に自白する儀式という」 

「ああああああああ!!?」

 

 間違いない。ユーマは確信した。

 

 罠だ罠だと拘束状態にもかかわらず暴れ出すユーマ。何に対する罠なのか本人もわかっていない。

 

 相当切羽詰まっている。1度落ち着けばエイリーク達に弁護してもらうなど思いつくだろうに。

 

 しかし。

 

 安全確保の為とはいえ彼女達を縛り付けたのはユーマだ。

 

 しかも彼女達が気絶していた間だって彼女たちを乗せたままの舟で山のような魔獣に『空中殺法、回転体当たり』なんて真似をして相当危険な目に遭わせてもいる。

 

 事情を説明してエイリーク辺りに知られたら制裁されるのはほぼ確定。

 

 

 意外と打つ手がない。絶対絶命?

 

 

 いないはずの兄の影に怯え、冷静になれないユーマ。

 

 それで『光輝の罠説』に拍車がかかった。

 

「やっぱり罠だ。光輝さんが絡んでやがった。きっと俺が前に大砂漠を彷徨ったのも、『王蜥蜴』に2度も遭遇したのも、俺が今『ここ』にいることだってあの陰険眼鏡のせいなんだな!? 俺が何したっていうんだ!!」

「……あの」

「逃げなきゃ、とにかく逃げて反撃の準備をしないと。最悪姉さんに連絡をとって……もしかして大和兄ちゃんも敵か? だとしたら十六夜さんと陽香先生を味方に、武器は……」

「落ち着いて下さい」

「あんた達も! あの人に利用されたんでしょ? 担がれたんでしょ? 脅されたんでしょ? だったら、だったら俺と一緒に戦いましょう! 光輝さんについたって破滅しかしないんですよ!? わかってるんですか!?」

 

 1人で大パニック。

 

 ユーマのあまりの錯乱ぶりに絶句するミハエル。

 

 彼は隣にいる黒頭巾の1人に声をかけた。

 

 

「……アギ。やり過ぎでは?」

「いいんですよミハエルさん。しかしこいつ、学園で自分がやったこと忘れてねぇか?」

 

 

 そう。決して真鐘光輝がいるわけではない。これは彼の罠ではなくアギの罠。

 

 ユーマに散々酷い目に遭わせられたアギがミハエル達に頼み、大掛かりに仕掛けたドッキリなのだ。

 

 

 大体この世界で『誰もが素直になる儀式』と言って、学園の生徒を磔にした事があるのはユーマだけだというのに。

 

 

「こいつもたまには灸を据えてやらねぇとな」

「あなたからそんな言葉が出てくるとは思いませんでしたよ」

「離せぇ!! 卑怯だぞ光輝さん! こんなことばかりするから、あんたは最低なんだぁーー!?」

「「……」」

 

 

 しばらくして正体を現したアギを見て再度怒り狂ったユーマが落ち着くまで約1時間。

 

 それでやっとユーマは拘束を解かれた。

 

 +++

 

 

 説明すると、砂漠で気絶していたユーマ達はミハエルの達に保護され、そのまま王国まで運ばれたきた。

 

 ここは《砂漠の王国》の外縁部にある、警備隊の詰め所の1つ。その1室。

 

 今この部屋に残っているのはユーマとアギ、そしてシュリというアギの幼馴染だという少年だけ。

 

 ミハエルは事後報告に城へ。彼は黒頭巾のエキストラをしていた近衛隊見習いの少年達を連れて大分前に取調室らしいこの部屋から出て行った。

 

 

 拘束を解かれたあともブツブツと文句を言うユーマ。

 

「ほんと酷いよ。光輝さんが仕返しに来たかと思った」

「コウキ、つうと確かお前の兄貴の1人だったか? 俺はお前が学園でやってたことをそのまましてやっただけだぞ」

 

 アギは想像以上にドッキリが大成功して満足していた。

 

 今までの仕打ちに対する仕返しも兼ねていたので留飲が下がる思いだったのだろう。今のアギは何されても笑って許してしまいそう。

 

「でも仕返しって何だよ? お前兄貴にこんなことされてもおかしくないことやったのか?」

「……それはさておき」

 

 誤魔化した。思い当たる節が沢山あった。

 

「みんなは無事?」

「ああ。一足先に城の方へ行ってる。氷の姫さんがちょっとな」

「アイリさん?」

「航海中少し無理してたみたいだ。軽い熱射病にかかってた」

「ええっ?」 

 

 ユーマより先に目覚めた5人の内、アイリーンは王国に辿り着いたことに安堵したのか、1人だけまた気を失ってしまった。

 

 彼女に熱があることに気付いたのはその時だったという。

 

「それっ、大丈夫なの?」

「医者には診てもらってる。1日2日休めば問題ないとさ。一応姫さんだからミハエルさんに頼んで王城で休ませてもらうことになった」

「それでエイリーク達も?」

「ああ」 

 

 アギは頷く。

 

「魔獣との連戦で疲れてたのもあるだろうけど、やっぱり北国の出身に砂漠の日照りはきつかったんだろうな」

「……そっか」

 

 ユーマは気付いてあげられなかった。

 

 アイリーンは航海中もいつも通り毅然としていて、「大丈夫?」と訊ねてもいつも微笑みを返してくれていたから。

 

 みんなの体調は気にかけていたはずなのに。ユーマは舟で行くのは集落までで止めておけばよかったと今更後悔した。

 

 それはあのメンバーの中で砂漠を1番よく知っていたアギも同じこと。

 

「あまり気にすんなよ。幼馴染の風森の姫さんだって気付かなかったんだとさ。ずっと黙って隠していた氷の姫さんも悪い、ってあいつは言ってたぜ」

「……うん。アイリさんも強情だからね」

「そういうこった」

 

 見舞いにはあとで行くということで、アギは話を変えた。

 

「それでだ。お前が寝てる間残った4人で今後のことを話し合ったんだが」

「うん」

「今日はもう夕方だ。それに氷の姫さんのこともあるから様子を見て、みんな2日くらい王国に滞在することにしたんだ。お前もそれでいいか?」

 

 ちょっとした観光旅行だな、とアギ。

 

「いいよ。アギがいろいろ案内してくれるんだろ?」

「任せな。砂漠のうまいもんをばっちり食わせてやる」

  

 得意げに笑うアギ。

 

 彼は学園でも食べ物に関しては随分と鼻が効くのでこれは期待できる。ユーマも笑った。

 

「楽しみだな。それじゃまず泊まるとこ探さないと。アギ、荷物は?」

「宿は俺が用意してやる。あと荷物はまだ舟の中だ」

 

 『リュガキカ丸』は今も砂漠のど真ん中で岩盤に突き刺さったままらしい。

 

「あれは精霊に運んでもらわないと無理だろ? だからお前が起きるのを待ってたんだよ。とりあえずほら」

「あ。俺の」 

 

 アギから渡されたのはユーマの装備品。

 

 《精霊器》である《守護の短剣》と《白砂の腕輪》。それにブースターの《ガンプレート・レプリカ2》とそのカートリッジ。

 

 アギにお礼を言ったユーマはそれらを受け取ると、《精霊器》を通して精霊達に呼びかけた。

 

 すぐに現れる精霊たち。

 

「風葉、砂更。大丈夫か」

「ふえ~。もうちょっと眠らせて下さいー」

「……」

 

 ユーマの肩にへばりついたのは、魔力を消耗しきって半透明になったちいさな風の精霊。

 

 逆にユーマの傍に控えた砂の精霊は砂漠地帯にいる為かまだ元気なようだ。

 

「うん。砂更が平気なら今からでもサーフィンして舟を取りに行けるよ」

「よし。だったら日が暮れる前に行こうぜ。シュリ、案内がてら手伝ってくれ」

「あ、ああ」

 

 シュリは生返事。彼は改めて精霊を目の当たりにして驚いていた。

 

 

 シュリという少年は、《砂漠の王国》が建国して以来のアギの幼馴染。

 

 背はやや低めで童顔。日によく焼けた肌がユーマよりもやんちゃそうに彼を見せている。

 

 彼は王国近衛隊の見習いでもある。身に付けているのは訓練兵用の簡易戦闘衣(装甲のない丈夫な服)の上に皮の胸当て。アギと同じ青いバンダナを左腕に巻いていた。

 

 

「アギ?」

「ん? ああ。こいつはシュリ。俺の昔からのダチ。俺達を砂漠で見つけたのもこいつだ」

「そうなんだ。ありがとう」

「う、うん。《精霊使い》なんて初めて会ったよ」

 

 シュリは戸惑いながらユーマと握手。

 

「あと俺達を泊めてくれるすげぇいい奴」

「……はぁ!? アギ、お前何いってんの」

 

 いきなりそんなことを言うアギに驚くシュリ。

 

「しょうがねぇだろ。大人数で城に厄介になるのは気が引けるし、宿なんて金がもったいねぇ」

「だからって」

「俺の部屋は今人が住める状態じゃねぇだろうからさ、お袋さんによろしく言っといてくれよ」

 

 幼馴染同士の気兼ねないやり取り。孤児院育ちのアギは大抵彼の家に厄介になっていたりする。

 

「シュリ。今更だろ?」

「ったく。お前、あとで俺の仕事手伝えよ」

「わかってるて。ユーマにも手伝わせるから」

「えー」

 

 とりあえず宿は確保。

 

「これで寝床と飯は問題ねぇ。さっさと舟を回収しに行こうぜ」

「そうだね。エイリーク達も色々困るだろうし」

「ちょ、ちょっと」 

 

 外へ出ようとする2人。シュリは慌てて呼び止める。

 

「今から外へ行く気なのか? あの舟を運ぶにしても人がいないし、今日中になんてまず無理だろ」

「これが無理じゃねぇんだ。いいからついてこいって。お前しか舟の場所わかんねぇんだから」

「ねぇシュリ君。この立て掛けてる木の大盾借りて行ってもいい?」

「はぁ?」

 

 わけがわからない。

 

 あとどうもユーマはシュリを年下だと勘違いしているようだ。

 

 

「よし。『板』持ったし、行こう」

「おう。晩飯には間に合わせないとな」

「……一体何する気だよ、お前ら」

 

 

 こうしてシュリは久しぶりに会ってよくわからなくなった幼馴染と、これまたよくわからない《精霊使い》の少年と一緒に再び外の砂漠へ向かうことに。

 

 +++

 

 

 《砂漠の王国》、その王城。

 

 

 玉座の前に膝をつくのは、国王付き宰相補佐なる妙な役職を持つ男ミハエル。

 

 彼は珍しく玉座に座る国王レヴァイアに『謎の飛来物』の調査結果を報告した。

 

「……というわけで『王蜥蜴』の出現した原因は先程説明した少年の使役する精霊、その魔力を縄張り付近で嗅ぎ取ったせいだと」

「……」

「先遣隊からの報告では『王蜥蜴』は大砂漠へ撤退した模様です。アギ達は上手く撒いてくれたようで魔獣が王国にまで来る心配はないようですが、一応《消魔石》の準備を……」

「……」

「……レヴァン様?」

「……サヨコさーん……」

「……聞いてましたか?」

 

 

 玉座には王妃が里帰りしてものすごくしょげている、額に青いバンダナを巻いたおっさんが1人。

 

 +++

 

 

「「「ぎゃあーーっ!?」」」

 

 

 そして、性懲りもなく砂漠で波乗りをして魔獣に追いかけられている少年たち。

 

 +++

 

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