0-08a 能力測定日 前
緑ジャージに赤バンダナ
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昼休みの職員室。その片隅にて。
「オルゾフ、ちょっといいか?」
「何でしょう。ジャージ先生。」
「……お前までそういうか」
次の講義の準備中のオルゾフに話しかけるのはグルール・ボロス。高等部の格闘技顧問である。
いかにも体育教師といった彼の特徴は緑の《ジャージ》。色違いのものはない。
この世界は《再生世界》。再生紀と呼ばれるこの世界は、再生されたときにそれ以前の世界《精霊紀》の情報を取り込んでいるらしくジャージといったものも存在する。
「こいつの機能性がわからんのか。お前も着ればわかる!」
「いえ。私は魔術師ですから。ご用はジャージ軍団の勧誘ですか?」
「何の軍団だそれは? ……オルゾフ、お前セレス先生からのお誘いがあったてな?」
凄むグルール。
「スニア先生? ああ、何でも治療用の薬草と魔術の併用に関して話が聞きたいので食事でもしながらどうですか、という話が」
「そ、それで」
喰いつくグルール。正直暑苦しい。
「いえ、私は来月ある《昇級試験》の責任者なので忙しいのです。お断りしました。彼女も手伝うとありがたくも申し出てくれましたが、流石に彼女も多忙な身ですので」
断りましたよ、とオルゾフ。
対してなんでじゃぁあああ、とグルールは叫んだ。
セレス・スニア。薬学科の教師で若くも優秀な《薬師》の女性。
一般に治療・回復の魔術は普及されていない。ゲンソウ術で再現される魔術では『他人の痛みと傷を治す』というイメージが必要になるのでどうしても他人と《同調》する必要があり修得者が少ないのだ。
なので効果の高い傷薬は重宝され、それを作ってくれるのが美人の先生ならば学園の生徒教員問わず人気があるのは当然だった。
「お前、わかってるのか? セレス先生はお前に誘いをかけてくれたんだろうが! 彼女も忙しいのにお前を手伝うって言ってくれたんだろうが!!」
「いえ、だから断りましたって」
正直この同僚の扱いに困るオルゾフ。何より顔が近い。
「羨ましいんだよ、俺は。彼女と接点がないから。それなのにお前は!」
「……分かりました。ではこうしましょう。私が今から貴方を燃やしますからスニア先生に火傷の薬でも貰いに行ってください」
「――! それだオルゾフ! 頼むぞ」
冗談だったのにもうどうでもよくなったオルゾフ。
上位術式の《烈火爆陣》でも使おうかと思う。どうせこの緑色の筋肉は死にはしない。
「グルールさん、それでいいのですか? 考え直してください」
呆れたように声をかけたのはイゼット・E・ランス。C・リーズ学園の学園長だ。
「学園長、散歩ですか?」
「こんにちは、グルールさん。年寄り扱いはやめてくださいね。あなたにご用があってきました」
「はぁ、自分にですか」
「ええ。午前の能力測定の件で少し。報告書はまだ後でいいんですけど、例の彼の話を聞こうと思いまして」
最近編入してきた《精霊使い》の少年のことだ。グルールも彼と《銀の氷姫》の模擬戦は見ている。
「はい。学園長の指示どおりミツルギは『精霊なし』で能力測定に参加させました。結果を言いますと身体能力・魔術適性どちらも並です」
技術士や魔術師よりも高いが戦士にしては低い身体能力。
戦士よりも高いが技術士や魔術師よりも劣る魔術適性。
総合力はランクD、よくてもCの下位。中等部高学年の平均程度といえたのだが、
「ただし、戦闘能力の点で詳しくみると奴は癖が強い。独自の訓練を積んでいるようでした。魔術も術式よりもゲンソウ術の基本の方を知っている。自分がはっきりとわかったのはミツルギは《補強》が使えるということです」
まぁそれでも、とグルールは続ける。
「奴はおもしろい。俺に殴られて喜んで礼を言う生徒は初めてだったぞ。なあ? オルゾフ」
「……そうだな」
がはは、と愉快に笑うグルール。オルゾフも気持ちは同じだった。
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能力測定日
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「ユーマ・ミツルギはお前だな」
「はい。……ジャージ?」
Tシャツ短パンに短剣を腰に差す少年、ユーマは緑のジャージ男を見上げた。
学園に来て3日目。今日は恒例行事の1つ、能力測定の日らしい。
能力測定は生徒の適性と実力を測り、1年間の講義や訓練のカリキュラムと来月の《昇級試験》の目安としておこなわれる。
昇級試験は年に3回。個人のランクを上げる少ない機会である。能力測定は試験対策を立てるにも必要な行事だった。
「そうだジャージだ。お前も着るか?」
「緑はちょっと……それでジャージ先生、何ですか?」
「……グルールだ。グルール・ボロス。ジャージは名前でない」
訂正するグルール。
「お前の実力はこの前の模擬戦を見た。ランクA、それも上位の方だと教師陣は《精霊使い》のお前を評価している。今回は精霊なしの実力を見たい。いいか?」
「はい!」
ユーマにとっても都合がよかった。今の『御剣優真』の実力はどんなものか知りたかったのだ。
「よし。では行って来い。記録書は最後に出せよ」
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結果を見ればユーマの身体能力は全生徒の平均程度。
技術士や一般生徒も含まれるので戦闘系と比べれば平均以下といえる。ちょっぴりへこんだ。
そもそもブースターの使用は禁止されているが身体強化の術式がありの測定なのだ。精霊、特に風葉の魔法なしでユーマが上位に食い込むはずがない。戦士系の生徒だけでなく魔術師系の生徒にも蹴散らされた。
ユーマの使える術式は連続3ステップまでの《高速移動》と《天駆》、そして微風ともいえる《突風》くらいでこれを《補強》するしかない。しかし《補強》はイメージの『溜め』が必要なので時間がかかってしまう。
魔術適性も保有魔力(人も個人差があるが魔力を持つ)はゼロ。得意属性、得意術式系統もなし。《特性スキル》に関してはユーマは必死に隠した。
ただ彼にも上位に上がる測定項目はある。
それは《魔力許容量》。魔力を身体に溜めることのできる限界量のこと。これは測定器をぶち壊すほどだったが魔族以外にこれを重要視する生徒はいない。
「……」
(へこまないでくださいー。風の術式はまたおしえますよー)
風葉に慰められた。ユーマは3年程前から身体を鍛えていたが、それがこんな結果ではあんまりだった。
「いたいた。ユーマ、何してんだ?」
「……人生を振り返ってた」
「はあ?」
アギは分からない。
「それよりお前、実技の測定まだだろ。先生呼んでるぞ」
「……実技って?」
「白兵戦と魔術戦だよ。あとお前だけだぞ」
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四角に白線で線引きされたグラウンドに立つユーマ。正面に立つのはグルール先生。
「白兵の測定は格闘でいいのかミツルギ?」
「はい」
「遅れた罰だ。俺が相手してやる」
「……」
格闘技顧問のグルールは世界ランクBの格闘家でもある。彼を相手にする生徒は手加減されても救護室送りだ。
ほかの生徒に同情されるユーマ。彼はまだ意気消沈していて表情が冴えない。
ユーマは短剣をアギに預けると自然と構える。
「ほう。何か経験でもあるのか?」
「……兄に少しだけ」
静寂。ユーマは動かない。
やる気がないのか? グルールにはユーマから《気》のようなものが感じられなかった。
「こないのか? なら、行くぞ!!」
攻め込むグルール。猛々しく放つ気は周りの生徒を委縮させる。
「制裁!」
放たれる拳を前にユーマは動かない。
ユーマは、
(なんか懐かしいな。)
刹那の時間、少し昔のことを思い出す。
(いつもこんな風に大和兄ちゃんに相手してもらったっけ。いっつも吹っ飛んだな俺。でも……)
グルールはユーマを間合いに入れる。それをただ見るだけのユーマ。踏み込まれた一歩に合わせてユーマも動く。
半歩だけ、前へ。
「なっ!?」
(兄ちゃんに比べれば……遅い!)
ユーマは自分の間合いを合わせる。正確には至近距離の間合いに合わせた最速の拳を放つ。
放たれているグルールの拳がユーマに届くよりも、ユーマの拳の方が……速い!
ごきっ。
「ぐわあああっ!! ぐふっ!!!」
どごん。
ユーマのパンチは当たったがグルールの鋼の肉体を前に拳が当たり負けした。
そしてそのままグルールに殴られる。吹き飛んだ。
グランドを転げまわるユーマ。惨状に青ざめた生徒もいる。
(……しまった。やりすぎた)
グルールは後悔した。相手は子供で教え子だったのについ全力で殴ってしまった。
懐に入られた時に一瞬だけ感じてしまった死の恐怖。
もしも突き出されたのが拳ではなく短剣だったなら……
「……ははっ」
倒れたユーマが声を上げる。
「あはははは」
倒れたまま突然笑いだすユーマ。そしてすぐに起き上がった。
驚くのはグルールと生徒たち。特にグルールの驚き方は酷い。全力で殴ったのだ。
1日気絶どころではない手ごたえのはずだったのに。
「お前……」
「ありがとうございました!」
大声で礼を言うと頭を下げるユーマ。訓練後のいつもの礼儀だ。
「すごいですよ先生。まるで大和兄ちゃんみたいだった」
ユーマは腫らした頬を気にしないほど何故か興奮している。
「兄ちゃんとやると殴る前にいつも吹き飛ばされたからわからなかったけど殴ってみてわかった。……当てても力負けするなら意味ないや。もっと身体鍛えないと」
「……そうだ、そうだぞミツルギ。身体は鍛えるべきなのだ。鍛えれば殴られてもビクともせん。お前もそうだな?」
ユーマは元気そうだった。確認するグルールだがユーマは首を横に振る。
「いいえ。腕輪外すの忘れてたから。これ防御力底上げしてくれるんですよ。外したまま殴られたら下手すると死んでましたね」
「……」
「……」
《白砂の腕輪》を見せて笑うユーマ。
冷や汗が止まらないグルール。突然現れた砂の精霊は彼を睨みつけているようでバツが悪かった。
「……ここの測定は終わりだ。治療を受けたらオルゾフのところで魔術の実技測定受けてこい」
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ユーマは救護室で殴られた頬と捻った手首を治療してもらった。次は魔術の実技測定だ。
「遅くなりました」
「スニア先生から連絡はあった。身体の方が問題ないなら始めるぞ。いいか?」
「はい」
オルゾフのもとに来たユーマ。彼が最後の測定なので測定を終えた生徒が見学したり更衣室に向かうのが見える。
「ところで何をするのですか?」
「まずはキャッチボールだ」
「はい?」
この世界は《再生世界》。再生紀と呼ばれるこの世界は、再生されたときにそれ以前の世界《精霊紀》の情報を取り込んでいるが、野球は存在しない。
キャッチボールとは初級術式の属性弾を撃ち合う対戦競技だ。
専用のグローブと防具を装備して攻撃側が弾を撃ち、防御側が弾をグローブで受けきるか攻撃側が弾を外すと防御側のポイント。防御側のグローブ以外の部位に弾が当たるか受けきれずに弾いてしまうと攻撃側のポイントとなりこれを攻守交替で繰り返す。
競技の勝敗よりも攻撃側の属性弾の変化にコントロールとスピード、防御側の属性弾に対する防御能力を測定する。
「1対1のドッヂボール?」
「相手はどうする? 他の生徒はもう測定は終わらせているので誰でも構わないが」
「それじゃあアギに」
「ちょっとまて」
アギに頼もうとしたところで話に割り込まれた。ユーマが見たことがない生徒。
褐色の肌に赤い髪。赤いバンダナ。リュガ・キカという少年だ。
「キカ。どうした」
「こいつの相手、俺がやります」
睨まれるユーマ。彼に覚えがなくて戸惑う。
「いいぞ、では準備しろ。競技は3セットだ。キカは成績が良ければ前の測定よりもこちらを採用しよう。だから手加減するなよ」
「ありがとうございます。……逃げるなよ」
リュガは後半の部分をユーマに向けて言った。
「なんだ? あれ」
「リュガか……やっぱりこの前の模擬戦だな」
いつの間にかアギがユーマの傍にいた。
「アギ?」
「あいつな、《アイリーン公式応援団》の一員なんだ。お前、氷の姫さんボコボコにしたから怒ってるぜ多分」
「アイリーンさん絡みか。つかボコボコって」
「頑張れ人気者。まあ、昼は一緒に食おうぜ」
「待てよ、アギ」
呼びとめるユーマ。
「何だ? 俺は助けないぞ」
「防具の付け方がわかんない」
「……」
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「男子はまだ終わってないの?」
アギに声をかけるのは最近彼とよく話をするようになったエイリークとアイリーンだ。
「ああ。あとユーマだけ。しかも相手はリュガだ」
「リュガさんですか? 私は負けたことは気にしていないと皆さんに伝えましたのに」
「馬鹿なのよきっと。あっ! あのバカ、リュガ相手に《火球》のグローブ選択してるじゃない」
見ればユーマはリュガが手にしたものと同じ赤いグローブを装備していた。
「俺相手に火属性かよ。いい度胸だな」
「これ選んでよかったの?」
初心者のユーマは彼の真似をしただけだった。
「ふざけやがって。先攻、いくぞ!!」
リュガは両手を突き出し集中。すると頭くらいの大きさの火の玉が彼の手の前に《現創》された。
「くらえ!」
撃ち放たれる《火球》。
彼は魔術師ではないので火の玉のスピードは遅く、その弾速は人が歩くぐらいの速さだった。
「これを受け止めるのか……大丈夫だよな?」
両手の《火球》のグローブを見て不安になるユーマ。両手でリュガの火球を受け止める。
「あぢいいいいっ!!!」
受け止めたものの、火球の、その熱に悲鳴を上げるユーマ。
「み、水、氷、こおりーーっ」
「は、はい!」
撃たれる《氷弾》。直撃して地面に沈むユーマ。
「はい、どいてーーっ」
ばしゃ。
エイリークはバケツに水を汲んできてくれた。しかし、倒れこむユーマに構わずぶっかけた。
「……アリガトウゴザイマス」
「……すいません、つい」
「なによ、文句ある?」
現在のポイント:リュガ0、ユーマ1。
「何だよ、あの《火球》? 無茶苦茶熱いぞ」
「成程な。これが狙いか」
アギの説明はこうだ。
リュガの得意とする術式は《高熱化》。火属性効果付与術式である。
魔術師でない彼は《火球》の熱を完全に再現することができないが《高熱化》を付与することで従来の火球とは比べ物にならない『熱い火球』を創ることができる。
ただこれをユーマにぶつけようとしてもスピードがないので簡単に躱されてしまうが、この競技のルール上火球を受け止めねばならないのでユーマは自ら苦痛を受けねばならないのだ。
「外見の割に結構陰湿だな」
「そう言うなよ。火属性に耐性のあるグローブの上からダメージを与えるんだ。あれでも優秀なんだぜあいつ。逆恨みみたいなものだけど少しは我慢してくれ。誤解は解いてやるから」
「ミツルギお前の番だ。早くしろ」
オルゾフに注意されて競技再開。
ユーマは赤いグローブを見て考える。
「どうやって《火球》出すんだ?」
「そのグローブは《ブースター》よ! とにかくイメージしなさい」
遠くからエイリークが声をあげて説明する。
「へえ。これがブースターか。イメージねぇ」
《補強》の要領で右手に火の玉をイメージしてみる。するとグローブからユーマに向けて何らかのイメージが流れ込んでくる。
赤い球。燃える球。火の熱。火の明かり。
グローブに刻まれている《火球》のIMと呼ばれる概念がユーマの火の玉のイメージを《補強》していく。
「ははっ、出来た。自分で想像するより簡単だ」
思わず笑みが出た。ユーマの右の掌には片手で掴むのに丁度いい位の火の玉が《現創》される。
イメージが曖昧なためかそこまで熱くもない。ホログラフィックのようだとユーマは思った。
「これがブースターか。欲しいけど手に入るのかな?」
「何してるのよバカ! さっさと撃ちなさい!」
遠くでエイリークが怒鳴る。彼女は結構短気な性格をしている。
「撃つ、ね。……さっぱりだ。理屈が分からない」
「どうした? 時間切れになるぞさっさと撃て!」
「ちょっとまって」
リュガに急かされて考えるユーマ。1つアイデアが浮かぶとユーマは火の玉を《幻操》、イメージを《補強》する。
「いくぞ」
ユーマは火の玉を片手で掴んだ。そして大きく振りかぶって
「いっけえ!!」
投げる。
唸る炎の速球はリュガを掠めて校舎の壁に激突。壁に黒く焦げた火球の痕だけが残る。
「……」
「ミツルギ、ミス。ポイント1対1」
周りにいた生徒は沈黙。オルゾフの声だけ場に響いた。
「何だ? 今の《火球》のスピードは?」
「……炎の100マイルストレート……できたよ」
リュガも驚くがユーマも驚いた。
ユーマが《補強》したのは火の玉を『投げるイメージ』。プロの投手の剛速球と漫画にあった炎の魔球のイメージを組み合わせてみた。
「消える魔球もできるんじゃないか? これ」
「……ふざけやがって、当たらなきゃ意味ねえんだよ。もう1度食らえ!」
リュガの2回目の攻撃。ユーマは躊躇わずに火球を躱した。
「な!?」
「当たらなきゃ意味ねえんだよ。ばーか」
「ミツルギ、ミス。ポイント2対1」
オルゾフはリュガにポイントを付けた。当然だがルール上属性弾を受けずに逃げれば攻撃側のポイントとなる。
「お前がバカじゃねえか! ルール分かってんのか? ああ?」
「……」
ユーマは沈黙。実はルールでは防御側も属性弾を撃ち返すことができる。それで攻撃を相殺、もしくは減衰させて受け止めていいのだが、ユーマはそれを知らなかった。
「……攻撃だ。攻撃しかない。みてろよ」
というわけでユーマは防御を捨てた。火球を掴み、《補強》する。再び大きく振りかぶって
「あたれぇ!」
投げた。 スピードは先程よりもやや遅い。
「ふん。また外れだぜ……ってぐはあっ!!」
「ミツルギ、ヒット。ポイント2対2」
やや横に逸れたユーマの火球は途中リュガに向かって曲がり彼の横腹に当たった。
「よし曲がった。いけるなこれ」
「ぐっ、魔術師じゃ……ないんだろ? なのに軌道が変わる《火球》、しかも火球に『重さ』があるぞ」
ユーマが次に《補強》したのは『火球の軌道』。球の握りを変えてカーブボールを投げるイメージを加えてみた。
彼の《火球》に重さがあるのは《補強》した際の火球のイメージが野球のボールだからそれが反映されている。
「この……野郎が!!」
「キカ、ミス。ポイント2対3」
熱くなるリュガ。自分の《火球》の熱さも構わずにユーマを真似て火球を掴んだ。そして投げる。
戦士系の彼らしい力強い投擲は力み過ぎてユーマには当たらなかった。
「くそが! 負けられねえんだよ、お前なんかに」
「……あれは当たるとまずかったな」
「来いよ。てめえの球なんざ受けきってやる!」
「おうよ!」
怒りで熱くなるリュガ。ユーマも燃えてきた。
「普通に投げてもできないカーブであれだけ曲がったんだ。最後はやっぱりアレだな」
ユーマは火球の握りを変えて《補強》。最後も振りかぶって、
「せいっ!」
投げた。1球目と同じスピード。軌道はまっすぐリュガの真正面。構えるリュガ。
「はうっ!?」
「あ……」
「……ミツルギ、ヒット。ポイント2対4。勝者ミツルギ」
顔を顰めつつも審判を下すオルゾフ。
沈黙。
男子生徒の地面に沈んだリュガに向ける視線は痛々しい。
ユーマの投げた火球の握りは人差し指と中指で球を挟むアレ。
フォークボール。
炎の剛速球はリュガの目前で落ちたのだ。
彼の股間めがけて。
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