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幻創の楽園  作者: 士宇一
第3章 前編(上)
107/195

3-01b 砂漠の航海 後

エンカウント率50、60、……90、100%

 

 +++

 

 

 日が沈む前に早めの夕食。

 

 食事は燻製やオイル漬けなど保存食に手を加えたものばかりだったが、温めたり火を通すといった調理を行えば味は全く違う。外で食べるのも格別。

 

 

 夕食のあとは夜営の準備にとりかかった。

 

 舟のベッドは2つしかない。それに狭い船室に女の子を4人も詰め込むわけにもいかず寝床を確保する必要になる。

 

 しかし寝袋はあってもテントはない。そこでユーマは砂更に頼み砂漠の砂で『かまくら』を作った。

 

「砂更がしっかり固めてくれたから崩れはしないと思うよ」

「……便利ね、アンタの精霊」 

 

 

 最後は水浴び。流石に汗もかいてるし頭や体に砂が付着したまま寝るのは気持ち悪い。

 

 舟の水を使うのはもったいない。そこでゲンソウ術を使うことにした。活躍するのはガンプレートだ。

 

 

 ゲンソウ術を使う際、術式発動に必要なイメージを補助してくれるアイテム、それがブースター。ユーマとポピラが所持するブースターを《ガンプレート・レプリカ2》という。

 

 この銃の形をした金属板のブースターは、属性の性質や補助術式のIM(イマジン・モジュールと呼ぶ規格概念)を付与したカートリッジを換装することであらゆる属性と術式を扱うことができる。

 

 これで水属性散水放射術式、要するに《シャワー》を使うのだ。

 

 ちなみにガンプレートで《幻創》するのは『水で洗い流す』という現象。

 

 「水そのものを《現創》できるのは水だけ」ともいわれているだけあって、人の想像力を使うゲンソウ術では本物の水を創ることはまず不可能。

 

 

 まあ、本物でなくてもシャワーを再現できるのだから問題ない。

 

 砂の壁で間仕切りをして、ユーマとポピラのガンプレートで皆の身体を洗い流す。

 

「ほんと、便利ね」

「エイリークさん、湯加減はどうですか?」

 

 《レプリカ2》はツインカートリッジを採用。《シャワー》に加えて熱を付与するカートリッジを使うことで温水も再現。

 

 応用すれば《ドライヤー》も可能だ。

 

「ちょうどいいわよ。でも悪いわね。それアンタとユーマしか使えないから」

「いいえ。そんなことありませんよ」

 

 ポピラとしては「ともだちとながしっこ」ができて嬉しいらしい。

 

 

「ウォーター・ブラスト!」

「てめっ、それっ、ぶふぅーーっ!?」

 

 

 違う場所では真っ裸のアギがユーマの悪ふざけで水責めにあっていた。

 

 

 

 

 こうして航海の初日は過ぎてゆく。

 

 船番をすると言い、寝袋を持って『リュガキカ丸』のデッキの上に登るユーマ。

 

 夜空を見上げる。澄んだ星空は高く、やはり風森の国や学園で見上げた空とは違う。

 

 昔、初めて空を飛んだ時に見た夜とも。

 

 

 それに広大な砂漠の中で1人になると、ユーマはつい思ってしまう。

 

 ここはあまりにも広く、比べて自分はちっぽけだから。

 

 つい思い出してしまう。

 

 

「……うん。やっぱりここは」

 

 

 

 

 知らない、世界だ

 

 +++

 

 

 朝日が昇る前から出発。

 

 予定通り陽が高くなる前に砂漠の民の集落に到着した。1番暑くなる昼間はここで過ごす。

 

 

 まず二手に分かれて船体と物資のチェック。

 

「熱砂による船底の磨耗を懸念していましたが問題ありません。補給が済み次第すぐに出られます」

「わかった。俺とアギはこのまま《砂漠の王国》へ行くけど、他のみんなはどうする?」

「もちろんついて行くわよ。まだまだ滑り足りないんだから」

 

 と言うエイリーク。すっかり波乗り仲間の一員となった。

 

 ミサの「じゃあ、わたしはここで」は封殺され、水と食糧の補給を済ませると6人は陽が傾く時間に合わせて集落を出発した。

 

 

 ここから《砂漠の王国》まで約3日間の航海。

 

 3日という時間がどれだけ長いのか、エイリークは気付いていない。

 

 +++

 

 

 つまり飽きたのだ。

 

 

 集落を出て次の日、学園都市を出発して3日目になると砂上スキーもサーフィンも十分堪能してしまい、やることがなくなってしまった。

 

 見渡す限り砂砂砂。景色に飽きもすれば舟の疾走感にも慣れてしまった。こうなるとただ暑いだけ。

 

 今は2人ずつ交代で舟を操縦し、残り4人はキャビンで思い思いに過ごしていた。

 

 

「カードも飽きたわね。王国はまだかしら?」

 

 エイリークは青の6のカードの上に手札の黄色の6のカードを出す。

 

「舟の速度は上げてるんだ。砂更が言うには明日の昼くらいに着くらしいよ」

 

 ユーマ、黄色のスキップ。ミサは飛ばされた。

 

「ううっ。あと2枚なのに」

「でも正直言うと拍子抜けですね。砂漠越えはユーマさんが散々酷い目にあったとおっしゃってましたから」

 

 アイリーンは黄色のドロー2。エイリークは嫌そうに山札に手を伸ばす。

 

「そうよね。だけど実際は何もなし。どうせなら魔獣でも出てこないかしら。……赤ね」

 

 ワイルドカード。

 

「エイリーク、滅多なこと言うなよ。俺とアギがどれだけ進路に気を配ってると思ってるんだよ」

 

 赤の3のカードを出しながらユーマは文句を言う。

 

「万全の準備はしてるけど魔獣なんて遭遇しない方がいいんだ。安全な航海が1番」

「何よ。冒険だって言ってたくせに」

「リィちゃん、ユーマ君の言うことが正しいよ」

 

 非戦闘員のミサはここぞとばかりに強く主張。

 

「危ないことも乱暴なこともしないのが1番。ウノだよ!」

「ドロー2です」

「ワイルドドロー4、緑」

「ドロー2、2枚」

「ええっ!?」

 

 ミサの主張と「ウノ」宣言コールは、累積10枚のカードによって否定された。

 

 ローカルルールである。

 

 

「でもミサちゃんの言う通りだよ。それに口は災いの元って言うくらいだから、こんなこと言ってると」

「ユーマ! 魔獣だ」

 

 アギが外から叫んでいる。同時に精霊の「たすけてー」という《交信》がユーマに届く。

 

「……ほらね」

「行くわよ!」

 

 エイリークは愛用の細剣を手にして元気よく飛び出して行った。

  

 

 エンカウント!

 

 +++

 

 

 外へ出たユーマ達が見たものは、飛行型の虫と砂地を泳ぐ魚型の魔獣。

 

 スピードで振り切ろうにも『砂鮫』が進路を阻むのでまっすぐに走ることができないようだ。その間に『蠍蜂』が舟に群がっていく。

 

 アギは帆を操りセーリング。巧みに『砂鮫』の体当たりを回避しているのだが、そうなると蠍蜂への対応が非戦闘員のポピラしかいない状態。彼女は風葉に庇われながらガンプレートを撃ち続けている。

 

「アギ!」

「早く手を貸してくれ。エルド妹だけじゃ『リュガ』がやられちまう」

「わかった。エイリーク、アイリさん」

「ええ」

「いきましょう」

 

 ユーマはガンプレート、エイリークは細剣を抜いて戦闘体勢に入る。

 

「アギはそのまま舟を操縦して」

「おう!」

「舟は止めないの?」

「いや、動きを止めたら囲まれて舟が狙い撃ちだ。それに増援を呼ばれて延々と戦う羽目になる」

 

 過去の経験から追い払うくらいで十分と判断するユーマ。

 

「鮫は砂更で打ち上げるから2人はそれを頼む。俺は蜂を」

「わかったわ」

「行くぞ。砂更!」

 

 主人の呼びかけに応じた砂の精霊は、周囲の砂漠から『異物』を排除。砂を操り隆起して『砂鮫』をすべて宙へ打ち上げる。

 

「ギョョッ!?」

「行くわよ!」

 

 エイリークは『リュガキカ丸』のデッキから躊躇わず砂漠へ飛び出し、近くにいた『砂鮫』に竜巻を纏う細剣を叩きつける。

 

 砂地に沈む魔獣。エイリークは叩きつけた反動を利用してジャンプ。次の魔獣に向かって飛び剣を突き刺す。

 

「はあっ!!」

 

 

《爆風波》

 

 

 圧縮した空気を爆発させ、広角に炸裂させるエイリークの得意技の1つ。

 

 エイリークは突き刺した『砂鮫』を遥か遠くへ吹き飛ばすと、今度は爆風の反動で『リュガキカ丸』に向かって飛んだ。

 

 

 一方、アイリーンも身動きの取れない『砂鮫』に向かって魔術を発動。

 

「氷晶樹、貫け!」

 

 放たれるのは丸太のように太い氷の槍。

 

 《氷晶樹》は魔獣に向かってまっすぐ細くなりながら伸びていき、途中で無数に枝分かれして1度に3体の『砂鮫』を串刺しにした。

 

「3体。私の勝ちですね」

「……何よ。こんなの魔術師のアイリィが有利に決まってるじゃない」

 

 アイリーンの軽口にエイリークが文句を言っている間、ユーマはガンプレートで火炎放射を放ち『蠍蜂』の群れを焼き払い、追い払った。

 

「助かりました」

「どういたしまして。でもポピラも《フレイム・バーナー》使えるんじゃない?」

「火遊びは不良のやることです」

「……そうですか」

「ユーマ!!」

 

 慌てるように叫ぶエイリーク。魔獣がもう1体、砂地に潜んでいたらしい。

 

 見れば舟の進路の先、正面で口を大きく広げて待ちかまえているのは。

 

 

 巨大な蛇のできそこない。

 

 

「キシャァァァァ!!」 

「いいっ!? 竜巻よ、砂を喰らいて血肉となせ、サンドワーム・ブラストぉ!!」

 

 驚いたユーマはガンプレートを正面に向け、慌てて呪文を短縮詠唱。

 

 『砂漠の竜蛇』に同じく砂で模造した『砂漠の竜蛇』をぶつけた。

 

「喰らえ!」

「グォ!? ゥオォォォォォ……グゥプ!?」

 

 大量の砂を飲み込まされ、『砂漠の竜蛇』は窒息してぶっ倒れた。

 

「ユーマさん!」

「わかってる」

 

 でもこのままだと舟は竜蛇と正面衝突してしまう。

 

「アギ! 緊急回避、急いで!」

「……」

「アギ?」

「(ガクガクプルプル)」

 

 アギは以前『砂漠の竜蛇』に飲み込まれかけたことがある。

 

 彼は今それを思い出してトラウマを引き起こし、ガタガタ震えている。

 

「ちょっとアギ!?」

「危ない!」

「砂更ぁ!!」

 

 エイリークとアイリーンは急いでマストに飛びつき、使い物にならないアギの代わりに帆を制御。

 

 ユーマは砂で特大の大波を作り、それに舟を乗せて『砂漠の竜蛇』を飛び越えようとした。

 

 高波に乗ってジャンプする『リュガキカ丸』。直後に訪れた浮遊感に誰もが肝を冷やす。『砂漠の竜蛇』は砂の波に飲み込まれていった。

 

 そして自由落下。

 

「お、落ち……」

「きゃあ!」

「風葉、突風!」

「ふー、ふー」

 

 エイリーク達が必死に抑える帆に向かってぶつけるように風を送り、揚力を発生。それで落下速度を減衰してなんとか不時着した。

 

 

 

 

 戦闘終了。

 

 危機は去ったのだが恐怖と驚きの連続の直後。心臓の鼓動がやけに激しい。

 

 緊張の解けたユーマ達は、すぐに動くことができなかった。

 

「……」

「……」

「……」

「……はっ。俺は一体」

「「「アギ!」」」

 

 アギは制裁を受けた。

 

 

 しかし仮にも学園のランクAが3人とエース1人がいるパーティーだ。この程度の魔獣の群れなら十分に対処できる。彼らにすればちょっとした運動だ。

 

 ただし、王国に近づくにつれてユーマ達が魔獣と遭遇する回数は次第に増えていく。

 

 

 戦闘回数が増えるに従い、この先ユーマ達は舟を破壊されないよう警戒を強くし、緊張感のある航海を続けることになった。

 

 +++

 

 

 集落を出発して3日目。

 

 

「誰よ。夏休みは冒険だって言った奴!?」

 

 

 絶対絶命の状況に陥ることでエイリークは、とうとう砂漠に嫌気がさした。

 

 

 

 

 はじまりはこの日、ユーマ達が『砂漠の竜蛇』、『砂鮫』といった高速で砂漠を泳ぐ魔獣から逃げ回っていたところから。

 

 昨日から続く連戦。誰もが疲弊していたので今日の彼らは魔獣を相手にせず逃げることにしていた。

 

 でも続けて『蠍蜂』や『鷲獣』といった飛行型の魔獣に襲われ、さらには『甲殻竜』、『蟻喰亀』の待ち伏せにもあった。

 

 進路を阻む魔獣の群れを突き破り、追撃を振り切った先に待っていたのは近づいたものに針を飛ばすサボテンやら巨大蟻地獄などのトラップの数々。

 

 まるで魔獣達に誘導されるように『リュガキカ丸』は砂漠の海を逃げ回る。

 

 そして。

 

 逃げ回るユーマ達を最後に迎えたのは、砂漠地帯の魔獣の中でも20メートル級と大型の『砂猿』。

 

 あと山。

 

 山のような蜥蜴。

 

 

 それは『王蜥蜴デザート・ロード』と呼ばれる全長約80メートルの魔獣。

 

 《西の大砂漠》を棲家とする砂漠のヌシの1匹と謂われている。

 

 

 今の状況は魔獣に追いかけられたまま、『王蜥蜴』との接触まであと数分といったところ。

 

 山のような魔獣を前にしてエイリーク達も、地元であるアギさえも呆然としていた。

 

「何よあの山。あれも魔獣なの?」

「ヌシだ。じいさん達の迷信かと思ってた」

「嘘だろ、あいつ」

「ユーマさん?」

 

 ユーマはあの魔獣のヌシに見覚えがある。

 

 『王蜥蜴』は以前ユーマが《西の大砂漠》を脱出する際最後に立ち塞がったボスキャラともいえる魔獣だった。

 

「でもあいつは前に《雷槌》おっさんが……あれ喰らって生きてたのか?」

 

 そうならばユーマは今の状況にも納得できる。

 

 彼の知る『王蜥蜴』ならば他種族の魔獣を配下に置き、命令して『餌』をおびき寄せる真似なんてやってのけるはず。

 

「王国って大砂漠に近いんだっけ?」

「ああ。王国も大砂漠も元は《西の大帝国》の跡地だからな」

 

 アギは未だ『王蜥蜴』から目を離さずに答える。

 

「だが王国もこの辺りだって大砂漠に棲む魔獣達の縄張りの外だ。ここまでヌシがでしゃばる理由がわかんねぇ」

「……まさか逃がした俺をわざわざ食いに来たわけじゃないよな?」

 

 冗談でも洒落にならない。

 

「もしかして」

「アイリさん?」

 

 アイリーンはとんでもないことに気付き、ユーマの方を見る。

 

「魔獣とは本来魔力によって変異した生物の総称。害獣扱いされるのは魔獣の多くが魔力の狂気に侵されて凶暴化してしまうわけですが」

 

 補足説明すると、世界中の魔力が希薄化、枯渇化した現在では魔獣は弱体化の一方であり、数は年々減少の傾向にある。

 

 400年前ほどの力を持つ魔獣はそれこそ《西の大砂漠》のような魔力資源が遺された特別な地域にしかいない。

 

「アイリィ、前置きはいいから早く」

「……生態的に魔獣も食物の摂取で栄養を摂ることはできます。でも彼らの力の源で最高の栄養源はやはり魔力です。そして、ここには精霊という最高の魔力が」

「まさか」

 

 ユーマは思い返す。

 

 かつて《西の大砂漠》で執拗に何度も魔獣に襲われたのも、アギと一緒に『砂漠の竜蛇』に追いまわされたことも。

 

 今の現状も。

 

「魔獣は風葉たちの魔力に釣られて?」

「おそらく。私達はずっと精霊たちの力で舟を動かしていましたから補足されたのでしょう」

 

 となると『王蜥蜴』は、ユーマ達が餌の匂いを撒き散らしながら縄張り付近までやってきたので、御馳走を前に迎えに来てくれたらしい。

 

「俺が砂漠でしょっちゅう酷い目に遭ってたのは精霊のせいだったのか……」

 

 ユーマは真実を知りショックを受けた。この先も《精霊使い》で居続ける限り、彼は国の外へ出れば魔獣に狙われる運命だという。

 

 風葉も餌と言われてしょんぼり。

 

「わたしはー、おいしくないですよー」

「風葉ちゃんを魔獣なんかに食べさせません」

「とにかく。この状況、どうするのよ?」

「アギ。進路は?」

「王国はこの先だ。迂回するルートはすべて魔獣に塞がれてる。引き返すのも駄目だ」

「突っ切るしかないのか」

 

 覚悟を決めるしかなかった。

 

「エイリーク、中にいるミサちゃんをベッドに縛り付けておいて。アギは帆をしまってマストを折り畳んで」

「ミサ?」

「帆を、ですか?」

 

 ユーマの指示に首を傾げるエイリーク達。

 

「おい、まさか」

「うん。リュガキカ丸の《BMモード》を使う。酷く揺れるからミサちゃんには舌を噛まないように何か噛ませておいてね」

「……わかったわ」

 

 

 説明。バトル・マニューバモードとは。

 

 『リュガキカ丸』はユーマが《全力》を出すことで戦闘機動が可能となるのだ。

 

 

「ポピラはこれ」

 

 ユーマが彼女に渡したのはガンプレート用の数枚のカートリッジ。

 

「これは? 初めて見ましたけど」

「《ミサイル・トリガー》。これでリュガキカ丸の火器管制をお願い。扱い方はガンプレートで狙いを付けるだけ」

「……私は非戦闘員なんですけどね」

 

 でも断れる状況でもなく、風葉の命もかかっているのでポピラはカートリッジを受け取る。

 

 このサイズで武器も積んでたんですね、と対魔獣戦も想定して設計していたティムスを呆れるように感心する彼女。

 

「魔獣の群れを突破して、『王蜥蜴』を抜いたら一目散だ」

「やるしか、ないわね」

「みんな振り落とされないようにね。……行くぞ」

 

 コックピットにアイリーンとポピラ。後方支援の2人はシートに身体を固定。

 

 デッキ上の3人は命綱の装着を確認するとアギを先頭にして3角形の陣形を敷いた。

 

 

「リュガキカ丸、発進!!」

 

 

 砂更の生み出す砂の激流に流されながら、『リュガキカ丸』は『王蜥蜴』が率いる魔獣の群れに飛び込んだ。

 

 +++

 

 

 操る砂の流れのままに突撃する『リュガキカ丸』。舟の動きを止めようと小型魔獣が群がる。

 

 ユーマ達は前方に展開したアギの巨大な《盾》で魔獣を弾き飛ばしながら『王蜥蜴』に向かって突き進む。

 

 

「……氷輝陣、展開」

 

 

 アイリーンの魔術が『リュガキカ丸』を包み込んだ。

 

 彼女の輝く氷霧の結界は氷属性術式の発動速度を上昇させると同時に、《感知》特性の効果範囲を拡大させる。

 

 アイリーンは《氷輝陣》を構成する氷晶を媒体にして、舟の全周囲と上空に《氷弾の雨》をばら撒いて魔獣を牽制。

 

 

「数が多すぎます」 

「全部を相手にする余裕はない。一気に行くぞ」

「ポピラ、お願い!」

「わかりました」

 

 エイリークはポピラのガンプレートが放つ《サポート・バレット》の効果を得ることで、身体能力ほかすべての能力を一時的に飛躍することができる。

 

 いわゆるスーパーモード。この状態になったエイリークは《旋風剣》の奥義が使えるようになる。

 

 

 目前に迫る巨大な『砂猿』が舟を掴みあげようと手を伸ばしている。

 

 エイリークはその巨大な腕を暴風のように荒れ狂う《旋風剣》で弾き返した。

 

 

 そのままエイリークは『砂猿』に向けて奥義を放つ。

 

「はぁぁぁぁあっ!」

 

 

《旋風剣・昇華斬》

 

 

 切り上げる斬撃が暴風を巻き起こし、膨大なエネルギーがすべて天に向かって解き放たれる。

 

 斬られた『砂猿』は20メートルもある巨体を暴風に飲み込まれてしまい、空に消え去った。

 

 

 スーパーモードが解除されるエイリーク。決まったとばかりに振り上げた細剣をビシッと真横に振る。

 

「……いけるわ。《気刃》を研いだこの剣なら昇華斬にも耐えられる!」

「いきなり切り札を使うなよ。次が来るぞ」

 

 仲間をやられたことに怒ったのか、『砂猿』の集団が離れた所から岩や砂を巨大な手で使って投げつけてくる。特に大量の砂礫は広範囲に広がるので回避しづらい。

 

 ユーマは風葉の魔法で砂礫を吹き払い、砂更の力で砂漠の砂ごと『リュガキカ丸』を動かし岩礫を回避した。

 

 BMモードの『リュガキカ丸』は無軌道な砂のレールの上を高速で滑らせているようなものだ。不規則なその走りは既存の船ではまず不可能。

 

 巨大な砂の腕で船体を押し出して真横に移動したり、突き上げてジャンプなんて無茶な回避機動もやってみせる。

 

 そんな舟に乗ってるユーマ達もただではすまない。

 

 コックピットの2人はともかく、エイリークは大地震のように縦にも横にも激しく揺れる舟に剣を振るうこともできず、手摺にしがみついていた。ユーマも似たようなもの。

 

 ちなみにアギは『シールド発生装置』なる専用の固定シートが舟の先頭に用意されており、ベルトでぐるぐる巻きにされている。

 

 設計段階から《盾》を使うことは折り込み済みだった。

 

 

「ちょっと、ユーマ!」

「だから揺れるって言ったじゃないか。このくらい無茶な動きしないと躱せない」

「でもユーマさん、このままだと。反撃しようにももっと近づかないと攻撃術式が届きません」

「わかってる。ポピラ、《リュガキカミサイル》を使う。1番と3番で前方を狙って」

「何? それ」

「わかりました」

 

 ポピラは先程渡されたカートリッジの1番と3番をガンプレートに差し込み、前方の『砂猿』の集団を狙う。

 

 ポピラが発射態勢に入ると、『リュガキカ丸』の両舷に存在した内蔵の『ミサイルラック』4つの内前方の2つがカバーを展開。

 

「弾幕で撹乱して距離を詰める。ミサイル、撃てーーーーっ!!」

「発射」

 

 ポピラは《ミサイル・トリガー》の術式を発動。それに応じてミサイルラックから次々と筒型の弾頭が撃ち上げられ火を噴いて前方へ飛んでいく。

 

 計8発の《リュガキカミサイル》はポピラが狙った『砂猿』に命中。次々と炸裂して爆発音が響き渡る。

 

「グオオオッ!?」

「今のは、『バズーカ』ですか?」

「ちょっと違う。弾頭自体に推進剤が仕込まれていてガンプレートでターゲットのロックと発射を制御するんだ」

 

 これはティムスと共同で開発、再現した装備だ。

 

 ミサイルにしては誘導性能は皆無でマルチロックもできないけどね、とユーマ。

 

「? よくわかりません」

「説明はまたあとでね。魔獣が怯んだ今の内に」

「ユーマ!」

「ミツルギさん、前!」

「えっ?」

 

 『砂猿』の集団を抜き去った直後。舟は突然巨大な影に覆われた。

 

「……マジ?」

 

 ユーマも知らなかった攻撃パターン。

 

 

 全長80メートルもの巨体にもかかわらず、『王蜥蜴』が2本足で立ちあがっている。

 

 +++

 

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