3-00 夏休みへの旅立ち
第3章、夏季休暇編のスタート
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御剣家リビング。
中学の終業式を終えた優真が家に帰って1番に見たものは尻尾頭。
冷蔵庫を漁るはらぺこ狼。
「大和兄ちゃん……」
「おう。早かったな」
「うん。母さんは? 姉さんもいないの?」
「環さんは急な仕事が入ったとか。ユウは今日から夏季講習とか言ってたはず。だからタマ公もいない」
「ふーん」
それでこの兄は人の家で何してんだろう、と今更ながら考える優真。
「優真、飯作ってくれ」
「……ああ」
昼飯をたかりに来ただけだった。よくあることだ。
優真の母が出かけてしまいアテが外れたのだろう。ただ自分が帰ってくるまでこの兄に留守を任せる母は、一体どういう神経をしているというのか。
優真は冷蔵庫の中身が無事なことを祈りながら、自分の昼食と『餌』の準備をする。
30分後。
「優真君」
「何? 大和兄ちゃん」
「これはなんだい?」
「焼きそば」
優真の目の前にあるのはソース焼きそば。
豚肉、キャベツ、もやし、たまねぎ、とよくある具材と炒め、紅ショウガをのせた普通の焼きそば。
優真のこだわりは麺にちゃんぽん麺を使い、予め醤油で炒め下味をつけておくことだ。
カリカリでモチモチの太麺にソースとはまた別の醤油の香ばしさが堪らない。
ただし、大和の目の前にあるのはもやし。
「どう見ても特盛りもやし炒めにしか見えないのは気のせいか?」
「かさましだよ」
焼きそばを覆い隠し山のように乗せられたもやし炒め。優真の焼きそばの4、5倍のボリュームがある。
「いや、増やすなら麺か肉の方がよかったが」
「うるさいよ。大体どうして家で食べようとしたの? 光輝さんは?」
「死人は飯を作らない」
「そっか」
突っ込まない。
あとで飼い主(光輝)に餌代を請求しようと考える優真。
「ほら。冷めるから食べよう。もやしに罪はないよ」
「そうだな」
親の敵とばかりにもやしを睨みつける大和。
食べることに関してはどうしようもない駄目兄貴である。
「優真」
「ほい」
どんぶりにご飯をよそいお茶を用意。
よくできた弟だと少年は自負している。
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黙々と焼きそばともやし炒めを食べる優真と大和。
「ごちそうさん。うまかったぞ」
「……相変わらず早いね」
炊飯器の中身を空にして満足気の大和。
「あー。久々に『こっち』の飯食ったからな。もやしだろうが最高」
「俺はもやし炒めだろうが手を抜かないんだ。でも久々って? どこか行ってきたの?」
「夏休みだからな」
大和たちの高校は優真より一足先に夏休みに突入していた。
非難する目で兄を見る当時中学3年生の優真。高校受験生。
「旅行? 兄ちゃん達だって3年生なのに」
「なんだよ。今更俺に受験生でもやれって言うのか?」
「十六夜さんみたいになるのもどうかと思うけど」
「……師匠か。まあ俺のことはいい。今回は旅行なんかじゃなくてコウに連れていかれたんだ。もうすぐユウの誕生日だから」
「姉さん?」
「珍しい鉱物を探しにどこかの砂漠へ」
「はあ?」
「コウが必要だって言うからな」
「よくわかんないよ」
後のユーマが突飛な行動に走るのは、やはり彼らの影響に因るところが大きい。
「誕生日のプレゼントだよ。あいつ金属細工とかアクセサリー作るのも上手いぞ。お前だってほら」
言われてみればそうだと優真は納得する。彼が首に提げている『しろいはね』も光輝の作品だ。
それでふと思い出す。
「あれ? 姉さんは誕生日を迎える毎に髪飾りとかネックレスとか、毎年アクセサリーを付け替えてるけどもしかしてあれって全部」
「そうだ。コウの手製」
「……そこまでしてるのになんで付き合わないの?」
「いろいろあるんだよ」
訳知り顔の大和。
でも彼が1番やきもきしていたりする。
「……《梟》のこと?」
「関係なくもないが、ユウは知ってるし別だろ? あれは幼馴染によくある『近すぎて見えない』の症状だ」
「詳しいね」
天然タラシのくせに、とは言わない。光輝と優花、2人を1番近くで見ている大和だからわかるのだろう。
余談だがこの兄、昔からよくモテる。優真はバレンタインデーがくる度にチョコの仕分けと混乱を避けるための『イベント』の整理券配りに光輝から駆り出されたりする。
「2人のことはなるようになるだろうと俺も静観していたんだが」
「が?」
「問題が起きた。長くなるからあとで話す」
「? わかった」
優真と大和。
姉と相棒をくっつけようと本気で行動に移るのはこの日からである。
「それで光輝さんは? 今日も工房に籠っているの?」
「いや。多分何もしてない。道場に行ってもしばらく放っておいてやれ」
「……何かあった?」
「何も」
違和感を覚える大和の態度。優真はじっと彼を見つめる。
「その目はやめろ。ユウにそっくりだぞ」
「姉弟だからね。光輝さん、また殺したの?」
「……。ああ」
大和は観念した。優真は《梟》を知っている。
嘘をつくにしてもこの弟分は相棒のことも、自分のことも知りすぎていた。
「向こうでな。止められなかった。……止める理由がなかった」
「……」
黙り込む2人。大和が何を思い出したのか、優真にわかるわけがない。
そしてもう1人の兄はきっと、力の反動でまた『見せられたもの』を思い出してしまったのだろう。
世界のどこかで。
きっと兄達は理不尽なモノを見たのだ。
だから潰しにかかったのだろう。
許せなかったから。
《梟》そのものが理不尽なモノと理解しながら、自分を蝕むその力を……
「痛っ!」
優真は大和から拳骨を喰らい、とりとめのない思考を吹っ飛ばされる。
「兄ちゃん?」
「切り替えろ。お前が抱え込むモノじゃない」
「でも」
「だから言いたくなかったんだよ。変に聡くなりやがって」
「……観察眼鍛えろって言ったの兄ちゃんじゃないか」
ぶーたれ優真。
「黙れよ。とにかくコウは放っておけ。あいつが今更潰れることはない。ユウの誕生日までには元に戻る」
「でも姉さんには絶対にばれるよ」
姉は心配どころかお説教すると実の弟は予想。
「とばっちりで大和兄ちゃんだって」
「甘いな。コウが本気になれば《世界》も騙す。御剣優花、恐るるに足らずだ」
「その台詞、本人の前で言いなよ」
「無理だ」
古葉大和は潔い男だ。
今のが優真的にカッコイイかどうかは別にして。
「……」
「……話を変えよう。優真、今年はどうする? 山籠り着いて来るか?」
「やめとくよ。受験生だし」
夏休みの数日を大和と彼の師匠と過ごすのは毎年のこと。でも今回優真は高校受験を理由に遠慮することにした。
「そうか。でも飯係がいないとなると困るな」
「光輝さんは?」
「あいつが山に登る時は埋める時だけだ」
「そっか」
優真は突っ込まない。
あと海に行く時は沈めに行くというのが光輝である。
「ともかく今年俺はパス。来年はちゃんと行くよ。兄ちゃん」
「わかった。あーでも飯、どうすっかな」
「その辺の獣でも狩って焼けば?」
「それしかないか」
大和は突っ込まなかった。優真も。
ところで。
この1年後。その年も優真は大和と山籠りをすることはなかったのだが。
まさか自分も魔獣を狩り、焼いて食おうとしているとは当時の彼は思いもしない。
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夏休みへの旅立ち
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再生紀1011年、7月終旬。
ここは《再生世界》。ユーマがいた《再成世界》とは異なる、別の世界。
この世界の中心、中央中立地帯にある学園都市。その中にある多くの学校は前期日程を終えて夏季休暇期間に移ろうとしていた。
C・リーズ学園もそう。今年は特に破損した校舎や設備が多く、生徒が帰郷する夏季休暇中に大掛かりなメンテナンスが学園全域で行われることになっている。
前期以上に騒がしくなると予想される後期に備えて。
そしてその騒がしい要因の1つである学園の生徒の1人、学園を大改修するきっかけを作ったとされる《精霊使い》の少年もまた学園を離れる準備をしていた。
「べつに追い出されてはないですよー」
「風葉?」
ユーマの精霊は相変わらず。
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ユーマは休暇中に1度風森の国へ戻ることにしている。
「振り返ってみると、俺ってエイリークの宿題を届けに学園に来たんだよな」
「うっ。またそんな昔のことを」
同じく帰郷の準備をしているのはエイリーク・ウインディ。
ユーマが向かう風森の国の第2王女。学園ではお姫様であることよりも《旋風の剣士》という通り名のほうが有名。
「それで来て早々吹っ飛ばされて絡まれて、また吹っ飛ばされて」
「……」
「アイリさんに喧嘩を売られたと」
「なっ!?」
以上。主人公による序章解説。
いきなり話を振られ、オチにされたのはアイリーン・シルバルム。
こちらはエイリークとは違い学園でもお姫様として有名な魔術師、《銀の氷姫》である。
「ユーマさん! あの時は貴方の編入試験で」
「おっさんの推薦があってパスだったんだけどね。なのにアイリさんが無理矢理」
「うっ」
からかわれているのはわかるが、学園長に無理を頼んで模擬戦を申し込んだことは間違いない。
泣き真似をするユーマに何も言い返せないアイリーン。
「……いじわる」
「はいはい。さっさと次行くわよ。リア先輩も挨拶済んだし。ユーマ、あとは?」
「ティムスのとこ。あいつ学園に残るらしいから」
ユーマ達は学園を発つ前に挨拶回りをしている。お世話になった先生や先輩、友人たちへの礼儀だ。
夏季休暇中、帰郷する生徒が大半ではあるが学園に残る生徒も多い。
学生ギルドは年中運営しているのだ。長期休暇が稼ぎ時なのはどこの学生も一緒だった。
どこかの自警部部長のように前期の残務処理に追われていたり、補習から逃げる《鳥人》なんかは知らないけれど。
そんな中でもユーマの友達の技術士で、天才錬金術師のエルド兄妹は大分前から学園に残ることを皆に告げていた。
前期中に起きた《皇帝竜事件》。兄妹の兄、ティムス・エルドはその後始末、というか処罰で半壊したスタジアムの解体と新設工事の総監督に任命されていたのだ。タダ働き。
また、彼にそんな大役が任せられるのは、学園に11人しかいないエース、《Aナンバー》の1人であるからでもある。
本来スタジアムの解体、撤去作業を夏季休暇中までに終え、後期から新設工事の着手に取りかかる予定ではあったのだが。
「どこかの馬鹿がスタジアムごと瓦礫を消し飛ばしたからな」
工程が予定以上に早まり、夏季休暇中に工事をはじめることになってしまったという。
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「せいぜい休暇を楽しんできな。風森の国は西国でも避暑地として最高だからな」
「なんか、ごめん」
《エルドカンパニー》の社長室兼応接室。やさぐれたティムスに謝るのはどこかの馬鹿。
「冗談だよ。どの道学園には残る気でいたんだ。PCリング用のアンテナ増設工事もあるし自分の研究もある。ついでだ」
ちなみに。
皇帝竜事件をはじめ多くの事件と問題を起こしていたユーマ。彼は夏季休暇を潰されない為に今日までの間、様々な任務と雑用をこなし学園から恩赦を得ている。
《アナザー》のエースでもあるユーマは何かと忙しい学園生活を送っていた。
「ティムスはそれでいいの?」
「総監督といっても現場工事は《組合》中心、組合長が指揮を執るからな。やるのは最終的な打ち合わせくらいだ。工程の確認と人員資材の調整程度ならイース達でも問題ない」
「流石は社長。人使いが荒い」
ユーマは《エルドカンパニー》の社長を褒め称えた。
「褒めてんのかよ。あいつらがマシになって余裕ができたのは本当だけどな。……それでだ」
「ん?」
「まあ、なんだ」
言葉を区切るティムス。物事はズバズバと言うタイプなのに珍しく口篭もる。
「お前、というかウインディ。あんたに頼みがある」
「アタシ?」
珍しいことにきょとんとするエイリーク。
彼女はティムスの双子の妹であるポピラに別れの挨拶をしていたのだが、いきなりティムスに話しかけられて驚いた。
2人はあまり接点がない。ティムスがエイリークのことを『ポピラの客』として扱い、自分では依頼を受け付けないこともあるのだが。
「何よ」
「ポピラだがな。休暇中お前の国で預かってくれないか」
「兄さん!?」
ポピラどころかこの場にいる皆が驚いた。
「でも、私だって仕事が」
「いいんだよ。ルックスやイースがいるから人手は十分だ。それでどうだ?」
「別に構わないわよ。居候はここにもいるし、もう1人くらい」
「エイリークさん」
あっさりと了承するものだからポピラは余計に戸惑う。
「……いいの?」
「お前には運動会の準備の代役や報道部に派遣して解説の仕事なんかもやらせたからな。社長自ら有休をつけてやる」
「兄さん」
「折角できた『ともだち』だろ? だったらお泊まり会でもしてこい」
「……うん。ありがとう、兄さん」
素直に嬉しがる妹をみて、気恥かしい思いをするティムス。ユーマ達はにやにや。
普段から接点の少ないエイリークやアイリーンさえも、最近はぶっきらぼうで口の悪いティムスが実は面倒見が良い妹思いな兄だということがわかってきている。
「な、なんだよ」
「いえ」
「だってね」
「ティムスも兄ちゃんなんだなって」
「黙れ」
シスコンとは軽口でも言わないユーマ。エイリークが過剰に反応するから。
「俺達もお泊まり会する?」
「冗談じゃねぇ」
ティムスは皇帝竜事件中、中等部に潜伏していた時を思い出して顔を顰める。
「野郎共とソファを奪い合って雑魚寝して、何が楽しい」
「まぁね」
「もういい。俺はもう用はないからさっさと行きやがれ。ポピラも準備してこい」
「はい。風葉ちゃん、おいで」
「わかりましたー」
部屋を出るポピラに風葉はユーマをおいてふよふよー、と彼女について行く。
「……風葉のやつ、俺よりもポピラやミサちゃんの方になついてるのは気のせい?」
「知るかよ」
にべもないティムス。
挨拶はここまで。ユーマは彼に一時の別れを告げる。
「それじゃ。1度くらいは学園の様子見に来るよ」
「別にいい、と言いたいが休暇の中頃にでも来てくれ。その頃にはテストしてもらいたいものが完成する」
「え? それって」
「ああ」
できたの? 問いかけるユーマにティムスはニヤリと笑う。
「《精霊使い》専用の新型ブースター。開発コード『ガンプレート・レプリカ3』。お披露目は夏季休暇明けだ」
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ポピラが旅行の準備を終えると、ユーマ達は普通科に所属するミサと正門前で合流。
5人は学園を出て市街地から近くの国へ行く《転移門》へと向かった。
今のグループ構成は男子1人にタイプの違う女子4人。
一見友達の弓使いのようだとユーマは思ったのだが、実際はそうでないことはわかっている。
「エイリークはモテるね」
「は?」
エイリークを中心に見た彼女達との関係はこうなる。
アイリーン:幼馴染のお姫様
ミサ:親友兼専属侍女(自称)
ポピラ:ともだち
風葉:ウインディを守護する精霊(一応)
ユーマ:風森の城の召使い(一応)
今のメンバーはエイリークを中心としたグループだとユーマは認識している。
もしも《旋風の剣士》が王子様だったなら彼女のハーレム。ユーマが友人Aとなる予想はあながち間違っていない。
そんな考えをエイリークに伝えてみる。
「アンタ、何言ってるの?」
「今の俺の状況を見てジンみたいだと思うよりはね」
「なによ、それ」
嫌な顔をするエイリーク。続く言葉は「それだとアタシ達がアンタに気があるみたいじゃない」といったところだろう。
それがわかってかユーマは無邪気に笑う。
「問題児の俺がモテるわけないし」
「……まったくよ」
そう言われれば言われればで、エイリークは故郷で帰りを待つ姉姫様のことを思い出して苦い顔。
また、彼女はちらり、とうしろを歩くアイリーンを見る。
「何か?」
「何も」
「?」
(普段は平然としているけど、意識、してるわよね?)
エイリークの《直感》はそう告げていた。
最初は《精霊使い》、《魔銃使い》といった物珍しさからユーマに興味を持っていたはずのアイリーン。でもエイリークが思うに彼女の幼馴染は、興味からもう1歩先へ進んでいるような気がする。
それは好意の1歩手前。
そもそも北国出身の彼女は、西国方面にある風森の国へ帰郷するエイリーク達と同行する必要はないのだ。
途中までだとしても遠回りになるから。今までこんなことはなかった。
さりげない態度。自然な振る舞い。
その中で彼女は少年を見ている。
「もどかしいわね」
「エイリーク?」
隣を歩くユーマは相変わらず。そして彼の正体と事情を知るのはエイリークだけ。
アイリーンのこともそう。
だから思わずぼやいてしまう。
「……人の秘密ばっかり。それでアタシに何させたいのよ」
「何言ってんの? あ。俺こっちだから」
そう言ってユーマは次の十字路でエイリーク達と別れようとした。
すかさずエイリークはユーマの襟を掴み引っ張る。
「ぐぇ」
「待ちなさい。《門》はこっちよ。そっちは学園都市の外へ出る方じゃない」
「わかってるよ。俺はちょっと寄り道して風森にもどるから。シアさんにはそう言っててよ」
「寄り道って。……アンタまさか」
エイリークは初めてユーマが学園に来た時のことを思い出す。
「懲りずにまた《西の大砂漠》渡る気?」
「いや。あそこにはもう絶対行きたくない」
かつて体験した砂地獄を思い出したユーマは、青褪めて首を大げさに振る。
「大砂漠行くくらいなら《門》をくぐって国をいくつか観光しながら行くよ」
「じゃあどうして外へ出るのよ」
「外でアギが準備して待ってるんだ」
「アギ? 準備って」
「砂漠越えの」
「やっぱり砂漠じゃない」
「違うって。大砂漠は死んでも行かない」
説明を面倒くさがるユーマ。
「1度見てもらった方がわかるかな? 気になるなら見においでよ。とにかく俺はアギと一緒に行くから」
「ちょっと、待ちなさい」
構わずすたすたと先を行くユーマ。
足取りが軽い。どうも先のことが楽しみでわくわくしているところがある。
取り残される4人の少女。
「見に来いって、怪しいわね」
「リィちゃん?」
「私も気になります」
「まあ、大体の予想は着いてますけど」
これはポピラ。
「ポピラ?」
「ミツルギさん、兄や《組合》の人達と色々相談してましたから」
「それで。アイツら何をする気?」
「それは」
ポピラは彼女達に説明しようとして、思い直した。
「確かにあれは見た方が早いです」
私も気になりますので、とポピラ。
結局ユーマを追いかけることに賛成多数で可決。
危ないのはいやだなぁ、というミサの意見は封殺された。
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学園都市の外。外郭から外は未開の地。
国と国はすべて転移門で繋がっているので商人や旅人が利用していた街路が廃れて久しい。どこの国でもそうである。
学園都市から西は砂漠地帯。ユーマが向かったのはその入り口といったところ。
「遅いぞユーマ。お。姫さん達も一緒か?」
「見送りだよ。気になるってさ」
「何よ、これ」
ユーマ達を迎えたのはいつもの青いバンダナを額に巻き、久しぶりに砂除けのローブを纏ったアギ。
そして、砂地に半ば埋もれた一艘の、舟。
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ここまで読んでくださりありがとうございます。
《次回予告》
《西の大砂漠》、さらにそこから学園に向かう途中と2度も地獄を見たはずのユーマ。彼は懲りたようで実はそうでもなかった。
2度あることは3度ある。3たび彼を襲う砂漠地獄。
次回「砂漠の航海」
「誰よ! 夏休みは冒険だって言った奴!?」