騎馬戦 -延長戦-
これで100話目。終わらなかった
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南軍の本陣跡。勝利の余韻に浸っていたエイヴンたち。
しばらくしてブソウ達東軍の本隊へ合流しようとしたところで。
事件は起きた。
「……待てよ。糞王子ぃ!」
「危ない!」
エイヴンの騎兵に襲いかかるリーダーだった編入生。
すぐさまシラヌイ君がエイヴンを庇うが、彼が手にしていた棒が簡単に斬り飛ぶ。
「シラヌイ!」
「大丈夫です。でも」
どこに隠していたのか、彼が持つ武器は実戦用の本物。
「お前ら、囲めぇ!」
「えっ、でも……」
「俺達があんな屑に馬鹿にされたままでいいってのかよ、ああ?」
本陣にいた南軍の数人の生徒が喚く彼に従ってエイヴン達を囲み、武器を取りだしてきた。殆どの生徒は突然のことに戸惑っている。
包囲する生徒には東軍の生徒もいた。皆編入生だ。
「認めねぇ。こんな糞競技でも、てめぇなんかに負けたなんて事実は俺には必要ねぇ!」
「くそっ」
似てやがる。イースは男の狂気染みた言動をみて、かつて自分の上司であった《竜使い》を思い出した。
ルックスのいる手前口には出さなかったが、竜騎士団にいた頃の自分までも思い出して嫌気が差す。
編入生の男は脅すように剣を向けた。
「おい、こっちに来て跪けよエイヴン。そしたらシラヌイ達は見逃してやる」
仲間まで危険に晒されて押し黙るエイヴン。
「……」
自分が許しを請えば皆は助かるのか?
躊躇わずに馬から降りようとしたエイヴン。シラヌイ君は彼を止める。
「駄目です、王子」
「シラヌイ」
「そうだ。馬鹿な真似はよせ」
「ブソウさんだってこちらの異常には気付いているはずです。時間を稼げば」
「曹長、少尉……」
「一蓮托生だ。俺達はチーム、仲間だからな」
イースとルックスだけでない。アルスも、サンスー兄弟も賛同してエイヴンを見て頷いてくれる。
エイヴンにとって、それがどれだけ嬉しいことか。
「みんな……」
「おいどうした!」
だけど状況は最悪。包囲されてしまっては脱出の手立てがない。
他の生徒も武器を持った相手に迂闊なことができず、助けも期待できない。
内緒話をされて苛立つ男。癇癪を起して剣を何度も地面に叩きつける。
「さっさと馬から降りてきやがれ! みんなまとめてブチ殺されてぇのか」
「……わかった」
そう言いながらもエイヴンは馬から降りず、彼に向けて口を開いた。
「ひとつ言っておくが……剣は大事に使え。お前みたいな屑に使われて刃毀れする剣の気持ちを考えてみろ」
「なんだと!?」
「かわいそうだろ?」
あからさまな挑発。エイヴンは戦うことを決意したのだ。
「私達がお前に屈する理由はない」
「……つ、潰せぇ! 斬り殺してやる!!」
「すまない、みんな」
「それでいいんだよ。来るぞ」
リーダーの男は怒り狂い、包囲する連中に命令を下すように剣を振り下ろす。覚悟を決めるエイヴン。
しかし。
「……斬る」
剣は振り下ろせなかった。彼の剣は根元からすっぱりと斬り落とされたから。
呆然。
「あ?」
「もうやめなさい」
デスサイズの替わりに長い棒を担ぎ、フードの上からハチマキを巻いた妙な死神は、いつの間にかそこにいた。
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「貴方は……誰?」
アイリーンの問いに、角付きウサギの着ぐるみ『トニカ君』は答えない。
「……」
「誰でもいい。俺の前に立ちはだかるなら相手してもらう」
うさベアさんは構わずトニカ君が庇うアイリーンごと、蹴散らそうと武器を振るう。
「――!!」
ガキッ
トニカ君はまたもやその1本角で攻撃を受け止めた。
「……!」
「防ぐだけなのか、お前は?」
トニカ君は答えない。
「まだ、その程度なのか?」
トニカ君は答えない。
ギチギチと軋む1本角。力負けするトニカ君は、それでもなんとか踏みとどまる。
攻撃を躱すことができないのはうしろにアイリーンがいるから。
退き下がれないのは、彼女を守ろうとして飛び出してしまったから。
うさベアさんは手にした棒にさらに力を込めてきた。このままでは押し切られてしまう。
尚もアイリーンを庇うトニカ君。思い出すのは『彼』と初めて会った時のこと。
――弱い。そんな薄弱な意志で振るう力で誰かを守れるはずが――
「……っ!」
そんなことは――ない!
「……集え。集え集え」
トニカ君は唱える。風のイメージを強く《補強》する。
「風よ集いて螺旋を描け」
「何?」
「その呪文は」
集まる風の力。渦巻く竜巻はトニカ君の1本角に収束。
負けたくない、2度も。
退くことはできない。だったら、
立ち向かえ!
「うおおおおっ!!」
《旋風剣・螺旋疾風突き》
角付きは伊達じゃない。ドリルのように高速回転する角を振り上げ、トニカ君はうさベアさんの棒を弾き飛ばす。
「貴方は」
今の技でトニカ君の『中身』がはっきりとわかったアイリーン。
どうして? 今はその言葉しか思い浮かばない。
「そうだ。それでいい」
思わぬ反撃を受けて退くうさベアさんは、トニカ君と少しだけ距離をとる。
トニカ君はうさベアさんに話しかけた。
「いいですか、クル……うわっ!?」
慌てて角で防ぐトニカ君。突然斬撃が飛んできた。
「誰かと勘違いしてないか?」
曰く、《剣闘士》とは誰のことだ?
「俺はどこにでもいる森のクマだミツル……!」
今度はうさベアさんを《風刃》のカマイタチが襲う。
咄嗟に手にした棒で打ち払ううさベアさん。着ぐるみの2人は睨みあう。
「お前」
「何言ってるんです? 俺はどこにでもいるかわいいウサギさんですよ?」
曰く、《精霊使い》なんてここにはいませんよ?
「そうなんですよー」
ひょっこり現れてトニカ君の頭に乗っかるのは、ちいさな風の精霊さん。
「空気よめー」
「「「……」」」
台無し。
アイリーンを含む3人が風葉に突っ込めないでいる。
「兎に角。ク…マさん。南軍は大将旗を奪われたのであなたも失格です」
「何?」
遠くから聞こえてくるエイヴンコールが南軍の陥落を伝えている。
「騎馬戦のルールは覚えてますよね? だからもう暴れないで大人しく退場してください」
しかし、うさベアさんは納得しなかった。
「ならばウサギ、お前は何だ? 謹慎中で運動会に参加できないはずのお前が、何故ここにいる?」
「俺?」
「お前こそ自分勝手に競技を楽しんでいたのではないのか?」
北軍が着ぐるみを使ってきたことをいいことに正体を隠し、紛れ込んで騎馬戦に参加したりして。
だったら俺も少しは楽しませろ、と訴えるうさベアさん。
「またそんな我儘を……俺だって最初はそんなことも考えましたよ。でも編入生のこととかあって、俺は一応騎馬戦の立案者で主催者だから責任も取らないといけないし」
「責任?」
「裏方は人手が足りないんですよ」
《Aナンバー杯》の競技である騎馬戦は、基本的に生徒全員が参加しなければならないのだから。
別に遊んでいたわけではないと、トニカ君は堂々とその正体を明かした。
「俺は、俺達は……」
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「ワタシ達は騎馬戦の実行委員会。この競技の不正を取り締まる為に集められたチームです」
《黙殺》に続いて南軍の本陣に突如現れた謎の集団。先頭に立つのは報道部から派遣された幽霊部員のべスカ。
彼女は情報統制と部隊指揮を一手に任された(押し付けられた)実行委員会、委員長代理である。
元竜騎士団幹部という昔の経験を活かし、彼女は見事な指揮でエイヴン達を囲む編入生達をさらに包囲する。
元々実行委員会は騎馬戦が問題なく行われるようにと、ユーマが運動会の準備段階から用意していた、ハプニング対策で結成されていた組織だ。構成員は報道部の部長や《組合》から借り受けた人員と学生ギルドで依頼して集めた有志たち。
実行委員長だったユーマは、彼らを競技に参加させる傍らでPCリングの情報網を駆使して4チームすべてを監視。有事の際は《黙殺》やミストなど主力メンバーで対処するようにしていた。
もちろん、編入生の不審な行動も筒抜け。
武器を捨てなさいとベスカは編入生に告げた。
「最低ね。いくら生徒会長がけしかけたせいとはいえ、まさかここまでやるとは思いませんでした」
「何? 女、お前何を言って」
「彼の思惑は何となくわかります。面白くない話ですわ」
元《会長派》でもあるベスカはつまらなそうに言った。生徒会長は泳がせていたと。
「彼が所望する人材に、権力に惹かれるだけの悪党は必要ないでしょうから」
生徒会長は彼らを試していた。
学園に来て間もない編入生たち。彼らに権力をちらつかせるとどう動くのかを。
運動会を試験場にして、《会長派》の特権という餌を用意して、彼らの本質を探るように。
生徒会長はこのことで編入生たちが不正行為を働いて問題を起こすことさえ想定済みだった。
《Aナンバー》をはじめとする学園の生徒たちが彼らの行いを阻止することも。
また、学園には春に洗礼式という行事がある。思いあがった新入生たちの鼻っ柱を折るという手荒い歓迎会のことだ。
同じように生徒会長は編入生たちに学園の生徒の実力を思い知らせようともしていた。
すべては生徒会長の掌の上。
餌を与えられて踊らされ、叩きのめされるまで、すべて。
「ふ、ふざけやがって」
「全くです。それに彼は事前に炙り出したかったのでしょうね。第2の《竜使い》となる存在を」
ベスカもまた、醜くも憤る男を見てイースと同じく彼を思い出していた。
かつての自分も。
「汚い手まで使い、力を振りかざして自分を誇示する真似なんてやめなさい。そうやって失敗して、学園から追い出された生徒はたくさんいます」
でも、彼ら編入生はかつて竜の力を振りかざし、生徒会に反旗を翻そうとした竜騎士団とは違う。
落ちこぼれであることを嘆き、学園を見返そうと皇帝竜の複製に手を出した彼女とも違う。
生徒会長に試され、振り回されただけ。
だからベスカは編入生たちを止めることに全力を注いだ。彼らに竜騎士団と同じ末路を辿らせまいと。
それが親友を振り切ってまでして暴力に走り、皇帝竜事件を起こした彼女が幽霊部員として今も学園に留まる理由。
償い。
「貴方たちに不正させるきっかけを作った生徒会長とはもう《精霊使い》が話をつけましたわ。今日のことで学園から追放なんてことはしないから大人しくなさい」
編入生たちに動揺が走る。
「……俺は、リーダーであるこいつの指示に従っただけだ」
「なっ!?」
「俺もだ」
「ここまでされて《会長派》なんてなりたくない」
「学園にいられなくなるよりましだ」
リーダーの男以外の編入生たちが武器を地面に捨てはじめた。力による統率はあまりにも脆い。
「テメェら……」
「容易く仲間を裏切るのも最低だと思いますけどね。さぁ、貴方も」
「うるせぇ!」
引き抜かれる隠しナイフ。
それを見た《黙殺》が静かにベスカの前に立つが、彼女はそれを制した。
「やめなさい」
「黙れ! 女ぁ。エイヴンだけじゃねぇ、生徒会長も、俺を虚仮にしたテメェらは俺が」
「……無駄よ」
ナイフを持つ男を前にして動じないベスカ。
「俺がぁっ」
一瞬だけ見せた怯えの表情。
それを見逃さず、男がベスカに飛び込む。
恐怖を煽るように見せびらかせたナイフ。鈍く光るその刃は――
《幻想の矢》が射抜く。
不可視の攻撃にナイフを弾かれた彼はわけがわからない。
「な、何が……ひっ!?」
それで次に迫ってくる矢に対して反応が遅れた。
直撃。矢は正確に男の左目を射抜き、貫いて……
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ!!!」
殺された。
そんな自分を幻視して男は絶叫して、倒れた。
「だから無駄ですと言ったのに……遅いですわよ」
平然としつつも、危険に晒されたベスカは緊張でバクバクとする胸を抑えている。
《幻影の矢》を放ったのは、ベスカの遥か後方に控えた、『弓を構える』黒髪の少年。
「簡単に人を傷つけ、命を奪おうとするのなら……次こそ僕は撃ちます」
彼は《射抜く視線》の弓使い。ジン・オーバ。
「お前、やっぱかっこいいな」
「ジン……」
ジンの隣にいるのは彼の先輩となった編入生と、ジンの勇姿にぽやー、とするリン。
3人は《黙殺》やベスカに『回収』され、実行委員会を手伝っていた。
「……私より彼に助けて貰いたかったのね」
「違います!」
あと、《黙殺》の一言をすぐに否定するベスカさんでした。
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一方、うさベアさん対トニカ君。
「実行委員会。トラブル処理を目的とした、《精霊使い》がエース権限で用意していた即席の騎士団か」
「まあ、そんなとこです。俺は《精霊使い》の忠実な僕であるウサギです」
往生際の悪いトニカ君。
でもってタチの悪いうさベアさん。
「ならばこの暴れる獣1匹くらい取り押さえて見ろ、小動物」
「……あんた、顔を隠していることをいいことに思いっきり暴れたいだけでしょうが」
ちなみに。
先程までうさベアさんと戦っていたリアトリスやクオーツ達は騎馬戦のルールの上では全滅。
最終的に東軍の勝利という結果で騎馬戦は終わっているのだが、うさベアさんが暴れるので競技を締められないでいる。
ここからは延長戦。
「だったら、こっちも容赦なくいきますよ。ヒュウさん!」
「どるぁ!!」
はるか上空からの急降下。これは《鳥人》の鷲爪撃。
強襲されたうさベアさんは、慌てず飛び蹴りを受け止める。
「なんだ? いきなり」
「覚悟せい。ワイはお前を倒す為に地獄から帰って来たんや」
彼は《鳥人》ではない。
覆面を被ったその男のコードネームは『不死鳥』。実行委員会に魂を売って蘇った復讐者。
「どうした《獣姫》、かかってこんかい!」
「……クマ違いだ」
「なんやて?」
襲撃した相手がメリィベルでないことに今頃気付く『不死鳥』。驚いてトニカ君の方を見る。
「ヒュウさん。メリィさんを倒したのはあのクマです。あいつを倒せばリベンジ達成です」
「! そうやな」
「相手になるならどうでもいいが……むっ?」
唸る鉄拳。
うさベアさんの後頭部を狙い、飛んでくるのは《黒鋼術》で創られた鋼鉄の篭手。
これはうさ耳で受け止めた。
「あはは。流石に不意打ちは無理か」
次に現れたのは黒衣の覆面魔術師。
コードネームは『鉄仮面』。
「マーク、お前」
「元はと言えば僕が君を檻の中に閉じ込めきれなかったせいだからね。さっきのお礼も兼ねて僕も手伝うよ」
「……フフ」
最後に覆面忍者の『抜け忍』。
エース達が熊狩りに集結。
「砂更!」
トニカ君は砂の精霊の力で馬らしいものを作った。覆面エース達はそれぞれ馬に跳び乗る。
「流石にこのメンバーでガチ勝負だとすごい被害が出そうだから騎馬戦と同じルールで。最後まで付き合いますから負けたら大人しくして下さいよ」
「いいだろう」
喜んで承諾するバトルマニアのうさベアさん。
「あの、そろそろ俺達……」
「最後まで付き合え」
うさベアさんの馬を担ぐ生徒たちは度重なる戦闘で疲労困憊。
なのに問答無用で最後まで付き合わされた。憐れ。
「……はい」
「いくぞ」
いざ開戦。
ところが。トニカ君に庇われていたアイリーンはここで彼を呼び止めた。
「待ちなさい。貴方、一体どうして」
「アイリさん」
振り返るトニカ君。
「な、何です?」
「熱くなるのはいいけど、周りを見るのを忘れないようにね」
「なっ」
「クオーツさん達がやられた時点で北軍は負けてたんだから、無理して大将旗を守らなくても」
「私は!」
アイリーンは憤って1度大きな声を上げるが、言われたことはもっともなのでそのまま萎んでいく。
「アイリさん?」
「私は……この競技で誰にも負けたくなかっただけです」
目の前にいる少年を見返したかったから。
ムキになっていた自覚はある。だけど少年は相変わらず。彼がトニカ君の着ぐるみ手に入れて今まで何をしていたのかは知る由もない。
あの時、アイリーンは敵を求めて襲撃してきたうさベアさんに立ち向かっていた。
あらゆる氷の魔術をぶつけ、そのすべてを打ち砕かれても最後まで戦った。負けないと意地になって。
そして最後の《氷晶壁》が破られ、うさベアさんに武器を振るわれた瞬間。トニカ君はいきなり飛び出してきたのだ。
自分勝手な理由で敵視していたのに。
そんなの馬鹿馬鹿しい、関係ないとばかりに少年は彼女の前に現れた。
自分が敵わなかったうさベアさんを相手に互角に戦った。
何も見返せないまま。それでいて庇われた。
「私は、ただ……」
悔しい。アイリーンは着ぐるみの中で俯いてしまう。
「なんだかなぁ」
そんなアイリーンの心情も知らないまま、トニカ君は彼女の頭をぽふぽふと撫でるように叩いた。
「やめてください」
「……1つ聞いていい? アイリさんはクルスさん、じゃなかったあのクマさんと戦って怖くなかった?」
「何を言ってるんです。誰を相手にしても気迫で負けては話になりません」
「……そうですか」
なんというか、彼女は魔術師のくせに気合と根性論が成立している。
熱血の《銀の氷姫》。
「だったらアイリさんは十分強いよ。アギやエイリークだってそうだけど、みんな強い。……俺は怖かったから」
「えっ?」
アイリーンにとって意外な言葉。
「今だって俺はあの人の、《剣闘士》の剣が怖い。正面から受けて立つなんてとても」
「でも貴方は」
「おいユーマぁ!」
叫んだのは『不死鳥』。
「早よ来いっちゅーに。このままじゃ幾らワイらでも……どわっ」
「余所見するな」
彼はうさベアさんの目の前で滞空して連続で蹴り技を放っているが、すべて受け捌かれて苦戦中。
『鉄仮面』が彼を援護するが、ロケットパンチはあまり効果がないようだ。
やれやれと首を振るトニカ君。
「ヒュウさんめ。何のためにコードネームつけたんだか。名前で呼んだらばれるでしょうが」
砂更の力を使い、風葉が頭に乗っかっている時点で何を言うのか。
「呼ばれたから行ってくるよ。あまり時間かけると残りの競技にも影響して迷惑かけるし」
「待って下さい。ユーマさん、怖いってどうして」
「ちょっとしたトラウマ。まあ、こんな風にふざけていればいろいろと誤魔化せるんだけどね」
「貴方は」
何も言えなくなるアイリーン。
「出撃だ。砂更、俺の馬も動かして。風葉、行くぞ」
「……」
「はーい」
「なんで……」
彼女を置いてトニカ君は、砂の馬に跨って最後の戦いに赴いた。
1人取り残されることになるアイリーン。
彼女の頭の中は戸惑いと困惑、疑問で一杯。
「あの人は一体、何なのですか」
「お嬢さん。真実が知りたいかい?」
「……」
「……フフ」
『抜け忍』はいつも怪しい。
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「かぜはぐんそー、突撃ー」
「お前、いつ昇進した?」
風葉上等兵は進軍フェイズ中にヒュウナーのモヒカンを刈り取り、エースを1人撃破したことにしている。
2階級特進の戦果らしい。
「まあ、いいや。……ヒュウさん!」
熊狩りに合流するトニカ君。まずは『不死鳥』に呼びかける。
「お待たせました。俺達の合体技、いきましょう!」
「なんやて?」
何も聞かされていない。勢い任せのアドリブ。
「いくぞ。風葉、鳥人スピンだ」
「たーつーまーきー」
「なんやそれ、えっ、ちょい待てって……ぎゃあーーっ」
竜巻の奔流に飲み込まれた『不死鳥』は1度高く舞い上がり、高速回転しながらうさベアさんに体当たり。
「だあああああっ、ぶっ! ……」
だけど大技すぎて容易に躱されてしまった。
「外したか」
「……」
沈黙。頭から突き刺さるように地面に埋まる『不死鳥』。
狙われたうさベアさんも呆れるばかり。
「何がしたいんだ、お前ら」
「……うん。これは改良が必要だな。よし。次は必殺、烈風鳥人突きを」
「死ねや!」
「うわっ?」
ブチキレながら蘇る『不死鳥』。仲間割れしてトニカ君に襲いかかった。
そのまま乱闘へ突入。
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「結局、あの人はリンドさんと同じ。みんなと混ざって騎馬戦をしたかっただけかもしれません」
屋外実況席。ポピラは乱闘を続けるトニカ君を見てそう解説した。
「競技は終わりましたし、もう滅茶苦茶ですけど」
「ポピちゃん。完結編は次回やるからこの場を無理矢理締めちゃって」
「……なんの話ですか?」
部長さん、それはこっちの話です。
「ダラダラ続けてもしょうがないんだよ。はい、いつもの台詞どうぞ!」
「馬鹿ですね」
「OK! いつもの入りました」
強引に締めにかかる報道部部長。
「これをもちまして騎馬戦は終了! ありがとうございましたー」
「……この人も馬鹿なんです」
次回が完結編
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