1-00 プロローグ・ゼロ
第1章 予告
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優真はいつもの公園でしろいものを見つけた。
しろい服にしろい髪。近くで見ると優真よりもちいさな子供が身体を丸くして倒れてる。
「生きてる?」
子供の顔を覗いてから肩を揺する。女の子だ。
むき出しの腕はしろい肌をしていてあたたかい。
「……う? あ?」
気がついた女の子。
目を開き、自分を揺する少年の黒い瞳をじっと見つめている。
「……はは、まっしろだ」
「う?」
女の子の瞳はしろかった。
銀色ではない。眼球の白とも違う色をしたしろ。
ありえないものを見ても優真は不思議と怖くなかった。無垢なしろ。彼を見つめる瞳は何も知らない赤ん坊のようだ。
「君は誰? 天使の子? それとも悪魔?」
「あー、う?」
しろい女の子は言葉を発しない。黒髪が珍しいのか優真の髪を引っ張る。
「うあー。あー!」
「いたい、いたいってば。……困ったな。記憶喪失で迷子の扱い方なんて『みんなの公園危機百選』には載ってなかったぞ」
「あー」
優真は両手で女の子をあしらいながら考える。
「まあ、いいや。困った時は姉ちゃんか兄さんに頼もう。きみ、一緒においで。きっとどうにかなるよ」
「う?」
よくわかってない女の子の手を引っ張って優真は駆け出した。
――ぼくはいつか兄さんたちみたいになりたい。この子はぼくがたすけよう。
優真とましろの出会い。
……少年が忘れることのない、出会い。
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このおはなしが、きっと少年のはじまり
この物語は、優真がユーマになった時の話
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プロローグ・ゼロ
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優真は目の前の光景を信じたくなかった。
雨の日の夜のこと。
優真の目の前で2人の男と少女が1人戦っている。
2人の男の内、1人はもう1人を庇って今倒された。
「がはっ」
火炎弾の直撃を受けた彼は優真が兄と慕う15歳の少年。
「大和兄ちゃん!」
「優君どいて!」
駆け寄ろうとする優真を、姉は声で制して大和の手当てをはじめる。
「どうして? どうしてなんだよ」
――誰が兄ちゃんにこんなひどいことをした?
優真はわかっているけど信じたくなかった。
しろい少女。
しろい服の少女は肌の色、髪の色がしろいだけでなくその瞳もしろい。
優真が拾った、ましろと名付けた女の子。
天使でも悪魔でもない彼女が《魔法》を使い、姉や兄たちに襲いかかる。
「やめろしろ! やめて……どうして!?」
12歳の少年にできることなんてない。ただ大切な人たちが殺しあう様を見ていることしかできない。
「あ、あああーーっ」
しろい少女の放つ雷撃がもう1人の少年を襲う。
少年は右の掌で雷撃を弾くと一気に距離を詰めて少女を殴る。
「ぐっ、があっ!」
「やめろーっ!」
優真の声は届かない。
雨音が邪魔だ。そう思うがもう雨なんて関係ない。優真の叫びなんて彼と少女には関係ない。
殴られた少女は距離とってから背中からしろい翼を『放出』。上空へ逃げる。
「優花!」
「はい!」
姉が《飛翔》の魔法を少年にかけ、彼は空へ追撃をかける。
優真は実の姉が魔法を使うなんて初めて知った。
少女が上空から火炎弾を放つが、同じくして飛び上がった少年が無造作に左腕を振ると、火炎弾は見えない壁のようなものにぶつかり相殺された。
再び距離を詰める少年。しろい少女の腹をグローブをはめた右で殴る。
バチィッ!!
殴った右手から電撃が疾る。
怯んだ少女の首を少年は掴み上げた。
「ぐあっ、ああっ、ああああ!!」
「もういい。お前の魔法は《理解》した。俺に2度目はない」
空中で少女を掴み上げる少年。反対の手にはいつのまにか『銃のようなもの』を握っている。
「やめて。もういいでしょ……光輝兄さん。やめて。しろが、ましろが……」
「優君……」
光輝と呼ばれた少年は優真の声を無視した。止める気はない。
彼は殺す。
誰よりも、何よりも、自分の……心を。
優真はただ叫び、彼を睨みつけることしかできない。
夜空に浮かぶ彼には何をしても届かない。
兄と慕う少年はいつもと姿が違う。優真は今でもアレは兄とは違う別のモノだとしか思えなかった。
――銀の髪と金の瞳を持つ少年
彼のことを《梟》と呼ぶ人がいることもこの時の優真は知らない。
「しろーーーっ!!!」
撃ち落とされたしろい少女。
(……ゆうま)
声が聞こえた気がした。しろい少女はこの言葉しか知らない。
見たくなかった。でも優真は見てしまう。
傷つき墜ちた少女の血の色もまた
「ああああああ!!!」
しろかった。
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《風森の国》聖堂。
エイルシア・ウインディ、風森の第一王女である彼女は向き合う2体の女神像を前に悲壮な決意を固めた。
「……私しかいない。国もお父様も、リィちゃんだって私しか守れないから……」
女神像の1体を睨み、もう1体に語りかける。
「もう少しだけ待っていてくださいお母様。……私が必ず貴女を解放します」
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《精霊使い》でさえない少年は
再生の地、風森の国で彼女達と出会う
次章 風森の勇者
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