第1話 光臨
俺は目覚めた。体に力がみなぎる。
鬼の力が人間の体を食っている。
鬼と化した俺の存在が人であった欠片を食い尽くしていく。
俺の中に生まれた鬼の核が人間の俺を食いつくし栄養に変えていく。
核の舌が人間だった体を味わい嚥下していく。
旨い。俺の体の美味を味わいながら俺が構築されていく。
血のように赤い俺の右手が鉄の金棒を手にする。先が幅広く棘のような護拳がいくつも飛び出している鬼の金棒だ。
それを振るうと俺の体の感触が伝わってくる。馴れしたんだ男の体に隆々とした筋肉が盛り上がり俺の体を動かしていく。この金棒が箸のように軽い。
指で金棒を回すと轟音を立てながら回転する。何という力だ。
俺が棍棒を握ると額がうずきだす。頭蓋を突き破るよう生えてくる二本の角。体色と同じ赤い角が縮れた黒い髪の間から延びている。
そして俺の牙が角と同じ様に伸びていく。歯を噛みしめ具合を確認する。人間だった頃の歯が口の中に残っているがそれを噛み砕き飲み込む。
これなら人間をいくらでも食える。
俺は恐れおののく人間を前に嗤う。ハァっと呼吸の音が口から洩れる。
とても旨そうだ。俺を食い尽くした鬼の核が次の得物を求めている。
まだまだ足りない。
俺はその欲のまま人間達を狩り立てた。
食欲を満たした俺は食べるときに邪魔だった着物を腰に巻く。
マラも失ってしまったがもう使うこともあるまい。俺はただ人を食らい全滅させる。ただそれだけの存在になったのだ。
ただ恥だけは掻けぬ。それだけは鬼に堕ちた俺の矜持だ。全裸の鬼では猿と変わらぬ。