第4話 従魔契約
フェンリルは従魔契約をする際の注意事項をシエルに伝えた。
「1つ伝え忘れておったが……契約を結ぶ際は、お主の真名で契るのだ。」
フェンリルから真名での契約を求められ、シエルは戸惑う。
神界で交わした女神クロノスの言葉を思い出す。
"決して真名を知られてはいけません……知られてしまえば、名を知る者に支配されてしまうのです――"
「……真名で契約を結ぶ理由を聞いてもいい?女神様は誰かに真名を知られると、その名を知るものに支配されると言っていたわ……」
警戒した様子で語るシエルを見たフェンリルは声をあげて笑った。
「ふっ……我がお主を支配すると?むしろその逆よ。契約者はお主で、従うのは我の方だ」
笑いながら告げるフェンリルに警戒心が解け、シエルもつられて笑う。
「あはは、確かにそうだね。心配しすぎだったみたい。」
フェンリルは真名で契約する理由を説明する。
「例えばの話だが……我とお主の契約を無理矢理にでも破棄しようとする輩が現れたとする。その時に契約時の名と契約破棄する際に使われる名が違えば、術が発動することはなかろう。」
フェンリルはシエル・フェンローズとしてではなく"白銀葵"として契約を結ぶことで悪意のある者からシエルの身だけでなく、契約面も守ることができると伝えた。
「真名での契約に、そんな意味が……。」
フェンリルは頷いて静かに告げる。
「先程も伝えたが……真名契約を交わす以上、お主を無下に扱う真似はせんから安心せい。」
フェンリルから真摯な態度が伝わってきて、シエルは頷いた。
「……分かったわ。それで、従魔契約をするには何をしたら良いの?」
異世界から召喚されたばかりで、これまで一度も従魔契約などしたことのないシエルは、どのように契約を結べばいいのか分からずフェンリルに尋ねる。
「風を連想させる呪文の中に、我の名とお主の真名が入っておれば契約は成立する。」
「風とフェンリル、それから私の真名が入っていればいいのね……」
シエルは少し考え込んでから魔法杖を構え、フェンリルと向き合う。
「天空を駆ける風の獣、フェンリルよ――我、白銀葵の名のもとに誓う……」
凛とした声でシエルが呪文を唱えると、フェンリルの足元に淡い緑の光を放ちながら大きな魔法陣が現れる。
「……我が魂と汝の力を交えし、風の加護を共に纏わん!エアリアル・リンク!」
カッと眩しい光が広がってフェンリルを包み込み、次第に光が薄れていく。
「……終わったの?」
光が収まると、シエルの手の甲には緑色の契約紋が刻まれている。
そしてフェンリルの息遣いや存在感、魔力の流れを微かに感じることができる事に気付いた。
「ステータスを見るが良い。問題なく契約が結ばれていれば、我が従魔として記されているはずだ」
フェンリルに言われるがまま、ステータスを確認すると新しく従魔の項目が増えていた。
それから風属性の適正もA+からSに強化され、使い方が正確に把握できているのを確認した。
「本当だ、契約されてる……」
「真名を扱うことの重大さはお主も知っているだろう。これで我とお主の絆は切っても切れぬものとなった。だが、軽々しく使うものではない。心得ておけ。」
シエルはフェンリルの言葉を聞いて、改めて真名の扱いや従魔契約の重みを実感する。
「分かったわ。これからよろしくね、フェンリルさん。」
シエルはフェンリルを撫で、フェンリルは気持ちよさげに目を細めて身をゆだねている。
フェリルの柔らかい毛並みを撫でながら、シエルはふと疑問に思ったことを口に出した。
「……そういえば、フェンリルさんって名前あるの?」
「我はフェンリルだ。それ以外の名は無い。」
シエルはフェンリルには名前が無いことを知った。
「我輩は猫である、みたいに言わないでよ……名前、つけてもいいかな?」
名付け親になっても良いか尋ねる。
「……好きにするが良い。」
フェンリルからの承諾を得て名前を考える。
「フェンリルだから……フェル……リル……フェルン……」
シエルはぶつぶつと呟いている。
「フェリル!あなたは今日からフェリルよ。」