第3話 フェンリルとの邂逅 ②
神獣フェンリルを信じて、シエル自身が転生召喚者であることを打ち明ける。
「……実は私、異世界の転生召喚者なの。本当ならアヴァルディア?っていう国のお城に召喚されるはずだったんだけど……気が付いたらこの森に飛ばされてたの。」
シエルが異世界人だと聞いたフェンリルの耳がピクリと反応するも、口を挟むことはなく黙って説明を聞いている。
その様子を見たシエルは続けて2つ目の質問に答える。
「そして、あなたを助けた理由は……あなたが神獣だと分かったから。神獣って神様の眷属、なんだよね?だから助けなきゃって思ったの。」
一呼吸おいてから続けてフェンリルに告げる。
「それから、私と同じ銀色の毛色をしていたから放っておけなくて……余計なお節介、だったかな?」
これまで黙って説明を聞いていたフェンリルが静かに口を開いた。
「……いや、お節介などではない。あのままでは確実に我は死んでおった。人間の娘よ、我を救ってくれたこと、感謝するぞ。」
フェンリルから感謝の気持ちを述べられたシエルは、心が温かくなるのを感じた。
「それからお主が森にいる理由と、我を助けた理由も良く分かった。そしてシエルよ、アヴァルディアの王城に召喚されるはずがこの森に転送されたといったな?」
シエルはフェンリルの問いかけにコクリとうなずいた。
「ふむ……だとすれば、お主が召喚されると不利になる何者かが妨害したと考えるのが妥当だろう。」
「やっぱり、フェンリルさんもそう思う……?」
フェンリルは頷き、静かに口を開く。
「召喚を妨害できるほどの力を持つ存在は限られておる。少なくとも、王都の高位魔術師だけでは不可能であろう……。」
フェンリルの言葉を聞いてシエルは首をかしげる。
「じゃあ、一体誰が?」
シエルの問いかけにフェンリルは慎重に言葉を紡ぐ。
「それは我にも分らぬ。だが……そんなことができるのは魔導国家の連中か、神や……魔族くらいであろう」
フェンリルは自分を助けてくれたというシエルへの恩義から、何者かに命を狙われている可能性がある彼女に1つの提案をする。
「シエルよ、お主には瀕死の状態から救ってもらった恩義がある。それから……」
フェンリルはそこでいったん口を閉ざし、一呼吸おいてから静かに告げる。
「お主が王城に召喚されるはずだったというのなら……ただの転生者ではないはずだ。ゆえに――我と従魔契約を結ぶがよい。」
シエルはフェンリルの発言に驚いて目を見開く。
「……契約を結ぶメリットは?」
「我と従魔契約を結べば風属性の適性が追加で付与され、すでに適性のある者は属性が強化される。それからお主を狙う輩から護ってやろう。……護衛といえば分かりやすいだろう。」
フェンリルから従魔契約のメリットを聞いて、シエルは考え込む。
(属性攻撃の中でも風属性を得意としている私にとって、属性の強化は魅力的な提案だと思う。護衛に関しても、狙われている可能性があるのなら契約を結ぶ方が良いかもしれない。)
シエルはフェンリルの提案を受け入れようと思ったが……。
(――でも……もし、契約をした後に裏切られたりしたら……?)
前世のように孤立するのではないか――というシエルの思考を見透かしたようにフェンリルは口を開く。
「心配せずとも、命の恩人を無下に扱う真似はせん。神獣の名に誓って、どんなことがあろうとも最後までお主を守ると約束しよう。」
フェンリルの力強い言葉を聞いて安心したシエルは、1人よりも神獣という仲間がいた方が心強いと考えて従魔契約の申し出を受け入れることにした――。