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第3話 秘匿区域・エスパ=スクレ ①

冷たい空気が肌を突き刺し、魔力石の青白い光が不気味に照らす秘匿区域(エスパ=スクレ)のゲート前。

薄紫色の入口に弾かれてしまったノクターンが拳を固く握りしめ、激しくゲートを叩いていた。


ノクターンがゲートを叩くたびに薄紫の稲妻が走り、手に電流が流れてわずかに顔を歪めた。


「おい!これは一体どういうことだ!?」


鋭い瞳でセラフィウスを睨み、ゲートを叩く手がさらに強く握りしめられた。


「ノクス――!」


シエルが慌ててノクターンのもとへ駆けだした。

しかし、ゲートをくぐり抜けることができなかった――。


「出られない……?どうしてっ――!」


薄紫の壁に隔てられ、離れ離れになったシエルとノクターン。

その背後から低く穏やかな声が響いた。


「あぁ、これも伝え忘れていたのか……」


セラフィウスは頬に手をあて、面白がるような口調でノクターンを見据えた。


「この部屋にはね、特定の魔力を持つ者しか……入れないんだよ」


セラフィウスは妖しげに微笑み、愉しげな声をあげた。


(特定の、魔力……ですって!?)


その言葉にシエルの胸が強く高鳴った。

呼吸が早くなり、フードに隠した顔は焦りが浮かんだ。


(迂闊だった……フェリルが弾かれて、この男が現れた時点で警戒するべきだったのに……!)


ノクターンがいるから大丈夫――と安心しきってしまっていた自分に怒りが募る。


(今ので、私が”何らかの特別な力を持つ者”ってことを……この男に知られてしまった)


シエルは悔しげに唇をかみしめ、魔法杖を持つ手にギュッと力がこめられた。


「特定の魔力って……何のことだ!」


障壁の向こうからノクターンの低い怒号が響いた。


「うーん……文献を読む資格があるか、どうか……ってところかな。」


セラフィウスは曖昧な回答をして言葉を濁した。


「どうやら君は、この部屋に入る資格が無い――そう、判断されたようだね」


口元が弧を描きながら不気味に笑い、三日月のように目が細められる。


「それから、この部屋にはもう1つの仕掛けがあってね――読者が納得のいく答えを見つけるまで……出られないんだよ。」


シエルが深くため息をついてセラフィウスを見つめた。


「……なるほど。それで入ることのできた私が、何故か出られなくなっているわけ?」


セラフィウスが静かに頷き、言葉を紡いだ。


「その通りさ。部屋から出たいなら、この先にある文献を読む事をお勧めするよ」


シエルは警戒の眼差しをセラフィウスに向けて1歩後退った。


(ここから先は、この男と2人きり……もしも何かあったとき、私だけで制圧できるという保証は――できない。……どうしたらいいの?)


チラリと背後にいるノクターンへ目を向けた。

不安げに揺れる濃紺の瞳が、じっとシエルを見つめていた。


(不安なのは、私だけじゃない。ノクスも、1人になる私を心配してくれているんだ……)


少しだけ冷静になれたシエルは小さく微笑む。


(1人なら警戒を緩めなければいい。納得して帰ってきて、大丈夫だったよ――って安心させてあげよう)


シエルはノクターンと向き合って障壁越しにそっと手を重ねる。


「ここで待っていて……必ず、帰ってくるから。」


濃紺の瞳をまっすぐ見つめてシエルは力強く告げた。


「……気をつけろよ、シエル」


ノクターンが小さく呟く。


「必ず……必ず無事に、戻ってきてくれ……」


「うん、行ってきます。」


そっと微笑んだシエルがセラフィウスと向き合う。


「白き魔女の文献まで……案内して」


シエルの言葉にセラフィウスが静かに微笑み、ゆっくりと部屋の中を歩きだした。

一瞬だけ振り返ったシエルは胸元に輝く濃紺のブローチを強く握りしめ、深呼吸をして覚悟を決める。

先を歩くセラフィウスの後を追って部屋の中に姿を消した――。

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