終話 謎解きは月灯りの一室で ②
(それから……神界との関係性も、気になるのよね……)
魔塔主の部屋で星澪石によって投影された幻想的な草原の風景がシエルの脳裏に焼き付いていた。
(印象に残る幻想的な風景を、見間違えるはずがない――)
色とりどりの綺麗な花が咲き誇る美しい草原――。
そして、七色に煌めく虹のような光が架かる澄みきった青空……。
(それからクロノス様と同じ、プラチナブロンドの髪と濃紫の瞳……)
魔塔主は神界や、クロノスと何らかの関係があるはず――とシエルは疑問が確信に変わり始めていた。
(でも――この件に関しては……もう少し証拠が集まるまで、2人には黙っておこう。)
憶測で話をしようものなら、余計な混乱を招くかもしれない――と思ったからだ。
「へぇ、シエルさんの鑑定を弾いた初めての相手が……あの男だったとはね?」
驚きながらもどこか納得した表情を見せるレイノルドが目を見開く。
「……レイ、リアクションが大袈裟すぎる。胡散臭いぞ」
呆れた表情でレイノルドを見つめ、ノクターンはため息をつく。
「うーん……アレは弾いたというより、反応しなかったって言った方が正しいかも。」
レイノルドの声で思考の海から現実に引き戻されたシエルが答える。
「鑑定が反応しなかった、だって?スキルが不具合起こしたとかじゃなくて?」
レイノルドの問いかけに、シエルとノクターンが顔を見合わせて静かに笑う。
「え、何?その反応……すご~く気になるんだけど?」
探るような視線を2人に向けるレイノルドが妖しく微笑む。
「秘密よ、秘密。私と、ノクスだけの……ね?」
シエルの口元が弧を描きながらシーっと人差し指をあてる。
「ノクスって……えぇ?君たち、僕が来る前の一室で何をしていたんだい?」
一瞬だけ鳩が豆鉄砲を食ったような表情でシエルを見る。
すぐに両手で顔を覆って指の間から2人の反応を面白そうにうかがっている。
「お前は、知らなくてもいいことだ」
悪戯な笑みをレイノルドに向け、ノクターンは窓の外に視線を向ける。
幻想的な室内で、お互いの秘密を暴きあったことは……優しく照らす月灯りだけが知っている――。
「また僕だけ仲間外れにして~」
不貞腐れるレイノルドがテーブルに突っ伏せる。
「……でも、ノクスが監視役に僕を選んでくれて助かったよ。おかげで、こちらの任務も同時に遂行できる」
そっと顔をあげたレイノルドが微笑みながら軽やかに告げる。
「……魔塔で、何かするつもりなの?」
心配そうな表情でレイノルドを見つめるシエルが問いかける。
「うん、まぁね。……深く、聞かないでくれると助かるよ」
詳細は語れないと言わんばかりにレイノルドが言葉を濁す。
「刻印も厄介なもんだな。……死ぬなよ、レイ」
レイノルドの態度から危険を察知したノクターンが低い声で親友の身を案じる。
濃紺の瞳は不安げに揺れ、レイノルドを静かに見つめている。
「戦場に行くわけじゃないんだから……。でも――必ず、生きて戻るよ」
レイノルドは微笑み、ノクターンの前に拳を差し出した。
「……絶対だぞ。」
ノクターンはわずかに息を呑み、そっと拳を重ねる。
暁の空の下で交わした、静かな友情の誓い。
昇り始めた朝陽が、2人が進む道を導くように優しく照らしていた――。