第16話 敵か味方か
緊迫する空気の中、一触即発の雷を瞳に宿しているレイノルドとノクターン。
悲痛な表情を浮かべて不安げな瞳を向けるノクターンが小さく呟く。
「……なぁ、レイ。頼むから……嘘だと言ってくれよ。」
レイノルドは問いかけに答えることなく、曖昧な微笑みを浮かべている。
いつ爆発するかもわからない不穏な空間にシエルは焦りを抱いていた。
(このままじゃ、ダメ……2人の友情を、裂くわけにはいかない――!)
信じていた友人に裏切られた過去を持つシエルは、自分と同じ経験を2人にしてほしくない――という思いを抱いていた。
冷静に成り行きを見守っていたシエルだけが、レイノルドの違和感に気付いていた。
(さっきといい、これまでといい――レイノルドさんの発言には、どこか違和感がある。もしかしたら……)
シエルはゆっくりとベッドから降りてレイノルドのもとへ静かに歩み寄る。
「おい、シエル!そいつに近づくな!危険だ!」
ノクターンが慌てて声をかけ、シエルの肩を掴んで引き留める。
「……大丈夫――私を、信じて」
シエルの目に迷いはなく、まっすぐノクターンを見つめる。
「っ……」
そっと彼の手を振り払ってレイノルドと向き合う。
「……君って、本当に無鉄砲だよね。敵か味方かもわからないヤツ相手に、そんな無防備で近づいて――何かあったらどうするつもり?」
皮肉めいた発言をするレイノルドはふっと笑う。
「どうして、こんな回りくどいことをするのか――私には到底理解できないわ……」
シエルも負けじと不敵な笑みをレイノルドに向ける。
「キミが何の話をしているのか、僕には分らないな……」
レイノルドは首を傾げ、虚空を仰ぐ。
「あなた……味方でしょ?」
深紅の瞳がレイノルドの碧眼をじっと見据える。
「……そう思える根拠は何かな?随分と自信があるように見えるんだけど……」
一瞬だけ目を見開くレイノルドだったが、すぐに表情を取り繕う。
「さっきから、さりげなくヒントを残してくれているじゃない。例えば……」
シエルは言葉を区切って深呼吸をする。
「フェリルに正体を見破られたって話――とかね。」
深紅の瞳が鋭く光り、レイノルドを見据える。
「それが起きたのは……王都を発つ前。団長さんの個人邸宅で、置手紙を残したとき――」
シエルは一歩踏み出し、鋭い目でレイノルドを見据えた。
「フェリルに、見つかってしまったんじゃない?」
シエルの発言にノクターンが割り込む。
「待ってくれ!あの手紙は俺も見たが……レイの筆跡じゃなかったぞ?」
シエルはため息をついて静かに告げる。
「そんなの、彼の裏にいる何者かに代筆でも頼んだからに決まっているでしょ。じゃないと――あなたに見破られてしまうから……」
緊張感が漂う部屋の中にパチパチと拍手が響く。
「凄いね、そこまで分かっちゃうの?……でもそれだけだと、僕が味方だという証拠にならないよ?」
レイノルドの碧眼がスッと細められる。
まるで、これ以上踏み込んだら牙を剥く――とでも言いたげに……。