第15話 引き裂かれる友情
敵対の火花が密かに宿る静寂な室内で、レイノルドの低い声が静かに響き渡る。
「シエルさん……まさかと思うけど、僕のステータスを鑑定したりした?」
シエルは片目を押さえたまま無言でうなずく。
「なんて危険な真似を……大丈夫かい?」
心配そうにシエルを見つめ、1歩近付いた。
「それ以上――シエルに近づくな、レイ……」
ノクターンは威圧的な低い声で冷たく言い放つ。
漆黒の長剣をレイノルドに向け、月灯りに照らされた剣先がキラリと光る。
「怖いなぁ……それ、しまってよノクス。親友に剣を向けるなんて、ひどいじゃないか……」
肩をすくめるレイノルドは両手をあげてノクターンに告げる。
「……敵か味方かもわからない奴を、親友だなんて呼べるかよ――!」
ノクターンは眉を顰めて顔をそむける。
その顔は悲痛に歪み、静かに唇をかみしめている。
(団長さん……)
シエルは痛む目を押さえながら、そっと自分に状態回復をかける。
信じていた親友に裏切られた――というノクターンの悲しみと絶望感が、ひしひしと背中越しから伝わってくる。
(どうして、レイノルドさんが……こんなことを?)
過去に同じような状況を経験したことがあるシエルは、ノクターンの気持ちが痛いほどわかる。
困惑した表情で静かにレイノルドを見つめ、静かにノクターンの手を握る。
「そんなこと言われると傷つくなぁ……」
レイノルドはため息をついて碧眼の瞳を伏せる。
「……さっきのは、防御魔法が発動しただけさ」
「防御魔法だと?」
凍てついた目でレイノルドを見つめ、鋭い言葉を投げかける。
「僕のステータスは……ただの情報じゃないんだ。だから厳重に封じられてるのさ」
ノクターンは保護魔法をかけた人物を問いただす。
「……誰にだ」
レイノルドが静かに首を横に振る。
「それは……残念だけど、言えないなぁ。」
少しの沈黙の後、レイノルドが小さな声で告げる。
「まさか、シエルさんが鑑定を使えるなんてね……。本当に、君たちの側にいると――想定外な事ばかり起こるんだから……」
レイノルドは深いため息をつく。
「鑑定を弾いたのは……あなたで、2人目。」
1人目は魔塔主――セラフィウス。
あれは弾いたというより、何の情報も表示されなかった……という方が正しい。
シエルは魔塔で鑑定を使った相手がノクターンで良かったかもしれない――と安堵の息をつく。
もしあの場でレイノルドに鑑定をかけていたら……と考えただけで背筋が凍る。
「へぇ?記念すべき1人目は誰なんだい?」
驚いた表情を見せるレイノルドは、シエルの鑑定を弾いたもう1人の相手が誰なのかを尋ねた。
「信用できないお前に打ち明ける話じゃない。この件は俺とシエルの秘密だ」
ノクターンは剣を構えたまま素っ気なく答える。
「僕だけ仲間外れなのは悲しいな……まぁ、仕方ないんだけどねぇ」
レイノルドの碧眼の瞳がノクターンの濃紺の瞳を捉えて静かに睨み合う。
2人の間には緊迫した空気が漂い、敵対の火花があがっていた――。