第14話 明かされる正体 ②
静寂と緊張感が支配する宿の中、レイノルドが重たい沈黙を破った。
「2人が今の僕を見るのは初めてだから自己紹介をしようか――。副騎士団長のレイノルド・ヴォルフガング改め……」
ニヤリと妖しげな笑みを浮かべるレイノルドの金髪が、窓から差し込む月灯りに照らされて不気味に輝く。
「――アムトール。それが僕のコードネームさ。」
シエルの深紅の瞳が不安げに揺れ、レイノルドを見つめる。
(目の前にいるのは、紛れもなくレイノルドさん……彼は敵、なの？)
信じられないという表情でノクターンが静かに口を開く。
「レイ……お前は敵なのか、それとも――裏切者か？」
嘘であってくれ――と願うノクターンの瞳が不安げに揺れている。
「さぁ……それはどうだろうね？」
碧い瞳がスッと細められ、獲物を捕らえる猛禽のようにノクターンを鋭く射抜く。
「何が、目的なんだ？」
そっとシエルをかばうように前に立ち、探るような声をかける。
「それは言えないなぁ……。でも、ここで君たちに正体がバレちゃったのは正直――想定外だよ」
ようやく麻痺が解けたレイノルドは、よろめきながらもそっと窓辺に腰かける。
「僕の正体に気付くのは、あの”ワンちゃん”だけにしてほしかったなぁ……」
ふっと自嘲気味に微笑んでシエルを見る。
「ワンちゃん……って、フェリルのこと……？」
戸惑いの表情を浮かべ、深紅の瞳が見開かれる。
「そうだよ。前回訪問した時にあっけなく見つかっちゃってねぇ……」
小さなため息をつきながらレイノルドは続ける。
「獣の前で隠密は無意味だ――って、ご丁寧に助言をくれたんだ」
雲に隠れていた月が顔を覗かせ、窓辺を妖しく照らし出す。
月灯りに照らされたレイノルドがニヤリと不気味に笑う。
(前回……正体を知ったフェリル……まさか――！)
シエルは何かに気付いてレイノルドを見つめる。
「レイノルドさんは――」
「レイ、お前は……あの魔塔主に操られているのか？」
シエルの声にかぶせてノクターンが告げる。
「……え？」
シエルは防御魔法が突破されたのかと思い、驚いた表情でノクターンとレイノルドを見つめる。
「あははっ、面白いことを言うねぇ……ノクスは。」
クスっと笑って静かに答える。
「シエルさんがくれたお守りのおかげで無事だよ、今のところはね――」
そこで言葉を区切って呼吸を整えてから再び口を開く。
「……でも、気を付けた方が良い。あの男、巧妙に隠蔽しようとしているよ」
(警告、してくれてる……？)
シエルたちを案じて警告をするレイノルドに対してシエルは警戒の眼差しを向けている。
(レイノルドさん……あなたは本当に、私たちの味方？それとも……)
シエルはそっと鑑定を発動させてレイノルド情報を確認しようとした――その瞬間。
――バチッ
「痛っ……！」
突如として空間を裂くような雷鳴が轟き、眩い閃光が走った。
シエルは突然の痛みにビクッと身体を揺らし、痛む目を押さえて苦痛に顔を歪めた――。
(なに、今の……。鑑定が――弾かれた？)
「シエル、大丈夫か！？」
ノクターンが駆け寄りシエルの顔を覗き込む。
涙目になりながらシエルは大丈夫だと頷く。
「レイ……貴様、シエルに何をした！」
濃紺の瞳に怒りの炎が宿り、レイノルドを鋭く睨みつける。
「……僕じゃないよ。」
レイノルドも目を見開き、両手をあげて無実を主張する。
自分にも何が起こったのか分らない、という驚きの表情を浮かべてシエルを心配そうに見つめる。
(……まさか――)
レイノルドの表情が、ふと険しくなる。
彼は静かに息をのみ、ゆっくりと口を開いた――。
