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第12話 再び訪れる黒い陰

宿の外壁は幻想的な月灯りに照らされて淡く輝き、星空のように煌めいていた。

隣接された魔厩には魔法生物たちが快適に過ごせるよう整備されている。


通路には柔らかなカーペットが敷かれ、それぞれの個室には夢見羊(レーヴムー)の羊毛をふんだんに使った大きなクッションが置かれている。


その一室に、フェリルが不貞腐れた表情で寝転がっていた。


「なぜ我が、こんな場所で寝泊まりせねばならんのだ……」


フェリルは文句を言いながら、ふかふかなクッションを前脚で叩いている。


「……む?この感じは――」


ふと、得体の知れない悪寒が背筋を撫でた。

フェリルはピクリと耳を動かし、ため息をついて静かに魔厩を出ていった――。


「全く――貴様は懲りずにまた来たのか……」


フェリルがグルルと低く威嚇しながら、漆黒のローブに身を包んだ男を鋭く射抜く。


「おや、ご丁寧にお出迎えしてくれたのかい?嬉しいなぁ……。神獣様がいるってことは、ようやく当たりを見つけたようだ」


ローブの男はおどけながらも、探していたという口ぶりで告げる。


「あれほど気をつけろって忠告したのに……さて、彼女は無事かな?」


ローブの男が深いため息をついて魔厩から出た来たフェリルをフード越しに見る。


「我は宿に入れぬから仕方あるまい……だが、1人ではない。」


「えぇ、まさか……同衾してる?」


フェリルの発言にローブの男は大袈裟に驚いたリアクションをとる。


「いかがわしい発言をするでない!」


短く咆哮したフェリルは静かに告げる。


「……団長殿が、隣室で待機しておる。何かあればすぐに駆けつけてくるぞ」


宿の事情を把握していないフェリルは、部屋が足りずに2人が同室しているということに気付いていなかった――。


「……へぇ。それだったら都合がいい。」


男の口元は妖しげに弧を描き、ニヤリと笑う。


「……貴様!一体何を企んでおるのだ!」


今にも跳びかかりそうな勢いでフェリルは激しく威嚇をする。


「勘違いしないでよ。僕は警告文を届けに来ただけ!」


サッと距離を置いた男は懐から1枚の封筒をフェリルに見せる。


「まったく……面倒なことをするもんだ。直接言えばいいものを……」


フェリルはため息をついて男の持つ封筒を見つめる。


「それができないから、こうして面倒なことをしているのさ……」


両手を左右に広げた男は深いため息をついて首を振る。


「主に危害を加えたらどうなるか……わかっておるな?」


深緑の瞳をスッと細めてローブの男を鋭く睨む。


「もちろんさ。僕はまだ長生きしたいからね……」


ローブの奥から覗く碧い瞳が妖しく光る。


「それにしても、こんな郊外に宿をとるなんて……探すのに苦労したよ」


男は額に手をあてて静かに呟く。


「街中には厩のついた宿が無いから仕方なく、だ。」


フェリルは不満そうな声をあげる。


「神獣様が厩で寝泊まりするなんて……滑稽だね」


クスっと笑うローブの男にフェリルの怒号が響く。


「黙れ小僧!無駄口の減らぬその首をへし折るぞ!」


銀糸の毛並みが逆立ち、ガルルと低い唸り声をあげながら男にとびかかる。


「おぉ怖い……少しからかっただけじゃないか。」


フェリルの突進を華麗に避けた男は屋根の上に着地する。


「僕はもう行くよ。これ以上の長居は危険だからね」


そう言い残し、影のように屋根の上を疾風のように駆け抜ける。

月灯りに照らされた男の姿は一瞬にして闇夜の中に消えていった――。

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