表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/69

終章 異世界に転生、そして召喚

先程までいた幻想的な草原とは一変し、目の前に広がっていたのは神秘的な異空間だった。


複雑な模様が描かれた巨大な魔法陣は足元で淡い光を放ち、石造りの閉ざされた空間には、青白い宝石のような光がふわふわと漂っている。

低く響く振動音が耳に届き、冷たい空気が頬を撫でるたびに、葵は現実とは異なる世界にいることを改めて実感する。


「女神様、ここは……?」


不安そうに声を漏らす葵を見て、クロノスが穏やかに微笑む。


「ここは、転生召喚を執り行う儀式の間です。」


クロノスの柔らかな声が空間に響き、葵の胸に少しだけ安心感が広がった。


「転生召喚……新しい世界は、どんなところなんですか?」


葵の瞳には、期待と不安が入り混じった光が宿っている。


「あなたが召喚されるのは、王都アヴァルディア。剣と武術が発展し、ドワーフや獣人といった異種族が共存する国よ。法律で差別が厳しく禁止されているから、安心して暮らせると思うわ。」


「差別の、無い国……」


葵はクロノスの言葉を反芻し、胸に温かな感情が芽生えるのを感じた。


(この国なら……私も、受け入れてもらえるかもしれない。)


クロノスは静かに続ける。


「そして、この国には……あなたの魂の力を必要とする者たちがいます。」


「私の力を、必要としている……?」


(自分の力が何なのかもわからないのに、大丈夫なのかな……)


不安げに揺れる葵の瞳をみてクロノスは優しく微笑む。


「心配しなくても、大丈夫ですよ。あなたの力のことは、いずれ判明します」


一呼吸置いた後、クロノスが静かに告げる。


「あなたはこれからシエル・フェンローズとして生きていくのです。……決して、本名を明かしてはいけないわ。」


本名を明かしてはいけない――クロノスのその言葉に、葵は小さな不安を抱く。


「もし、本名を明かしたら……どうなるの?」


クロノスは少し表情を曇らせた後、答える。


「真名を明かせば、あなたはその名を知る者に縛られてしまうわ。強大な力を持つ召喚者は、狙われやすい存在だから……。」


クロノスの説明に、葵は小さく息を呑む。

その危険を避けるために新しい名が必要なのだと理解し、決意を固める。


「さぁ、そろそろ出発の時間よ。魔法陣の上に立ちなさい」


クロノスは優しくと促すと、葵は深呼吸して覚悟を決めた。


「女神様……いいえ、クロノス様。私にもう一度、希望をくれてありがとうございます。」


葵の言葉に優しく微笑みながらクロノスは魔法陣を起動させるための呪文を唱える。


「星の記憶よ、風の伝説よ、命を紡ぐ大地よ……」


クロノスが凛とした声で呪文を唱え始めると、柔らかな淡い光が魔法陣から立ち上り、葵を優しく包み込んだ。


だが、その瞬間――。


突然、バチバチという音とともに黒紫色の稲妻が空間を切り裂き、魔法陣を書き換える。


「この力……まさか……!」


クロノスの眉がわずかに歪む。

魔法陣の光が本来の淡い輝きから、禍々しい紫へと変化する。


「この転送先は……ダメ、違う……!」


必死に修正を試みるクロノスだが、間に合わず、葵は眩い光の中に飲み込まれていった――。


「どうか、ご無事で……」


転生して生き返った魂は、時空の女神といえど干渉することは許されていない。

クロノスは葵が消えた魔法陣を、悔しそうに見つめながら静かに祈った。


「私の役目はここまで。約束は果たしたわよ――レテナシス……」


クロノスは小さなつぶやきと共に光の中へと姿を消した。

新たな世界で待ち受ける運命がどんなものなのか、誰も知らないまま――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ