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第5話 魔塔の主

騎士団一行がゲートを抜けると、目の前に広がっていたのは、幻想的で神秘的な空間だった。


天井には星々が煌めき、漆黒の壁には銀色の燭台が飾られて魔力石の青白い炎が静かに燃えている。

水面の床には黄金色をした大きな魔方陣が淡い光を放ち、その下を美しい魚たちが優雅に泳ぐ。

一行が動くたび、床一面にゆっくりと波紋が広がる。


「何だ、この部屋は……幻術か?」


ノクターンは不思議そうな顔で周囲を見渡している。

天井は見当たらず、代わりに無数の星々が静かに煌めいていた。


「綺麗……プラネタリウムみたい……」


天井の星空を見上げながらシエルは小さく呟いた。


「ほう、これは珍しい。星澪石(せいれいせき)が組み込まれた部屋か……」


フェリルは水面の床を爪でつついて関心を示す。


『せいれいせき?』


シエルとノクターン、それからレイノルドが同時に声をあげる。


――星澪石。

周囲の魔力と共鳴し、使用者の意思や精神状態によって構造を変える特殊な魔力伝導鉱石。

非常に希少な存在のため、高値で取引されている代物。


「御明察。流石は神獣様だ……」


突然、背後から穏やかな声が響いた。

一行が振り返ると、そこには金糸の刺繍が施された漆黒の魔導服に身を包んだ長身のエルフが、静かに佇んでいた。


「ようこそ、大魔塔・アストラリウムへ。私は魔塔主のセラフィウス」


「アストラリウム……ね」


シエルは苦笑いを浮かべ、天井に煌めく星を見ながらこの部屋にピッタリの名前だと思った。


「やはりエルフとなれば見る目が違うな。一目で我を神獣と判断したか」


セラフィウスは柔らかく微笑み、静かに告げる。


「神獣様が言う通り、この部屋には星澪石が使われている。そして私の意思や、精神状態の変化によって部屋の構造が変わるのさ。このように――ね。」


セラフィウスがパチンと指を鳴らすと星空が快晴に変わり、水面の床が草原に変わった。


「……すごい」


シエルが目を見開いて驚き、何かに気付いた。


(待って……この草原――!)


色とりどりの花が咲き誇る草原と七色の光が浮かぶ青空。

初めてクロノスと出会った、神界の草原に――酷似していた。


(偶然?それとも……)


深くかぶったフードの奥から探るような視線をセラフィウスに向ける。

プラチナブロンドの髪を後ろでまとめて毛先を肩に垂らし、濃紫の瞳が優しげに細められている。


(瞳も、髪も……クロノス様と同じ。偶然にしては、出来すぎている……)


部屋だけじゃなく容姿まで酷似する偶然などあるのだろうか――という疑問がシエルの中で密かに芽生える。


――鑑定。


シエルは周囲に気付かれないようにスキルを発動させた。

だが、そこには――何の情報も表示されなかった。


まるで、この人は"見るな"とでも言うように、情報が隠されている……。


(……どういうこと?スキルの不調かしら……)


試しにフェリルを鑑定してみる。

鑑定画面にはフェリルのステータスやスキル、主従関係などが事細かに記されていた。


(フェリルは確認できる……従魔だから?)


フェリルは従魔だから確認できるのかもしれない――と思ったシエルはチラリとノクターンを見る。


(勝手に覗くのは気が引けるけど……ごめんね)


心の中で謝罪をして今度はノクターンを鑑定する。

ノクターンのスキル、ステータス、家族構成などが確認できた。


(これは――勝手に覗いていいものじゃなかったわね。……でも、これで分かった。あの人を信用したら、ダメ――)


シエルの胸の内では静かにセラフィウスへの警戒の火が灯る。

彼を信用してはならない――そう確信するのは、まだ少し先の話だった……。

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