第14話 謁見の後は…
謁見の間を出たシエルは、足元を見つめながら歩いていた。
先程の国王の言葉が、何度も頭の中に反響していた――。
(私が、白き魔女の生まれ変わり……ね。)
深いため息をついて窓の外に目を向ける。
窓辺から差し込む陽射しが、床に柔らかな光の模様を描く。
見上げると、雲1つない青空が広がっていた。
(実際に異世界に転生しちゃうくらいだから、私が伝説の大魔導士が生まれ変わった姿でした――なんて話もあり得ない訳じゃない。)
窓の外に広がる澄みきった快晴とは正反対に、シエルの心の中はモヤモヤと曇っていた。
(もし、本当に生まれ変わりだったとして……私は、白き魔女としての使命を果たさないといけないの?)
伝説と呼ばれた英雄と同じことが自分にもできるのだろうか……と不安が広がっていく。
ふと、クロノスの言葉が鮮明に頭の中で再生される――。
”あなたの魂には特別な力が宿っているのです――”
(クロノス様が言っていた”魂の特別な力”っていうのは、大魔導士の力が宿っているってことなのかも……)
「生まれ変わりが転生する確率って、どれくらいなんだろう……」
今にも消え入りそうな声でポツリと呟く。
「……じ、……のか?」
俯きながら考え事をしていたシエルの顔を、フェリルが覗き込んでくる。
「……主!聞いておるのか?」
シエルはハッとした表情でフェリルをみる。
「……ごめんフェリル。考え事をしていたの。どうかした?」
申し訳なさそうな表情でフェリルに謝ると、そこにはノクターンとレイノルドもいた。
「用があるのは我ではない。こっちだ」
そう言ってフェリルは鼻先でノクターンを指し示す。
「今日の夕餐はレイも誘って俺の家で食べようかと声をかけたんだが……良かったか?」
ノクターンがレイノルドを指さしてシエルに問いかける。
「……彼はあなたの幼馴染なんだし、私の許可なんて不要でしょ?」
どうして自分の許可がいるのかと疑問に思っているようでシエルは首をかしげる。
「お前は用心深いというか警戒心が強いというか……よく知りもしないレイと一緒に食事をしても平気か、という意味で聞いている」
前世では罵られ、冷遇され、居場所も無く孤独だったシエルはノクターンの不器用な優しさに触れて心が温かくなるのを感じた。
(誰かに心配されたの、初めてかも……。この人は、私を仲間として扱ってくれるんだ……。)
柔らかく微笑み、ノクターンに告げる。
「……この機会にレイノルドさんと仲良くなるのも、悪くない……かな。」
言いながら恥ずかしくなったシエルは最後の方で顔をそむける。
「へぇ……噂の召喚者さんと一緒に食事ができるなんて光栄だなぁ。よろしくね、シエルさん」
優しい眼差しをシエルに向け、ふんわりとした口調で告げる。
「……ウワサって?」
シエルは前世のような悪い噂でも出回っているのかと身構える。
「うちのボスを手懐けるほどの人物ってことで、みんな興味津々さ。」
パチンとウィンクをして笑いながら言う。
「……手懐ける?」
死神だとか悪魔だとか言われているのかと思ったシエルは拍子抜けしたようにレイノルドを見つめる。
「……レイ。」
ノクターンは「止めてくれ」と言わんばかりにため息をつきながらレイノルドを制止させる。
「じゃあ、俺たちは馬を連れてくるから城門前で落ち合おう。」
そういって厩の方へ足を進めようとしたノクターンが、ふと立ち止まって振り返る。
「あぁ、そうだ……今日は迷うなよ」
以前シエルと城門で待ち合わせた際に迷ったことを覚えていたノクターンは、いたずらな笑みをシエルに向けて静かに告げる。
「~~~迷わないしっ!……たぶん」
シエルは顔を赤らめながら猫のように威嚇して強く言い返すが、最後の方は小さな声でポツリと呟いた。
「それじゃあ、後でな」
ノクターンとレイノルドは厩の方角へ、シエルとフェリルは城門へと向かい足を進めた――。