第13話 告げられる真相
静寂と緊迫が支配する空気の中、国王がゆっくりと口を開いた――。
「召喚者は……伝説の大魔導師・白き魔女の生まれ変わりである可能性が高い――。」
一瞬の静寂の後、場内はざわめきに包まれる。
「魔王を封印した、あの伝説の……?」
「馬鹿な!白き魔女は500年前の存在だぞ!そんな都合よく生まれ変わるものか!」
「しかし、容姿は伝説と酷似している……だとすれば、彼女は……?」
囁き合う貴族たちは互いに顔を見合わせた。
驚愕と疑念が入り混じる中、シエルは熱い視線を浴び、思わず顔を伏せる。
(伝説の大魔導師の生まれ変わりが、私……?)
突然の出来事にシエルは理解が追い付かない様子で両手をぎゅっと握り締める。
(だって、私は日本で生まれて……ただの高校生だった。転生して、召喚されて、それだけで精一杯なのに……)
そこでシエルはふと何かを思い出し、ハッとする。
日本人らしくない異端な容姿。
3年前から見るようになった奇妙な夢――。
(あの夢は、ただの夢じゃなく……この事を暗示していたとしたら?)
自分と同じ銀髪紅眼の魔導士が1人で魔族を一掃して魔王を封印する――。
という不思議な夢がシエルの脳裏で鮮明に浮かびあがった。
(……そっか。もしかすると私は、本当はこの世界で生まれるはず……だったのかもしれない――。だから、前世で周囲から冷遇され、常に孤独を感じていた……。)
その原因が分ったシエルは少しだけ納得すると同時に混乱する。
(私がいるはずの世界は日本じゃなくて、本当は異世界だったとしたら……どうして、私は日本で生まれたんだろう……)
シエルが日本で、葵として生活していた17年間は仮初の姿だったのかと思うと、わずかに心が痛む。
(私は誰のために、何のために存在しているの……?)
自分の正体が掴めないシエルの瞳が不安げに揺れている。
ノクターンも驚いた表情でシエルを見つめる。
(ただ者じゃ無いとは思っていたが、まさか伝説の大魔導師が生まれ変わった姿だったとは……)
深いため息をつきながら「そりゃ狙われるわけだ」と納得する。
(主がただの転生者では無いことは薄々勘付いておったが……まさか、ここまでとはな。)
シエルがただの転生者では無いと気づいていたフェリルですら、王から知らされる事実に驚きを隠せないでいた。
「鎮まりたまえ。皆が驚くのもわかる……。だが、まだ確証は無いのだ。」
王は一旦口を閉ざし、しばらく沈黙した後、静かに告げる。
「そこで召喚者よ。」
国王が混乱しているシエルをまっすぐ捉える。
「其方はブラックウィングと共にアストラルヴィエンへ赴き、アヴァルディアから魔塔に移して保管している白き魔女の文献を調査するのだ」
王の言葉に、シエルの心がざわつく。
(隣国の、アストラルヴィエンへ……?)
伏せていた顔をあげて王を見つめる。
(私はまた知らない土地に行くということ……?)
アヴァルディアの王城でさえ襲われたのに、果たして異国の地で無事に過ごせるのか……という不安を覚える。
(……でもみんなと一緒なら、見知らぬ土地でも怖くない……かも。)
しかしフェリルや騎士たちという顔見知りと一緒ということもあって、その不安は次第に和らいでいく。
国王は一呼吸おいてからゆっくりと告げる。
「其方が何故この地に召喚されたのか、白き魔女の生まれ変わりである確証を調べてくるがよい」
シエルは未だに頭の整理ができていないが、国王の命令に頭を下げる。
「……分かりました。私が、白き魔女の生まれ変わり……というのは、正直まだ実感がわかないですが、調査するにあたって真相が見えてくるはずです。」
シエルは国王をまっすぐ見つめる。
「ブラックウィング、それから召喚者シエル。よい報告が聴けることを楽しみにしておるぞ。本日の謁見はここまでとする。皆、下がってよい」
国王は威厳に満ちた口調で謁見の終了を宣言した。
2度目の謁見は多少の騒動があったものの、大きな事件は起こらず無事に幕を閉じた。
動揺と混乱がおさまらないまま、シエルは謁見の間から静かに退出した――。




