第12話 謁見再開
家臣による召喚者の暗殺未遂事件から約1週間後――。
中断された謁見の再開が通達され、王城には先日と同じ顔ぶれが集まっている。
謁見の間には家臣や貴族たちが静かに並び、その後方には衛兵が無言で警備にあたっていた。
通常ならば、王直属の騎士団であるブラックウィングが主に警備を務めるはずだが……今日は別の騎士団がその任を負っている。
その異例の措置が、先日の事件の影響を物語っているように見えた。
しばらくして全員が揃い、ようやく謁見が開始された――。
「皆、よくぞ集まってくれた。先日は罪人ストラウスが召喚者を襲撃したことにより中断された謁見を、これより再開する。」
王が口を開くと、ざわついていた城内が一瞬で静まり返り、謁見の間に静寂が訪れる。
「まず初めに、前回中断された表彰式を執り行う。ブラックウィング一同および召喚者シエルよ、前に出るが良い」
シエルは緊張のあまり、両手を強く握りしめる。
(……大丈夫。今のところ、嫌な気配はしない。)
前回の一件から学習し、シエルは入場時から気配探知を発動させていた。
流石のシエルでも城内全体を探るのはマナの消耗が激しすぎるため、謁見の間だけに焦点を当てている。
(もし、この場で誰かが不審な動きをすれば、すぐに察知できるはず……。)
そう考えながら、場内に不穏な気配が無いか常に警戒していた。
(フェリルや騎士たちもいる。私はもう、1人じゃない――だから、大丈夫。)
自分に言い聞かせるように深呼吸をした後、玉座へと足を進める。
全員が前に出揃ったところで、王が表彰式を開始した。
「変異種、ヴェルガルム・ブラッドウルフの討伐に成功したブラックウィングおよび、召喚者シエル。その功績を称え、ここに表彰する。」
前回のように襲撃される事もなく、無事に表彰式が終わったことでホッとするシエル。
元の位置へ戻ると王が再び彼らに告げる。
「次に……。ブラックウィング一同。其方らには罪人ストラウスが黒幕と通じていた秘密保持の盟約を解明するための調査を任せたい。」
王は一旦口を閉ざし、少しの沈黙後に力強く命じる。
「明日から隣国のアストラルヴィエンに赴き、魔塔の調査員とともに盟約の内容および黒幕の正体を調査せよ。よいな?」
王の眼差しが騎士たちを射抜いた。
(これが、この国の頂点に君臨する者の圧力……逆らえないのがひと目でわかる)
まるで、逃げ場のない檻の中に閉じ込められたかのような錯覚に陥る。
その場の誰もが、彼の一言で運命が変わることを理解していた。
「承知しました。ブラックウィングの名にかけて、必ずや黒幕の正体と盟約の内容を突き止めてみせます」
ノクターンが跪き、力強く王へ告げる。
「それから最後に……」
王がそこで口を閉ざす。
場内に少しの沈黙と、緊張感が漂い始める。
(……何、この空気。何かが、起こる――?)
危険な気配ではない。
でも、どこか不吉な予感がする。
ただならぬ空気を感じ取ったシエルは、小さく息をのむ。
「……大丈夫だ」
それに気付いたノクターンは小声でシエルに伝え、シエルは無言でうなずく。
(これが危険な気配じゃないのはわかってる。でも――)
まるで、これまで積み上げてきたものが、一瞬で崩れ去るような――そんな、嫌な感覚。
(王様は、一体何を伝えようとしているの……?)
シエルは不安げに揺れる瞳で王を捉える。
そして、ゆっくりと王が口を開いた。
これから伝えられる内容が、驚愕の真相だということに気付いた者は……誰一人としていなかった――。