第3話 奇襲
変異種の討伐に貢献したブラックウィングとシエルは国王からの表彰を受けるため、謁見の間の最奥にある玉座へと足を運ぼうとしていた。
シエルが玉座へと向かう為に1歩踏み出したその時――ノクターンの感覚が鋭く反応した。
空気の流れが変わり、肌に突き刺さるような違和感を覚える。
次の瞬間――ためらいなくシエルの腕を掴んで自分の胸元に引き寄せた。
「ちょっと、こんな場所で何をっ……」
公衆の面前で突然抱き寄せられた羞恥心と戸惑いが、シエルの思考を一瞬で麻痺させた。
それでも反射的に抵抗しようとノクターンを突き飛ばそうとする。
「動くな、シエル」
低く鋭い声が、彼女の動きを止めた。
(何?一体、何が起こってるの……?)
シエルは動揺で体が硬直し、ノクターンの腕の中で身をゆだねるしかなかった。
ノクターンの視線は何かを追い、鋭い音が静寂を引き裂いた。
――シュッ!
その瞬間――先ほどまでシエルが立っていた床にナイフが深々と突き刺さり、冷たい金属音を響かせた。
「……ナイフ?」
シエルは状況を理解できず、ノクターンの腕の中で小さく震えた。
(私、今……命を狙われたの?)
先程までの羞恥心は消え、代わりに背筋を駆け抜ける冷たい感覚が残っている。
(もし、彼の腕を振り払っていたら、私は……)
ノクターンの腕に支えられながら、シエルは呼吸が浅くなっていることに気付いた。
「――大丈夫だ、お前は俺が守ると言っただろう」
ノクターンの言葉が耳に届き、シエルは緊張の中でホッと息をついた。
その瞬間――フェリルが低い唸り声を響かせ、威嚇する。
――グルルルルッ!
フェリルは力強く地面を蹴り上げると、ナイフが飛んできた方向へと駆けだした。
床を叩く巨大な足音が響き渡り、その威圧感に謁見の間の空気が凍りついた。
「ひっ……!」
家臣たちは動けず、恐怖に顔を歪めながらフェリルの鋭い視線を見守るしかなかった。
「奇襲だ!衛兵は扉を封鎖し、騎士たちは国王を守れ!」
ノクターンの指示に衛兵たちが素早く動き始める。
衛兵たちも迅速に、重厚な扉を固く閉じた。
その間も騎士たちは国王とシエルを守るように動き続け、場の緊張はさらに高まっていく――。
シエルの視線はフェリルが睨む先へと釘付けになる。
フェリルの威嚇に冷や汗を浮かべ、その瞳には異様な光を宿している1人の家臣――。
その男を見たシエルの心に、じわじわと不安の波が広がっていくのを感じた。
(……この人が、あのナイフを……?)
シエルの視線はナイフと男の間をさまよい、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
男が何かを呟いた瞬間、シエルの胸にさらに重い不安が押し寄せた――。




