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第2話 王との謁見

衛兵と騎士団に続き、シエルも謁見の間に足を踏み入れた。

広大で厳格な空間に委縮してしまいそうになるのをぐっとこらえた。


(すごい……これが、アヴァルディアの王城……)


高い天井には豪華なシャンデリアが輝き、その光が大理石の床に反射して幻想的な光景を作り出している。

両脇には歴代の王を描いた巨大な肖像画が並び、見る者に畏怖を抱かせるほどの威厳が漂っている。


(……こんな場所に、私が立つなんて、場違いなんじゃ……)


シエルは息をのむと同時に、自分がこの場にいることへの不安と期待が胸の内を駆け巡った。


周囲には家臣や貴族たちがずらっと並び、こちらを見ていた。


騎士団一行は玉座に鎮座している国王の下まで足を進め、跪く。

シエルも真似して膝をつき、フェリルも頭を下げる。


「国王陛下、ブラックウィングが変異種討伐より帰還したことと、道中で珍しい客人を保護したことをご報告いたします。」


ノクターンはかしこまった口調で国王に告げる。


「ご苦労だった、楽にして話すがよい。」


国王の言葉にノクターンは感謝の言葉を述べ、立ち上がり討伐時の状況を説明する。


「ヴェルグリムの深森に出現した変異種は、フォレストウルフが何らかの外的要因で変異したもののようです。変異種は物理攻撃と魔法攻撃に耐性を持っており、我々でも討伐に苦戦するほどの強敵でしたが……」


ノクターンはそこで言葉を区切り、一呼吸おいてから再び口を開いた。


「討伐任務を遂行中に出会った、こちらの珍しい客人……いえ、異国の召喚者――シエル・フェンローズの協力のもと、無事に討伐を果たせました。」


シエルが異世界の召喚者であることをノクターンの口から告げられると、周囲の視線が一斉に自分へと向けられるのを感じ、シエルの胸がぎゅっと締め付けられる。

その中の1人が、不穏な眼差しをシエルへ向けていることに、この時はまだ誰も気づいていなかった――。


(……異世界から来たなんて、彼らからどう思われているんだろう……)


緊張に押しつぶされそうな胸の内で、絨毯に視線を落とす。

だが、ノクターンの背中を見たその瞬間、彼女の心に微かな希望が灯った。


「異世界の召喚者だと!?」


「あれは失敗したんじゃなかったのか……!」


「……静まりたまえ」


王が制止を呼びかけると、場内に静寂が訪れて沈黙の空気が流れる。


「シエルと言ったか……其方が異国の召喚者だというのは、本当なのか?」


(……これが、この国の頂点に立つ人……)


国王の探るような視線に、シエルの心臓が高鳴る。


(私の話を、ちゃんと信じてもらえるのだろうか……?)


深呼吸をして気を落ち着けながらも、手の震えを隠すことができない。

だが、ノクターンの視線が背中に感じられた瞬間、ほんの少しだけ勇気が湧いてきた。


「……おいっ、フードを脱げって!」


ノクターンの小声が飛んできて深くかぶっていたローブのフードを引っ張る。


「あっ、ちょっと……!」


シエルが抵抗するよりも早くフードが脱げ、そこに隠されていた銀髪と紅い瞳が露になった途端――。

城内にいる人たちが驚いた表情でシエルを見つめ、周囲が突然騒がしくなった。


「あの姿はっ……!」


「いやいや、他人の空似だろう」


周りの人たちがシエルの容姿を見て騒ぎ出したことに不安を覚える。


(もしかして、私が異質な姿をしているから……?)


「……鎮まれ。」


国王が制止をかけると時が止まったかのように一瞬で静まり返った。


「召喚者よ、もう一度問う。其方がこの国に召喚されたということは事実なのか?」


威厳のある眼差しがシエルを捉え、静かに問いかける。


「……はい、先程ノクターン団長が仰った通りです。……私は、この世界では無い地球という世界の日本という国から転生し、こちらに召喚されました。」


シエルは覚悟を決めて召喚が失敗した原因と森に飛ばされた経緯を説明する。


「本来ならば、この王城の中に……召喚されるはずだったんです。」


震える声で話しながら、シエルはその場の反応を伺った。


「けれど、何者かがそれを妨害して……気がついた時にはヴェルグリムの深森にいました。」


家臣たちはシエルの言葉に驚愕し、顔を見合わせながらざわめき始めた。


「異世界の召喚者があのヴェルグリムに飛ばされるとは……」


「一体誰がそんな妨害を……」


囁き声が次第に大きくなる中、国王は眉をひそめ、静かに口を開いた。


「……静まれ。我が王国に無用なざわめきは不要だ。」


その一言が放たれると、場内は水を打ったように静まり返った。


静寂が訪れた場内でシエルは説明を続ける。


「……そして森を彷徨っている途中で騎士の皆さんと出会い、保護という名目で協力を求められ、討伐に同行して共に変異種を倒しました。」


そこで言葉を区切ってシエルはチラリとフェリルを見る。


「変異種は……ここにいる私の従魔――神獣フェンリルを不意打ちで瀕死に追いやるほど、強大な力を持っていました。」


ここまで黙って話を聞いていた国王がシエルを見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「まずはその命を繋ぎ、無事にここに辿り着いたことを称えよう。変異種はフェンリルをしのぐほどの力があったようだが……どのように討伐したのだ?」


シエルは国王の問いかけを簡潔に説明した。


「まずはハリケーンで視界を奪い、気配探知で敵の動きを読み取りました。そして、弱点が額と胸の魔石であると確認した後、フレイムアローで同時に破壊しました。」


シエルの説明を聞いていた記録官が忙しなく状況を書き留めている。


「なるほど……異国の召喚者シエルよ、その勇気と知略に感謝する。だが……其方を狙う陰謀があるとすれば、それは王国全体の問題だ。これからの動向を注視せねばなるまいな……」


国王の言葉は厳かで、場の空気をさらに張り詰めさせた。


「まずは此度の変異種討伐、ご苦労であった。ブラックウィングおよび召喚者シエルよ、その功績を称えて表彰する。ゆえに前へ出るがよい。」


国王の発言に、一行は国王のいる玉座へと足を運ぶ。

だが、その表彰の裏で何者かの暗い陰謀が静かに牙を剥き始めていることを、まだ誰も気付いてはいなかった――。

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