終章 帰還
変異種の討伐が無事に終わり、王都への帰還準備を進めている団員たち。
そんな中、どうやって王都まで巨大な変異種の死骸を運ぶのかという意見が飛び交っていた――。
「やっぱり解体してマジックバッグに突っ込むのが早くないか?」
「そんなことしたら他の魔物との区別がつかないだろう」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ団員たちをよそに、シエルはフェリル協力のもと、アイテムボックスに変異種の死骸を押し込む。
「……あれっ、死骸が無いぞ!どこに消えたんだ?」
シエルがアイテムボックスに入れる様子を見ていなかった団員たちは、今度は大きな死骸が忽然と姿を消したことに驚いて騒ぎ始める。
「お前は本当に、規格外すぎるだろ……それ。」
一部始終を見ていたノクターンがあきれた様子で変異種が消えた先を指さす。
「……召喚を妨害される理由が、わかったような気がするよ。」
ため息をつきながらシエルに「次からは無暗に出し入れするな」と注意をする。
「……フェリルにも、同じことを言われたわ。」
シエルは街を目指して移動していた時のことを思い出して苦笑いを浮かべる。
ノクターンが号令をかけて騎士たちを鎮め、今後の行動について伝える。
「全員よく聞け!ここにいるシエルは、王都で失敗した召喚の儀の召喚者だということが判明した。」
ノクターンの発言に騎士たちはざわざわと声を上げ、動揺した様子でシエルを見つめた。
「召喚者……!?あの失敗したっていう儀式の……?」
「そんな凄い人が俺たちと一緒に……」
「だからいとも簡単に変異種を倒したのか……」
たくさんの視線が一気に集まり、シエルの胸がぎゅっと締め付けられるように感じた。
(やっぱり、私は余計な存在なのかもしれない……)
恥ずかしさと不安が入り混じり、思わず俯いて視線を逸らす。
「討伐任務はシエルの力があって無事に完了した。これより王都へ帰還するが……同時に召喚者シエルの要人警護を遂行する!王都に帰還し、報告を終えるまで気を抜くな。わかったか?」
「了解しました!」
騎士は気勢をあげ、ノクターンはマジックバッグから帰還石を取り出す。
手のひらサイズの小さな青い石には複雑な模様が描かれている。
「……それは?」
シエルはノクターンの手に握られている小さな石を指さして問いかける。
「これは帰還石という魔道具だ。これを使えば王都の入口まで転移できる。ただし、1回しか使えない消耗品だがな……」
「1回しか使えないのは残念だけど……体力と魔力が限界だったから戦わなくていいのは楽かも。」
ノクターンが帰還石を起動させると、青白い光がふわりと手のひらから広がり、空気が震えた。
足元に現れた大きな魔方陣は、複雑な模様が幾重にも重なり合い、神秘的な輝きを放つ。
「帰還、王都アヴァルディア」
ノクターンの力強い声が響いた瞬間、光が一層強まり、視界が真っ白に染まった。
光が消え、騎士たちの姿が消えた薄暗いヴェルグリムの深森。
ただ不気味な静けさだけが残り、どこからか微かな風の音が聞こえてくる。
変異種との戦いの痕跡だけが、この場に彼らがいた証として残っていた――。